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過去最高(作者比)で難産だった今回の話。
何とか折り合いがつくレベルになってくれたけど、物語と文章を作る難しさをあらためて思い知らされました。
大陸暦1053年 海の月 4日
=エルスナード門前=
「知性ある武器」
言葉を喋り意志を持つ武器全般のことを言います。現代風に言うと、AI搭載武器、と言った所でしょうか。そういう言い方をするとすごく普通なような気がしてきますが。こういう剣と魔法のファンタジーな世界観では貴重で強力ないわくつきのある武器とされています。
私がこの存在を知ったのは偶然で、古典ダンジョンのゲームをあれこれ探しているうちにそれが登場する話を見つけたからです。確か、意志を持つ剣と鎧を倒して従えながらダンジョンを潜っていき、最下層のボスを倒す、というものだったかな?途中の罠とかが苛烈で、こんなのがあったらどうしようという感じで見返していたので、何となくインテリジェンス・ウェポンについても記憶に残っていたのでした。
だから、それを思いつきました。
ランス・オブ・ダイヤモンド。
ロッドさんは「インテリジェンス・ウェポン」ではないのか、と。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ロッドさんが、槍を手放しました。
いえ、手と腕の骨が崩れ落ちたと言う方が正しいですね。
頭が転がり落ち、体の骨がばらばらに崩れていきます。
そのまま骨の山と空っぽの鎧になったかと思うと、床に沈み込むように消えてしまいました。
と。
残った槍が、誰が振るうわけでもなく大きく円を描くように動くと、〈ドラゴンクロー〉と〈ドラゴンバイト〉を吹き飛ばしました。
あ、崩れた体の方を気にして魔力の込め方が甘くなってました……。
誰も持ち手のいない槍が勝手に動いて、空中に垂直に立ちます。
穂先の刃の部分が開き、埋め込まれた赤い石があらわになります。装飾も合わせるとまるで目のように見えなくもありません。
「……姫さん。どこで気づいたよ?」
空中に浮かぶ槍から、ロッドさんの声が響いてきました。
間違いありません。この槍こそが、ロッドさんの「本体」です。
「……最初は、ロッドさんを〈鑑定〉した時でした。何かおかしいな、と思いました。元竜人の槍士で死後も門番をしている、そう言ったロッドさんの言葉が正しいなら、種族はアンデッドなのが妥当じゃないです?けれど、種族は魔法生物、だった」
実は後からおかしい部分に気づいたんですけどね。きっかけはこれが最初でした。
「なるほどな。それだけか?」
「いえ。次に気づいたのは、槍技を真似するためにロッドさんの動きを観察していた時でした。ロッドさんが喋っているのに、骸骨の口は動かないんだな、と不思議に思ったので」
あと声が聞こえてくる先が微妙に変だったのもありましたね。
「それで気づいたと?」
「あとは名前です。ランス・オブ・ダイヤモンド。使い手を示す名前なら、ランサーとかスピアマンとかファランクスとか、もっと別の名前の方がふさわしいじゃないですか。それを『ランス』とわざわざ武器の呼称にしたのは何かあるのではないかな、と」
はっはっは、とロッドさんの大きな笑い声が、響きました。
「いやあ、姫さん。俺は姫さんに謝らないといけないわ」
「別に謝られるようなことはなかったと思いますけど」
「いや、さ。正直言うとだ。俺は姫さんのことを馬鹿にしてたんだわ。あのグリムレットが。こんなちっぽけな小娘に自分の竜珠を引き継がせたのか?てな。あの黒の王魔竜が。こんな小娘が自分の後継にふさわしいと思ったのか、てな」
ぐさっ。
いや、あんまり否定はできないですけど、それはあんまりな……。
「だが!」
ロッドさんが声を張り上げます。
「その小娘の姫さんが! 俺の技をコピーして俺と互角に打ち合い、そして俺の正体を見抜いて1度は俺を抑え込んだ! しかも出会ってすぐは俺のただの攻撃も防げなかったのに、だ!」
穂先の刃の赤い石が私を見下ろしています。うん、やっぱりあの石が、ロッドさんの目、なんでしょう。
自分を見ている、そんな意志を感じますし。
