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ノエル’ズ ダイアリー ~竜姫さまのVRMMO日記  作者: 柚ノ森みんと
3章:大陸西域・レウルザーガ領アルトラント
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 大陸暦1053年 海の月 28日



 プレイヤーの行商人ユーディットさんとはお別れしました。

 「何か買っていきなよー」としつこく言われましたが特に欲しいものもなかったので……アクセサリーくらい買ってもよかったかもしれませんけどね。


 というわけで私は今、灰色のローブの治癒士の女性の方と一緒にいます。

 名前はシェリンさん。種族は普通に人間だそうです。


 「あ、さっきはありがとうございました」


 「いえ、どういたしまして。見知った人が詐欺にあいそうだったので声をかけましたけど、お役に立てたなら幸いです」


 本当に、すごく助かりました。


 「あ、よかったら、食べてみませんか?」


 シェリンさんが屋台を指さしています。焼き菓子を売っている屋台みたいですね。


 「はい」


 美味しそうなので即答しましたけど、よく考えると、シェリンさん、なぜ私と一緒にお菓子を食べる気になったんでしょう。

 そうしていると、シェリンさんが2つ、焼きたての丸い形のお菓子を買ってきてくれました。


 「どうぞ」


 「ありがとうございます」


 中にジャムが入っているみたいですね。何かこういうお菓子を見たことがあるような……今川焼き?大判焼き?

 ベンチがあったので並んで座って食べることにします。


 「ノエルさん、でしたよね。冒険者になるんですか?」


 美味しいなあ、と思って食べているとシェリンさんが話しかけてきました。


 「ひょふほにゃはふで……ちょっと、悩んでますね」


 口の中にお菓子がある状態で返事しようとしたら、何か言葉になりませんでした。いけない。


 「ノエルさんは『竜』(ドラゴン)なのですよね」


 「あんまり自覚はないんですけど、一応そうみたいですね」


 ロッドさんとの戦いとか、自分が竜であると思わされる場面はあったんですけど、いまいち普通に過ごしている時はピンと来ないのですよね。


 アナザーアース・クロニクルだけの話ではないですが、こういうゲームのキャラクターとして振る舞うことを「ロールプレイ」とか「なりきり」と言うそうです。そういうゲームのキャラクターになりきるプレイヤーのことを「ロールプレイヤー」「なりきりプレイヤー」と呼ぶそうですが、私にはその意識や技術が低いのかもしれません。


 「……フィルさんとレイラさんがノエルさんを警戒するのは仕方ないことなんです」


 「そうなんですか?」


 「ええ。パーティが解散してフィルさんとレイラさんが冒険者をやめる原因になったのが……魔竜討伐でしたから」


 シェリンさんが、詳しいいきさつを話してくれました。


 昔、と言っても5年前くらいだそうですが、フィルハウトさん、レイラさんと、模擬戦をしたジュードさん、レスタさんにシェリンさんとあと1人、魔法使いのモーガンという人で、チームを組んで冒険者をしていたそうです。


 あ、チームというのは冒険者ギルドに登録できる固定のパーティで、ギルドから依頼を受ける時にチームであることが考慮されたりするそうです。あの3人組が勧誘していたのもこのチームでしたね。


 フィルハウトさんがリーダー、レイラさんがサブリーダーで、残り4人はフィルハウトさんとレイラさんに誘われてチームを組むことになったそうです。


 アルトラントで冒険を始めた6人でしたが、それぞれみな高い素質を持っていたおかげで、すぐにアルトラントでもトップのチームと呼ばれるようになったそうです。

 そして、プレイヤーの冒険者と同じようにさらなる富や名声、冒険を求めてアルトラントを旅立ち、北のトッドデルへ向かったそうです。


 そこでもすぐに頭角を現し、名の知れた冒険者チームになったそうです。


 そんな時にチームが受けたのが、「山に現れた魔竜の討伐」だったそうです。


 「竜を倒せば『ドラゴンスレイヤー』の称号が与えられ、大変な名誉と報酬を得ることができます。そろそろ私たちも竜に挑んでもいい実力だろう、みんなそう思ってその依頼を受けました……待ち構えていたのが普通の魔竜ではない『真なる魔竜』であるとも知らずに」


