↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノエル’ズ ダイアリー ~竜姫さまのVRMMO日記  作者: 柚ノ森みんと
3章:大陸西域・レウルザーガ領アルトラント
92/102

89

新年あけましておめでとうございます。

新年最初からつなぎのお話ですが、本年もよろしくお願いします。

 大陸暦1053年 海の月 28日



 ログインするとちょうどベッドの中で目を覚ました感じになりました。

 窓から太陽の光が差し込んでいます。ちょうど昼過ぎくらいでしょう。


 ログインしておいてなんですが。


 やることがない。


 冒険者ギルドに加入はまだできていません。どうしようか決めかねています。

 現金を持っていないので買い物もできません。


 ……街を見て回るくらいかな?


 まあ、一応、アーシャさんに借りていたマントを返さないといけませんが、それ以外にこれと言って急いでやらないといけないようなこともないんですよね。


 とりあえず宿の部屋は2階にありますので、部屋を出て1階に降りてみることにしましょう。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 私が泊まっている宿屋は「女神の憩い亭」と言います。


「異人」専用の宿屋だそうです。まあ、別に「異人」だからと言って他の宿屋に宿泊できないわけではないのですが、やっぱりログイン・ログアウトをする私たちにとっては専用の宿屋の方が都合がいいようですね。

 1階はいわゆる食堂で夜は酒場になります。今はお客さんは誰もいません。

 現実では今は平日の12時前のはず。流石に普通のプレイヤーはあまりログインはしない時間でしょう。


 え? 私? まあ、時間はたっぷりありますから。


 「あら、早いわね」


 厨房にいたおかみさんが私の姿を見て声をかけてきました。


 「早い?」


 きょろきょろと部屋を見回します。明るいですし、随分日も高いです。早くはないような。


 「昨日の昼に部屋を取ってから『落ちた』んでしょう? なら、戻ってくるの早いわよね」


 なるほど。普通なら深夜にログアウトして、次の日の夜にまたログインするとすれば、ゲーム内時間で言うと、活動し始めるのはもう1日後のはずですからね。


 「食事は宿代込みの分でよければ、朝夕分ね。メニューは決まってるものになるから、他に好きなものが食べたいなら別で注文してちょうだい。朝の分は今からでよければ用意するけど?」


 「サービスいいですね」


 「落ちてる時も宿代はいただくから多少はね?」


 ログアウトしてまったくゲーム内にいない場合でも宿泊代は取られるんですね。というか、そもそも前払いでしたね。


 「じゃあ、お願いします」


 「りょーかい。じゃあ席について待っててね」


 テーブル席について待つことしばらく。パンとスープ、サラダが出てきました。よく考えると純粋なゲームとしての【空腹度】と【渇水度】を考えると、別に食事をする必要はなかったですが、せっかくだし食べてみましょう。





 ごちそうさまでした。


 美味しかったです。昨日食べたアーシャさんのパンとスープもですが、人が作った料理と言うのはモンスターやアイテムを食べるのとは同じ「美味しい」でも全然違いますね。

 ただ、1人で食べるのはちょっと寂しい気もします。


 「あ、食べ終わった食器は置いておいていいよ」


 まとめて厨房の入口まで運ぼうと思ったのですが、おかみさんが笑って止めました。


 「じゃあ、お願いします」


 運ぶのはやめてテーブルに戻します。


 さて、食事も終わったし手持無沙汰になりました。


 街に出かけてみましょうか。


 扉の方に向かいかけて、何か黙って出て行くのは悪いような気がして、足を止めました。


 「あ、出かけてきます」


 厨房の方に声をかけたら、はーい、と返事が返ってきました。


 「うちは夜は酒場でだいたい明け方まで開いてるから遅くなっても大丈夫だからねー。街の外に出て戻ってこれなくても『異人』だからあまり気にしないからねー。ただ、ちゃんと部屋の鍵はかけていくんだよー」


 あ、部屋の鍵!?


