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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらふぁや
第五章 ~瞳人と送影~
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第148話 目覚めた王女

 時は少し遡り。目覚めた王女に、マナは一人で会いに行った。エトスと対面したマナは、いくつか会話を交わし。


『久しぶりだな。今日は一人か?』


 俺の世話があったから、来られなかったのだろう。


『ハイガルは、もう来ないわ』


『……そうか』


『まなに会わせてくれる? これを渡したくて』


 パラパラと、紙をめくる音がする。


『案内してやれ』


 いつも通り、部屋に招かれることとなる。


***


『お目覚めかしら、お姫様?』


『マナさん――。あの青髪と、度々来てくださっていたとうかがいました。ありがとうございます』


『気にする必要はないわ。あたしが来たくて来てただけから』


 王女の言い方にトゲがあるな。どれだけ、あの青髪、が気に入らないんだか。


 マナはがさごそと、ポーチから何かを取り出す。


『はい、休んでた分のノート、取っておいたわ』


『私の、ために?』


『ええ』


『――本当に、ありがとうございます。十冊ほど複製して、永久保存しますね』


『勉強に使いなさいよ……』


 それから、他愛ない言葉を交わして、ひとしきり笑った後、あかりの話になって。


 あかりの話が始まったときから、きっとそうなるだろうと、俺には、分かっていたが。



『私がいると、お二人のご迷惑になります。だから、私たちが話すのは、これで最後にしましょう』



 一方的な拒絶に、マナが小さく声を漏らす。


『何も、そこまでしなくても……』


『マナさんは、私よりずっと、優しい人ですから。代わりに、私が覚悟を決めます』


『待って、まな――』


 泣きそうなマナを置き去りに。


『さようなら、マナさん』


 王女は、別れを告げた。


 そして、声を押さえて、泣いていた。


***


『マナ、この間のことなんだけど……やっぱり、なんでもない』


 マナが教室で、復帰した王女に話しかけるが無視。


 一言も、王女の声は聞こえない。覚悟が決まっているのだろう。そうじゃないと、教えてやりたいのに、何もできない。


『アイちゃんと何かあったの?』


 いつものように、マナと二人で帰宅したあかりが尋ねる。王女は、耳がいい。宿舎での会話くらい、大体聞こえているだろう。


『それは……』


 ――バンッ!!


 扉が開け放たれる音。


 ――ドンッ!!


 壁を殴るような音。


『分かってますよね』


『で、でも……』


 ――ガタン!!


 扉を、蹴った音。


『返事は、分かりました、でしょう』


『何もここまで――うっ……』


 マナの優しさが、王女を追い詰める。悪役になる覚悟を決めている王女と、本当は悪ではないのだと知っているマナ。


 けれど、王女はただ一人にだけ――あかりにさえ、嫌われればいい。


『離しなよ』


 あかりのどすの利いた声に、それでも王女は、屈しない。


『絶対に言うなよ。返事は?』


 王女がどれだけあかりを想っているか。


『返事は!!』


 本当に、このまま、隠したままでいいのか。


『ごめんなさい』


 悩んだ挙げ句、マナは謝る選択をする。伝えられなくて。伝えられないくせに、どっちつかずな態度を取ってしまって。


 マナには、王女の覚悟を不意にする勇気は、なかったのだろう。


『そういうところが嫌いなんですよ』


 そういうところが、大好きなのだろう。マナの優しいところが。それでも、マナを拒絶しないといけないから。


 苦しくて。戻った部屋で一人、声を抑えて泣くくらいには。それでも、本気でこの選択が、二人のためになると、信じて、覚悟を揺らがせない。


『あのマナが怒るなんて、よっぽどだよねえ』


 あかりのその言い方が、なんだか、あかりらしくないような気がして、ぞわっとする。


『どうやったらあんなに怒らせられるのさ。ケーキのイチゴでもつまみ食いした?』


『あんただって、怒らせてたじゃない』


 これは、もしかして――。


『いやあ、一周回って尊敬するよ』


『人の話を聞きなさいよ……まったく、誰かさんみたいね』


 間違いない。これは、俺だ。――俺の真似だ。俺ならどう言うか考えた上で、あかりの口調で発言している。


『聞くだけしかできないけどさ、話してみてよ?』


『ありがと。もう、大丈夫』


 そこから話は、まゆみのことへと移り変わる。


 俺を失って、ただでさえ脆くなっているマナの心に、あかりは、漬け込む。


『大丈夫だよ。――僕が君を、一人にしないから』


 それは、寂しがりのマナが、一番、求めているもの。


『……本当に、一人にしない?』


『うん。ずっと、一緒にいてあげる』


『本当に、信じていいの?』


 ただ、マナは。対等を求める。


 信じさせようと思えば、それなりの対価がいる。あかりは、それを分かっているようで。


『僕、実は、あかりって名前じゃないんだ』


『え?』


 不意に口にする。


『信じられないかもしれないけど、本当は、榎下朱音って名前なんだ。今まで、嘘ついてて、ごめん。でも、君になら打ち明けていいと思ったんだ。君のことは、信じてるから』


 真実の音だった。


 これは、聞いてはいけなかったなと思ったが、俺だけは、時を戻したところで、忘れることはない。


『お姉ちゃんを、よろしくね』



 こうして、マナは、まゆみを、諦めた。



 そのくらいに、彼女の傷は深くて、俺には、何もしてやれなかった。


『あかね、大好き』


『ずっと一緒だよ』


『あかねだけいてくれたら、私は、それでいい』


『私のすべてを、あなたにあげる』


『なんでもしてあげる』


『――だから、一人にしないでね』


 マナの甘ったるい声が、かわいくて。癖になりそうで。けれど、それは違うと、ダメだと、分かる。


 俺が、まゆみの幻覚を解こうとしたのは。そんなことのためじゃ、ない。


 俺がそこにいたら。引き止めてやれるのに。


 願いに囚われたあかりは、マナの願いを使うことしか考えていない。


 みんな、苦しそうだ。

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