 「真なる魔竜?」


 「魔竜には上位と下位がいるのですが、その上位魔竜のことです。高い知性を持ち、王魔竜に率いられる魔竜たちのことを言います。普段は人里近くに現れることもないその魔竜がはぐれてたまたま出没していたんです」


 ああ、魔竜の里にいた、NPCの黒竜たちのことですか。

 グリムレットさんが討伐した際にほとんどプレイヤーに倒されたはずですが、あの中にシェリンさんと戦った魔竜がいたかもしれませんね。


 「その実力は私たちの想像以上でした。周囲に発せられるフィアオーラに体はすくみ、動きを阻害されました。ブレス攻撃はないものの、圧倒的なパワーとスピード、そして竜鱗の硬さに私たちはなすすべもありませんでした。結局、魔術師のモーガンが死に、フィルさんとレスタが大怪我を負ってやっと逃げ切ることができたのです」


 そうかあ……魔竜の里にいた時の黒竜たち、あんまり印象になかったですけど、そんなに強かったんですね。人間の姿を取らないので近づきがたくて話しかけたりできなかったんですよね。


 「レスタはリザードマンなので何とかなったのですが、エルフのフィルハウトさんはその時の怪我が治り切らず、体の歪みが後遺症として残りました。仲間のモーガンが死んだこともありましたので、チームは解散し、フィルさんは冒険者を引退してアルトラントへレイラさんと戻りました……これがフィルさんとレイラさんが引退することになった顛末です」


 納得がいきました。


 レイラさんが冒険者ギルドで〈フィアオーラ〉に過敏に反応して、模擬戦の時もずっと険しい顔をしていたのが。


 フィルハウトさんが急遽、私に挑んでみたくなったのも。


 レベルのわりに動きがあまり良くなかったのも。


 たぶん、最後の攻防も私の螺旋衝が間に合いましたが、本来ならそんな隙もなくアーツを撃ちこまれていたんでしょう。体が万全なら。


 「でも」


 「でも?」


 「これはあくまで私たちの話です。フィルさんやレイラさんがノエルさんに厳しいように見える理由、というだけなので、ノエルさんは気にしないでください。それに、こうして話してみてわかりました。やっぱりノエルさんは竜である前に『異人』なんですね」


 何を言ってるのかわからず思わず首をかしげました。


 「『異人』の人は冒険者になる人が多いですから、私も『異人』と関わることは多くあります。色々な種族、思いもよらない様々な経歴の『異人』の方がたくさんいます。けれど、みな、同じように見えるのですよね」


 「同じ……ですか?」


 「ええ。『人』と言っても種族は色々です。私は人間ですし、フィルさんやレイラさんはエルフ、ジュードはウェアウルフですし、レスタはリザードマンです。習慣や習性、性質はそれぞれ種族で違います。でも、『異人』の方々からはそういう種族による違いを感じない……みな同じに見えて、感じるんですよね」


 ああ、なるほど。


 プレイヤーはあくまでプレイヤー。中の人は現実では性別や年齢などの違いはあれど、だいたいは普通の人間です。

 だからシェリンさんの言う種族による違い、みたいなものを感じないんでしょうね。

 そういう細かい所まで意識してキャラクターを作って言動を再現する、なんて大変そうですし。


 「だから冒険者になるのに、竜だから、モンスターだから、とか『異人』の人にはあまり関係ないと、私は思います。それを理由に悩まなくてもいいんじゃないでしょうか。モンスターの『異人』に会うのはノエルさんが初めてですけど、こうして、普通に話もできますしね」


 シェリンさんが微笑みます。何となくうれしい気持ちになって、私も微笑み返しました。


 「人でない自分を捨てて、人として生きることを望む」なんて言われ方をしたので、竜としての自分を捨てて人間にならないといけないのか、みたいに重く考えてました。


 そっか。


 竜とか人とか考える前に私は「異人」(プレイヤー)。


 この世界を楽しみに訪れている異なる存在なのですからね。


 「それと〈竜闘術〉でした? あの件はしょうがないと思いますよ」


 「そうですか?」


 「ええ、街は冒険者ギルドだけで回っているわけじゃないですから。ノエルさんの種族がばれて冒険者ギルドが街にモンスターを引きこんだ、と責任を問われることになるとフィルさんもレイラさんも困るでしょうし」