 慌てて戻って、鍵をかけて行きました。まあ、部屋に何か私物があるわけじゃないんですけどね。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 「女神の憩い亭」を出ると比較的大きな通りに出ます。


 通りは十数人くらいでしょうか。歩いている人を見かけます。2人連れで話をしている人、大きな荷物を背負っている人、色々ですね。

 両側の建物にいくつか看板があるのはお店でしょうか。扉から中に入って行く人も見えます。


 お……おお……何と言うか、普通の街っぽいです。


 通行人の街の人はNPCなのでしょうか。実際話しかけたらどこまできちんとした反応があるのか興味はありますね。やりませんけど。

 両側のお店は一応、扉に何の店かは書いてありますが、中が見えないのでなかなか入りにくいですね。現実みたいにちょっと入って見るだけで出て行く、てのはやりにくそうです……やりにくそうじゃないです?


 しばらく通りをあてもなく歩いて進んでいきます。人とすれ違う時にちょっとどきっとしましたが、特に反応はありませんでした。自分の種族がばれないかとひやひやしましたけど、別に普通にしていれば問題はないみたいですね。ちょっと過剰反応でした。



 広場に出ました。


 ぱっと目の前が広がった感じです。


 通り以上にたくさんの人がいます。何か食べ物を売っている屋台や、木箱に入った果物を売っているおばさん、かごいっぱいの野菜や肉を売ってるおじさん、あるいは敷物を敷いて怪しげな品物を広げて並べている男性などなど……いわゆる店を構えてる商人ではない物売りの人たちが集まって商売をしている場所なのでしょう。


 また売っている物を目当てに集まっている人たちもたくさんいて、とても活気のある光景です。


 私としては人の多さにちょっとびっくりする感じですけどね。通りを見て人が普通にいるなあ、と思ったのは早過ぎた。


 さっそくちょっと見て回ろうか……と思った所で悲しい事実を思い出しました。


 お金がない。


 仕方ないので、遠くから眺めるだけにしましょう。迂闊に近づいて、買い物客に間違えられると悲しいですしね。


 「ねえねえ、お姉さんお姉さん」


 あ、あっちの屋台で売ってる菓子パンみたいなのがすごく美味しそう。


 「そこの黒髪の槍をかついだお姉さん!」


「黒髪」で「槍をかついだ」女性を思わず探しましたが、特に見当たりません。


 どうやら私のことを呼んでいたようです。


 呼んでいたのは地面に敷物を敷いて怪しげな装飾品らしきものを並べている女性でした。


 濃い紺色の髪に深い青色の瞳、髪を肩のあたりでばっさりと切って短くしているせいでちょっと見た感じ幼く見えます。女性と呼ぶよりは少女、か女の子、という方がしっくりくるかも。

 あと、何より特徴的なのは、頭の上あたりにいる2頭身にデフォルメされた女キャラ。つば広の帽子をかぶりポーズを決めているのは間違いなく女神ティセルです。


 ということは、この人もプレイヤーですか。


 やっぱり街にはそれなりにプレイヤーがいるみたいですね。


 「私ですか?」


 「そうそう。冒険者でしょ? 冒険に役に立つ装備品がいろいろあるよ! よかったら見ていって」


 ちらっ、と置いてあるものを〈鑑定〉してみます。



 真鍮のネックレス

 分類:アクセサリー

 レア度:2

 品質:D

 重量:1

 装備効果:【MP】+3

 耐久度:100/100

 製作者:シルヴィ

 真鍮で作られたネックレス。魔法力を高める効果を持つ。



 鉄の短剣

 分類:武器

 レア度:3

 品質:D

 重量:3

 装備効果:【斬】+1/【刺】+3

 製作者:ボア

 鉄で作られた短剣。取り扱いやすく、隠し持つのに適している。



 視界に入った2品の結果ですが……どうなんでしょう?


 あんまり品質のいいものではないような気がしますけど、アルトラントは初心者が多い街だしこんなものなのかな?


