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というわけで本編再開です。
2章のクライマックスは終わりましたがもうちょっとだけ続くんじゃ。
大陸暦1053年 海の月 4日
=エルスナード門前=
「ところで姫さんは何してんだ?」
真っ二つになって床に転がってるロッドさんが不思議そうに尋ねてきました。
何してるか?
床に寝転がってるわけですが。
「心臓に穴が開いてるんですよ。普通だったら死にます。死に戻ってやり直しになったら嫌だからこうやって休憩状態で【HP】回復させてるんです」
働け〈メイマリアの加護〉! 〈HP自動回復※〉!!
というか〈リジェネレーション〉と〈ドラゴンブラッド〉だけだと傷が重くてマジ死にそうなんです。
「……いや、死に戻ってもちゃんと勝ったって認めてやるからよ……」
「約束ですよ!?嘘つかないでくださいよ!?もう1回ロッドさんと戦っても絶対勝てないですからね!?絶対ですよ!?」
はっ。興奮して休憩状態が解除されたら危ない。落ち着きましょう。
「……わかったわかった」
あきれたようにロッドさんが答えました。
まあ、本当に手の内全部見せて、たまたま勝っただけですから、次に戦えば全部対応されてあっさり負けるでしょうけれど。
右胸に手を当てます。
まさか、グリムレットさんに今になって助けてもらえるとは思いませんでした。
きっと、グリムレットさんにとって、まだ私は。頼りない子供に思われているのでしょうね。
でも、ありがとうございます。
グリムレットさんのおかげで、私は、最後まで戦えました。
ふと、思い立って、キャラクターブックを出すと、自分の装備品のページを開きます。
グリムレットの王竜珠
分類:素材/アクセサリー
レア度:10
品質:S
重量:1
装備効果:全能力値+1。
装備者が【死亡】した際に、【耐久度】を0にすることで発動。
【HP】を1にし、【死亡】を打ち消す。
【耐久度】の損耗がない場合にのみ、この能力は発動する。
使用回数:1
耐久度:8/5000
黒の王魔竜グリムレットの竜珠。
種族が竜種の場合のみアクセサリー欄に装備が可能。
……こんな能力ありましたっけ……?
自動的に装備されてから具体的な効果を見てなかったのですが。というか、人竜に進化したことでグリムレットさんの竜珠を装備した効果は発動したものだと思い込んでいました。
ステータスを見直すと、(+1)という今までなかった表記がついているので、ロッドさんとの戦いの中で装備効果が変わったのでしょうけれど、謎ですね。
あと、地味に使用回数がカウントされてるのが怖いです。
大陸暦1053年 海の月 5日
=エルスナード門前=
結局、回復に1日かかりました。
床に置いてあったアイテムを忘れずに回収しつつ、真っ二つになった槍=ロッドさんを拾い上げます。
「……ていうか、ロッドさん、こんなになっても死なないんですね」
「おう、まあな。一応、武器扱いでもあるから、破損状態ってやつだ。問題は武器扱いでもあるから普通なら修理しないと治らん」
む。なんだか勢い余ってやり過ぎたかもしれません。
「で、だ。姫さん。俺と『契約』しないか?……って、待て待て。放り捨てるんじゃねえ!?」
契約、と聞いて思わず床に放り投げてしまいました。
「インテリジェンス・ウェポンが契約とかどう考えても悪いことにしか思えないんですが」
「んなことはねえよ!?俺を何だと思ってるんだ!?」
そうかなあ。人の魂を吸い取って、槍なしには生きられなくなるとかありそうなんですけど。
とりあえずは拾い上げます。
「『契約』をすれば俺の所有者が姫さんで固定される。で、俺は姫さんからちょっと命を、まあ『異人』風に言うなら【HP】か? それをもらう代わりに自動で修理をし、耐久度の回復ができるようになる。代わりに俺の能力は所有者の姫さん自身のレベルの影響を受けるがな」
