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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらふぁや
第五章 ~瞳人と送影~
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第149話 大好きな声

 あれから、何日経っただろう。


「久しぶりね、ハイガル。元気だった?」


 彼女が、俺に会いに来た声で目が覚めた。最近は暇すぎて、ぼーっとしていると、寝ているのか、意識を失っているのか分からないような状態になる。


 伴っていたあかりとローウェルが部屋からいなくなったのを見計らって、彼女は、俺の頭を撫でる。


「温かい。生きててくれて、よかった」


 思ったよりも、元気そうだ。


「今日は、話があってきたの」


 彼女の匂いが、近い。


「私が泣いてるのとか、多分、聞こえてたわよね。いいえ。聞こえてなくても、きっと、気づいてたでしょ?」


 ――気づいていたのか。


「私のせいだって、思うわよ。当然でしょ、私をかばってくれたんだから。泣くわよ。当たり前じゃない。ハイガルのこと、本当に、一生愛してたいって、そう思ってるんだから。どんな姿でも、目が見えなくても、動けなくても。すごく、すっごく、大好きなんだから」


 ん……。この、声は。


「あなたが思ってるより、ずっと、私はあなたが大好き。全然、伝えきれてないなって、そう思ってたの」


 目の下が、やわらかい指でなぞられる。


「色々、考えたのよ、私一人で。朱音にぞっこんなフリをしたり、まなと仲直りできないか試行錯誤してみたり。――でも、気がつくと、ハイガルのことばっかり考えてて」


 嘘の音を隠すように、俺の羽毛に、頭をうずめる。


「私はいいのよ。いつまでも、死ぬときになっても、ずっと、あなたを想っていたい。――でも、あなたはきっと、私がこうして、あなたに人生を捧げることを、望まない」


 そうだな。


「今、話すことができたなら。きっと、あなたはこう言うんでしょ?」


『――ありがとう。だが、俺のことは、忘れてほしい。俺にとらわれるな。俺のために、自分を犠牲にしないでくれ。頼むから』


「なんて、カッコつけて言うんでしょ?」


 それは、あの日、俺が言ったのと、一言一句、まったく同じだった。


 俺との約束を、覚えて――。


「自分を犠牲にしてる、なんて思ってないけど。このまま、こうしているほうが、たくさん、ハイガルを傷つける。それくらい、私にだって分かるわ」


 そうか。お前には――マナには、分かってたんだな。


「お別れしましょう、ハイガル」




 彼女は、未来のマナだ。




「一方的で、想像頼りで、すごく、悪いと思う。でも、私は、私の願いを、あなたには使えない。きっと、あなたに使ったら、あなたは自分を責め続けるでしょ? 私が、自分を責め続けているみたいに」


 そうだな。願いで俺を元に戻してほしいとは、思わない。


「あたしはやっぱり、まなに託された、朱音の願いを優先するわ。ハイガルは、あたしがいなくても大丈夫だって、信じられる。むしろ、あたしのほうが心配されてるかもしれないわね」


 心配だ。一人でどこにでも行かせられるほど、俺はマナを、いや、クレイアを、手放せていない。


「でも、彼は、一人じゃ歩くことすらできない。まながどれだけ愛していたとしても、彼を幸せにすることはきっとできない。あたしは、ハイガルのことが、ものすごく、大切で、すごく大好きだけど、朱音を放ってはおけないの。責めてくれても構わないわ」


 責めたりしない。むしろ俺の方こそ、あかりに籠絡されたものだとばかり思って、信じてやれなくて、悪かった。


 マナも――クレイアも、きっと、まゆみをもう乗り越えたんだろう。


「でも、大丈夫。――絶対に、あたしが、元に戻してみせるから。朱音の願いはきっと、あたしの頭でどうにかできる問題じゃないんだと思う。けれど、ハイガルは、こうして、生きてる。生きてる以上、必ず、何か治す方法があるはずよ。あたしが、絶対に、助けてみせるから。だから……待ってて、くれる?」


 ――待つさ。いつまでも。


「あたしが可哀想だなんて思わないでよ。あたしは、あなたを愛することができて、あなたに愛してもらえて。ただそれだけで、すっごく、幸せなんだから」


 それだけで幸せだと思ってくれていたのに。


 俺は、すごく、欲張りだな。


「これからも、たくさん、あなたのために泣くと思う。心が折れそうになることだって、あるわよ、きっとね。でも、絶対に、諦めたりしないから。だから、そこでちゃんと聞いてて。あたしが、ハイガルのためなら、どれだけ頑張れるのかってこと」


 ああ、見守っていよう。


「待ち続けるのがつらいなんて、そんなの聞き入れないから。あんたの事情なんて知ったこっちゃないわ。あんただって、あたしを勝手に助けたんだから、あたしも勝手に助けるわよ。……絶対にね」


 そんな贅沢、言わないさ。どうせ不老不死だ。マナが生きてる間になんとかしてくれて、それで、一度でいいから、俺の方から抱きしめさせてくれたら、十分すぎるくらいだ。


 彼女は俺の耳元に唇が当たるくらい、顔を近づけて。


「今度は、あたしから告白するから。たとえ、聞こえてなくても。約束ね」


 俺はその約束を、決して忘れない。

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