92
大陸暦1053年 海の月 28日
ここまでで半分の適性試験が終わりました。
「あの、レイラさん」
「どうしました?」
「適性試験って、全部こんな感じなんでしょうか?」
何というか、ノリがお遊びっぽく感じます。真面目な試験、という感じがしないのですが……。
「こんな感じです」
あっさりとレイラさんに言われました。
「……なんでこんなふざけた感じのノリなんでしょう……?」
「それについては冒険者ギルドの成り立ちから説明する必要がありますね」
さっきまで黙って私が試験に挑んでいるのを見ていたフィルハウトさんが説明をしてくれました。
この世界(アナザーアース・クロニクルのゲーム世界)では、冒険者ギルドは大陸全域に支部を持つ、国を越えた一大組織だそうです。
そして、これは冒険者ギルドの支部長など一部にしか知られていないそうですが、冒険者ギルドの設立、および運営にはこの世界の守護神である十二女神が関与しているのだそうです。
以前レイラさんが見せた「ニーネアの百科事典」のような便利なアイテムや、この適性試験についても、女神からもたらされたもので、私たち「異人」と深く関わり合いがあるものなのだとか。
なるほど、プレイヤーとしての視点に立つと、この話は理解ができます。
アナザーアース・クロニクルの世界から見ると世界を守護する女神も、プレイヤー視点に立てば「GM」です。
冒険者ギルドが女神によって支援され運営されているというのも、プレイヤーが冒険者としてゲームを楽しむのを手助けするため、と考えるとわかりやすいです。
ということは、この適性試験は、つまり。
開発者たちの趣味ですね……!
=試験その5=
この部屋にはディスプレイのようなものが1つと、肘掛のついた立派なつくりの椅子が1脚あるだけです。
「この部屋の試験は、椅子に座って画面に表示されるクイズに制限時間内で答えるものになります。全部で25問になります」
いきなりクイズですか。
とりあえず椅子に座ってみます。
【Quiz Speed Shock!】
【制限時間内にクイズに答えよう!】
もうこのノリは最後まで続きそうですね。
【第1問】
おっと、クイズが始まりましたね。
【※〇□=▲★*@#◆※&%◎▽?$)¥/☆+@>●(&■/<?_&〇!※?%+~?】
はい?
画面に問題が表示され、音声でも問題が読み上げられたはずです。
画面に表示されているのは、まったく意味不明な記号の羅列です。
聞こえてきた問題は意味不明な雑音です。
「レイラさん!?」
「どうしました?」
「問題が読めないんですけど!?」
「能力値補正ですね」
特に問題はない、と言わんばかりにレイラさんに即答されました。
「……能力値補正?」
「この適性試験はあくまでノエルさんのこの世界における能力値を計るもので、『異人』としての頭の良さを調べるものではありません」
あ、第1問がタイムアウトで不正解になりました。
第2問が……やっぱり記号の羅列です。
「問題文が読めないということは、つまり、問題文を読むために必要な[知性]の能力値を満たしていない、ということになります」
な、なんだってー!?