「わずかな違和感から俺の正体を見抜く機転! 俺の技を不完全ながら短時間でコピーしてみせる戦闘センスと成長力! 姫さん、いや、竜姫ノエル。あんたは確かに、あのグリムレットの後継だ! 誰がなんと言おうとも!このランス・オブ・ダイヤモンドが認めよう!」
何か変な気分です。むずむずするような、何ていうか。急にベタ褒めされても困ります。
ああ……これ。照れ恥ずかしい、て感覚ですね。
「だから」
槍が、ロッドさんがうっすらと光輝き始めると。光が空中で直立するロッドさんの脇で長く伸び、形を作っていきます。
「最後に。本気だ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
光が伸びて、私の右の脇腹を貫通しました。
一瞬、何が起きたのかわかりませんでした。
お腹に痛みが走り、【HP】が半減して「出血」の状態異常がついたのを見て、かろうじて「攻撃された」ことが解りました。
「奥義〈闘気槍〉。純粋に闘気で造られた槍だ。槍が槍を振るう、ていう見た目があれなのは勘弁してくれ。こいつが生前の俺の一番の得意技なんでな」
脇腹の傷口を手で押さえ、〈リジェネレート〉と〈ドラゴンブラッド〉を発動させます。
「俺が元竜人の槍士だったのは本当さ。死後、魂を槍に封じられ、骨でできた使い手を操って門番となった。おかげでこの槍を使わざるをえなくなって、俺の奥義が使えなくなっちまってたんだがな。グリムレットの竜姫に敬意を表して解禁だ」
ロッドさんから発せられた光が再び集まり伸びて、槍のような形を作ります。
「純粋な闘気で作られているからこそ、速さは最速、軌道と射程は変幻自在。そして当然、防御効果は全て無視だ。これが俺の最後の奥義。さあ、竜姫、どうするよ?」
いや、どうすると言われましても。
ていうかロッドさん、まだ引き出しがあるんですか。
こっちが必死にパリ―イング練習したり、技を真似たり、不意打ちする作戦を立てたりして、やっと追い詰められそうな所まで行ったのに。あっさり次の技が出てきてしまう。ずるくないですか。ずるいですよね。もうずるい。
それに、こっちは打ち止めです。〈ドラゴンホーン〉も知られてしまったからもう不意打ちには使えませんし。しょせん、私のしたことは初見殺し。次はありません。
「覚悟はついたかい、竜姫。いや、出直してきてもいいんだぜ?前みたいにな」
出直す。今回は負け、ということにして、戻って次の手を考える。
そうする?
でも、純粋な闘気でできた槍ですよ? 今度は闘気を飛ばすのでなく、闘気の槍が直接伸びて攻撃してくる? さっき受けた攻撃は今まで以上のスピードです。どうやって相手すればいいのやら。そんな次の手なんて思いつくわけが。
……純粋な闘気でできた槍?
「……言いましたよね、私。戦って、勝ちに来た、と」
右脇腹を押さえていた手を放します。血は止まりました。
勝つためのアイデアは、今、思いつきました。
床の白いラインから少し下がって、両手を地面につけ、クラウチングスタートの態勢を取ります。
〈ドラゴンウィング〉起動。背中に翼が生えます。
〈ドラゴンホーン〉起動。頭の部分に2本の角が生え、ロッドさんの方へ先端を向けます。
「懐かしいな、おい。覚えてるぜ、その態勢」
ロッドさんが闘気槍を私に向けます。
「グリムレットの得意技だ」
「『行きますっ』!!!」
〈ドラゴンハウル〉を込めて思いっきり大声で叫ぶと、腰を上げ、地面を蹴り、〈ドラゴンホーン〉を向けて、ロッドさん目掛けて飛び出します。
「来いやァッ!!」
ロッドさんも叫ぶと〈闘気槍〉をこちらに向けて放ちます。
かまうな、突っ込め、私!
向かってくる闘気の槍に、あえて自分から、突撃していきます。
激突。
〈ドラゴンホーン〉が〈闘気槍〉を弾き飛ばします。
「打ち合いが互角だったのはあくまで『闘気』と『魔力』でだ。所詮は〈竜闘術〉は魔力でまがい物を作って攻撃するスキル。実体のある武器と打ち合えば、その重みの差はでかい」
ロッドさん自身が教えてくれたこと。
あの時、私の魔力だけの〈竜闘術〉はロッドさんの実体ある槍に打ち負けました。
なら。
闘気でできただけの〈闘気槍〉なら。
私の実体のある体ごと加速をつけて〈ドラゴンホーン〉で突っ込めば、打ち合った時に勝つのはどちらになるか。
よし、勝った!
槍が、ロッドさんの本体が、もう目の前。後は〈ドラゴンホーン〉を叩きつけるだけ!
