「七品国医一丈青」
美嘉は箱の中から宋徽宗が彼女に書き与えた書幅を取り出すと、老七を呼び寄せて二、三言言い含めた。それから数人の頭領を引き連れて前砦の関門へと急行した。そこでは林冲、魯智深、扈成、そして楽大娘子もすでにそれぞれの防線で厳然と配置に就いていた。前砦の門内の広々とした空地には、緊急招集に応じた五百人余りの正規の兵卒が整然と列陣し、刀槍を並べ挙げていた。凌振にいたっては、前砦付近の険峻な山岡の上にすぐさま三座の轟天砲を架け、黒々とした砲口を岡の下の官兵の隊列へと真っ直ぐに向けていた。
前砦の大門の外では、県官が三、四百人の官兵を引き連れて馬に跨り、傲慢かつ冷淡な面持ちで行く手を阻んでいた。彼は朝廷の公文と旗印を掲げ、関口に向かって鋭い声で叫陣した。
「これは朝廷の公務である! 本官は上峰の命を奉じて捜索に参った。密告に拠れば、この独竜岡に朝廷へ牙を向く重罪の逃亡犯が潜み隠れているとのこと。速やかに大門を開けよ。もし官府に違抗すれば、その罪は叛逆と同等とみなす!」
美嘉は前線へと歩み出た。その清徹な大きな瞳は水のように冷徹であり、県官の視線を真っ向から受け止めながら、その声は清らかでありながらも一言一言に重みを宿らせて響いた。
「大人明察を。我が独竜岡におりますのは、皆兵禍を逃れてやってきた哀れな草民にございます。この地で分を弁えて安住し、家を建て荒地を開墾し、ただ一筋の生路を求めているに過ぎません。ここには、朝廷の逃亡犯などただの一人もおりません」
「何者かがすでに貴様らを告発しているのだ!」
「では、その告発した者が何者であるかも見極めねばなりますまい! 私はただ己の家に帰り、行き場を失った百姓たちが頼ってきたゆえに彼らに道を授け、住まう場所を与え、飯を食わせているのです。それが、なぜ告発されねばならないのですか?」
美嘉が周囲を見渡すと、県官の乗る馬の背後に、祝家荘の元管事である祝小牙の半分の顔が隠れるようにして覗いているのが見えた。
双方の対話には激しい試探と威圧が交錯し、林冲、魯智深、そして武松の右手はすでに静かに刀柄の上へと掛けられていた。戦火が一触即発の極限に達したその刹那、美嘉は大局を鑑み、やや沈吟したのち、冷静に一歩退く選択をした。
「そこまで大人が公文の命を奉じておられるのであれば、本岡の清白を証明するため、大人とその部下が中に入って捜索されることを同意いたしましょう。ただし、山上の無辜の百姓たちを驚かせぬよう、山に入る人数は百人を超えてはなりません」
県官は冷笑を浮かべた。彼は新官上任の身であったのか、あるいは往時の梁山泊が引き起こしたあれほど多くの官逼民反の血の歴史をすでに忘却していたのか、それとも胸の内で百姓たちの憤怒を最初から塵芥ほどにも留めていなかったのか、謎の自信を抱いたまま、百人の官兵を引き連れて朝霧のなかを尊大に独竜岡へと足を踏み入れた。
山頂の平原に入ったのちも、県官はなお処処で挑発と刁難(難癖)を繰り返した。優に三、四万の人間が生活できるこの広大な平原の上に、家屋が整然と立ち並び、難民たちがそれぞれの職責を果たしている光景を目にし、彼の胸には嫉妬と憎悪が交錯した。新築の家屋の前に至っても、切り拓かれたばかりの水田の傍らに立っても、彼は無尽の官威を以て一再ならず難癖をつけ、さらには声を低くして咆哮し、この数人の頭領たちを残さず県衙の大牢へと連行して尋問に処すと脅しをかけた。
しかしながら、これら一切の狂傲と挑発は、彼が集落の中央に建つ広々とした食堂の大庁へと一歩足を踏み入れた瞬間、怪異なほどに、突如として霧散した。
彼が大門を跨いだ最初の一眼に飛び込んできたのは、食堂大庁の正中央の壁の上に、今朝、美嘉が出門する直前に情報頭目の老七に命じて精緻に裱糊(壁に貼り付け)させておいた、一枚の字画であった。
その紙の上には、見事な瘦金体の筆跡が龍飛鳳舞(生き生きと)躍動し、鮮血の如く紅く巨大な朱印が捺されていた。他でもない、当今の天子から直々に下賜された封号であった。
――【七品国医・一丈青】。




