5節 影送りの世界 ~諦悔1~ 第114話 おかしい、おかしいぞ、絶対お(以下略)
――さて、これまでの俺が揃って離脱したという、この世界。
すでに、何かがおかしい。おかしすぎる。
『何か用? あたし、忙しいんだけど』
『じゃあ、付き合うからさ、それが終わったら僕にも付き合ってよ?』
『は? なんでそんなこと、あんたに決められないといけないわけ?』
『君が好きだからだよ。一目惚れってやつ? ――だからさ、付き合ってよ?』
紛れもない、マナとあかりの声。
開幕早々、マナの居所を探っていたら、聞こえてきたのがこの会話。
思わず、ポンポンサイダーのペットボトルを握り潰してしまった。
――まあ、直後に聞こえた、ビンタの音で、溜飲は下がったが。
「ハイガル、入るよ……って、何があった!? 君が、あのポンポンサイダーに、こんな扱いをするなんて」
「ああ、いや、なんでもない」
「なんでもないわけあるか!!」
ギルデの言う通り、なんでもないわけないが、俺だって、まともに思考できていない。
頭の中は、なぜどうして、の疑問一割、マナかわいい十割、残りの百割はあかりぶちころすで占められている。もはや足し算すら危うくなってきた。
「嫌な音でも聞いたのかい?」
「まあ、そんなところだ」
マナが真に受けた様子はなく、現に、いつもどおりの音で、宿舎に戻ってきた。
というか、分かってはいたが、また、ここから始まるのか――。
「なんだか、元気がないみたいだけど、どうかしたのかい?」
「いや、なんでも……」
と言いかけて、少しだけ冷静になった頭で考える。今回で、最後なのだから。伝えておいてもいいかもしれない。
「実は、ややこしい話に巻き込まれてる」
「君はいつもそんな感じだね」
「――言っておくが、信じないという選択肢はないからな。俺がわざわざ、労力を割いて説明するんだ。本当かどうかなんて、聞くなよ」
「分かった。聞こうじゃないか」
サイダーの甘い香りが残る部屋で、俺はややこしい話を、ギルデの頭でも分かるように、分かりやすく話した。
「ふむ……。色々と言いたいことはあるが、とりあえず君は、この世界で全員を幸せにしなければならなくて、特に、タマゴは絶対に救わなくてはならないと」
「ああ、そういうことになる」
「そして、ル爺との勝負に勝ち、君をつけ狙う敵の招待を暴き、倒さなければならない」
「ああ、そうだ」
「ついでに、命の恩人を見つけて、その血液を定期的に接種しなくてはならない、と」
「多分マナだってことは、分かってるけどな」
「無理だね!」
「なんでだ。俺は、この宇宙の主人公だぞ? できないことなんて、あるわけないだろ」
「無理だね!! 君がその好きな人と結婚なんてしたら、僕は悔しさのあまり、君の結婚式で爆ぜる! つまり、僕が幸せになれない!」
「じゃあ、ギルデには公共の福祉のために、諦めてもらうしかないな」
「デミッ!!」
まあ、無理難題だということは分かっている。
だがな。
「こんな無理難題、俺にしかできないだろ?」
「……まったく。君は、カッコつけるのが好きだね」
「俺は天才だからな」
肩をすくめるギルデは、どことなく、楽しそうだ。
「はいはい、僕も手伝おう」
「あ、それから。このことは、他の誰にも言うな。約束だ」
「ああ、約束する。敵がどこにいるかも分からないからね」
何があっても、なんて。簡単に言ってはならないのだと、俺はこの世界で、知る。
***
ビンタされて気を失ったっぽいあかりが、王女に背負われて帰ってきた。マナはと言えば、いつも通り部屋で勉強しているらしかった。
このあと、マナは買い物に出かけ、クロスタの襲撃を受け、あかりたちに助けられ、そして、親睦を深める。決まりきった流れだ。と思っていたら。
『アイちゃん、おやすみ』
――早速、イレギュラーな自体が起きた。あかりが王女を眠らせたのだ。彼はまな様のことをよく、アイちゃんと呼ぶ。
ともあれ、いつかの王女のように、少しの差が命に関わる危険もある。できるだけ、同じように過ごしたいが、世界が変われば通用しないことも多い。
何が言いたいかと言うと。
今のところ、時が止まる気配はしないが、それはただ、王女が寝かされているだけで、実は決定的な見落としをしているのかもしれない、ということ。
念には念を入れて、止めてみよう。気を引き締め直して。
――直後、目の前に現れた。二つの気配。
脳が揺さぶられるような、懐かしい匂い。音。気配。
その違和感と幻みたいな状況に、殴り殺されるような、気持ち悪さに侵された。




