梁山の女子会と、百人の約束
練武場であの「老太公、大立ち回りの相親大会」という一悶着が起きた翌日の、清暗い朝のこと。
美嘉は自分に割り当てられた小さな木屋のベッドに腰掛け、木の櫛を口に咥えながら、器用に髪を三つ編みに結い上げていた。
昨日、老太公にこれでもかと恥をかかされ、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりしながら「地割れでも起きて中に隠れたい」というような顔をしていた王英の醜態を思い出し、美嘉は髪をいじりながら、思わず銅鏡に向かって「ぷっ」と吹き出してしまった。
「身の程知らずの癩蛙が、よくもまあ私を食べようとしたものね。おじいちゃんに公開処刑されて当然だわ」
美嘉は軽く頭を振った。かつてこの体を支配していた本物の扈三娘の、あの胸が押し潰されそうな重い鬱屈は、この大勝利を経て、すでに七、八割は綺麗に消え去っていた。
「バン!!」
そんなことを考えていた瞬間、薄い木製の扉が、突然、乱暴な蹴りによって大きな音を立てて弾け飛んだ。
美嘉は驚いて手にした櫛を落としそうになりながら猛然と振り返った。見ると、入り口には、まるでひとつの「鉄塔」が道を塞ぐようにして、どっしりと突っ立っていた。
入ってきたのは、三十歳前後の大柄な婦人だった。太い眉に大きな目をギラつかせ、ふくよかな顔立ちには、問答無用と言わんばかりの荒々しい江湖の気風が漂っている。彼女は左手に大きな羊の生脚をぶら下げ、右手には肉を叩き切るための大横刀を提げていた。その鋭い刃先には、まだうっすらとした血痕と、どこかの厨房からくっついてきたネギの切れ端が一切れ、張り付いたままだ。
この風貌、この圧倒的な迫力。梁山泊において「母大蟲」こと顧大嫂の他に、絶対にあり得ない。
美嘉の頭脳がフル回転する。原作の顧大嫂は、気性が激しく義理堅い、絵に描いたような姉御肌だ。大雑把で乱暴だが、身内を庇う(かばう)ことに関しては誰よりも熱い。
美嘉が声をかけるより早く、顧大嫂は太い足を部屋に踏み入れ、手にした大横刀をバチンとテーブルに叩きつけた。茶碗がクワンと頼りない音を立てて震える。彼女は大きな目を皿のようにして、美嘉の小綺麗な卵型の顔(鵝蛋臉)を上から下までじろじろと眺め回すと、やがてその破鑼(破れ銅鑼)のようなダミ声を張り上げて、豪快無比な大爆笑を炸裂させた。
「ハハハ! 良い妹を見つけたねえ! 俺は昨日、東山で肉を捌いていたんだが、小耳に挟んだのさ。あんたが練武場で、あの好色で人肉を喰らう王矮虎(王英)の奴を木端微塵に干し上げ、おまけに宋江の黒泥棒の鼻面まで完璧に塞いでやったってなぁ! 挙げ句の果てには、この一生は『梁山泊と結婚する』だと言い放ったんだって? いいねえ! 実に胸がすくよ! 俺がこの山に上がってからそれなりの月日が流れたが、これほど骨があって、これほど知恵の回る小娘は初めて見たよ!」
顧大嫂はガハハとがなり立てながら、親愛の情をこれでもかと込め、美嘉の細い肩をバチンと力任せに引っ叩いた。
その凄まじい衝撃に、大学三年生の女子だった美嘉は、危うくその場で骨ごとバラバラに散開させられるかと思ったほどだ。
美嘉はしびれる肩をさすりながら、目の前の「あんたが気に入ったよ」と顔全体に書いてあるような豪快な姉御を見つめた。不思議と、元の世界にいた頃の、気心の知れた先輩に対するような親近感が胸に湧き上がってくる。彼女は大きな瞳をパチパチと瞬かせると、宮崎駿のアニメのヒロインのような、どこか無邪気で愛らしい笑みを浮かべ、そのまま顧大嫂の太い腕にすり寄るようにして甘えた声をあげた。
「大姉御、そんな風に三娘をからかわないでください。昨日はたまたま、お義父さまである老太公や李應の叔父さまが後ろ盾になってくださったから、私のような落難の弱女子でも、なんとか聚義庁の頭領たちの前で格好をつけられただけです。私の心臓なんて、今でもまだ、小刻みにバクバク言っているんですよ?」
「あんな黒炭(宋江)のどこが怖いもんかい!」
顧大嫂は太い眉を吊り上げ、鼻でフンと冷たく笑い飛ばした。
