泥濘の簡易救護所――泥にまみれた薬布と、鉄蹄の血肉の渦
だが、本物の戦場でいざ動き出してみた瞬間、美嘉は自分が物事をあまりにも甘く考えていたことに気づかされた。
この百人あまりの女兵たちは、ここ数日の間に「医護・伝令・糧務」という枠組み(格子)へ大まかに班分けされてはいたものの、彼女たちは本物の戦争という名の洗礼を、まだ何一つ経験していなかったのだ。
山を埋め尽くさんばかりに溢れかえり、天を突くような悲鳴をあげる重傷者たちの群れを前にして、美嘉が机の上で緻密に設計したはずの組織編制は、巨大な恐慌の前に一瞬にして木端微塵に吹き飛ばされた。
「三娘お姉さま! こ、包帯の布帯が足りません! さっき暴れ馬に薬箱の箱を踏み荒らされて、全部泥水の中に落ちちゃいました!」
医療班の幼い少女が、半べそをかきながらこちらに駆け込んできた。
「糧務の者はどこにいる!? 車はどうした!? なんで手押し車をこんな道の真ん中に突っかえさせてるんだ! 早く後ろへ下げろ!」
今度は糧務班の女性たちと、前線から崩れてきた無骨な敗残兵たちが狭い山道で正面衝突し、互いに激しく押し合いながら怒号を浴びせ合っていた。
伝令隊の娘たちに至っては、激しい大雨とぬかるみの中で完全に分岐道を間違え、焦りのあまり泥にまみれて泣きじゃくっていた。これでは「どの小道がまだ安全に通れるか」という重要な戦況を、大砦の本陣へ正確に伝えることなど到底不可能だった。
乱――。
どこを見渡しても血、どこを踏んでも泥、そして天地に響き渡る絶望の哭声。
「慌てないで! 第一班と第二班は、あの道を塞いでいる糧車を力任せに退かしなさい!」
美嘉は刺すような冷たい泥水の中に膝をつき、声を枯らして叫びながら、手元にある細麻布を力任せに引きちぎっていた。
その間にも、二人目、三人目の重傷者が、次々と彼女の目の前へと担ぎ込まれてくる。
一人の卒(兵士)が担ぎ込まれてきた。片方の足が官兵の連環馬によって文字通り生々しく踏み折られており、白々とした骨の破片が引きちぎれた皮肉を突き破り、そこから鮮血が泉のようにドクドクと噴き出していた。彼を背負ってきた同兵も完全にパニックに陥っており、足元がもつれて二人して冷たい泥地の上に転がり、もつれ合ったまま立ち上がれなくなっていた。
美嘉は骨に染みる泥水の中に膝をついたまま、この体に宿る扈三娘の高武の剛力を爆発させ、悲鳴をあげる兵士の体を力任せに押さえつけた。そして、慌てふためく同兵に向かって容赦ない怒声を浴びせる。
「触らないで! 手を離しなさい! 大嫂、門扉の板を持ってきて! この人をひとまず日陰へ運ぶのよ!」
彼女は薬箱から一包の止血散をひったくった。しかし、掌の中に中身をぶちまけた瞬間、美嘉の顔が凍りついた。運搬の途中で激しい雨に晒された紙包みは、中の薬粉がすっかり湿気を吸って、カチカチの塊に変わっていたのだ。
「嘘でしょう……この薬粉、もう使い物にならないわ! 清潔な布に換えなさい、死ぬ気でその傷口の動脈を圧迫して!」
美嘉は怒りのあまり激しく罵り声をあげた。目元から溢れ出た涙が、容赦なく降り注ぐ雨水と、他人の黒い血水と混ざり合い、絶え間なく口の中へと流れ込んでくる。その味は、ただひたすらに苦かった。
現代の薬学部の実験室であれば、すべての器具は無菌室に整えられ、薬材はミリグラム単位で整然とラベル分けされていた。しかし今、この暴雨と泥濘が激しく交錯する大宋朝の戦場において、彼女が頼れる資材は、泥にまみれ、必死になって傷口の動脈を押さえつけている数対の素手だけだった。
「三娘! 山の下の官兵がまた一波、強烈な突撃を仕掛けてきたよ! 林教頭と秦明頭領が命がけで砦の門を死守してるが、傷病兵がさらに増え続けてる!」
孫二娘が風雨を切り裂いて駆け戻ってきた。その綺麗な顔には、いつの間にか一本の鮮烈な血痕が刻まれていた。
美嘉は顔を上げた。下山へと続く窄路から、まるで巨大な長蛇の如く、途切れることなくこちらへと担ぎ込まれてくる担架の列を見つめ、彼女の心臓は重く、深く沈み込んでいった。
自分と顧大嫂のこの数対の手だけで、そして草薬の識別すらおぼつかず、血を見ただけでガタガタと震えているこの百人あまりの女兵たちだけで、すべてを呑み込もうとする鋼鉄の絞肉機(肉挽き機)の前に、果たして本当に持ち堪えることなどできるのだろうか。
――この極限の混乱と、傷だらけの応急処置は、夜更けが訪れてもなお延々と続けられた。
激しい暴雨は、八百里梁山泊の大半を容赦なく泥の海へと変えていた。
医療班の者は道を間違え、包帯の持参を忘れ、あろうことか湿気で変質してしまった丸薬や散薬をそのまま筐の中に乱雑に積み上げていた。美嘉はそのたびに顔を完全に般若のように黒く曇らせ、声を荒げて彼女たちを激しく叱り飛ばした。
顧大嫂もまた、完全に枯れ果てたダミ声を張り上げて呪詛を吐き散らし、手にした大横刀を剥き出しにして、小道を塞ごうとする潰兵たちを力任せに脅しつけ、担架の通り道を強引にこじ開け続けていた。
しかし、この天地を揺るがすような「大混乱(乱)」の渦中において、昨日まではただ厨房で煤にまみれていただけの百人を超える女性たちは、美嘉と顧大嫂の容赦ない叱咤と、自ら泥にまみれて動く背中に引っ張られ、硬生生(力任せに)に、その泥濘の底から血と肉をもって、驚くほど強固な後方防衛線を自らの手で手探りで構築し始めていた。
夜が更ける頃、前線から響いていたあの連環馬の地鳴りのような砲声は、ようやく、静かに静まり返っていった。