「それくらいなら、まあ」
「後はこうやっていつでも話くらいならできるぜ」
「それは遠慮したいですね」
「おい、なんでだよ」
「プライベートって大事ですよ?」
所持品に残っていた布を引き裂いて作った即席の包帯で、槍の折れた柄をくっつけてきつく縛ります。
「まあ、折れたまま、というのも悪い気がしますので、いいですよ。『契約』しましょう。でも、門番が私についてきていいんですか?」
「次のランス・オブ・ダイヤモンドが引き継ぐさ。同じ名前の、でも俺ではない槍がな」
ゲームだから、自動的にボスは補充される、と言ってしまえばそれまでなんでしょうが。かつての達人たちの魂を武器に封じ、使い潰していると考えるとなんだか切ない気はしますね。
「で、『契約』するには何をすればいいんですか?」
「じゃあ、槍を持って……ああ、穂先の刃は石を姫さんの方に向けてくれ。一応、俺の目というか本体みたいなもんだからな。じゃあ、俺が今から言う言葉を後から続けて言ってくれ」
言われたとおりに槍の穂先に埋め込まれた石を自分の方に向けるような形で持ちます。
「『我、魔槍ランス・オブ・ダイヤモンドと契約を交わす』」
「我、魔槍ランス・オブ・ダイヤモンドと契約を交わす」
「『今日より、良い時も悪い時も』」
「今日より、良い時も悪い時も」
「『富める時も貧しい時も』」
「富める時も貧しい時も」
「『病める時も健やかなる時も』」
「病める時も健やかなる時も」
……ん?
「『共に戦い、そして、死が二人を分かつまで』」
「……共に戦い、そして、死が二人を分かつまで」
「『我が振るう武器はただこの槍1振りであることを誓う』」
「我が振るう武器はただこの槍1振りであることを誓う……って、これ、結婚式の誓いの言葉じゃないですかっ!?」
「知るか!? 設定した奴に言えよ!?」
契約の時の呪文?には文句を言いたくなりますが、とにかく、魔力が槍に吸われるのを感じました。槍の柄に穂先に私の魔力が伝わっていくように赤い線が走っていきます。
「よし。これで『契約』は完了だ」
ほっ、とした途端、槍を持つ腕に物凄い重みを感じて思わず槍を取り落としました。
「……めちゃめちゃ重いんですけど」
「今までは自分の意志で自力で動いてたんだが、姫さんと『契約』したから自由に動けなくなって本来の槍の重みが姫さんの腕にかかったんだな。そんなに重いか?」
後で私のステータスの[体力]をロッドさんと一緒に確認したら「何で竜なのにそんな体力ねえんだよ!?」て本気であきれられました。
うっさい。
=迷宮都市エルスナード=
腕がぷるぷるするのを我慢してロッドさんを掲げると、巨大な門がゆっくりと開きました。
「ここが終わりなき迷宮の果てにある街、さらなる迷宮の始まりの街、迷宮都市エルスナードだ」
門から石畳の大通りが真っすぐ伸びており、両隣には石造りに立派な建物が並んでいます。いわゆる西洋ファンタジー風の都会の街並み、という感じです。あくまで一般的な印象になりますが。
「空が」
上を見上げると、地下のはずなのに満天の星空が見えます。
「魔法で造った偽物の空さ。ダンジョンの上の階にも同じような仕掛けがあっただろ? エルスナードじゃ、時間経過で天井に昼と夜の空が映し出されるのさ」
そう言えば、B8階はダンジョンの中なのにまるで屋外のような光景でしたね。
そして、そんな立派な街並みにも関わらず、人の気配はまったくしません。
「予想はしていたが、やっぱり人っ子一人いないな。もう既に放棄され、滅んだ街になっちまってたんだなあ」
感慨深げにロッドさんが呟きます。
そうですね。滅んだ街を、訪れる人もいないのに守っていた、と思うとつらいでしょう。
「挑んでくるのも最近じゃあ姫さんが2人目だったしな。すっかり人も来なくなって久しかったからなあ」
ん? 今、何て言いました?
