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誤字報告が便利なせいで過去の誤字が掘り起こされて涙目の私。
あ、古い話の分も報告してくれた方はありがとうございます。指摘されてませんでしたけど、結構あるもんですね(開き直り)。
と、言うわけで、特に山も谷もない回です。
大陸暦1053年 海の月 27日
休憩を終えてログインしました。日の出はまだです。布団で寝るのが寝心地がよかったかは、ログアウト中に体を任せていたAIだけが知っている。
起きると既にアーシャさんもローシャさんも起きていました。
囲炉裏に火が起こしてあり、アーシャさんは胡坐姿ですり鉢を押さえすりこ木を動かしています。ローシャさんは何か本を読んでいるようです。
「あ、おはよ」
「おはようございます。何をしているんですか?」
アーシャさんが声をかけてきたので、作業をしている様子をのぞきこみます。
「消耗品の補充。今はポーションを作ってる」
「……おはよう。私は魔法書を読んで技能レベル上げ」
アーシャさんがやっているのは〈錬金術〉スキルの作業だそうです。〈錬金術〉は簡単に言うと「魔法を使う化学」なスキル。ポーションやアーシャさんが使っていた魔法銃の弾丸など、様々な魔法の品を作ることができる生産系のスキルになります。
「ちなみにカレー粉も〈錬金術〉で調合した成果!」
すごいですね、〈錬金術〉。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
日が昇ったら、後片付けをして出発です。アルトラントの街まではだいたい歩いて1時間くらいかかるとのこと。
「……移動は最初はいいんだけど、慣れると面倒。VRの欠点」
「景色見ながら、おしゃべりしてたらいいんだよ?」
「……一応、警戒はしてね、姉さん。何もないとは思うけど」
森の中の道をのんびりと歩いて行きます。あ、警戒はすると言ってたので私も〈気配察知〉はオンにしておきます。
特段何かが起こるわけでもなく、森を抜けると草原が、さらに進むと畑とぽつぽつと家が固まって建っているのが見えます。結構長い間、ずっとダンジョンの中にいたので、こういう自然の光景はなんだか新鮮ですね。
「何かあった?」
ローシャさんと盛り上がっていたアーシャさんが不意に私に声をかけてきました。変に周囲をきょろきょろと見てたから不審がられたのでしょうか。
「いえ、景色を見ていただけです。いい景色だな、と」
「そう思う?」
ぱあぁぁっ……という感じですごい嬉しそうな顔をしてアーシャさんが食いついてきました。
「ノエルも、景色を見たりするの好きだったりする?」
「え、ええ。好きですよ」
アーシャさん、すごい勢いです。
「ほんと? 私も好きなんだよね! というか、もう、まだ見ぬ景色を見るために『アナザーアース・クロニクル』を始めた感じだしね!」
おや。何かどこかで聞いたような動機ですね。
「私も、この世界の色んなことを見て回りたい、て思ってるんですよ」
「そうなんだ! いいよねー。私も色んなとこを見て回りたいなあ」
「……ノエルさんは姉さんを調子にのらせては駄目。この人は現実でもすぐふらっと旅に出ては1週間も2週間も不在になるんだから」
ローシャさんがジト目で私たちを見ながら言いました。
現実での旅ですか……ネットワークも発達し、景色を見るだけなら自宅にいながら世界中の絶景を見ることができますが、実際にそこに赴くことに意味もあるのでしょうね。
私は「アナザーアース・クロニクル」ではともかく、現実で旅に出たいとは思いませんけれど。
と、舗装された石畳の道に出て、荷物を持った旅人を見かけることも増えました。
さらにしばらく進むと、目の前に、城壁に囲まれた街が見えてきます。
あれがアルトラントの街のようです。
「アルトラントの街は大陸西域の東に位置してて、東にはアルス帝国との国境を守るレウルフォート要塞があるよ。北に行くと山岳地帯になって、西域最大の鉱山であるトッドデル鉱山に行ける。南はローリンダ大森林があってそこを越えると港湾都市ベルムントに行けるね。西に行くとこの辺りを治めているレウルザーガ家の本拠地のレルスブルクの街がある。と、こんな感じでアルトラントは周辺に重要で大きな街や箇所が多くて、交通の要所として栄えているんだよ。あ、南北にはサフィラ川という大きな川が流れていて、サフィラ川を渡る川船の港町としての側面もあるね」
アーシャさんがすごい早口で解説してくれました。
「……姉さんは相変わらずそういう情報には強い。ゲーム的な解説を言うと、アルトラントは周辺にそれほど危険な地域がなく、ゲーム初期に冒険者を始めるにはいい街。大陸西域のプレイヤーが初期に目指す街の1つ。ただ、逆に言うと周囲にはそこまで高いレベルのモンスターが出現する場所がないので、レベルが上がると別の街に移動することが多い」
ローシャさんが補足してくれます。なるほど、いわゆるゲーム最初の街、という感じなのでしょう。
そうしていると、道の両側に粗末な造りの建物が並ぶようになります。城壁の外側なのですが、壁沿いにバラックがごみごみと建っているのが遠くに見えます。
「両側の建物が、街に入れなかった旅人向けの簡易宿だね。結構ぼったくりで部屋もあんまりよくないからできれば使いたくないかな」
「城壁の外側に住んでいる人もいるんですね」
「街の中に住めるほど収入がない……いわゆる貧民街見たいな場所だから、用がない限りは近づかない方がいいよ」
おそらく中世ヨーロッパをモデルにしてるとは思いますが、その方面の知識はないのでリアリティがあるのかどうかはわかりませんけれど。ゲームとしては細かく作ってあるのだなあ、と思いました。
アーシャさんとローシャさんが立ち止まりました。
どうやら街に入る門についたようです。
馬車や行商人のような荷物を抱えた人が列を作っています。
「街に入る時は門番さんにチェックされるよ。冒険者ギルドのギルドカードがあれば免除されるけど、なかったら入市税を取られるよ」
「……1回見せたら、システム的に2回目以降はスルーされるけどね」
ギルドカード……? 入市税……?
