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幕間 ノエルの疑問とその回答 後編

幕間話後編です。


 大陸暦1052年 土の月 14日



 「では、まず。ノエルさんはどういう結果を望んでいましたか?」


 思わず返事につまりました。すごいストレートな質問ですね、フェルエさん。


 「そうですね。みんなと以前と同じように過ごせて行けたら……という感じでしょうか。その後、そこから出て行くことはあったかもしれないけど、少なくとも、まだそんな気はなかったですから」


 「わかりました。では、その場合、グリムレット討伐がプレイヤーに計画された時点でその結果は叶わないものだったのでは?」


 「え? なぜです?」


「例えその戦いでは勝利したとしても、プレイヤーは挑み続けるでしょう。レベルも上がるでしょう。いずれはグリムレットは討伐される運命にある、と考えるのが当然だと思いますが」


 うっ……確かにそうですね。


 「……その時は、そこまで考えてませんでしたね……」


 「わかりました。では彼我の戦力差はどうだったでしょう?」


 「どう、とは?」


 「いえ、遠征に来るであろうプレイヤーたちとグリムレットとその配下が戦った時にどうなるか、それを戦力比較から予測しないと、結果を推測はできないですよね?」


 ぐさっ。


 いや、まあ、フェルエさんの言う通りなんですけど。


 「そ、その時はプレイヤーの実力がどんなものかは私にはわからなかったから、それはちょっと無理じゃいかな、と」


 「未知の実力の敵と戦う想定だった場合に、ノエルさんの準備は十分だったでしょうか?」


 ぐさっぐさっ。


 イエ、ムシロ何モシテマセンデシタ……。


 「これは結果論からの考察とはなってしまいますが」


 こうフェルエさんの鋭い指摘に、冷や汗がダラダラと垂れてくるような感じに襲われている所にとどめの一撃が。


 「そもそもプレイヤーを排除するつもりがあるなら、ケレス山に侵入したプレイヤーをグリムレットと配下の竜たちで襲撃して根こそぎ排除しておけば、プレイヤーは『近づけなかった』でしょうね」


 フェルエさんの痛恨の一撃! ノエル(の精神)は死んだ!


 「……それ、できました?」


 「わかりません」


 涼やかにフェルエさんが答えます。


 「グリムレットが、あの誇り高き王魔竜がそれを良しとするかはわかりませんからね。ただ、サルカンドラ、ノクターナルたちならやったのではと思いますが」


 そうかあ……そうですね……そもそも、馬鹿正直に山頂で迎え撃つのが悪い、なんて冷静に考えてみたら当たり前です。


 その後も話は続きました。


 一戦目が終わった後の対応。


 相討ちに等しい結果だったのだから、それを受けて、本気でプレイヤーたちに勝ちに行くなら何らかの対策を検討して講じるべきだったのではないか。


 その通りです。


 ヘイズ君と襲撃に行った件。


 そもそもみんなに黙って行かずに「本気で」プレイヤー拠点を潰すつもりなら、もっと強い相手を呼び出して動くべきだったのではないか。


 その通りです……。


 「それから、次はノエルさんがグリムレットに提案した件ですね」


 打ちのめされてぐったりしている私は気にせず、淡々とフェルエさんが話を進めます。


 「グリムレットは理由を挙げてノエルさんの提案を却下しているわけですが、これはゲームの成立に関わる条件よりはグリムレット自身の判断による部分が多いと思われますね」


 「そうなん、です……?」


 「1つ目は、内容不足です。そもそも『異人』(プレイヤー)との休戦ないし停戦はノエルさんの仲介がなければ成立はありえません。ただそうすることだけの提案ではグリムレットと言えど従えないでしょう」


 その場でどうしよう、となって精一杯考えてひねり出した意見でしたからね。中身が薄いと言われるとその通りなのですが……フェルエさん容赦ないですね。


 「2つ目は事前の情報不足と機会の逸失、簡潔に言うと手遅れだったわけですね。この提案自体は『決められた位置に出現する設定のボスを移動させる』というNPCに不可能な行動を可能にする提案ですが、他の王魔竜という情報の不足と、プレイヤーのレベルのバランスを考えた時に『実行するとより状況が悪化する』と判断されたのでしょう」


 ああ、あらかじめもっと色々と話を聞いていれば、もっといい提案ができたかもしれない、と。


 「3つ目はグリムレットの心情によるところが大きいと思われます。皮肉かもしれませんが、ノエルさんはグリムレットたちに好かれすぎていたのでしょう。もっと情が薄い関係であったら、あるいは一緒に死にに行ったかもしれませんね」


 ……そういうのやめてください。余計つらくなります。


 「ただ、襲撃後、スムーズにノエルさんがダンジョンに避難誘導されたところを見るに、グリムレットたちは最初からノエルさんをダンジョンに逃がすことを想定していたのでは? 最初から自分たちの戦いにノエルさんを巻き込まないつもりだったのではないでしょうか」


