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「人形遣い」
魔力で動く「人形」を武器に戦うスタイル。魔力を伝う専用の糸で操作する「糸操人形」と、自力で動くことができ命令を与えて行動させる「自動人形」の2つの種類があります。
「人形遣い」は「人形術」と「人形製作」の2つのスキルがメインとなります。
「人形術」は人形を行動させる専用のアーツや人形を強化するためのパッシブアーツを取得することができます。
「人形製作」は様々な素材を使用し、人形を作るためのスキルです。製作のレベルが上がり、レア度の高い素材を使用することでより強力な人形を作ることができます。
「人形遣い」は無限の可能性を秘めたスタイルです。
人形にはスキルを取得させることが可能です。これには制限はまったくありませんので、キャラクターが取得を制限されているようなスキルを覚えることもできます。様々なスキルを覚えた人形を用意することで、普通のキャラには不可能なことも可能にできるでしょう。
しかし「人形遣い」には欠点もあります。
1つは非常にコストがかかること。強力な人形を製作するには高価な素材が必要になります。またスキルを取得させるにも、多くの特殊な素材が必要になり、結果として人形の製作には非常にコストがかかります。また、戦闘に使用することで人形が負傷・破損した場合にもその修理には多くの費用がかかります。
結果として、人形遣いとして十分な能力を発揮するには多くの金銭が必要になります。
もう1つは操作が非常に難しいこと。「糸操人形」はもちろん「自動人形」も的確に指示を与え行動させるには高い判断力と技術が必要になります。
また、人形に多くのスキルを取得させることが可能ですが、それを運用するには「人形遣い」本人の操作や判断が重要になります。よって「人形遣い」が実力を発揮するには幅広いスキルやアーツの知識が必要になるでしょう。
結論として「人形遣い」は高い可能性を持ちつつも敷居の高いスタイルだと言えます。
大陸暦1053年 海の月 28日
適性試験も終わったのでいったん冒険者ギルドから出て「女神の憩い亭」に戻ることにします。冒険者になるかどうかの返事の期限はまだ先ですし。
結構長い時間やっていたのか、もう日が沈んで夜になりそうです。
「女神の憩い亭」にたどり着いた時にはすっかり暗くなっていました。
「あら、お帰り」
宿のおかみさんが出迎えてくれました。1階の食堂は冒険者のパーティの一団みたいなグループが1つのテーブルを囲んでいるだけで、がらんとしています。
現実の時間を考えるとプレイヤーが多数ログインしてくる時間でもないからしょうがないのかな。
「夕ご飯はシチューだよ。パンは2個まで無料。サラダと酒は別料金ね。追加料金を払えるなら肉料理もあるよ」
「シチューとパン2個でお願いします」
現実じゃあんまり感じたことはなかったですが、お金がないってつらいですね。
しばらくすると深皿にたっぷりの白いシチューと、パンが2個、運ばれてきました。
「あんまりお客さんはいないんですね」
「『異人』相手じゃ、しょうがないさ。明日くらいはたぶんお客さんでいっぱいになるよ」
現実の時間的に見ると、明日あたりは普通の学生さんや社会人さんが学校や会社が終わってログインしてくる時間帯ですね。
「あんたみたいに顔をよく見る『異人』はすぐ街を出ていなくなっちゃうんだけどねえ」
わははは、とおかみさんは豪快に笑いました。
「『異人』はやっぱりみんな冒険者になるものなんですか? それ以外に働き口とかないんでしょうか?」
「働き口ねえ……そりゃ、河港に行けば荷揚げ荷降ろしの仕事なんていくらでもあるし、口入屋に行けば仕事の斡旋もしてもらえるだろうけど、『異人』の人たちはそういう仕事はやらないねえ」
お客がいないから手持無沙汰なのでしょうか。おかみさんは私の質問に厨房に戻らず答えてくれました。
「そうなんですか?」
「そりゃ、『異人』はみんなスキルを持っているからそれを生かすよ。戦闘が得意なら冒険者ギルドに、物を作るのが得意なら職人ギルドに、金儲けが得意なら商人ギルド、て感じさ。歌や楽器が得意なら吟遊詩人、て手もあるね」
なるほどですね。冒険者になるくらいしか道はないように勝手に思っていましたが、それ以外にも色々と道はあるようです。
例えば何か物造りのスキルを覚えて、お金を稼ぎつつ旅をするというのもありかもしれません。
昼間出会ったプレイヤーみたいに、行商人みたいにある街で物を仕入れて別の街で売るみたいなのも面白そうです。
吟遊詩人というのは……音楽の素養は私にはなさそうだから、ちょっと難しそうですね。
そうすると──
──駄目だ。
冒険者じゃない自分を想像してみましたが、どうしても引っかかる部分があります。
危険が迫った時にどうやって自分の身を守るか。
旅をしていたらどうしてもモンスターに襲われたりとか危険に遭遇することがあるでしょう。街中だって、何があるかわかりません。そんな場合、どうやって自分の身を守るか。
〈竜闘術〉を人前で使うとまずい。
結局、冒険者だろうが、職人だろうが、商人だろうが、何になったとしても、人間の街で生きていくとなるとこの問題に突き当たってしまうようです。
「どうかしたかい?」
おかみさんが私の顔を見て聞いてきました。
「え?」
「食べるのをやめてぼーっとしたかと思うとにやにや笑ってるし、かと思ったら急に深刻そうな顔をして落ち込んでるし、どうかしたのかと思ってね」
はっ。
確かに色々考え事してましたけど、そんな変な顔をしてましたか、私。
おかみさんの方を見ると、私を見て笑いをこらえるのに必死という感じです。
慌ててシチューを食べ始めました。
これは恥ずかしい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夕飯を食べ終わり、宿の自室に戻りました。
背負っていた槍を下して立てかけ、穂先にかぶせていたカバーをはずします。
「ロッドさん」
槍の穂先に埋め込まれていた石が目を開くように表に出てきます。
”どうした?”