となると、今までの試験も私の能力値の影響を受けていた……? 特にあの鬼畜なリズムに乗ってマス目を踏むテストとか……。
あ、まずい、またタイムアウトで不正解に。どうせ問題が読めなかったんですけど。
集中、集中です。
「25問中、8問正解ですね」
ぐぬぬ……問題が読めたクイズは全部正解できたんですけどね。
=試験その6=
この部屋には目立つオブジェクトがあります。どんなものかというと、金属の棒をぐねぐねと曲げて平面に並べた……という感じです。金属の棒で作られたダンジョンの見取り図、というと想像できるでしょうか。
そばに台があって、同じように金属の棒が置いてあります。
「この試験は、まず、この金属の棒を持って、迷路のスタートの位置に置いてください」
ふむふむ。言われた通り台に置いてあった金属棒を手に取り、見取り図のスタートの位置に置きます。
「そして、ゴールまでその手に持った金属の棒を動かしてください。ただし」
レイラさんが金属の棒を持つ手の手首を持って動かします。
金属の棒が、迷路の壁に触れるとびりっ、と電気が走ります。思わず棒を落としてしまいました。
「このように壁に触れると電気が流れ、手が痺れます。そうすると終了です。壁に触れないように棒を通路に通して、ゴールを目指してください」
なるほど。よく見ると通路は棒がぎりぎり壁に触れずに通れるくらいのスペースでできていますね。
棒を正確に動かしていくゲーム、でしょうか。そういうのなら得意です。
【Stick The Thunder!】
【電撃の通った棒で、迷宮を走破しろ!】
【Ready】
【GO!】
この前フリも慣れましたね。
ゆっくりと、正確に、細い隙間に金属棒を通して行きます。
曲がりくねった通路を壁にぶつけないように動かしていきます。
うん、順調ですね。
だいたい半分くらい過ぎた所。
急に手にびりっとした刺激が走り、手から金属棒が落ちました。
「そこまでですね」
レイラさんが宣言します。
「……今、私、ぶつかりました?」
「でしょうね。実際に棒を落としましたし」
おかしいなあ。精密動作は私の大得意な分野。〈竜闘術〉でしっかり戦えてるのもそれがあってこそなのに……どう考えても、勝手に手が動いて壁にぶつかったとしか思えないのですが。
……これも能力値の補正とやらでしょうか。
となると、この試験。器用さよりも集中力というか我慢強さを計るテストだったのかもしれませんね。
=試験その7=
さて、これが最後の試験のはずです。
この部屋には中央にテーブルがあり、その上に水晶玉らしきものがぽつんと置いてあるだけです。
「最後の試験は、この水晶玉を触ってください」
レイラさんに言われるまま、水晶玉の上に手を置きます。
「それで、どうすればいいんでしょう?」
いつものメッセージも流れません。
水晶玉が淡く光始めます。
「何もする必要はありません」
「え?」
しばらく水晶玉が光ったあと、また元に戻りました。
「これで最後の試験は終了です。お疲れさまでした」
ええ……最後、すごい拍子抜けなんですけど……。
最後の試験が終わると、一番最初の部屋に戻ってきました。各試験の部屋を進んでいくとぐるっと一周して、最初の部屋に戻るようにできているようです。
「あ、試験の結果が出ましたね」
最初の部屋にあった何か箱のようなものから紙らしきものが出てきます。
私、フィルハウトさん、レイラさんの3人で結果を見ます。
ノエル
[体力] E / 60
[生命] C / 100
[器用] B / 120
[敏捷] G / 60
[知性] F / 100
[精神] D / 100
[魔力] A / 120
魔法適性:強化
適性スタイル:
一見、キャラクターブックのステータス画面のようですが、表記が違いますね。
「これは……」
フィルハウトさんとレイラさんが結果を見て、言葉を失っています。何かあるんでしょうか。
そもそも、この表記、どう見たらいいかわかりません。
「これってどう見るんですか?」
「各能力値の左が現在の評価、右が成長最大値です。評価はAからGでAが1番良く、Gが1番悪くなります。魔法適性は魔法の分野の適性、適性クラスはノエルさんが向いているスタイルになります」
レイラさんが説明をしてくれます。
「適性スタイルが空欄なのは?」
「……その、言いにくいのですが、適性スタイルが『ない』んです……」
「ない、てどういうことでしょう?」
「簡潔に言うと、ノエルさんは冒険者に向いていない、てことになりますね」
フィルハウトさんが言いました。
いやいやいや、待ってください。それはないでしょう? ないですよね?
