山に眠る約束
翌朝は、まだ空気が青かった。
五人は少し眠そうな、でもどこか特別な一日の始まりを感じさせる顔で集まった。
「ほんとに行くんだよな? 結構きついぜ、あの山」
大翔が大きなリュックを背負い直す。
「引き返すなら今のうちだよ。僕の計算だと、山頂まではかなりの距離がある」
恒一は冷静に地図と時計を確認している。
「山登りとか最高じゃん! 冒険っぽくなってきたわね」
美咲は威勢よく虫よけスプレーを自分と周囲に振りまいている。
ひよりは、黙って靴の紐を結び直していた僕の横に、そっと立った。
「……秋也くん、大丈夫?」
僕は顔を上げ、精一杯の笑顔でうなずいた。
「うん、大丈夫だよ」
胸の奥にしまってある本当の気持ちを、誰にも悟られないように。
山道は、思ったよりも急だった。
湿った草が足に絡みつき、セミの声が頭の上で激しく弾ける。
「おい、これ本当に道合ってんのか? 似たような景色ばっかりで分かんねーよ」
先頭を歩いていた大翔が立ち止まり、困ったように辺りを見回した、そのときだった。
「――疲れたなら、あそこの木陰が涼しいよ」
穏やかな声がした。五人が同時に顔を上げる。
少し先の太い幹のそばに、ひとりの少年が立っていた。
僕たちと同じくらいの年頃。
真っ白なシャツを着て、汗ひとつかいていない。
「お前、誰だ?」
大翔が驚いて声を出すと、少年は少しだけ首をかしげた。
「……ハル」
「ハル? 一人でこんなところにいるのか?」
美咲の問いに、ハルは少し困ったように笑って答えた。
「待ち合わせなんだ。友達と、山頂で。でも、道に迷っちゃったみたいで」
不思議な子だった。
山の中にいるのに、まるで森の一部みたいに静かで、透き通っている。
「僕らも山頂に行くんだ。だったら、一緒に行こうぜ!」
大翔の提案に、恒一も
「目的地が同じなら、その方がいい」
と頷いた。
ひよりは、何も言わずにハルをじっと見つめていた。
僕は、何も言えなかった。
会ったこともないはずなのに、なぜか懐かしい。
ハルの周りだけ、流れている時間が少しだけ違うみたいだ。
どこか遠い、忘れていたはずの夏の記憶が、僕の胸を静かに叩いているような……そんな不思議な感覚がした。
道を歩きながら、ハルはほとんど喋らなかった。
けれど時折、ふと立ち止まっては、僕たちが気づかないような小さな花や、木漏れ日の揺れを愛おしそうに見つめていた。
「……ハルくん、急いでるんだよね?」
ひよりが、隣を歩くハルに問いかける。
「うん」
ハルは少しだけ笑って、でもどこか切なそうな瞳で遠くを見つめた。
「……もう、ずいぶん待たせちゃってるから」
山頂は、もうすぐだ。
僕が持っている地図の赤い丸が、一歩ごとに近づいてくる。
それと同時に、僕の胸の奥で、張り詰めていた何かが少しずつほどけそうになっていた。
六人の足音が、乾いた土を鳴らして同じ方向へ重なっていく。
おじいちゃんが残した「宝」の場所へ。
そして、ハルがずっと待っていた「約束」の場所へ。




