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ほんとうのたからもの  作者: あやん


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2/5

夏の地図と、言えない秘密

「……以上で、一学期の終業式を終わります。みんな、車と知らない人には気をつけて、楽しい夏休みを過ごすように!」

先生の言葉が終わるか終わらないかのうちに、教室中に椅子を引く音と歓声が爆発した。

「よっしゃああ! 夏休みだぁぁぁ!」

大翔がランドセルをひっ掴んで、真っ先に立ち上がる。

「うるさいわね、大翔。まだ帰り道があるんだから落ち着きなさいよ」

美咲が呆れたように言いながらも、その手は素早く荷物をまとめている。

「無計画に騒いでも体力を消耗するだけだよ。……まぁ、僕も宿題は早めに終わらせるつもりだけどね」

恒一が眼鏡を押し上げ、すでに「夏休みの計画表」をランドセルの特等席に差し込んでいた。

「……秋也くん、明日、何して遊ぶ?」

隣でひよりが、少しだけ首を傾げて僕に笑いかける。

「あ、うん……。そうだね」

僕は曖昧に笑って、4人と一緒に教室を出た。

校門までの帰り道、みんなは「海に行こう」だの「宿題を見せ合おう」だの、終わることのない夏の話で盛り上がっている。

「じゃあな! また明日、いつもの空き地で!」

大翔が大きく手を振り、みんなそれぞれの家へと分かれていく。

僕も、必死に笑顔を作って頷いた。

「うん、また明日」


喉の奥まで出かかった言葉を、熱い唾液と一緒に飲み込む。

そのときは、まだ言えなかった。

家に帰ると、廊下の空気が少しだけ重かった。

「秋也! 片付け終わったの? 早くしちゃいなさい」

台所から届く母さんの声には、どこか落ち着かない響きがある。

僕は返事もせず、埃っぽい「蔵」の奥にいた。

段ボール箱の隙間、古いアルバム、捨てられない家具。

そこにあるすべてのものが、僕に「時間がないこと」を突きつけている気がした。


「秋也……。みんなには、もう話したの?」

階段の下から、母さんの少しだけ震えた声がした。

僕は、やっぱり答えなかった。

まだ、言えない。

明日が最後かもしれないなんて。僕たち五人の「いつもの夏」が、もう二度と来ないかもしれないなんて。

その時、指先が固い紙に触れた。

くしゃりと丸まった、古い手書きの地図だ。

そこには赤いペンで、力強い、けれど少し震えた大きな丸が描かれていた。

山の奥――。

地図の下から、一枚の写真が滑り落ちた。

古い家族写真だ。

若いお父さんとお母さん。そして、その間に立つ、今の僕と同じくらいの男の子。

知らない顔だ。でも、その自信ありげな瞳には、どこかで見たことがあるような懐かしさが宿っていた。

胸が、ぎゅっと鳴った。

僕は地図と写真を、壊れないようにそっと抱きしめた。

その夜、外で鳴く虫の声がうるさくて、僕は一秒も眠れなかった。

翌日。いつもの空き地。

セミの声が、鼓膜を突き破りそうなくらい鳴り響いている。

「秋也のやつ、遅いなー」

大翔がイライラしたように地面の石を蹴る。

「さすがに寝坊じゃない? 終業式で疲れちゃったのかも」

美咲が言ったとき、遠くから僕の靴音が響いた。

「ごめん――! お待たせ!」

息を切らして走ってきた僕の目は、寝不足のせいか少し赤かった。

でも、僕は精一杯の笑顔を作った。

「ねえ、宝探ししない!?」

一瞬、時間が止まった。

「は?」

と呆ける大翔。

「突然だな」

と眉をひそめる恒一。

「宝ってなに!? どこ!?」

と目を輝かせる美咲。

ひよりだけが、何も言わずに静かに僕を見つめている。

僕は、汗で湿った地図を広げた。

「うちのおじいちゃんの蔵で見つけたんだ。山の奥に、宝物が埋まってるんだって」

「ほんとにあるのかよ?」

大翔がニヤリと笑う。その顔はもう、冒険を確信している。

「地図の信憑性は低いけど……夏休みの初日にしては、悪くないイベントだ」

恒一が分析を始め、美咲が拳を突き上げた。

「いいじゃん! 夏休みだよ! 冒険しよ!」

ひよりが、僕にだけ聞こえるような声でそっと言った。

「……秋也くん、どうしても行きたいんだよね?」

僕は、一瞬だけ言葉を詰まらせたあと、強く頷いた。

「うん」

ほんとうは、宝なんて、どうでもよかった。

金貨も宝石も、きっとこの地図の先にはない。

でも、この地図があれば。

「冒険」という約束があれば。

僕はまだ、この4人と一緒にいられる。

「よし! 明日の朝、ここ集合な!」

大翔がリーダーシップ全開で宣言する。

「遅刻すんなよ、なきや!」

「なきやって言うなー!」

空き地に笑い声が広がる。

その輪の中で、僕は地図を強く握りしめた。

宝の埋まっている山。

そして、まだ誰にも言えていない、僕だけの「ひみつ」。

夏休みの始まりは、どこまでも青い空の下で、静かに幕を開けた。



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