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割とどうでもいいような話を書いていたらだらだらと長くなる。
あると思います。
大陸暦1053年 海の月 27日
ローシャさんはそろそろログアウトする、ということなので奥に連れて行かれる私を見送ってギルドから出て行きました。
今、私は受付をしていたレイラさん(ローシャさんが言うにはこの冒険者ギルドの中でもNO.2の偉い人だそうです)に案内されて、奥の立派な客室に来ています。
1人でこういう所に来ると不安しかないのですが、大丈夫でしょうか。ローシャさんに一緒に残ってもらえばよかったなあ。
「あ、外套はこちらで預かりますよ?」
ソファーに座った私に、レイラさんが笑顔で手を差し伸べました。
外套……あ、アーシャさんに借りていたマントですね。そう言えば着たままでした。
「あー、実はその」
ちらっと少しだけ外套をめくって中を見せます。
「あら……確か、『異人』専用の『何も身に着けない』時の服ですね。そう言えば靴も履いてないようですし、何か都合の悪いことがあったでしょうか?」
「実は、ダンジョンにずっとこもっていたので防具が破損してしまって……」
「ああ、なるほど。ならそのままの方がいいですね」
平静を装ってますけど、レイラさん、今ちょっと笑いそうになりましたね?
ただ、マントは着たままですが、背負っていた槍については渡しておくことにします。ロッドさん、ダンジョンを出てから静かなのでちょっと心配なのですが、武器を持ったままというわけにもいきませんし。
そうしていると、部屋の扉が開いて男性が1人入って来ました。
見た目は若く、20代くらいに見えます。耳がとがっているのでおそらくはエルフなのでしょう。金色の髪を伸ばして後ろで束ねています。緑色の瞳はやや垂れ目で全体的に温和な印象を与えます。仕立てのいい服を着ているのですが、よれよれでしわだらけでだらしない感じですね。
妙に説明が詳しくなってしまいましたが、なぜかと言うと、似てるんですよね、あの人に。あの人も、見た目悪くないのに、見た目にこだわらない性格で、いつもこんな感じでした。だから、何となく親近感がわきました。
その男性は私の正面に座りました。
「お待たせしました。初めまして。私は冒険者ギルドのアトルラント支部のギルドマスターをしているフィルハウト・エバーセイクと言います。よろしくお願いします」
「ええ、と。『異人』のノエル、です。よろしくお願いします」
「では、早速ですが、迷宮都市エルスナードに至る隠しダンジョンについて、教えてもらえますか」
「はい」
では、私の知ってるダンジョンのことについて、話をすることにしましょう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
かなり長い話になりましたが、ギルドマスターのフィルハウトさんは私の話に相槌を打ちながら、最後まで真剣に聞いてくれました。
話の途中でレイラさんが用意してくれたジュースを飲みました。薄いオレンジジュースみたいな感じですね。
「なるほど。大まかなことはわかりました。いくつか質問をしてもいいですか?」
「はい。構いません」
「まず、隠し部屋からダンジョンに入ると戻れない、とおっしゃられましたが間違いないですか?」
「私自身が体験したわけではないのですが、他の『異人』がそうだったらしいです」
これはヴォルフさんからの受け売りなんですけどね。私自身は壁にできた裂け目から入りましたから。今から思うと、最初の階層で見た反応がなかった水晶の埋め込まれた柱、というのが隠し部屋から転送されて来る場所なんでしょうね。
