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ノエル’ズ ダイアリー ~竜姫さまのVRMMO日記  作者: 柚ノ森みんと
3章:大陸西域・レウルザーガ領アルトラント
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冒険者ギルドと言えば定番のお話を……と思ったら何か違う物が出来上がった。おかしい。

 大陸暦1053年 海の月 27日



 「……おはようございます、レイラさん」


 「おはようございます、ローシャさん。迷宮探索試験は終わりましたか?」


 満面の笑顔で出迎えられて、どう話せばいいのか、と思っていたらローシャさんが話を始めました。

 懐からくすんだ灰色の丸い石のようなものを取り出し、カウンターに置きます。何となく私の持っている竜珠と似ていますね。綺麗さは全然竜珠の方が上ですが。

 冒険者ギルドの受付嬢はカウンターに置かれた丸石を持ち上げ、じっくりと見て確認をします。


 「はい、確かにストーンゴーレムコアですね。ではローシャさんのチームは迷宮探索試験については達成とします。記録しますのでギルドカードを出してください」


 「……その件で少し話したいことが」


 懐から金属製っぽいカードをローシャさんが取り出します。あれがギルドカードとやらでしょうか。

 便利なのか不便なのか、ゲームの世界の技術レベルというのはよくわかりませんね。エレベーターありましたし今さらか。


 「なんでしょうか?」


 「……実はストーンゴーレムを倒したのは私たちのチームではない。ストーンゴーレムとの戦闘中にそこのノエルが隠し部屋から出てきて戦闘に巻き込まれてしまい、ストーンゴーレムはノエルが倒してしまった」


 「なるほど」


 眼鏡の受付嬢がこちらを見ます。何となくですが思わず会釈してしまいました。


 「では、カードをお貸しください」


 受付嬢さんはローシャさんからカードを受け取ると、奥の部屋に入って行きました。


 「……あの人はレイラさん。見ての通りエルフ。受付をやっているけど、このギルドの中でも偉い人。だから話が通じやすい」


 「そうなんですね。そんな偉い人がなぜ受付を?」


 「……ここがプレイヤーにとっては低レベル向け、て話はしたよね? つまり、この街は結構平和で、荒事で稼ぐ冒険者の需要はあんまりない。だから冒険者ギルドも大きくないから、少人数で運営されている」


 「なるほど」


 そうしていると、受付のレイラさんが戻ってきました。


 「確認しました。問題になるのは最後のストーンゴーレムとの戦闘の部分ですが、それまでの行動も問題がなく、不慮の事態への対応も十分でしたので、迷宮探索試験は達成となります」


 「……そう、よかった」


 ローシャさんがほっ、と息を吐きます。


 「アーシャさんにも後でカードの更新に来るように伝えておいてくださいね。それで……」


 レイラさんが話をしている途中で、急にローシャさんが後ろを振り向きました。


 そのままじっと、部屋の一点をにらみつけています。


 その視線の先には……3人一組の一団がいました。


 一番目立つのは身長3メートルを越えるような巨人です。最近、巨人族というプレイヤー種族が実装されたそうですから、その種族かもしれません。全身金属鎧で、フルフェイスの兜をかぶっているので顔はわかりません。近くの壁に体格に合った巨大な戦槌が立てかけてあります。


 その隣にいるのが長杖を持ち、ネックレスやイヤリング、指輪をたくさんつけた男性です。たぶん、男性、です。髪を伸ばして化粧しているので女性に見えなくもありませんが。こちらは赤い髪に青い瞳、耳がとがっているのはエルフかな?


 もう1人は覆面で顔の下半分を覆った子供くらいの身長の人です。茶色の目しか見えませんが、たぶん体型的に男性でしょう。


 とりあえず見えた印象のまま書いてみました。が、もっと目立つ特徴があります。


 3人のちょうど右肩の辺りに、それぞれ小さな2頭身の女の子が浮かんでいるのです。よく見ていると、ただ浮かんでいるのではなく時々、ポーズを取ったりしていますね。


 間違いありません。あの3人、「異人」(プレイヤー)です。


 浮かんでいるのはこの前のイベントで入手できた「ぷち女神」。

 私が入手できなかったやつです。


 金属鎧の巨人には戦女神ユナリア。

 装飾をたくさんつけたエルフには大地母神ノヴェラ。

 覆面のハーフリングには炎の女神アーゲア。


 が、それぞれついていますね。

 

 小さな女の子が宙に浮いている、というのはかなり異様な光景なのですが、他の冒険者たちは特に気にしていません。NPCには見えないそうですから、それででしょう。

 

 と、電子音が鳴って、目の前に半透明のウィンドウが現れました。



 【ハマーからパーティ加入の申請が来ています。パーティに加わりますか?】



 メッセージが読み上げられると同時に、はい/いいえのボタンが現れます。


 はい?


 よくわかりませんが、パーティに入る予定はないので「いいえ」を押します。



 【ハマーからパーティ加入の申請が来ています。パーティに加わりますか?】



 すぐに同じメッセージが繰り返されます。

 いいえ、を押します。



 【ハマーからパーティ加入の申請が来ています。パーティに加わりますか?】



 おおい!?


