閑話:言葉
「……あら」
運ばれてきた料理を見て、サラサが小さく目を丸くした。
皿の端には小さな花が添えられている。
淡い赤と白。
「どうしたの?」
「更紗灯台です」
「さらさ……?」
「サラサドウダン、この花の名前ですよ」
正直、俺には草との違いは分からない。
「へぇ。自分の名前入ってるじゃん」
「だから違いますって」
「俺の名前の花もあるのかな?」
「探せばありそうですね。マルクスの花」
呆れたように返しながらも、彼女がくすりと笑う。
「この花、好きなんですよね」
「なんで?」
「花言葉がいいんですよ」
「花言葉ぁ?」
花で腹は膨れないのに。
そんな顔をしたのが分かったのか、サラサが笑う。
「明るい未来、とか。控えめな愛、とか。一番気に入っているのは、心の美しさ、です」
「随分と前向きだね」
「でしょう?」
「覚えやすくていいかも。俺でも忘れなさそう」
「ふふ。では今度、抜き打ちで聞きますね」
「試験?」
サラサは否定しなかった。
机に置かれた花瓶の白い花へ視線を移す。
「じゃあこれは?」
「あぁ。マーガレットですね」
「知ってる。可愛いやつ」
「確か、本数で花言葉の意味が変わったはずです」
「え、なにそれ面倒」
「花ってそういうものです」
さらりと流したっきり、サラサはそれ以上説明しなかった。
この人は好きなものを話している時が一番機嫌がいいと知っている。
俺の目下のライバル“お嬢様”の話とかね。
「そういえば」
サラサが紅茶へ口をつけながら言った。
「昔、孤独とか博愛とか……そんな意味の花があると聞きました」
「ずいぶん極端」
「面白いでしょう?」
「いや重いなぁって」
孤独と博愛。
並ぶ言葉じゃない気がする。
けれどサラサは気にした様子もなく笑った。
「案外、一緒なのかもしれませんよ」
「分かった顔するじゃん、お嬢さん」
「してません」
「してるって」
二人して笑う。
窓の外は晴れていた。
穏やかな昼だった。
俺は花になんて興味はない。
花の名前も、花言葉も、たぶん明日には忘れてる。
俺は、ルーカスみたいに、背へ隠して守ることはできそうにない。
守るなら、たぶん別の形だ。
剣を振るうなら、その隣に。
傷を負うなら、ともに。
守られるだけで満足する人じゃない。
俺の背を追うだけの人でもない。
だから、手は引かない。
この女なら、剣を握る俺の隣で笑っているだろう。
その無謀さごと、信じている。
(……まぁ、その前に花言葉を覚える方が難題か)
俺も、この人に花を贈ろう。
花言葉を調べるのは、骨が折れそうだ。




