↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/40

国医大人の製鹸と製薬は天下の民を救う大業であり


その燦然たる聖旨と御賜の名号を目にした刹那、さっきまで不可一世を誇っていた県官は瞬く間に大驚失色し、その顔面は一瞬で土色に変わり、両膝の力が完全に抜けたように、撲通(どさりと)音を立てて字画の前に直接平伏した。

「せ、聖旨……! これは朝廷の国医大人に対して、皇帝陛下が直々に勅封された御筆ではないか!」

都から遠く離れ、生涯にわたって天顔を拝したことのない一介の基層の県官にとって、皇帝が自ら名を認めた「国医」の称号は、天威そのものに他ならなかった。彼の傲慢な骨の髄はこの一瞬で砕け散ったかのように、壁の字画に向かって丁重に叩頭謝罪を繰り返した。美嘉がその背後から眺めると、彼の全身が小刻みに微震(震えて)しているのがはっきりと見て取れた。


「大人、閑人の嘘に耳を傾けてはなりません。もしも官の側が無理に民を追い詰め、善良な百姓を強盗に変えてしまえば、皇帝陛下が求められている薬を造れなくなるばかりか、この山東の地に再びもう一つの梁山泊が出現することになります。その時になれば、大人が真っ先にその重責の干戈(追及)を免れなくなりますわ」美嘉は微笑を浮かべて言い放った。

その後の形勢は、流水の如き神速さを以て大逆転を遂げた。県官はもはや逃亡犯の捜索などという言葉を口にすることすら叶わず、額に滲む冷汗を拭いながら、戦戦兢兢として三百人の完全に怯えきった官兵を率い、連滾帯爬(這う這うの体)で、さながら命からがら逃げ出すかのような不様さで大庁から極速で退去していった。

前砦の大門口まで戻ってきたとき、この県官の美嘉に対する態度は、すでに身体を前方へと深く傾け、半跪に近い姿勢の卑躬屈膝へと変わっていた。


「国医大人……! この小人、真に眼の中に珠がございませんでした。罪万死に値いたします! 大人の海のような深い御心で、この小人の無礼をお許しください。本日のことはすべて、卑職の完全なる誤解、天大の誤解にございました……!」県官は何度も腰を折りながら、必死に諂い媚びた。「聖上におかれましては、かねてより国医大人の製鹸と製薬は天下の民を救う大業であり、四方の州県は必ず全力でこれを配合(支援)せよとの聖旨を降しておられます。国医大人、どうぞ安心をしてこの地で製薬にお励みください。これから先、この小人にどれほどの大胆がございましても、二度とこの独竜岡の地を乱し、大人の清修を妨げには参りません!」

立ち去る間際、県官は満面に卑屈な笑みを浮かべ、美嘉に対して何度も頭を下げた。


「大人、これよりこの岡の上で何か必要な物資がございましたら、米糧の不足であれ人手の不足であれ、なんなりとお申し付けください。小人がこの県城をすべてひっくり返してでも、必ずや国医大人のために万全の手配を執り行いますゆえ……!」

県官は三百の官兵を引き連れ、朝陽が朝霧を切り裂く刹那、まるで化け物にでも遭遇したかのような慌ただしさで山を駆け下りていった。あとに残されたのは、ただ乱れた馬蹄の響きだけであった。


砦の門に立っていた女兵の頭目、紅袖は子供っぽい悪戯心を起こした。彼女は日頃から美嘉の飛刀の技術を崇拝していたため、傍らの樹の枝から一つのみすぼらしく干からびた柿を毟り取ると、県官の馬の背後を必死に追いかけていた祝小牙の頭へ向かって力任せに投げつけた。祝小牙は元より密告に失敗し、県官の馬から大きく引き離されて這う這うの体で走っていた。不意にこの硬い柿の直撃を後頭部に受けた彼は、梁山泊の暗器でも喰らったと思い込み、恐怖のあまり悲鳴をあげて地面に転がった。

前を行く官兵たちは己の命を守ることで手一杯であり、誰一人として振り返って彼を顧みる者はいなかった。祝小牙は泣き叫びながら地面から這い上がると、慌てふためいて道の傍らに生い茂る深い葦の茂みの中へと一頭に突っ込み、そのままどこかへと逃げ去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。