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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらふぁや
第五章 ~瞳人と送影~
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第115話 約束したはず

 二人は驚いた気配で、黙り込む。今まで、こんなことはなかった。時を止めた先で、それまでまったく感じなかった、人の気配がするなんて。


 それに、それに――。


 俺は、前の世界で、マナと決別したつもりだった。


 それが、こんなにも早い再会になるとは。


「ハイガル――」


 小鈴の鳴る声。間違えるはずがない。間違いなく、マナだ。俺の知るどのマナかも、なんとなく分かる。


「記憶は、戻ったか?」


「……何か、知ってるのね」


 あの日、約束して。その記憶を奪ったマナ。そして、ランプを渡したマナ。この世界のマナではない。


「どういうこと?」


 そしてこちらも、この世界のものではない、カナリアが細く鳴く。小さな声で、甘えるように。間違いなく、王女の声だ。――だが。


「こっちに来てから、なんだかおかしいのよね。記憶が混乱してて。代償のこともあるし」


「なんですぐに言わなかったの?」


「心配させると思ったからよ」


「心配するに決まってるでしょっ」


「ごめんなさい。でも、元気だから、安心して」


「ん……」


 本当に、王女なのだろうか。疑ってしまうくらいに、いつもと様子が違いすぎる。探知さえなければ、マナに撫でられる王女を、赤ちゃんと勘違いしそうなくらいに。


「一つだけ、分かってるのは」


「のは?」


「あたしの記憶は、消されてるか、書き換えられてる。多分、ハイガルの魔法で」


 ギロッと、鋭い殺気が俺に向けられる。あ、王女だ。こんなもので本物だと確かめて安心する日が来ようとは。


「ああ、そうだ」


「……それから、もう一つ、思ってることがあるの」


「なんだ?」


「ハイガルは、他の世界の記憶を持ってる。つまり――あなたは、死んだときの記憶を、持ってる」


 気づいてほしくて。俺は。


「約束、覚えてるって、言ってたから。だから、気づいたの」


 その一言を、マナに残した。彼女が約束した世界のマナだと、確かめるために。


 『追いかける』と言ってくれた、唯一のマナだと。


「でも、どんな約束だったかは、まだ、思い出せなくて」


「まあ、俺が記憶を消したからな」


「そう、よね。それも、なんとなくだけど、だんだん、思い出してきたわ」


「それはどうでもいいんだが。俺にも聞きたいことがある」


 どうでもよくないが、今はどうでもいい。精神と紐づいている、俺の今の魔力では、そんなに長くは、時を止められない。


「ええ、何かしら?」


「あかりがマナに告白してるのを見てな」


 ギクッ、という音が聞こえそうなくらいの、動揺。図星だな。


「あかりに、どうして、何を、吹き込んだ」


「えっと、それは……」


「答えろ」


 マナの手前、努めて、苛立つ気持ちを抑えようとはしている。


「私が言ったの。『まなと結婚したら、あなたは不幸になる』って」


 言いあぐねるマナに代わって王女が答える。


「だから、あかりは、諦めたんだと思うわ」


 果たして、そうだろうか。俺には。


「俺には、あかりが王女のことを諦めるとは、到底思えないな」


 あれも隠しごとの多い男だが、それだけは確信を持って言える。


「私たち三人の中に、入ってこないで」


 王女の言うことなんぞ知らん。ずかずか、土足で踏み入ってやる。


「マナは、このままでいいと思ってるのか?」


「それは……」


 思っていないに決まっている。


 あかりに、マナを想う気持ちがないのは確実だ。このままだと、王女が誤解する可能性もある。できる限り、面倒なことはしてほしくない。


 こいつら三人は、行動が極端で、世界を変える力もある。下手に刺激して、悪い方に進まれては、たまったもんじゃない。


 これまでの世界のことは知らないが、もしかしたら、ろくなことになっていない世界が一つくらいはあったかもしれない。まあ、そもそも俺が死んだ時点で、あまりいい世界とは言えないのかもしれないが――。


「だめ!」


 ぎゅっと、王女がマナを抱きしめる。


「マナさんは私のものなの。私のお願いだけを聞いてくれるの。私を甘やかしてくれるの。そうじゃなきゃだめなの!」


 こいつ……!


 今すぐ、引き剥がしてやりたいところだが、そうもいかない。ここで俺が何か言ったところで、マナを困らせてしまうだけだ。


 きっと、今のマナには、どちらも選べはしない。


「一つだけ、言っておくが。悩んでいる間にも、時間は進んでいくからな」


 時間停止の解除を以て、二人と分かれた。

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