ロッドさんの声は私の頭の中にだけ聞こえているようで、他の人には聞こえないようです。ただ、それでも人がいる時はロッドさんは話しかけてはきません。まあ、なぜか私の方は自分で声に出さないと話ができないので、話しかけられて急に反応してしまうと不審がられてしまいますしね。
自室なら他に誰もいませんし、話もしやすいです。
「ちょっと相談したいことが」
”昼間の検査とスキルのことか? あれなら、あのギルドマスター、実は切れる奴だな。意外ときちんと姫さんと〈竜闘術〉のことを把握してる”
ベッドに腰かけて話を切り出すと、予想外の返答が帰って来ました。
相談したかったのは別の件だったんですけどね。でも、この話はこの話で興味はあります。
「……そうなんです?」
”そもそも、だ……〈竜闘術〉の本質、てのは何だ?”
〈竜闘術〉の本質? 以前、ノクターナルさんに教えてもらったことを思い出してみましょう。
「確か、〈人化〉で魔力を人間の姿にしている所を、元の竜の姿に『戻す』ことですね」
”いや、まあ、それは正しいんだろうがそういう意味じゃなくてだな……姫さんは〈竜闘術〉で戦っている時、実際には何をしているか、てことだ”
実際に何をしているか、ですか。
「……『魔力』を動かしてる?」
”そうだ”
とりあえずで思ったままを言いましたが、ロッドさん的には正解だったようです。
”結局のところ〈竜闘術〉ってのは俺から見たら魔力操作だ。そして魔力操作こそが姫さんの得意分野、強みであり、〈竜闘術〉はその姫さんの強みを最大限に活かせるスキルだと、俺は思っている”
「私の強み、ですか」
”具体的には魔力が高いこと、魔力を速く緻密に操作できること、この2つだな。この2つが優れているからこそ、姫さんの〈竜闘術〉は強力な武器足りえている。俺が見るに、姫さんは何かを速く正確に操作する、てのが得意みたいだな”
うーん、他人にそんなことを言われたことはありませんが、そうなんでしょうか。でも歴戦のロッドさんが言うからには、おそらくそうなのでしょう。
”で、だ。姫さんが勧められた「人形遣い」てのは、どんなスタイルだ?”
「ええ、と……『魔力』で『人形』を操るスタイルですね」
ああ。さすがにロッドさんが言いたいことがわかりました。
「つまり、魔力が高くて、物を精密に操作するのが得意な私にむいている、てことですか」
”そういうことだな。ついでに言うと〈竜闘術〉ってのは汎用性の高さが売りだ。攻撃・防御・移動・回復、アーツで一通り何でもそろっている。使いこなすのは難しいがな。この辺も人形にスキルを持たせることで様々な状況に対応が可能という「人形遣い」に似ているだろ?”
確かに。言われてみるとそんな気がしてきました。
”結論を言うとだ。人側のスキルでもっとも〈竜闘術〉に近い感覚で使えるスキル・スタイルってのが「人形遣い」と言える。俺はそう思うぜ”
「でも」
なるほどとは思いましたが、気になることもあったのであえて反論してみます。
「別にわざわざ『人形遣い』を目指さなくても、槍術・天威無法で戦うのはダメなんです? せっかくロッドさんに教わったわけですし」
いや、戦士系には能力値的に向いてない、と言われましたけど。
フィルハウトさんにも「これはあくまで素質というだけであって、素質がなくてもやりたいことをやることはできます」と言われましたし。
別に最強とかを目指すわけではないですから、槍術でもいいのではないかと思うのですが。
”やめとけ”
即答ですか、ロッドさん。
「ダメですか」
”致命的に向いてない”
「[体力]と[敏捷]が低いからです?」
”いや、お前の『異人』としての素質だ”
「『異人』としての素質とは、どういうことでしょう?」
”姫さんは、何かを操作するのが上手い。それは間違いない。だが、1つだけ例外がある。『自分の体』だ。姫さんは自分の体を動かすのだけは致命的に下手くそだ。あれじゃ、まるで──”
「はいはい、わかりました。槍術を使って私が戦うのは無理なんですね」
自分のことくらい、自分でわかりますからね。運動が下手くそなのはよーくわかっていますし。
わかっていますし。
”すねるなよ”
すねてません!