 思わずローシャさんを見ます。さっきからローシャさんが何か手を動かしてるなあ、と思ったけど、これが理由ですか。

 ローシャさんがカウンターを離れて3人組の方に近づいていきます。


 「やあ、ローシャ。今日は1人?」


 エルフ男性が手を挙げて近づいてくるローシャさんに声をかけます。


 「……無言申請は迷惑だからやめて」


 巨人の人が手に持っていたキャラクターブックをしまいました。申請していたのはあっちの巨人さんですか。


 「うちのチームに入ってくれたらいいんだけど?」


 「……その話は断った」


 うんざりしたように、ローシャさんが言います。


 「あら、どうして? 『豪槌』のハマーと言えばアルトラントでも名を知られた、プレイヤーの中でならアルトラントでも一番の冒険者よ? それに私たちのチームはもうDランク、より高い報酬の依頼も受けられるし、ローリンダ大森林にも行けるようになる。メリットしかないわよね?」


 「……姉さんと一緒にプレイするから」


 「だから、アーシャも一緒にチームに入ったらいい、て言ってるのに」


 「……だから、姉さんも断ったでしょう?」


 ローシャさん、かなりいらいらしている感じです。聞こえてくる話の様子だと何か勧誘を受けて断っているけれど、相手が引き下がってくれない、という感じでしょうか。


 と、巨人さんがエルフさんの肩を軽くたたくと、私の方を指さしました。


 エルフさんと目が合いました。


 物凄い勢いでエルフさんがこちらに近づいてきました。思わず逃げたくなりましたが、後ろはカウンター。逃げられません。


 「あらあ、貴女、アルトラントは初めて? プレイヤー?」


 「え、ええ。そうですけど」


 「なら、貴女も『豪槌』ハマーのチームに入りましょう! アルトラント冒険者ギルドの最強プレイヤー、『豪槌』ハマーが率いる冒険者チーム! 初心者でもみなが優しくサポート! 一緒に楽しい『アナザーアース・クロニクル』ファンタジーライフを送りましょう!」


 凄い大げさなポーズをつけて力説しています。後ろでいつの間にか近くに来ていた巨人さんが頷いています。やっぱりいつの間にか近くにいたハーフリングの人は動きがないのでよくわかりません。


 「い、いえ、結構デス」


 「大丈夫大丈夫、貴女はハマーがチームに入ってもいいと認めた人だから、すぐにチームにも慣れるわぁ!」


 「そ、そうではなくてですね」


 助けを求めようとローシャさんの方を見ると……あ、ローシャさん、標的が移ったと思って安心して受付のレイラさんと話を再開してるし!?


 「じゃあパーティ申請するから加入してね♪」



 【ハマーからパーティ加入の申請が来ています。パーティに加わりますか?】



 また電子音がしてメッセージが流れてウィンドウが開きました。



 わかった。これ、人の話を聞かない人たちだ。



 ローシャさんがいらいらしたのがよくわかりました。人の話をきちんと聞いてくれないなら、実力行使、でいいですよね。

 幸いにもこういう時にちょうど良さそうなアーツがあります。


 「申し訳ありませんが」


 ポーズを決めているエルフさんを押しのけて、にっこりと微笑みかけました。


 「お断りさせていただきます、ね?」


 本邦初公開。


 発動。


 〈フィアオーラ〉。


 効果は自分の〈竜闘術〉レベル以下のレベルの相手に「恐怖」の状態異常を与えること。


 特に発動させても何かが現れるわけではありません。


 が。


 びくん、と、3人が反応しました。


 ざっ、と私から飛び退いて距離を取ります。


 「……き、今日は体調がよくないみたいだから、こ、これくらいにしておきましょう。貴女もローシャも、チーム入りのことは、か、考えておいてね」


 しどろもどろになりながら3人は慌ててギルドを出て行きました。

 おお。今まで使い処がなくて初めて使いましたが、〈フィアオーラ〉、結構便利かもしれません。


 「……何した?」


 ローシャさんがいつの間にか私から離れて、こちらを怪しそうに見ています。


 「……今のは何ですか?」


 レイラさんがカウンターから離れて奥からこちらをにらんでいます。


 〈フィアオーラ〉、目の前の3人に向けて放ったつもりでしたが、もしかして対象は自分の周囲無制限? だとするとちょっと使いづらいかもしれませんね。


 「え、あ、ちょっとアーツで追い払おうかなー、と」


 「……『恐怖』の状態異常って普通では起こせないんだけど」


 「ええ、とですね」


 私から距離を取っていたレイラさんが戻ってきました。


 「冒険者ギルド内で戦闘系アーツの使用は原則禁止です。次からは気をつけてくださいね」


 「あ、はい。すみません……」


 怒られました。よく考えると、そりゃそうですね。次は気をつけましょう。


 「今回は、構いませんが。正直、ハマーさんたちにも困っているのですよね。無茶なチームへの勧誘がなければ、実力は確かにこのギルドではトップクラスなんですけれど。では、邪魔が入りましたが、あらためて。ノエルさん、でしたね?」


 「はい」


 「ダンジョンの隠し部屋の件、詳しい話を奥で聞かせてもらえますでしょうか?」


 「あ、はい。わかりました」


 レイラさんがギルドの奥に続く扉の方へ案内してくれます。


 「ああ、それと」


 「?」


 「上位竜族が持つ畏怖のオーラを出すアーツとやらについても、できれば詳しい話を聞かせていただきたいですね」


 え、〈フィアオーラ〉ってそんなすごいものだったの?

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