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偏廊の胡蝶結びと、封鎖を切り裂く薬学内政チート

席が散じた後、美嘉は精緻な木製の薬箱を手に携え、偏廊で独り佇んで月を眺めていた「豹子頭」林冲の背後へと、静かに歩み寄った。

今日の一戦、林冲は右手の手首に官兵の鉄甲の強烈な反震を受け、そこを人知れず赤腫(赤く腫れ上がらせ)させて熱を持たせていた。彼は何事も内に呑み込む隠忍な性格ゆえ、こうして独りで冷水を浸した布を当てて凌いでいたのだ。


「林教頭」

林冲が振り返ると、そこには大きな瞳をパチパチと瞬かせながら、手際よく薬箱を開く美嘉の姿があった。彼女は中から、紅い紐できっちりと縛られた、仄かに清香を漂わせる独門(特製)の消腫薬散を取り出した。

「酒席でお姿を見かけなかったので、顧大嫂に尋ねたら怪我をされたと聞いて」

美嘉はそう言葉をかけながら、林冲のあの肉厚で厚い老繭(たこ)の刻まれた右手を大方に手繰り寄せると、細心の注意を払いながら薬粉を敷き詰めていった。そして、少し恨めしそうに唇を尖らせて呟く。

「教頭の武芸がどれほど天下無双であっても、そのお体は生身の血肉の躯です。この手の傷をまめに手当てせず、万が一破傷風の熱でも出したらどうするのですか? ほら、この布は私が昨晩、自ら鍋で蒸し煮にしたものですから綺麗です。私が包んであげますね」

月光は水の如く、偏廊へと冷ややかに、しかし優しく降り注いでいた。


林冲は視線を落とし、少しせっかち(急脾気)に小言を並べ立てながらも、極めて優しく細やかに自分の手の傷を包帯で巻いていく美嘉を見つめた。

原作の運命において家破人亡(家族を皆殺しにされ)の憂き目に遭い、一生を凄惨な孤独の中に生きたこの孤高の教頭は、手首から伝わってくる陣陣(じわじわ)とした清涼感と、何一つ濁りのない純粋な関心を肌で受け止め、その凍てついた心を、この一瞬、奇妙に微震(かすかに震わせ)させていた。

「かたじけない……三娘妹子」

林冲は少し決まり悪そうに顔を背けたが、その耳根はほんのりと朱に染まっていた。

美嘉は包帯の最後に綺麗な蝴蝶結び(リボン結び)をあしらうと、林冲に向けて悪戯っぽく瞳を瞬かせた。

「林のお兄様、水臭いですよ! 今夜は早くお休みになってくださいね!」

言い残すや否や、美嘉は小薬箱を揺らしながら、まるで軽盈な小鹿の如く、月光を踏みしめて足早に後山へと駆け戻っていった。

月色の中に消え去っていくその清爽な後ろ姿を見送りながら、林冲は手首に巻かれた清潔で温かい布条にそっと触れた。彼の口元は、誰も見ていない暗がりのなかで、彼自身すら気づかぬほど温和な笑みの軌跡を、緩やかに描いていた。


――呼延灼の連環馬を大破し、轟天雷の凌振をその麾下に収めたものの、八百里梁山泊に真の太平が訪れることはなかった。

寒冬臘月(かんとうろうげつ)、北風は鋭い刃の如く吹き付ける。

大宋朝廷は周辺の数多の州郡から官兵を総動員し、この八百里水泊に対して厳酷な冬日の経済封鎖を敢行し始めたのだ。

官道は完全に封鎖され、行き交う商旅の動線は断絶された。朝廷は「飢え殺し、凍え殺す」という最も残虐な手段を以て、この山を埋め尽くす山賊たちを根絶やしにしようと企んだのである。

山寨は瞬く間に、深刻な物資匱乏(物資不足)の泥沼へと叩き落とされた。


戦馬の草料は底を突き、士卒たちは凍えを凌ぐ防寒着すら事欠き、何より致命的だったのは、備蓄していた食塩と凍傷薬が完全に消滅したことだった。聚義庁の奥では、宋江と呉用が連日連夜にわたって眉をひそめて溜息を漏らしていたが、この漫天の風雪と朝廷の容赦ない鉄鎖の前には、何の手段(そろばん)を弾くこともできなかった。