 「あー……ごめんなさい。実はお金を持ってないのです」


 「そうなの? そんな立派な槍を持ってるからお金持ちかと思ったよ」


 「これはちょっといわくつきの品なので」


 背中のロッドさんをなるべく見えないように隠しながら答えます。


 「じゃあ、何か素材でもあれば買い取るよ?」


 ニコニコと紺色の髪の少女は言いました。

 キャラクターブックを開いて、アイテム欄を確認する。前にアーシャさんたちと小屋に泊まった時と変わりませんね。



【所持品】

 ダンジョンバットの牙×11

 ダンジョンバットの翼×19

 ダンジョンラットの牙×8

 ノクターナルの竜珠

 糸×14

 布×3

 ワームの肉×52

 HP回復ポーション×1

 MP回復ポーション×1

 マナイーターの毛皮×1

 サメの肉×2



 「ワームの肉とかサメの肉とか?」


 「……け、結構珍しいもの持ってるね。珍しいけど食べるには微妙だけど。どっちかというと薬の材料かなあ。ワームは1個銀貨10枚、サメは1個銀貨5枚でどう?」


 言われても適性価格かどうかはわかりません。特に惜しいものでもないし、別にいいかな?


 「ああ、あとこういうのもありますね」


 マナイーターの毛皮を取り出して見せてみます。1枚だけですけど、持っている中では竜珠は別として1番高そうですしね。


 「うーん、見たことない毛皮だなあ。あんまり状態はよくないけど……でも珍しい獣の毛皮ならそれなりに高く売れるし、何か使い道があるかもしれないし、金貨1枚でどう?」


 確か銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚の価値だったはずですが。マナイーターの毛皮、結構高いんですね。


 「マナイーターはダンジョンで遭遇する極めて珍しい生物です。その毛皮は強力な抗魔法力を持っているので珍重されます。遭遇したら相手にせずに逃げるのが基本なので持ちこまれることも滅多にありませんから、おおむね金貨100枚くらいが相場ですよ」


 背後から声がしました。


 思わず振り返ると、大きな袋を抱えた女性が立っていました。


 灰色のローブを着たその姿には見覚えがあります。確か模擬戦をした時に一緒にいた女性です。ジュードさんとレスタさんを治療していた治癒士の人です。


 名前は……聞いていませんでした、そう言えば。


 「そ、そうなんだ。いやあ、知らなかったなあ」


 「『異人』の商人のようですが、商人でしたら物品の金銭的価値を調べる〈価格鑑定〉スキルくらいは持っていて当然では?」


 あ、目をそらした。どうやら有罪のようです。


 「あははは、金貨100枚はさすがにボクの商売じゃ出せるお金じゃないから。ワームの肉とサメの肉ならさっき言った値段で買うよ」


 思わず疑わしい目で見てしまいます。その値段も不当な値段では?


 「ワームの肉1個10銀貨、サメの肉1個5銀貨ならむしろちょっと高いくらいだから大丈夫ですよ」


 私の様子を見て、治癒士の人が言ってくれました。なら、大丈夫そうですね。

 ワームの肉52個、サメの肉2個、合計で530銀貨で売却です。


 「毎度ありー。ね、槍のお姉さん、プレイヤーでしょ? よかったらフレンド登録しない? なかなか面白そうな人っぽいしさー」


 私に銀貨の入った袋を私ながら、紺色の髪の少女はにこっと笑いました。

 詐欺しようとしておいてフレンド登録?何言ってるんだ?と思いましたが、この人、なぜ私がプレイヤーだと気づいたのでしょう。


 「……『異人』ってわかります?」


 「視線が私の頭の上の方を見てたからね。つまり、ぷち女神が見えてるでしょ?」


 むむ、意外とよく見ていますね。


 で、フレンド登録については、申し訳ありませんがお断りさせていただくことにしました。


 別にこの紺色の髪の女性が悪い人だからというわけではなく。あ、貴重品をだまし取ろうとしていたから悪い人でしたね。

 フレンド登録した相手はフレンド欄に「名前」と「種族」が表示されるんですよね。


 そう、「名前」と「種族」です。


 流石に初対面のよく知らない相手に私の種族がばれるのは避けたいのでしょうがありません。


 「そうかー、残念。ちなみにボクの名前はユーディット・オーシャン。お姉さんの名前は?」


 「ええっと、ノエル、です」


 「ノエル、ね。もし、いいものが手に入ったら連絡するから、何かいいものを手に入れたらユーディット・オーシャンまで連絡ちょうだい!高く買い取るからね!」


 金貨100枚出せなかった商人が高く買い取れるのでしょうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。