 あの時は急にクロニクルウォーが始まったわけですけれど、確かに思い返すとそうかもしれません。


 「グリムレットたちは最初からどうするかを決めていた、だからノエルさんの提案についても、拒否に判断が傾いていた可能性は否定できませんね」


 「ですか……」


 こう、精神的に打ちのめされてかなりぐったりきました。


 「わかりました……詳細な分析をありがとうございます。色々と思うことはありました。だから最後に教えてください」


 ぐったりきてますが、力を振り絞って、その問いを、告げました。


 「私は、グリムレットさんや、みんなを死なせずにすませられたのでしょうか」








 「わかりません」


 「……わかりませんか……って、ここまで色々分析して答えはそうなんです!?」


 すごいきっぱりと言われました。

 そこは、できた、て言うところではなかったんでしょうか。


 「私は運命の女神という役割ですが、可能性を考えることはできても、それが実際に実現したかどうかはわからないのです。現実にはただのAIですからね。それに、これはあくまで第三者である私の視点での分析でしかありません」


 「それはそうですけど」


 「グリムレットやその他の竜たちが。今回、分析したようなことをノエルさんが実際にやったとして。どう行動したかは、彼ら自身にしかわからないし、決められないのです」


 フェルエさんが言いたいことがわかりました。


 確かに、今、色々と検討したとして、実際にグリムレットさんたちが私たちが思うように行動するかどうかはわからない。提案通りに動いてくれたかもしれないし、あるいは別のそうしない理由がみんなにあったかもしれない。


 だから、今、考えたことはあくまで仮定で。


 それが実現したかどうかは、もうわからないのだ、と。


 「だから、ノエルさん」


 「はい」


 「それは、ノエルさんが決めることです」


 「……はい」



 「ノエルさんが、自分で最善を尽くしたと思えるか。間違いがなかったか。やれることをやったのか。それはノエルさん自身が一番わかっているはずですから」



 わかってます。


 それは、わかっているんです。


 あの時、ずっと。こんなはずじゃなかった、どうしてこうなったと思いながら行動してましたから。


 それを思う部分もあったけれど、それを否定したかった。


 フェルエさんに突っかかったのも、悪いのは女神(GM)たちであってほしかったから。ゲームの設定が、グリムレットさんたちを追い詰めて、死なせたのだと、そうあってほしかったから。


 私にはどうしようもなかった、しょうがなかったのだ、と思いたかったから。


 けれど、ここまで来たら、受け入れないといけない。




 グリムレットさんたちが死んだのは、私のせいだ。


 私がしっかりしていれば、みんなは死なずにすんだ。




 思わず、握り拳に力がこもりました。


 体温が上がって、体全体が熱くなるような感覚。嫌なものを無理矢理飲みこむ時のような、そんな感じです。


 「ところで、1つだけ気になることがあります」


 うつ向いて黙っている私に、フェルエさんが声をかけました。


 「……まだ、何かあるんでしょうか?」


 「これは、ノエルさん自身に対しての疑問です」


 息を吐いて、首をかしげました。私自身に対して?


 「どうして頑なに他のプレイヤーと交流する手段を取らなかったんでしょう?」


 「いや、ノエルの設定を見たら、同じ例でプレイヤー間で揉めているの掲示板で見ましたから……それに、そもそもモンスター側と人側に分かれて戦うのはよくあることなのでは?」


 「そうですね」


 フェルエさんが首をかしげます。


 「それは、グ(・)リ(・)ム(・)レ(・)ッ(・)ト(・)た(・)ち(・)の(・)命(・)よ(・)り(・)大(・)事(・)だ(・)っ(・)た(・)の(・)で(・)す(・)か(・)?」


 「それは」


 「ノエルさんがそこまで彼らのことを大切に思ってくれていたなら、あなた自身が自分を犠牲にして正体を明かし、他のプレイヤーに接触すれば、プレイヤーとの戦闘を終了させられたのでは?」


 「それは……」


 「いえ、答えにくいことなら答えなくても大丈夫ですよ。ただのちょっとした私の疑問ですので」


 「……はい」


 「私の話はこれで終わりです。他に何かありますか?」


 私は力なく首を横に振りました。


 「邪魔なら出て行きましょうか?」


 「……いや、大丈夫です」


 「ノエルさん」


 「……はい」


 「ゲームも娯楽として一般的になりましたが、まだまだ『たかがゲーム』的にとらえられます。人によっては『ゲームごときで』などと言う人もいます。ゲームの登場人物も、AIが進歩し、挙動が人間と変わらなくなっても、『ゲームのキャラクター』と軽く見られます」


 「……そう、ですね」


 「でも、そんな『たかがゲーム』にでも。そんな『ゲームのキャラクター』にでも。真剣に、必死に、本気になれるというのは、素晴らしいことで、誇るべきことではないでしょうか」


 「……はい」


 「本気でなければ、涙は流れませんからね」


 「はい……あり……が……とう……ござい……ます……」


こんな余談的な話を2日ごとに更新してそれだけで4日も過ぎるのは嫌だーっ! と毎日更新しましたが、私の精神と書き溜めが削れました。

明日、本編再開します。以降は2日ごと更新に戻ります。

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