「冬が来るたびに天天挨餓(毎日毎日ひもじい思い)をするなんて、そんな滅びのシナリオ、この私がお付き合いするわけないでしょ!」

美嘉は暖かい暖炕(オンドル)の上に座り、窓の外で凍えてガタガタと震えている女兵の姉妹たちの姿を見つめながら、その不屈の魂を完全に爆発させていた。


彼女は誰の男にも依附するつもりは毛頭なかった。現代の科学知識という名の最強のチートを武器に、梁山泊の経済危機を根底から粉砕してやる。

美嘉は二姉である楽大娘子と、大姉の顧大嫂を部屋へと呼び集め、手際よく、山内の厨房で使い残されて死蔵されていた大量の猪油(豚脂)の樽、草木灰、そして朱貴が山の下から密かに調達してきた数壇の劣悪な水酒(安酒)を床に並べ立てた。


「妹よ、こんな汚らしい道具をかき集めて一体何を始めるんだい?」

顧大嫂は鼻を蠢かせながら、怪訝そうな顔で尋ねてきた。

美嘉は悪戯っぽく微笑み、大きな瞳を輝かせる。

「大姉御、これは汚物なんかじゃありません。これこそが、私たちの山寨がこの冬を大勝利で越えるための、最高の『お宝(宝宝)』なんですから!」

薬学部の高年級生(高才生)である美嘉にとって、脂質のけん化反応(皂化反応)と、蒸留純化のロジックなど、手のひらの上で転がすようなものだった。

彼女は麾下の一百名を超える女兵たちを指揮し、中庭に次々と大鍋を架けさせると、豚脂と草木灰の水(天然のアルカリ液)を混和させ、高温の熱で徹底的に熬煮(煮込み)、冷却し、型へと流し込んで定型させていった。

数日後、この大宋朝の時代には地球上のどこにも存在しなかった、淡い清香を漂わせる「高純度石鹸」が、箱ごと、後山の倉庫へとうずたかく積み上げられていった。


それと同時に、彼女は凌振の工房から廃棄された鉄管と木桶を回収し、後山の密室に「簡易蒸留装置」を秘密裏に構築した。そこに、最も安価で喉を焼くような土着の粗悪な安酒を注ぎ込み、何度も、何度も蒸留を繰り返させていく。

わずか三日の後、この全天下で最も純度の高い、アルコール度数七十度に達する「純度の高い酒精(アルコール)」と「最上級の烈酒」が、この世界に横空出世(誕生)した。


物資が完全に断絶された極寒の冬において、この二つのインフラは、文字通りの「神物」となった。

高純度アルコールは、医護隊が「傷口を洗浄し、凍傷を防ぐ」ための極上の仙薬となり、あの度数の高い烈酒は、ほんの一口喉に流し込むだけで全身に凄まじい熱血を巡らせるため、砦を守る無骨な士卒たちが血眼になって奪い合う最高の禦寒(防寒)の宝物となった。

さらに、衣服の汚れを根こそぎ落とし、肌をしっとりと潤すあの石鹸に目をつけた楽大娘子は、朱貴が握る地下の密輸動線(物資通道)を通じて、それらを周辺の州郡の都市へと秘密裏に運び込ませていった。

物資が完全に凍りついた極寒の冬だからこそ、現地の富豪や貴婦人たちは、梁山泊謹製の「神仙香皂(香水石鹸)」を一塊手に入れるためなら、それと同等の重量の白米や綿花を差し出すことすら一切躊躇わなかった。


裏から隠密に発注(要貨)を仕掛けてくる顧客があまりにも殺到したため、朱貴の麾下の下っ端(嘍囉)たちだけでは完全に人手が足りなくなり、美嘉は自らの女兵部隊の半分を、臨時に彼の後方支援へと派遣したほどだった。

一ヶ月も経たぬうちに、周辺の州郡から出港したあらゆる貨物船は、これでもかと糧食、綿衣、馬の草料を満載し、途切れることなく梁山泊の水門へと運ばれていった。

本来であれば梁山泊を餓死させるはずだった朝廷の完璧な封鎖網は、美嘉の放った「薬学内政チート」の一手によって、その中心を力任せに引き裂かれたのである。

全寨の数万の人馬は、今や三娘(美嘉)が換えてくれた糧を食らい、三娘の作った薬で命を繋いでいた。

瞬く間に、「三姑娘」の名号は後山のみならず、梁山泊の全寨において、全員の命を救い出した「活菩薩」として崇め奉られるようになった。


宋江は、毎日大口の肉を食らい、暖かそうな綿衣に身を包んで笑い合う弟兄たちの姿を眺め、美嘉のその手段(大能)に対して五体投地(完全に脱帽)し、この精明な義妹の持つ驚天動地の手腕に、ただただ驚嘆するほかなかった。

美嘉の影響力は、これによって宋江の家族、登州派系、二龍山派系という枠組みを超え、実質的に、この八百里梁山泊全体の命脈を裏から支配する巨大な巨頭へと、確実に拡大していったのである。

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