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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらふぁや
第五章 ~瞳人と送影~
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第147話 彼女が泣けるのは

 マナは、頑張ってくれていて。それが、微笑ましくもあり、嬉しくもあり、つらくもあった。


「ハイガル。今度、旅行にでも行きましょう。あたしが抱えていくわ。まあ、可愛いフクロウの姿で、色んな人に撫でまくられなさい」


 きっと、俺が、暇をしていると思ったから。マナはそんな事を言ってくれた。俺の爪を整え終わると、マナは優しく、包み込むように、ぎゅっと俺を抱きしめて、頬にキスをする。


「うん、いい匂いがする」


 そんなことを言いながら、羽毛に顔をうずめて、頬擦りをする。


 ――そこにはいつも、あかりがいた。


「今日は、ちょっと用事があるから、また後でね」


 あかりがいれば、泣いてしまわないから。


 そうやってたまに、あかりとどこか、遠くに出かける。それでも、声はちゃんと聞こえていて。


『私のしてることって、全部、無駄なのかな』


『無駄じゃないよ。きっと、ハイガルくんには、届いてる』


『ハイガルの方がつらいのに、私、自分のことばっかりで。いつまでこんなこと続けなくちゃいけないんだろうって、そう思ってる。最低だ』


『そう思うのも、仕方ないと思うよ』


『でも私、ハイガルに助けてもらわなかったら、ここにいなかった。なのに、心が、もうつらいって、もう無理って、もう頑張れないって、そう言ってる』


 頑張らないでほしい。マナの心がすり減っていくのを、もうこれ以上、見たくない。


『ハイガルは、今でも、私のことが好きなのかな』


『私に、どうしてほしいんだろう』


『すごく怖い。――彼から、逃げたい』


 マナを嫌いになることなんて、あるわけがない。


 何もしてくれなくていい。強いて言うなら、幸せになってほしい。


 怖がらなくていいように、言葉を、想いを、伝えたいのに、伝えられない。


『マナちゃんは、今でも、ハイガルくんが好きなの?』


『もう、分からない。大好きなはずなのに、一緒にいると、つらい。一緒にいても、私が一人で馬鹿みたいで、本当は何一つ、楽しめてないのかもしれないって、そう思う。もう、ハイガルとの思い出を作ることなんて、きっと、できない』


 俺の中に積み上がっていくマナと、マナの中からこぼれ落ちていく俺は、あまりにも違いすぎる。


『そんなことないよ。ハイガルくんは、君が毎日、顔を見せてくれるだけで、すっごく、嬉しいと思う』


『なんで、そんなこと分かるの?』


『そりゃあ、まなちゃんみたいな可愛い女の子に、一から十まで世話してもらえるなんて、天国みたいなものじゃん?』



 あかり……。それは、間違いない。



『……あははっ。馬鹿みたい』


『男なんて全員馬鹿だよ』


『そんなことないよ』


『それは、ハイガルくんのこと?』


『ハイガルは正真正銘、馬鹿』


『じゃあ、誰?』


『うちのユタ』


 まあ、ユタ様は、利口だな。確かに。


『ユタくんだって、相当馬鹿だと思うけどねえ』


『大丈夫。私がちゃんと育てるから』


『そっか、それは安心だね』


『うんっ。だから、もう少し、頑張ってみるわね』


 その頑張りは、果たして、いつまで持つだろうか。


 そんなマナを見るあかりも、つらそうだ。


***


 ――夏休みが終わった。


 これまでで一番、長かった。


 マナの匂いは、もうしない。


『あ、ル爺。ぽっころ』


『ルジさん、ただいま』


 マナとあかりの挨拶には返事を返さず、ルジは切り出した。


『マナさん。ハイガルのことで話がある』


 ルジが「マナさん」と呼ぶときは、私生活に関わることだ。魔王に関係する話のときは、「マナ様」と呼ぶからな。


『何かしら?』


『このままだと、あやつが学校に通うことは難しい』


 逃げたときは、通うつもりなんて、なかったんだけどな。今は、恋しくて、たまらない。


『……ええ、そうね』


『この宿舎は、学園の生徒向けに貸し出しているものだ』


『つまり、ハイガルを置いておけないってこと?』


 少し躊躇いがちに、ルジは続ける。


『ハイガルはモンスターだが、人権がある。そして、ここは、介護施設ではない』


『そうね。ル爺の家で預かるなら、あたしも会いに行きやすいけれど、どこに移動させるの?』


 マナは、気づかないフリをしているのだろう。


 ルジの選択は、残酷なようでいて、俺が願っていることそのものだ。


『ハイガルの居場所は教えられない』


『え?』


『あなたはまだ若い。あんな鳥一匹に一生を捧げることなく、自分のために生きてくれ』


 俺が言いたかったことを、ルジは、代弁してくれた。


 マナは震える声で、


『……あたしって、迷惑だった?』


『そんなことは決してない。それに、ハイガルにとっては、たいそう楽しい日々だっただろう』


『じゃあ、なんで』


『声だけは取り繕っていても、表情は隠しきれていない』


 ――。


『凄惨な過去により、マナ様の表情は、死んでしまわれたものだと思っていたが、そうではなかった』


 ルジは、吐息を一つ、ついて。


『あなたは、自分が傷つかないよう、心を大切に隠していた。それを、ハイガルに見つけてもらったのですね』


 そう言った。



 俺が、マナの心を、見つけた。



 ――ルジがそう言うなら、そうなのだろう。


 心を見つけてしまったから、あんなにも、マナは悲しんで。


 けれど、あんなにも無表情だったマナが、泣いたり、笑ったりしてくれるなら。


 俺がマナと過ごした時間は、つらいだけの思い出にならずに済んだのだと、そう思えるだけで、救われたような気がした。

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