クリストフの告白
よろしくお願いします。
「……それはあくまでもクリストフ様の考え、ですよね? それなら私はお母様の考えも知りたいです。いえ、知らなければいけないんだと思います。だから、もう一度会って話したいのですが……」
クリストフ様の考えにも納得できる。きっとお母様はまだ何かを隠しているのだろう。
それなら私はそれを知りたい。知ることで、本当の意味で私はお母様の影響から抜け出せる気がするのだ。
じっとクリストフ様の目を見つめると、クリストフ様も私を見ていた。その目は私の真意を探るようでいて、どこか心配しているように思えた。単に私がそうあって欲しいという思い込みかもしれないけれど。
どのくらいの時間見つめ合っていたのだろう。そんなに長くなかったのに、目を逸らすこともできなくて、クリストフ様の返事を息を詰めて待っていた。
クリストフ様は小さく唸って私の両肩に両手を置くと、左右に首を振った。
「……俺はやめた方がいいと思う。またお前が傷つくだけだろうし、あの人が何を考えているのかはわからないが、今度こそ監禁されるかもしれないぞ。何より、あの人が本音を話すとは思えない」
「それは──そうかもしれませんが。今のままでは、お母様が私に語ったことが私にとっての真実になってしまいます。私はクリストフ様に否定してもらったとしても忘れられないんです。お母様に生まれてこなければよかったのに、と言われたことが……」
こうして口にするだけで、声が震えてしまう。いつまでも過去に囚われる自分の弱さが嫌いだ。その弱さを言い訳にして、大切なクリストフ様を信じられないことも。
お母様を盲目的に信じていたことで、『私』という人の芯ができていた。その芯が折れてしまい、誰かを信じること以前に、自分を信じられなくなった。自分を信じられないからこそ、他人に依存することで『私』という芯ができたような気になったが、所詮はまやかしだ。誰かの芯を『私』だと錯覚していただけ。
「男爵夫人と話すことで、お前はそれを乗り越えられるのか?」
「……わかりません。それに、私がお母様の本音を引き出せるかもわかりません……わからないばかりなのに無理なことを言っている自覚はあります。それでも、一度逃げたら逃げる癖がついて、向き合うことができなくなってしまいそうで怖いんです」
難しいことは考えない。面倒なことは人任せ。それが楽なことは嫌というほど知っている。それに楽な方に逃げたら、頑張ろうと思う気力が萎えることも。そんな昔の自分を思い出して、やましさのあまりクリストフ様から目を逸らす。
「……お前の考えはわかった。それなら俺も話し合いに同席する」
クリストフ様の言葉に迷いはないようだった。もう私とは無関係で、責任なんて感じなくてもいいのに。どこまでも義理堅く、優しい。だからこそ私はその優しさを受け取れない。目を伏せて静かに首を左右に振った。
「私一人で大丈夫です。これ以上、私の事情にクリストフ様を巻き込むわけにはいけません」
「巻き込まれたわけじゃない。俺がそうしたいんだ」
俺が、という部分を強調したクリストフ様を、思わず見上げてしまった。クリストフ様と目が合うと、真摯な視線に絡み取られて瞬きすらできなくなる。
「お願いだから頼ってくれ。前は頼るなと言ったくせに、と思われるかもしれない。だが、あの時のお前と今のお前は違う。それに俺自身もあの時から変わったんだ。俺はお前を失いたくない」
「な……」
聞き間違いだろうか。失いたくたくない、なんて。そんなことを言われると、私がクリストフ様にとって大切な存在であるかのように聞こえる。
心が浮き立ちそうになったところで、勘違いするなと自分で自分を戒める。
「……嫌いじゃないって、言ってくれましたもんね。クリストフ様はやっぱり優しいです。そんな私にも手を差し伸べてくれるんですから」
クリストフ様はじっと黙って私を見たかと思うと、吸い込んだ息を全部吐き出すかのような重いため息を吐いた。
「嫌いじゃないくらいで、お前を失いたくないなんて言うわけがないだろうが。それは、その、あれだ。ああ、くそ、もうわかるだろ?」
「わかりません」
「即答かよ……」
私はクリストフ様じゃないから、わかるわけがない。わかったつもりで自分に都合のいい答えを作り出すことはできるけど。
クリストフ様は顔を赤くして、しばらくあーだのうーだのよくわからない言葉を発していたが、深呼吸を三回して、口を開いた。
「お前が好きだ」
時間が経つのが早いです……。
次は早めに投稿できるといいのですが。
読んでいただき、ありがとうございました。




