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泥濘の帰路、裂けゆく金蘭――独竜岡の祝家残党と、及時雨の冷酷なる制止


回程の馬車は、漫天の風雪のなかをゴトゴトと軋んだ音を立てて前進していた。雪の積もりはまだ薄く、凍てついた土の路をなぞる車輪は、低く沈んだ「ガタゴト」という響きを立てていた。

車窓の外を見れば、北方の寒風が細砕(細かな)雪粒を巻き上げ、葉を落とし尽くした白楊の枝を白く染め、天地の間にはただ蕭索(しょうさく)たる荒涼が広がっていた。車内では、宋江が美嘉の手にある「七品囯医一丈青」の墨宝(書)を眺め、その黒い顔に興奮の紅暈(赤み)を浮かべながら、山寨に戻った後にいかにして朝廷の正式な招安を迎え入れるか、いかにして光宗耀祖(一族の誉れ)を成し遂げ、加官進爵を果たすかという妄想を、口を休めることなくぶつぶつと念仏のように唱え続けていた。

「哥哥(お兄様)」

美嘉は氷のように冷たい空気を深く吸い込み、その清徹な大きな瞳で宋江を死に物狂いに凝視すると、厳粛な声調を以て彼の幻想を遮った。

「三娘賢妹、どうしたのだ?」宋江は極めて機嫌が良く、その語気は温和そのものだった。

美嘉はその高挑(すらりとした)な身の丈を真っ直ぐに伸ばし、眼差しを鉄の如く鋭く据えて、一字一字を畳みかけるように突きつけた。

「この招安の道は、進んではなりません。お兄様には、あの光景が見えませんか? 大宋朝廷はすでに骨の髄まで腐り果て、あの昏君(暗君)の眼には字画と女のことしか映っておらず、蔡京や高俅といった奸臣が我が物顔で大道を塞いでいます。梁山泊の一千数名の兄弟姉妹が、九死に一生を得てようやく今日までの基業を築き上げたのです。もしも今ここで降伏すれば、お兄様や一部の頭領たちは確かに一官半職(それなりの官位)を得られるでしょう。けれど、その下にいる数万の兵馬、無数の家眷(家族)たちは、最終的にただの消耗品(鉄砲玉)として消費され、朝廷に骨の髄まで貪り尽くされるだけに終わります!」

宋江の面に浮かんでいた笑顔が、一瞬にして凍りついた。その黝黒(漆黒)の両手が、猛然と握り締められる。

美嘉は彼に口を挟む隙すら与えず、急脾気(せっかち)な気性を剥き出しにして規勧(説得)を重ねた。

「膝を屈して犬になり下がるよりは、天の時に従うべきです。今、大宋の周辺には群狼が環視(取り囲んで)おり、北方の金国と遼国の大戦はまさに一触即発、天下の時局はいつ大乱に陥ってもおかしくありません。我ら梁山泊には今や糧食も草薬も溢れ返り、水泊の天険は易守難攻(守りやすく攻め難い)の要塞です。もしもお兄様が私の言葉に耳を傾けてくださるなら、我らは断じて投降しません! この八百里の水泊に拠って地を画して王(独立勢力)となり、真に独立した地域を築くのです。一辺では兵を練って力量を蓄え、一辺では冷徹に天下の大勢を観望する。これこそが、未来に訪れる惊天巨浪(時代の巨波)のなかで、梁山泊の上下十万の命を繋ぎ止める、唯一の万全の策にございます!」

この言葉には、時代を遥かに超越した、冷徹な地縁政治(ロジスティクス)の戦略的眼光が満ちあふれていた。

しかし、それが宋江の耳に届いた時、それは大逆不道(狂気の沙汰)の妄言に他ならなかった。宋江は、美嘉が皇帝の直筆の書を授かりながら、なおこれほど不遜な言葉を吐くとは夢にも思っていなかったのだ。

「口を慎め!」

宋江の黒い顔が一瞬にして陰沈に染まり、その眼底には前代未聞の厲色と古板(頑迷)な固執の光が走った。彼がその半生をかけて培ってきた、正統と朝廷に対する盲従(唯唯諾諾)の念は、現代の魂を持つ美嘉がどれほど言葉を尽くそうとも、決して動かせるものではなかった。

「賢妹! お前のような一介の女流に、朝廷の大義の何たるかが分かるか!?」宋江は語気を硬くし、袖を払って冷淡に鼻を鳴らした。「我が梁山の兄弟たちは、いかに義を唱えようとも、つまるところは賊(山賊)なのだ! もしも招安を受けねえならば、往々に生まれてくる子々孫々は、生々世々(未来永劫)にわたって賊の骨を継ぐことになる! 朝廷に投降し、国のために力を尽くすことこそが、堂々たる通天の大路(正道)なのだ! この事は俺がすでに決めた、二度と口にするな!」