「宋頭領なんて、他人は恐れても、この俺様は一歩も引く気はないね。毎日まいにち、口を開けば仁義だの道徳だのと抜かしやがって。俺の目から見れば、あの男はあんたのような良家のお嬢さんの清らかな体を、清風山のあいつら好色どもの機嫌取りの道具にしようとしただけさ! 腹腹しいにも程がある! 妹よ、あんたのやったことは100%正しい。我々女の体が、あいつらの手柄や政治の道具にされてたまるかってんだ。これからこの山で、あんたの悪口を言う奴がいたら、俺がこの肉切り包丁で一番にそいつを細切れにしてやるから安心しな!」
顧大嫂の拡声器のような大嗓門(大声)のせいで、気がつけば、小さな中庭の周囲にはいつの間にか黒山の人だかりができていた。
それというのも、昨夜美嘉が宋太公夫婦のために作ったあの現代の薬学に基づく家常菜(家庭料理)――「山藥と枸杞の本格薬膳魚スープ」の噂が、あまりの美味さとその凄まじい滋養効果によって、一夜にして後山の厨房や女性たちの住む偏寨(居住区)へ一気に広がっていたからだ。さらには、男勝りな気質を持つ山内の若い娘たちが、美嘉の放ったあの「空中でグニャリと曲がる魔法の飛刀」の神技を一目見ようと、連れ立ってこの部屋へ押し寄せてきていた。
夫や兄についてこの山に上がってきた避難民の婦人たちや、山の中で洗濯や炊事を引き受けている数十人の女性たちが、今や入り口にひしめき合い、その純粋で熱い瞳をキラキラと輝かせながら美嘉を見つめていた。
その中から、髪を二つの団子に結った、十四、五歳ほどの少女が恐る恐る一歩を踏み出し、蚊の鳴くような声で尋ねてきた。
「三娘のお姉さま……私、厨房の張大ばあちゃんから聞いたんです。お姉さまの作った魚スープは老太公の酷い咳を一発で治して、その美味さは神様も腰を抜かすほどだって。私、私たちが、お姉さまに、そんな素晴らしい本領を教えていただきたいんです。この山で、ただの『お荷物』として扱われるんじゃなくて、私たち女でも、ちゃんとした役割をもらって、あの乱暴な男たちにバカにされないようになりたいんです……」
美嘉は、戸口の向こうに黒圧圧(黒々と)とひしめき合う、およそ百人近くになろうかという女性たちの姿を見つめ、胸の奥で何かがパチンと弾けるのを感じた。
(そうだわ。今、この梁山泊には毎日まいにち、新しい兵隊や敗残兵が怪我を負って抬(担がれて)上がってくる……)
この女性たちは、刃物を持って戦場で人を殺すことはできないかもしれない。けれど、彼女たちには男たちに負けない「力」和「繊細さ」がある!
美嘉は顧大嫂の太い手をぎゅっと握りしめ、その瞳に薬学生としての冷徹な知性と、凛とした覚悟を宿して真っ直ぐに宣言した。
「大姉御、見てください。山の頭領たちや兵隊さんは、毎日まいにち戦いに行っては、傷だらけになって担ぎ込まれてきます。でも、あの無骨な男たちは手先が不器用で、傷口に泥をなすりつけるような雑な手当てしかできません。私は実家で薬学の心得があり、草藥の扱いも、傷ついた人をどう看護すればいいかも知っています。皆が私を信じてくれるなら、この山の姉妹たちを全員集めて、私たちだけの『部隊』を作りましょう! 物資を管理し、正確な情報を伝え、救死扶傷(命を救う)の役割を担う――私たち女性にしかできない、梁山泊の命脈を握るような、とてつもない仕事をやってみせるんです!」
顧大嫂はそれを聞くや、我が意を得たりとばかりに自分の太腿をパチンと叩いた。その大きな瞳から、凄まじいまでの野心の光がギラリと放たれる。
「いいぞ! よく言った、救死扶傷! 妹のその知恵、まさに天下一絶だね! その大仕事、この俺も命ごと乗っからせてもらうよ! この百人の姉妹たち、明日から俺が責任を持って、軍隊並みにしごいてやる。サボる奴がいたら、俺の擀麵杖(麺棒)が火を吹くからね!」
戸口の向こうにいた百人近くの女性たちは、それを聞いた瞬間、まるで堰を切ったような大歓声を上げた。
その小さな、古びた木屋の空間は、一瞬にして、これからの未来を切り開く瑞々しい生気と、女たちの快活な笑い声によって満たされていった。




