クリストフ様から見た真実
よろしくお願いします。
罪悪感を抱くことは、きっとやめられないだろう。その痛みが私が過去を受け止めた証だと思うから。罪悪感を忘れてしまえば、また私は楽な方へ流されて、意思のない人形に戻ってしまうような気がした。その思いを説明したかったけれど、クリストフ様に否定されそうだ。
そこで、はたと気づく。クリストフ様が今、どう思っているのか。先程までの私は、わかってもらおうと自分の主張をするばかりで、クリストフ様の言い分をちゃんと聞こうとしなかった。だからこそ言い合いになってしまったのだ。
こうしてクリストフ様に包まれている間は、辛い現実を忘れていられるのかもしれない。だけど、気持ちが伴わない抱擁は、偽りの優しさのように思えて、時間が経つにつれて虚しくなる。
私が好きなのは、クリストフ様の安心できる腕や体温だけじゃなく、クリストフ様の心もなのだから。
わかり合うために言葉がある。それは私が主張するためだけのものでもない。
怖くてもクリストフ様の気持ちを知りたい。そんな思いに突き動かされて呟いた。
「……私が憎くないんですか?」
知りたい気持ちと、怖くて知りたくない気持ちがないまぜになって、クリストフ様の胸に顔を押し付ける。
クリストフ様が答えるまでの時間が、ものすごく長く感じた。
「憎む理由がないだろうが」
何を言っているんだと言わんばかりの声音に、私は弾かれたように顔を上げる。クリストフ様の表情は穏やかで、うっすらと口角も上がっていた。
「正直、親父が亡くなったことは悲しかった。だが、薄情かもしれないがレナーテ様のことは覚えてないし、知ったからといってお前に思うところはないよ。お前が何かをしたわけじゃないし。
それよりも腹が立つのは男爵夫人だ。自分たちの問題をさもお前の罪だというように誘導してるだろうが」
「誘導、ですか? でも確かに私や私の父親のことが問題だったから、私の罪には違いないと……」
「いや、思い出してみろ。そもそもの問題は、レナーテ様が男爵夫人の婚約者を奪ったことから始まってるんだ。そのことで男爵夫人がレナーテ様を憎んでいたとしたら?」
思わず息を呑んだ。確かにそうだった。姉妹のように仲がよかったから、婚約者を奪われてもお母様はレナーテ様を自分の侍女にしたのだと思っていたけれど。クリストフ様には私と違うものが見えているのだろうか。
「……そうだとしたら、どうなるのでしょうか」
他人に答えを委ねるな、と言われるかと思ったけれど、クリストフ様は真顔で頷いて続けた。
「これはあくまでも俺の考えだと念頭に置いてくれ。最初からお前とのやり取りに違和感を覚えてはいたんだ。お前を可愛がっているようで、甘やかしているようで、どこか見下したような言動。それだけお前を馬鹿にするってことは、お前には悪いが嫌っているようにしか見えない。それでも手元に置いて育ててきたことには何か意味がある。それが自分の罪をお前になすりつけることだったとしたら、辻褄が合うんだ。自分がレナーテ様の死に関係しているから、そのことを隠すためにお前を誘導しているような……。
それに、レナーテ様にそっくりなお前への復讐も果たせる。俺と結婚させられた時点で自我のない人形みたいだったお前は、俺との結婚が破綻して平民になったら、家のための政略結婚も望めない。そうなれば市井に放逐されて野垂れ死にするかもしれなかった。ただ、計算外だったのは、お前が意外に根性があった、ってことだろうな」
真剣な話をしていたかと思えば、最後にニヤッとクリストフ様は意地が悪そうに笑った。
何だろう。褒められてる気がしない。
「根性は関係ない気がしますけど」
ムッと唇を尖らせて言うと、クリストフ様は声を立てて笑い、私の唇を摘んだ。
「いや、関係あるだろう。家事を何度も失敗しても喰らい付いてできるようになったんだからな。これだと働き口も見つかりそうだし、野垂れ死にしそうにない。男爵夫人が何もせずに俺に任せればいいと言ったのは、きっとそういうことだったんだろう」
「お母様……」
クリストフ様に任せれば幸せになれるとお母様はいった。それはお母様にとっての幸せだったのだろうか。私が不幸になることがお母様の幸せ。そうじゃないと言い切れないくらいに、私の中のお母様の形はぼやけてしまっている。
私の真実と、クリストフ様の真実。それぞれ違うものが、こうして擦り合わせることで共通するものに変わっていく。
そうやって最終的に浮かび上がる真実の輪郭はどんなものなのか。ただ一つわかっているのは、私の中のぼやけたお母様の形は、またはっきり現れたとしても、もう元の形には戻らないだろうということだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
今回は前回からそれほど経ってなくてよかったです。
次もできるだけ早く投稿したいです。