「言ったはずだぜ。射程と軌道は変幻自在とな」
背中に何かが突き刺さり、左胸へと突き抜けました。
焼けるような痛み。
思わず振り返ると。弾いた〈闘気槍〉がまるで意志があるかのように曲がって私の背中に突き刺さっています。
そうか。闘気だから。ロッドさんが自由自在に操れる。だから、弾いたとしても、ロッドさんが操作で戻して、背後から攻撃することができる……っ!
胸から血が吹き出ます。
状態異常「出血」発生。
致命的一撃による【HP】全損。
槍が、心臓を貫通しているのが、自分でわかります。
死ぬ。
ロッドさんまで後、三歩。いえ、二歩あれば、届くのに。
「よくやったぜ、姫さん」
ロッドさんの声が聞こえました。
よくやった。そうですよね。私は35レベル、ロッドさんは85レベル。これだけレベル差があるんだから、勝てなくて当たり前なのだから。死に戻りして、次の手を考えればいいのだから。
あれだけ準備して、精一杯やったのだから。
しょうがないですよね。
その時。
頭の中に。
記憶の中の光景が、走馬燈のように、次々と浮かび上がりました。
「ノクはよく頑張ってくれた。ノクがいなければもっと犠牲は増えて、私もサマリーもヴィルも生きてなかったかもしれない」
【あなたはドロップアイテムを入手する権利がありません】
「たとえ死なないとわかっていようとも、お前を危険にさらすことはできない。たとえそれが私が死ぬことになろうとも、だ」
「じゃあね、ノエル」 「じゃあな!」 「じゃあな、ノエル」
「さようならですわ、ノエル。願わくば貴女のこれから進む道に幸運があることを祈って」
「これで竜珠は継承された。ありがとう、ノエル。そして、お別れだ」
突っ込んでくるトラック。
跳ね飛ばされる男性。
「ここに運ばれた時は、残念ですがもう手遅れでした」
「ノエルさんが、自分で最善を尽くしたと思えるか。間違いがなかったか。やれることをやったのか。それはノエルさん自身が一番わかっているはずですから」
「あいつの死は、君のせいじゃない。しょうがないことだったんだ」
「よくやった」だって?
「しょうがない」だって?
本当に?
本当に、そう思えるのか、私?
魔竜の隠れ里で、私は、みんなのために、何もできなかった。
あの時、あの人が亡くなった時も、私は、何もできなかった。
どれだけ、しょうがなくても。
どれだけ、仕方がなかったとしても。
何もできないままで終わってしまえば。
「もっとこうしておけば」と後悔するのだと。
あれだけ思い知らされたんじゃないのか。
前を見ろ。
もう少しで。
あと少しで、届くじゃないか。
なぜ、しょうがない、なんて思うんだ。
あと二歩。
たった二歩。
それくらい。
心臓が。
潰れようとも。
進めぇぇぇぇっ!! ノエルッ!!!
ドクン。
その時。確かに、鼓動が聞こえました。
左胸は、心臓はロッドさんに貫かれ、潰れたはずなのに。
熱が。体中を巡って。全身が。熱くなる。
黒い光が。私の体からあふれ出す。
「……がああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
獣のような叫び声が口から出ました。
「グリムレットォーーーーッッ!!!」
ロッドさんの絶叫。
再び〈ドラゴンウィング〉で加速すると、ロッドさんの本体の槍の柄を〈ドラゴンホーン〉の2本の角で挟み、ねじりながら、扉へと叩きつけました。
「……確かに、心臓を、貫いた……よな?」
しばらくの静寂の後。苦しそうな声で、ロッドさんが呟きました。
「貫きました」
「……竜姫、てめえ、何で生きてる?」
今も体中を熱が巡っています。特に、右胸から熱がわき出ているのが感じられます。
「……竜姫、ですから」
そう、そこには。
右胸にあるのは。
「……そうか。グリムレットの竜珠、か」
竜の魔力の源、第二の心臓である竜珠。グリムレットさんが、私に託してくれた、命。
「ああ……だから、か。迫ってくる姫さんが、グリムレットに『見えた』」
それが、最後の力を、私にくれた。
「この勝負、姫さんの勝ちだ」
〈ドラゴンホーン〉で挟んだ柄にヒビが入り、槍が乾いた音を立てて折れました。
結局、後で回想シーンで出そうとした設定まで突っ込まざるをえなかったので、明日から幕間話を更新する予定。