頑固不化(頑迷固陋)であり、権力に対して病的なまでの狂執を宿らせている宋江のその眼を見つめながら、美嘉の掌には冷たい汗がびっしょりと滲んでいた。彼女は、心のなかで長くて深い溜息を漏らした。

道同じからざれば、相共に謀らず。

原作の運命に描かれたあの悲惨な終局は、この及時雨の兄貴の脳内において、もはやいかなる言語を以てしても変えることは叶わないのだと、彼女は悟った。

二日の後、馬車はついに水泊の外囲へと滑り込み、梁山泊の勢力圏内へと足を踏み入れた。

隠密に設営された接応の哨所に腰を落ち着けたまさにその時、藍旗の伝令を担当していた一人の女兵が、神色を激しく慌てさせ、連滾帯爬(這う這うの体)で偏庁(奥の間)へと突っ込んできた。そして、プツンと糸が切れたように美嘉の前に膝をつくと、涙を流して絶叫した。

「三姑娘(お嬢さま)! 大変です! 天が崩れ落ちるような一大事が起きました!」

美嘉は彼女の身体を抱き起こした。「慌てないで! 一体何が起きたの!?」

「こ、扈成大公子(大旦那さま)にございます!」女兵は激しく唾を飲み込み、驚恐の声をあげた。「数日前、大公子は十数戸の扈家荘の生き残りの荘客や老少(老人や子供)を引き連れ、密かに独竜岡の方向へと向かっておられました。かつての家園を建て直そうと考えられたのです。しかし、あろうことか……あろうことか道中で待ち伏せ(伏兵)に遭い、大公子と数十名の荘客たちは、足を揃えて全員捕らえられてしまいました!」

美嘉の脳内で、ウーーーンと凄まじい地鳴りのような衝撃が走った。彼女は、行方知れずになって久しかった実の兄である扈成が生きていたという事実に衝撃を受け、同時に、彼が生きていたという知らせが、これほど最悪の「捕縛」という形で届いたことに、言葉を失っていた。

「官兵の手によるもの!? それとも周辺のどこかの毛賊(野盗)の仕業なの!?」

「どちらでもありません!」女兵の顔面は、土気色に変わっていた。

「頭領を笠に着ているのは……かつての祝家荘の残党(残寇)にございます! 祝家荘は我が梁山の手によって滅ぼされましたが、管事(執事)の祝小牙という男が数十名の腕の立つ荘客を引き連れて他所へと流竄(逃亡)しておりました。それが最近になって陸続(続々と)独竜岡へと舞い戻り、祝家荘のみならず、李家荘、そして三姑娘、あなた様の扈家荘までもを完全に占拠したのです! そればかりか、彼らは祝家荘が蓄積していた巨万の金銀を惜しげもなく投じ、枢密使の童貫の親戚という者の配下に潜り込み、朝廷から緝捕(捕縛官)の官職を買い取りました! 今や彼らは官府の大軍を引き連れて大公子を捕らえ、一辺では独竜岡で大興土木(大工事)を進め、この二日間のうちに大公子を殺して祭旗(軍旗の生贄)にし、祝家荘を再興させると息巻いています。そして、我が梁山泊を……満門抄斬(皆殺し)にし、祝家の仇を討つと、そう大声を張り上げているのです!」

我が家を、全家を皆殺しにした祝家荘。

大公子を殺して旗の生贄にする。童貫。

これらの血生臭い殺機を孕んだ名が、美嘉の耳元で連環の雷(雷鳴)の如く炸裂した。

「あの死に損ないの畜生どもが……よくもまあ、のめのめと戻ってきたものね!」

美嘉は柳眉を逆立て、両の拳を死に物狂いに握り締めた。彼女が身体を反転させるより早く、背後から顧大嫂の地鳴りのような怒喝が偏庁に響き渡った。

「後山の四面旗、一千人の姉妹たちに老娘(あたし)の号令を伝えな! 獲物を引っ掴みな、今すぐ独竜岡を平らに叩き潰し、祝家のあの去勢された犬どもの首を骨ごと叩き切ってやるよ!!」

「――待て!!」

威厳に満ち、しかし極めて冷酷な色彩を帯びた一声の断喝が、偏庁の入り口から突き刺さるように響いた。

見れば、宋江が呉用を同行させ、その顔面を陰沈に黒く曇らせながら、大股で中へと跨ぎ込んできたところだった。

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