↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ファイアボールしか使えない無能」と追放されたのに、壊滅寸前の元パーティーを助けに行けと言われました  作者: 姫野ことは(旧名:KOTOHA)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/4

第3話:俺を追放したパーティーが壊滅寸前らしい

「……寒くねえか?」


 最初にそう言ったのは、バズだった。


 エイトを追い出した、その夜。《銀狼の牙》は街の東の森で野営をしていた。焚き火は、新入りのマルコが点けたものだ。


「火は火だろう。燃えてるじゃないか」


 マルコは不思議そうに首をかしげる。たしかに燃えている。ぱちぱちと薪がはぜ、煙が目に染みる。


 だが、温かくない。


 火の正面にいる顔だけが熱く、背中は凍えるように冷たい。三年間、こんな夜は一度もなかった。


「たまたまだ。今夜は冷え込んでるだけだ」


 ディランはそう吐き捨てて、毛布をかぶった。


 夜明け前。見張りのバズがうとうとした隙に、狼の群れが野営地へなだれ込んだ。これまで一度も、獣が野営地の内側まで入ってきたことはなかったのに。


 バズの腕から血が流れる。いつもなら、ここでカノンの癒やしの光が飛んでくるはずだった。


 誰も、何もしなかった。できなかった。


 狼をどうにか追い払ったあと、バズは布切れで腕を縛りながら、ぽつりと漏らした。


「……あいつがいた頃は、こんなこと一度も――」


「黙れ!」


 ディランの怒鳴り声が、夜明けの森に響いた。


「あいつの名前を出すな。見張りのお前が寝てたからだろうが」


 バズは何か言い返しかけて、口をつぐんだ。


 マルコだけが、燃えかすになった焚き火と、消えたままのランタンを、黙って見比べていた。


◇


 二日目。洞窟の依頼で、ディランは毒ムカデに足を噛まれた。


「解毒薬は!」


「……カノンが持ってた」


「誰も買ってねえのかよ!」


 買う必要がなかったのだ。三年間、毒はすべてカノンが消していたのだから。


 ふくらはぎが紫色に腫れ上がり、焼けるような痛みが膝まで這い上がってくる。


 カノンなら、手をかざして十も数えないうちに消してくれた毒だ。そのときディランは、礼の一つも言わなかった。回復役が回復するのは、当たり前だと思っていたから。


「……くそっ」


 誰に向けた悪態なのか、自分でも分からなかった。


 腫れ上がった足を引きずって、パーティーは依頼の途中で撤退した。


◇


「依頼失敗ですね。違約金として、銀貨三十枚をお支払いください」


 ギルドの受付で、ディランは歯を食いしばった。


 背後の酒場から、噂話が聞こえてくる。


「聞いたか? 東の雑木林でオーガが仕留められてたってよ」


「二人組だろ? 黒髪の魔法使いと、銀髪の神官」


「それ、《銀狼の牙》を抜けた二人じゃねえか」


 ディランの肩が、ぴくりと跳ねた。


「……たまたまだ。弱ったオーガにでも当たったんだろう」


「ディラン」


 マルコが、珍しく硬い声を出した。


「僕は王都で火魔法を学んだ。だから言える。ファイアボールでオーガは倒せない。……あの人のファイアボール、本当にただのファイアボールだったのか?」


「うるせえ!」


 ディランは掲示板から依頼書を一枚、乱暴に剥ぎ取った。


 赤い枠。Bランク相当。


 《北の沼地に巣食うヒュドラの討伐》。


「これを片付ければ、全部取り返せる。文句はねえな」


 誰も、何も言えなかった。


 ディランは依頼書を握りしめたまま、奥歯を噛んだ。


 認めるわけにはいかない。


 あいつがいなくなった途端に崩れた、などと認めたら――この三年、自分の剣で稼いできたと思っていた名声が、全部嘘になる。


 だから、勝たなければならない。あいつらがいなくても勝てると、証明しなければならない。


◇


「《銀狼の牙》が、三日経っても戻らないんです」


 ギルドの受付嬢は、申し訳なさそうに救援依頼の紙を差し出した。


「行き先は北の沼地。ヒュドラ討伐です。今この街で大物とやり合えるのは、オーガを倒したお二人くらいで……」


 俺は、ちらりとカノンを見た。


「……追い出した連中だぞ」


「ええ。でも、ここで見捨てたら、私たちがあの人たちと同じになります」


 それで、決まりだった。


 俺たちは、北の沼地へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。