 ああ、そういう問題もありますね。


 「最悪、ノエルさんが暴れ出したとして、フィルさんやレイラさんが責任もって何とかできそうなら、もうちょっと楽だったんでしょうけどね。模擬戦で、ノエルさんが暴れ出したら止められないし、街に被害もすごく出そうだとわかってしまいましたからね」


 にこやかに言ってますけど、本人を前にしてそれはどうなんでしょうか、シェリンさん。


 まあ、ともかく。


 ちょっと気持ちが軽くなりました。


 手に持っていた残りの焼き菓子を口の中に放り込んで、もぐもぐと一気に飲み込みます。


 「ありがとうございました、シェリンさん。ちょっと気が楽になりました」


 「ならよかったです。私としてはノエルさんとは仲良くできそうですし、ジュードがもっと鍛えていつか再戦する、てうるさいので、できればノエルさんには冒険者になってほしいな、と思います」


 あー、ジュードさんって、確かにそういうこと言いそうですよね。模擬戦の時も「もう1回!」て言ってましたし。


 「あ、でも」


 「でも?」


 「〈竜闘術〉が使用禁止になったら、模擬戦はできませんね。その時はノエルさんは何のスキルを使うんでしょう。やっぱり背中に背負ってる〈槍術〉です?」


 ん?


 あれ?


 シェリンさんが不思議そうに私を見ています。


 そう、今、私はシェリンさんに言われて根本的な問題に気づきました。


 〈竜闘術〉を禁止されたら、私、どうやって冒険者として活動するんです……?



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 シェリンさんと別れて慌てて冒険者ギルドにやってきました。

 日もだいぶ傾いてきていますし、冒険者ギルドはあまり人もおらず受付の人たちも暇そうにしています。


 レイラさんはいるでしょうか……あ、いましたいました。


 「レイラさん!」


 「あら、ノエルさん、どうしました?」


 レイラさんがにこやかに出迎えてくれます……が、シェリンさんの話を聞いた後だとちょっと身構えてしまいますね。


 「ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


 「何でしょうか?」


 周囲をうかがって、他の人に聞かれないようにレイラさんの耳元に顔を近づけます。


 「例の〈竜闘術〉の件なんですけど」


 「どうするか、決心がつきましたか」


 お互いにぼそぼそと小声で話をします。


 「いえ、よく考えるとですね……〈竜闘術〉を使用禁止にしてしまうと、私、まともに使えるスキルがないんですけど、冒険者としてやっていけるんでしょうか」


 「フィル……あ、いえ、ギルドマスターの話ですと、貴女、失われた槍術の流派を修めてるのでは……?」


 「あれは正直、かじっただけで、教えてもらった人にも『お前は才能ない』って言われてまして……〈竜闘術〉と組み合わせて使わないとまともに使えないんです」


 「なるほど」


 レイラさんが頷きます。


 「では、適性検査を受けてみますか?」


 「適性検査?」


 何でしょう。試験みたいなものでしょうか?


 「冒険者ギルドには常にスキルを覚えた人が来るわけではありません。時にはまったく戦闘スキルを覚えてなかったり、野外活動の経験のない方が冒険者になりたいと訪れることもあります。そう言った方のために、能力の適性を調べ、向いているスキルを調べて、初級のスキル取得訓練を受けられる有償のサービスが、冒険者ギルドにはあるのです」


 ふむふむ、つまり、その検査を受けると自分の向いているスキルがわかった上で、そのスキルを覚えるための訓練を受けさせてもらえるわけですね。


 便利じゃないですか。


 「有償ですか?」


 「有償ですね」


 「ちなみにおいくらでしょう?」


 「金貨5枚、冒険者になるなら分割払いも受け付けますよ」


 金貨5枚だと銀貨500枚なので……払えなくはないですね。所持金のほとんどが吹き飛びますけど。


 「じゃあ、お願いします」


 銀貨500枚の入った袋を渡しました。


 よし。冒険者になるかどうか決めるためにも、私の能力の適性と向いているスキルとやらを調べてみることにしましょう!

書き溜めが尽きたので、しばらく不定期更新になります。

なるべく2日に1回の更新ペースを維持しようとは思いますが……無理そうならもうちょっとペースダウンするかもですが。


こうして考えるとやっぱり毎日更新している人はすごいですね。

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