フィルハウトさんが苦笑いしながら、詳しく解説をしてくれました。
1.戦士系
戦士系に必要な能力値は[体力]、次いで[器用][敏捷][生命]になります。これはフィルハウトさんみたいな攻撃重視かレスタさんみたいな防御重視で違いますが、おおむねこの能力値になります。
私は、まず問題として[体力]が絶望的に低い、というのがあります。[体力]は武器を振るう力、重い装備を身につける力など戦士系にとって必須の能力値です。これが低いのは致命的になります。
万一、低い[体力]を補おうと思うなら[敏捷]が必要です。非力さをスピードで補うわけですね。しかし、私は[敏捷]もさっぱりです。
結論として戦士系は私に向いていません。
2.斥候系
斥候系に必要な能力値は[敏捷][器用][知性]です。特に危険を察知するための鋭い感覚につながる[知性]、危険を回避する[敏捷]が大事です。[知性]は挽回の余地がありますが、[敏捷]は絶望的ですね。
そもそも斥候系は良く言うと万能、悪く言うと器用貧乏さが求められます。そのため私みたいに「高い能力値と低い能力値がはっきりしている」より「平均的に高くもなく低くもない」方が向いています。
結論として斥候系は私に向いていません。
3.魔術師系
能力値としては一番向いていると言えます。高い[魔力]により魔法は高い効果を出せます。[精神]も平均はあるので【MP】も確保できます。[知性]が低いと高レベルの魔法を覚えられないという欠点はありますが……上限を見る限りでは普通くらいにはなれるでしょう。
しかし、能力値よりも問題になる部分があります。
「魔法適性」がほとんどない、という部分です。
魔法には地・水・火・風・光・闇の属性および強化・防御・治癒・呪死・精神の系統が設定されています。属性を組み合わせた複合属性というものもあるそうですが、ここでは省略します。
普通のプレイヤーはおおむね全ての属性と系統に適性があります。魔法が苦手な種族や属性の強い影響を受けている種族だと適性がない=使えない属性と系統があることがあります。
私はその適性が強化系統にしかありません。
これはつまり、私は魔法を、強化系統(いわゆる能力値や装備を一時的に強くする魔法)と適性がなくても使える魔法(生活魔法はこれに該当します)しか使えないことになります。
……これでは魔術師系統に向いているとは言えません。
原因はわかります。
私の魔力の由来が黒竜……身体強化に優れる代わりに属性適性を持たない竜、に由来するからですね。
「けれど、これだけ魔力があれば召喚系や奇跡系に適性が認められそうですが……?」
「おそらく種族でしょうね」
レイラさんの疑問にフィルハウトさんが答えます。
「どういうことですか?」
「召喚系はモンスターと契約を交わし使役し戦わせる魔法、奇跡系は女神に祈りを捧げ力を借りる魔法です。これらは魔法適性とは別枠で存在するのですが……」
フィルハウトさんが言葉を濁します。
「……ノエルさんは『竜』なのですよね?」
「そうですね。そうなります」
「その種族が影響して『適性なし』と判断されているのかと思われます」
フィルハウトさんいわく。
「竜」というのはモンスターの中でも別格なため、モンスターと友好的に契約を交わそうとしても畏れをなして近づいてこないため契約してもらえない可能性が高いのではないかと。
さらに竜信者、という存在がいるように、女神に匹敵して信仰を集めるような存在のため、女神に祈っても力を貸してもらえないのではないかとのことです。
いや、おかしい! 私はそんな偉い存在じゃないはずなのに!?
「……となると、その他系から考えないとですね……というか、この能力値、正直言うと冒険者をやるより何か生産系スキルをして生産者として生きる方がおすすめですよ?」
レイラさんがあきれたように言います。
生産系というのは鍛冶とか細工とかいわゆる職人と呼ばれる存在になってアイテム生産に励むスタイルのことだそうです。冒険者ギルドは専門外で、別のギルドがあるそうですが。
「まあ、適性のありそうなスタイルが1つ、ありますけれどね」
フィルハウトさんがぼそっと呟きました。
「本当ですか?」
「ええ、メジャーなスタイルではないのですが、高い魔力と器用さを要求され、体力や敏捷性を必要としません」
[魔力][器用]が必要で、[体力][敏捷]が必要ない……私の能力値の傾向にぴったりじゃないですか。そんな都合のいいスタイルがあるなら、それでよさそうな気がしますけれど。
「それはいったい?」
「『人形遣い』です」




