閑話・大切だと自覚すること(クリストフ視点)
今回は手記を渡された後のクリストフ視点になります。エピソードの順番的に悩んでいるのでまた後で並び替えるかもしれません。
よろしくお願いします。
ロスヴィータから手記を受け取った後、俺は部屋に戻り、机に向かって読んだ。ロスヴィータの暗い表情を見ていたら、ベッドに寝転んで読む気にはならなかった。読み進めるにつれて眉間に意図せず力がこもっていく。
手記の内容は重かった。俺があいつに選ばせた結果がこれなのか。俺はどうあいつに責任を取ればいいのかわからなかった。
何も考えない方が幸せだと言った男爵夫人の言葉は正しかったようにも思える。
だが、一方で俺もあいつもそう思わされているような気持ち悪さを感じずにはいられなかった。
レナーテ様が男爵夫人にどうして、と問いかけるような書き方をしていること。男爵夫人がロスヴィータを引き取ったにもかかわらず、必要な教育をせずに俺に押し付けるように結婚させたこと。自分だけは味方だと、ロスヴィータに諫言するエリーアスを敵だと思い込ませ、遠ざけたこと。
それらの出来事は、単体ではただ違和感を覚える程度で済むのかもしれない。だが、それら一つ一つが何故なのかを突き詰めたときに見えるのは──男爵夫人の悪意だった。それもロスヴィータというよりはレナーテ様に対するもの。
姉妹のように仲がよかったとはいえ、レナーテ様が男爵夫人を差し置いて婚約者に決まったことは深い溝を作ってしまったのかもしれない。表面上は仲がよさそうに見えても、人の心は見えないものだ。そのことには納得できる。
だが、それならどうしてこんなに回りくどい方法を使ったんだ?
レナーテ様が亡くなった時点で、ロスヴィータを孤児院に預けるなりすればよかっただろう。レナーテ様にそっくりなあいつを手元に置く必要なんてない。見るたびに思い出して怒りも憎しみも再燃するだけだ。それでもそうしなければならなかった理由があるのか?
見えそうで見えない答えがもどかしい。トントンと指先で机を叩く音が夜の静寂に響く。
手元に置く、というかこの間までは軟禁されていたが。見張っていないと心配って、どこまで過保護なんだ、と呆れたものだ。そんなことを思い出して脳裏に閃くものがあった──そうか、監視だ!
具体的にはわからないが、ロスヴィータを見張っていないと不安なことが男爵夫人にはあるのだろう。それもレナーテ様に関わる何かが。
まだだ。まだ足りないところがある。これ以上は見えてこない悔しさに、思わず頭を掻きむしる。
「何をやっているんだか……」
はたと気づいて苦笑が漏れた。自分のことじゃないのに、ムキになって考える自分がおかしくなった。それもこれもロスヴィータが関わっているからだ。
出会い方は最悪で、その後の印象も悪かった。だが、そのうちにあいつの置かれた状況、あいつ自身を知るたびに嫌うことができなくなった。それが同情だったとはっきり言える。
それなら今はどうなんだ──?
あいつの儚い笑顔を見たときに、今にも消えそうで無意識に捕まえようと手を伸ばしてしまったのは、失いたくないと思ったからだ。
それに、今こうしてあいつのことを無い頭を振り絞って考えているのは、あいつの心を守りたいから。
同情でそこまでできるのか。そんなわけはない。もういい加減、俺は自分の気持ちを認めないといけない。失ってからでは遅いのだ。
両親を失ってから、失うことが怖くて大切なものを作らないようにしていた。その喪失感を味わいたくなかったからだ。
その反面自分だけの大切なものが欲しかった。
今ならわかる。大切なものは作るものではなく、気づいたらそうなっているのだと。
明日はロスヴィータとちゃんと話そう。今のあいつは危ういところに立っている。一つ間違えたら永遠に失ってしまうかもしれない。
そうして深夜まで、ロスヴィータとどう話をすればいいのかを考えていた。
読んでいただき、ありがとうございました。




