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世のこれから50年の始末

遠ざかっていく官兵たちの後ろ姿を望みながら、美嘉は寒風の刺すような前砦の大門の前に立ち尽くしていた。その胸の内には、ひとまずの危機を脱した僥倖(ぎょうこう)の念もあったが、それ以上に、自身の見通しの甘さに対する強い自責の念が渦巻いていた。

此時の北宋宣和末年、吏治(役人の統治)はすでに混乱の極みにあった。朝廷高層は官職を売り払い、中央政府の政令は形骸化し、大宋の各地方へと徹底的に貫徹されることはなくなっていた。各地方で繰り返される朝令暮改の混乱した政策、基層官僚の因循不作為、そして夥しい(おびただしい)ほどの汚職。彼女の記憶のなかに眠る歴史の知識に拠れば、この地方官府の機能停止という隙を突き、独竜岡(どくりゅうこう)という場所で旗も掲げず、王も称さず、ただ黙って流民を受け入れて内政を整える自我発展のやり方を貫けば、優に二、三年は安穏に勢力を拡大できるはずであった。

いわゆる衝撃とは、その二、三年が経過した後の天下に、中原の全土を木っ端微塵に引き摺り込む驚天動地の巨変が待ち受けている、ということだった。美嘉は歴史の走向をはっきりと記憶していた。間もなく、大宋朝廷は北方の新興勢力である金朝と手を結び、日落西山の斜陽にある遼朝を挟撃する道を選ぶ。しかし大宋の軍隊は、内を向いては民草を力任せに虐げる強横さ(凶暴さ)を持ちながら、外へ向いては腐敗無能の極みであり、燕京(えんけい)の戦場において無残極まる惨敗を喫することになる。最終的に、愚鈍な朝廷は金朝に対して毎年巨額の歳幣を支払うことを約束し、ようやく一処の空城に過ぎない燕京を買い取るという屈辱的な外交を結ぶのだ。しかし、この拙劣な軍事包囲戦こそが、破竹の勢いにあった金朝に対して、大宋朝廷の軟弱さと軍実の空虚さを完全に露呈させる結果となった。

歴史の記録において、方臘(ほうろう)の蜂起が勃発してからおよそ三年が経過した頃、金朝の鋼鉄の騎馬軍団はいよいよ南下を開始する。二度にわたる大規模な南侵は、大宋の息の根をその場で叩き潰し、千古の傷痕となる靖康の恥を現実のものとするのだ。その後には、北宋から南宋へと権力が移行する、数十年にわたる極限の暗黒時代が到来する。河北、山東、河南といった広大な土地は、金朝、偽斉政権、そして岳飛(がくひ)らの抗金名将たちが血に塗れて戦い続ける惨烈な大戦場へと相次いで変貌していくのである。

それは数億の生霊を巻き込む滅亡の災厄であったが、同時に、すでに初期の防衛内政を完了させていた独竜岡にとっては、まさに死中に活を求める天の配剤(大チャンス)でもあった。美嘉は心の中で冷徹に計算を弾いていた。独竜岡がこの最初の二、三年の積蓄期(蓄えの期間)を無事に乗り越え、荒山の巡邏隊や水軍、あるいは細心な女兵たちの護衛の下でじわじわと人口を増やし、現在いる数千の民を強固な組織の骨幹へと鍛え上げることができれば、たとえ中原の防衛線が完全に崩壊して天下が大乱に陥ったその日であっても、独竜岡は天険を頼りに一地方を割拠する一大勢力へと成り上がることができる。

その時になれば、南下する金兵であれ、北上する南宋の軍勢であれ、あるいは各路の義軍であれ、この固若金湯の鉄壁を突き崩そうと思えば、決して支払いきれぬほどの代償を求められることになる。その絶対的な籌馬(切り札)を握り締めて初めて、美嘉は当時の現地の政権と対等に条件を交渉し、自分を信じて付いてきてくれた兄弟姉妹のために、安全に地上へと着地し、命を全うするための活路を叩き出すことができるのだ。

しかしながら、美嘉が思い至っていなかったのは、現在の北宋朝廷という国家は、内部こそ腐朽しきっているものの、地方に対する最低限のコントロールと政策管理能力を、未だ完全には喪失していなかったという事実だった。まともな機能が辛うじて残っている政府であるならば、自らの管轄から外れた場所にこのような独立王国が誕生することを、決して容認するはずがないのだ。

昨日、山寨を挙げて執り行った百日紅大会の爆竹の響きと煙硝は、やはり山の下の耳目を引き起こしていた。県衙の役人どもは、この独竜岡の上に突如として出現した巨大な集落の存在を看過せず、実態を調査するために爪牙を伸ばしてきたのだ。じつのところ、美嘉は情報の責任者である老七から、県衙が独竜岡に強い関心を寄せていることや、祝家荘の残党が未だにこの風水宝地(肥沃な土地)を虎視眈々と覬覦(狙って)していることなどの報告を、すでに何度も受け取ってはいたのだった。

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