相手の気持ちを尊重したいから
よろしくお願いします。
コリンナさんとの話は、仕事が終わった後だったから、結局その後は会えなかった。傷つけてしまった罪悪感でいっぱいで、家に帰ってからもそのことが頭から離れなかった。
そんな私に気づいたクリストフ様に話をしたら、クリストフ様は私より前にコリンナさんに話をしていたそうだ。それを聞いて、私は自己満足でただでさえ傷ついていたコリンナさんの傷を抉っていたことに気づいた。
私はどうすればよかったのだろう。
クリストフ様にコリンナさんに話したいと伝えるべきだったのか。だけど、そうしたら結局クリストフ様がコリンナさんに話をして、私はそれを知らないふりをしてやり過ごすのか、また大変なことはクリストフ様に全部任せるのか、ということにも気づく。
結局はどちらも選べなかったのかもしれない。結果的にこうなってしまったなら、その責任を取ろう。そう思った私はコリンナさんを傷つけたことを忘れない、と心に刻んだ。
今度はお兄様と向き合う番だ。
クリストフ様が、お兄様に私が会いたがっていると話をしてくれ、お兄様の休みに合わせて、クリストフ様の家へ来てくれることになった。
◇
ダイニングテーブルに、私が左、クリストフ様が右と並んで座り、私の向かいにお兄様が座る、という席順だった。貴族をもてなすような場所ではないし、席順もこれではおかしいのではないか、と今の私ならわかる。だけど、それを言ったらお兄様が悲しそうに「いきなり立場を変えられても困る」と言ったので、そのままだ。
「わざわざ来てくださってありがとうございます。本当ならこちらから伺うべきなのに」
「いや、こちらこそありがとう。私の休みと合わせるためにロスヴィータは仕事を休んだんだろう?」
クリストフ様の言葉に、お兄様は私を見て苦笑する。私が先に話すべきかと思ったけど、家主であり、家長であるクリストフ様が招いたのだからと、クリストフ様が前もって話してくれていた。平民同士なら許されることも、貴族と平民、貴族同士でもまた常識が変わってくる。私はそんなことも知らなかったのだ。
「私がお兄様と会いたいと無理を言ったんです。お兄様にもクリストフ様にもご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いや、いいんだ。私もお前が心配だったから。それで、今日はどうしたんだ? 母上がこちらに迷惑をかけている様子はなかったんだが違うのか?」
「いえ、お兄様の仰る通り、あれからは何もありません。だから会いたいんです」
「どういうことだ?」
「お母様ともう一度、私の本当の両親について話がしたいんです。事実と向き合って、『私は私』だと前へ進んでいけるように」
血の繋がりだけではない、心の繋がりもあることを私は知った。それでも、血の繋がりが不幸の連鎖を生んでしまうんじゃないか、それが怖かった。
それでも私は幸せになりたいと思ったから。隣にいてくれるクリストフ様と一緒に。
だから私は乗り越えたい。自分で自分を縛るものを乗り越えるんだ──。
そんな意志を込めて、お兄様を瞬きもせず見つめる。
「……わかった。私から母上に手紙を出そう。今は領地にいるから。それで、私はそのことについて聞いてもいいのか?」
そのこととはどのことか、聞かなくてもわかる。お母様が私に固執した理由や、私の生い立ちのことだろう。お兄様は知りたがっていたから。
だけど、それを話していいのか。俯いて思案していると、クリストフ様が私の手を握った。クリストフ様を見ると、頷いてくれた。
「今お前が思っている不安でもいい。少しずつでも話せばいい」
事実を話すかどうかじゃなく、どうして話すことを躊躇ってしまうのか。それを話せばいいと言ってもらえてホッとした私は、口を開く。
「……私は私の考えでしか話せないから、もしそのせいで事実が歪んでしまってもわからないんです。そして、そのことがお母様いえ、男爵夫人とお呼びするべきですね。男爵夫人とお兄様との関係を変えてしまうんじゃないか、それが心配です。何より私はお兄様を傷つけたくないし、傷ついて欲しくないんです。だから、お兄様は知らない方がいいんじゃないか、と私は思っています」
「そうか……」
お兄様はそれだけ言って、目線を伏せた。どのくらい経っただろうか。お兄様は視線を上げて真っ直ぐに私を見た。
「これまでの母上の態度やお前の様子を見て、多分お前が言う通り知らない方がいいのかもしれないとは思う。こう言うのは良くないんだろうが、多分ろくでもないことなんだろうと。母上が何をしたのか、知らないと後々対処ができないから、私は知っておきたい」
お兄様の決意は固いようだ。それならその気持ちを尊重したい。守るためだと言って相手の意志を無視してはいけないだろう。
「わかりました。ですが、私の話よりもレナーテ様の手記の方が伝わりやすいと思うのでお待ちします」
「お前が語りたくないことを、無理矢理暴き立てるようなことをしてすまない」
「それはいいんです。少しお待ちください」
そう言って、私は先を外した。
読んでいただき、ありがとうございました。