「ふむ……では、次ですが。この隠しダンジョンの情報は『異人』にはどの程度広まっているのでしょう? 『異人』は女神からの加護により、独自に『異人』同士で意思疎通ができると聞きます」
「ええ、っと、そうですね。まだ私と私より先にたどり着いていた1人だけです。ただ近いうちに『低レベルのダンジョンに見つからないように隠し部屋があって、そこから中に入れる』と情報は公開するつもりでした」
ダンジョンを出てから頃合いを見て書き込むつもりだったのですが、出てすぐにアーシャさんとローシャさんに出会ってここまで来たのでそんな暇がなかったんですよね。
まあ、最初の予定だと、旅してまわろうと思っていたので、街をすぐに出てから、というつもりだったのですが。
「では、最後に。エルスナードで何か貴重な品を見つけたりとかはありましたか?」
「んー、いえ。転送装置とか味のしない保存食を出してくれる装置とかはありましたけどとても動かせそうになかったですし、それ以外は本当に何もなかったです。強いて言えば、街にたどり着くと、エルスナードの住民として街に戻れるようになる腕輪くらいです」
本当は凄い槍を入手しましたけど、あれは黙っていましょう。今はレイラさんが別室に持って行ってしまいましたし。
「ありがとうございました。話を聞くに、とりあえずはあのダンジョンはいったん立ち入り禁止にしておいた方がよさそうですね。万一、迷い込んで戻ってこれないとなると危険なようですし」
「そうですね」
その辺のことは私にはあまりわからないので適当に相槌をうっておきましょう。
「もしかすると、いずれ高レベルの『異人』冒険者がこの街に大挙してやって来る可能性もありそうですね。その時になって慌てないよう準備も必要になりそうです」
「それはどうでしょうね」
うーん、わりとダンジョンに興味ある人少なそうだったし、いざ入って見たらひどいことになってあんまり人は来ないような……。
あ、でもエルスナードまでたどり着けたら「奈落へ至る道」に行けるようになるから目指す人も多いかな。あそこはレベル上げには便利でしょうし。単調で退屈なんですけどね。
「さて。それで、ノエルさんはこれからどうする予定でしょう?」
フィルハウトさんが顔の前で手を組んで、肘をテーブルについて私の方をじっと見つめてきます。
「お金稼ぎでしょうか」
「ほう?」
「将来的には色んな所を旅して、色々な物を見て回りたいんですけど、まずお金ですよね……正直、街に入るのにお金を取られるとは思いませんでしたし、服もまだこれですから」
外套の下の装備無し状態をちらっと見せます。
「じゃあ何でお金稼ぎをするか、となりますと、やはり冒険者になるのが一番かな、とは思っています」
「では、この街で冒険者になる、と?」
一瞬、フィルハウトさんのこちらを見る目つきが険しくなったような気がしました。
「はい、そのつもりです」
「そうですか、では『冒険者』についての説明をしましょう」
気のせいだったみたいで、にこにことフィルハウトさんは話を続けます。
「ノエルさん、『冒険者』とはいったい何だと思いますか?」
唐突に質問されました。
謎かけみたいですね……うーん、何でしょう? 冒険者ギルドにある依頼を受けて、それを解決し、その報酬を得るわけですからね。
「何でも屋とか?」
「悪くない答えですね。正解は『冒険者』です」
ん? 冒険者とは何か、の答えが冒険者? ジョークか何かでしょうか?
「禅問答でしょうか」
「そう思われるのもしょうがありませんね。ただ、この問いは、突き詰めるととても難しい質問であり、『冒険者』について説明するにあたってとても重要なポイントになるのです」
とりあえず大人しくフィルハウトさんの話の続きを聞くことにしましょうか。というか、これ、冒険者ギルドに入るプレイヤー全員にやってるんでしょうか?
