九品薬官の顧大嫂,樂大娘子
「大姐、三妹。あたしはね、本当に驚いちまったよ。大局がこんな風にひっくり返っちまうなんてねえ。今まさに最前線で朝廷のために命を張り倒しているあの大伯(義理の兄)の孫立は、半生涯を軍隊で泥をすすって生きてきたってのに、蓋を開けてみれば九品の官職すら一つも掠め取れちゃいない。それなのに、あたしたちがこの独竜岡の上でのんびりと座っているだけで、大姐とあたしの頭の上には、立派な九品薬官の実職(本物の官位)が降ってきて、正式なお役人様になっちまったんだからねえ。あの大伯よりも、あたしたちの方が品階がはるかに上だよ。この朝廷、本当に骨の髄まで腐りきって、荒唐無稽が過ぎるってものさ!」
内政総管の楽大娘子や、席に並ぶ林冲、魯智深、武松らも、その言葉を聞くや誰もが思わずどっと吹き出し、中庭に温かい笑い声が弾けた。
楽大娘子は皆の顔を見渡し、なおも笑みを浮かべながら言葉を重ねた。
「あの時、あたしが家の大人の人と分かれるときね、彼らは宋頭領に付いていって、あたしと二妹は三妹に付いていくことになったでしょ。あたしは分かれ道の際、あの人に言ってやったんだよ。『本当に向こうで食い詰めちまったら、最後はあんたの方から、あたしを頼ってこの山へ転がり込んでくることになるからね』ってね。今の有様を見る限り、あの登州の身内連中も、近いうちに這う這うの体(灰頭土臉)でこの山へと逃げ込んでくるに違いないよ」
その言葉に、大庁のなかは再び大きなどっとした洪笑(笑い声)に包まれるのだった。
笑い話はそれとして、目の前の実務は実事求是(どこまでも堅実)に処理せねばならなかった。幸いにして、これまでに構築してきた組織の矩陣は極めて鮮明に機能しており、頭領たちはそれぞれの持ち場へと、自らの足で力強く散っていった。
大局が劇烈に変換するにつれ、独竜岡へ投奔(合流)し、あるいは回游して戻ってくる人間の数は膨れ上がる一方だった。今回の会議の段階で統計したところ、独竜岡の総人口はすでに「五千人」の大台へと到達しており、そのうち即時戦力(動員兵力)となる正規の兵丁は二千人規模にまで達していた。しかもその練度は精悍を極め、号令はどこまでも厳明であった。
心が細やかで統制のとれた女兵たちは、部隊単位での合流を終えたことで、その二千の戦力のうちの小半(約四割)を占める、整々(きっちり)八百人以上の強固な建制へと成長していた。
いまや独竜岡は、山東の地界において、何者も一瞥で看過できぬほどの強悍な独立勢力へと脱皮を成し遂げていたのである。