「ノエルは冒険者ギルドには入ってない?」
「ええ、入ってないです」
「じゃあ入市税徴収されるね。5銅貨」
「……すみません、お金も持ってないのですが……どうしましょう……?」
そんなシステムがあったんですか。事前にもうちょっとよく調べておけばよかった。
「……隠しダンジョンにいたのに、冒険者ギルドに所属もしてなくて、お金も持ってないの……?」
ローシャさんが訝し気に私を見ています。
「まあまあ。じゃあ私が立て替えて払っておくから」
「……すみません、ご迷惑をおかけします……」
何とか無事、門を通ることができました。門番さんには結構じろじろと見られていたけど、何かおかしかったでしょうか。
「……足元」
ローシャさんに言われて気づきました。そういえば裸足でしたね、私。そりゃ、おかしかったですね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「じゃあ、私は宿屋に戻って落ちるから~。お休み~」
「……姉さんお休み」
「お休みなさいです」
アルトラントの街に入ってすぐ、アーシャさんとは別れました。
「……じゃあ、私たちは冒険者ギルドに行こう」
「はい」
ローシャさんが先導して歩き始めるので後をついていきます。
現実の感覚だとまだ朝早い時間だと思うのですが、街中は結構たくさんの人が道を行き来しています。街の住民ぽいし、NPCでしょうか?
進行方向の右手になりますが、賑やかそうな人の声が聞こえます。あ、何かいい匂いが。
「……ノエルさん」
ローシャさんが私の腕をつかんでいました。
「……どうも、貴女は姉さんに似ている気がする」
「アーシャさんにですか?」
「……気をつけてないと、どこに行くかわからないという意味で」
いや、そんなことはないと思いますけれど。確かにアナザーアース・クロニクルの本格的に人のいる普通の街に来たのは初めてなのでちょっと色々と気になるのは間違いないですけど。
目的地を忘れたり、勝手に行動したりして迷子になることはない、ですよ。うん。たぶん。
「……冒険者ギルドは、こっち」
ローシャさんが指さします。
「はい」
大人しくついていきましょう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……ついた」
門を入って街の中央の広場に向かう大通りから少し中に入った場所に、冒険者ギルドの建物はありました。2階建ての石造りのそれなりに大きな建物で、入口に掲げられた、大きな盾と交差する剣の看板が目印です。
ローシャさんが扉を開けて中に入ります。ちょっと緊張しながら後ろをついていきます。
中は大きな部屋になっています。入って正面がカウンターになっており、おそろいの制服を着た女性が2名、武器を持って鎧を着た冒険者風の人たちの一団とそれぞれ話をしています。
その後ろには他の冒険者が列を作って待っている所から、あそこが受付なのでしょう。
後はたくさんの紙が張り出された大きな掲示板といくつかのテーブルと椅子、奥に向かう扉と2階へ上がる階段があります。
部屋の中には受付に並んでいる冒険者の他に、掲示板の前で話をしている一団や、テーブルを囲んでいる一団なんかがいますね。
「これが冒険者ギルド、ですか」
「……あんまり目立つようなことはしないでね」
「妙に立派な槍を持った裸足の女が来たら、どう頑張っても目立つような気が」
「……否定はしない」
現に何か色々と視線を感じますしね。
ローシャさんが列の最後尾に並んだので私も一緒に並ぶことにしましょう。
「……この時間だと、見た感じ、プレイヤーの冒険者はいないっぽいかな」
「そうなんですね」
部屋には全部で10人くらいの冒険者がいますが、みんなNPCのようです。というか、さっきから興味深そうだったり、怪しんでそうだったり、と、人それぞれ違う様子で私を見ている冒険者たちが、みんなAIで動いているNPCなんですか。
「……さすがに街の人間全員が、話しかけたらきちんとした反応を返してくるわけじゃないけど、冒険者はNPCでも本物の人間みたいに受け答えしてくるね。一緒にパーティを組んで仕事をすることもできるし」
「すごいですね」
「……名ありのNPCはどのゲームよりも多いと思う」
と、そんなことを話していると、順番が来たようです。
受付の女性は、金髪に緑の目の、非常にスタイルのいい美人でした。耳がとがっているので普通の人間ではなく異種族なのでしょう。眼鏡をかけているので理知的にも見えます。ある意味、いかにも受付嬢、という感じでしょうか。
「おはようございます。ようこそ、冒険者ギルド・アルトラント支部へ」