「……2人目? 私の他に誰か来たんですか?」
「ああ、姫さんと同じ『異人』がな。いつだったかなあ。そんな前じゃなかったはずだが」
え?
私以外のプレイヤーがここに来てる?
掲示板じゃ、私のいるダンジョンのことはみな知らないようで、情報もまったく出回っていませんでした。おかげで、私がどこにいるかさっぱりわからなかったのですが。
「その人、どうしたんです?」
「さあ。中に入った後はどうしたか知らん。門を通らなくても出入りはできるしな」
ふーん、と思いましたが、ロッドさん言った内容を考え直して、ぎょっ、としました。
「……いやいやいや、ちょっと待ってください、ロッドさん。その人、1対1でロッドさんに勝ったんですか?」
「ん? そりゃ本気で殺し合いすりゃ、どうなったかわからんが。あくまで力量を計るのが俺の役目だからな。十分に強かったから、そのまま認めて通したぞ」
「……私みたいに苦戦して?」
話す内容がだんだん怖くなってきました。まさか、と思うのですが。
「いいや。ちょっとやり合ってすぐ力量はわかったからすぐ通したぞ。そもそも言っただろ。『本気で殺し合いすりゃ、どうなったかわからん』て」
うん、ですよねえ。
つまり、ロッドさんと1対1でほぼ互角の強さのプレイヤーが、人知れずこの街に来ていた?
ロッドさんは昔話からしてグリムレットさんとわりと互角だったぽいはずです。そのグリムレットさんは西域のトップレベル層のプレイヤー11人と戦って最終的には負けましたけど、それなりにいい勝負はしてたはずです。
グリムレットさんと1対1で互角のプレイヤー……いや、そんな人がいるなんて掲示板を見る限りで話題になったことなどなかったですよ……?
「おい」
ロッドさんの呼び声で我に返りました。
「案内するから行くぞ」
「え、どこにです?」
「エルスナードの中央にある『奈落に至る道』の入口だ。そこにエルスナードに住人登録をする魔法装置や、街の入口へ出られる転送装置がある」
「あ、はい」
ロッドさんに引っ張られるような感じで、大通りを歩き始めました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
しばらく誰もいない通りを歩くとひときわ立派な建物に到着しました。ここがロッドさんいわくダンジョン『奈落に至る道』の入口を管理し、エルスナードの行政全般を管理していた役所なのだとか。
まずは入ってすぐの部屋でロッドさんの指示で何やらよくわからない装置を操作します。
最終的に、腕輪が1つ、私の目の前に置かれました。
「これがエルスナードの住人になった証、だ。こいつを身に着けてアイテムの能力を開放すれば、エルスナードの専用の転送装置の出口にテレポートできる」
「なるほど。つまりいつでもエルスナードに戻ってこれるわけですね?」
「そうなるな。魔法装置がまだ生きててよかったな。これなら表の入口に戻る転送装置も生きてるだろう。こっちだ」
ぐいっ、と槍が勝手に動いて部屋の奥にある扉を指し示します。
「……『契約』したら自由に動けないのでは?」
「これくらいなら誤差だ、誤差」
さよですか。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
扉を出て、通路を歩いて行くとひときわ広い部屋につきました。
部屋の真ん中に6個、石が円状に置いて在りそこから光の線が出て円と六芒星を描いています。
「これが入口に戻る転送装置です?」
「いや、こいつは『奈落に至る道』の入口だ。正確に言うと『奈落に至る道』の第1階層へ転送するポータルだな。入口に戻るための転送装置はさらに奥の部屋だ」
へー、これが噂の。
と、その時。6個の石が強く輝き始め、六芒星が光を放ち始めます。
思わず身構えます。
「誰かが『奈落に至る道』からこっちへ戻ってくるみたいだな」
ロッドさんが説明してくれます。
いや、この誰もいない街で、『奈落に至る道』へ挑んでるとしたら、それって。
私の前に来たプレイヤーしかないですよね?