あの話の入り方だと、ちゃんと話を聞かない人がほとんどな気がしますけど。
「確かに、冒険者は何でも屋であると言えます。冒険者ギルドには様々な依頼が来て、それをお金をもらって仕事として解決するわけですからね。しかし、場所によって、依頼の内容には違いがでます」
「どういう意味でしょうか?」
「例えばここから南にローリンダ大森林内を開拓して作られたロールスロットの街では、冒険者ギルドに来る依頼の多くが大森林から街の近辺に現れる危険なモンスターの討伐か、危険な人の寄りつかない森の奥で入手できる貴重な素材の収集が主になります。だから、ロールスロットでは冒険者とは、危険なモンスターを狩り、貴重な素材を街にもたらすハンターとして一定の評価を得ています」
そう言えば、アルトラントからはプレイヤーはレベルが上がると別の街に移動する、とローシャさんが言っていましたね。南方面もその移動先なのでしょう。危険な森と危険なモンスター、貴重な素材集め。うん、ゲームっぽいですね。
「北のトッドデルに行くと、鉱山内に出没するモンスターを排除して坑道の安全を確保するような仕事が増えますね。鉱山内で働く鉱夫の護衛として雇われることも多くなり、冒険者は頼れる存在と見られることも多いですね。一方で山脈内にある遺跡やダンジョンで一攫千金を目指すような冒険者もいますから、山師として怪しく見られる場合もあります」
北も冒険者の仕事は結構豊富そうですし、遺跡やダンジョンもあるなら、遊ぶ内容には事欠かないのでしょう。私はダンジョンはしばらくは近づきたくないですけど。
「西のレウスブルクになると、ここは逆に五公家の1つレウルザーガ家の本拠地で西域東部の中心的な街になり、人も増え、街の治安を守る兵士も多くなります。なので、武器を持ち、何をするかわからない、身分もはっきりしない冒険者は怪しまれ、疎まれる実態もあります。ここでの冒険者は本当に『お金をもらって何でもやる卑しい何でも屋』という扱いですね」
うーん、都会っぽいですが、そういう扱いはなんだか嫌だなあ。
「冒険者でも、色々と違うんですね」
「ええ、そうです。場所場所での特色や都合、実態。それによって、『冒険者』という言葉の意味、とられ方は変わります。先ほど『冒険者とは何か、という質問を突き詰めるととても難しい』と言ったのはそういう意味なのです。『異人』の方々には、なかなかこのことを理解してもらえない」
あー、なるほど。
確かにプレイヤーにとって「Aの街では冒険者と言われて頼りにされていたのに、Bの街に行ったら冒険者と言われると避けられて白い目で見られるようになった」と言う状況は混乱するでしょうし、対応できないでさらに問題を起こす、というのもありそうな話です。
「と、これが『冒険者』になるにあたり、まず『異人』の方に説明をしていることですね。具体的な冒険者としてのギルドのルール・規則については、後でレイラに説明をさせます」
あれ?
「……この街、アルトラントでの冒険者のイメージと役割については説明はないんですね」
「アルトラントはローリンダ大森林からもトッドデル山脈からも離れています。言うほど周囲に冒険者の戦闘力を望まれる依頼はありません。たまにローリンダ大森林に向かう依頼とかはありますけれどね。なので、レウスブルクでの扱いに近いでしょう。『お金を払えば体よく使える何でも屋』というのがアルトラントの冒険者稼業でしょうね。『異人』の冒険者が長続きせず他の街に行ってしまうのも仕方ないことです」
苦笑いしながらフィルハウトさんが答えてくれました。
やっぱり自分がギルドマスターをしている街での冒険者の悪評を言うのはためらいがあったのでしょうか。
「レイラ」
フィルハウトさんが後ろで何か書き物をしていたレイラさんに声をかけます。
「はい」
「確か、ジュードたちが帰って来てましたね?」
レイラさんが顔をしかめました。
「ええ。一昨日、ギルドに顔を出しました」
「まだ、アルトラントにいますよね?」
「おそらくは」
フィルハウトさんがにっこりと笑いました。
「ちょっと呼び出してください。おそらく以前の宿にいるでしょうから」
「あいつらをですか?」
「はい。ちょっとした仕事の依頼です」
レイラさんが頷いて部屋を出て行きました。
「さて、ノエルさん」
「はい」
フィルハウトさんがこちらへ向き直ります。
「ノエルさんが冒険者として活動したいなら、冒険者ギルドに登録をしてもらうわけですが……その前に、試験を受けてもらいます」
えっ、試験? 冒険者ギルドに入るのに試験が必要なんですか。
「とは言っても不合格があるわけではありません。純粋にノエルさんの能力を計るための試験です」
「わかりました。どんな試験でしょう? ダンジョン探索とか?」
アーシャさんとローシャさんは確かダンジョン探索の試験を受けていましたね。
「いえ、こちらの指定した相手と模擬戦をしてもらいます」




