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 大陸暦1053年 海の月 4日



 =エルスナード門前=


 〈ドラゴンホーン〉発動。


 1対2本の角が真っすぐ飛んでロッドさんへと襲い掛かります。

 軽く槍で払われましたが。


 「初めて見る技(アーツ)だな。この距離を届く長射程攻撃……なるほど、そいつがあれば、俺に近づく必要はなくなるなあ。それが姫さんの切り札かい?」


 「そうですね。でも、真価はまだ見せてないですよ」


 「面白い、見せてみな!その真価とやらを!」


 ロッドさんが攻撃の態勢に入ります。


 右手で槍を深く握り力を籠め、左手は逆に添えるだけ。そのモーションは槍を回転させ、穂先から闘気へ回転を伝えるためのもの。


 〈螺旋衝〉!


 「喰らいなっ!!」


 弾丸のように回転する闘気の刃が飛んできます。


 再び〈ドラゴンホーン〉発動。〈魔力操作〉発動。


 放たれた2本の角がドリルのように回転しながら飛んでいき、〈螺旋衝〉の刃とぶつかり合い、共に消滅します。


 「おい」


 それを見たロッドさんが驚いたように声をあげました。


 「おいおいおい……何だよ、そりゃ」


 「さあ。何でしょうね?」


 ロッドさんが次の攻撃を繰り出そうと動きます。体重を後ろに掛け、一瞬溜を作るような態勢。反動で加速をつけるその態勢は。


 〈輝閃衝〉


 〈ドラゴンホーン〉発動。〈魔力操作〉発動。


 魔力ではじくように、角を撃ち出し、加速させます。

 〈輝閃衝〉が発動する前に前2回よりもスピードのついた〈ドラゴンホーン〉がロッドさんめがけて襲い掛かります。が、それは〈輝閃衝〉で撃ち落とされました。


 「まさか」


 「こういうこともできますよ?」


 消費【MP】0、威力ほぼなしの小さな〈ドラゴンホーン〉を発動させロッドさんめがけて飛ばしながら、そのすぐ後で〈ドラゴンホーン〉を普通に発動。最初に発動させた〈ドラゴンホーン〉を追いかけさせます。


 攻撃が来た、と思い感じるけれど、ほぼ影響はなし。後から本命の一撃が来る。


 初撃を受けようとさせた所まではよかったですが、そこは流石ロッドさん。すかさず本命も弾き飛ばしてしまいましたが。


 「〈影尖衝〉まで使うのかよ」


 「見よう見真似ですけどね」


 「……まさかだ。まさかとは思うが、姫さん。お前、もしかして……俺の技(アーツ)をコピーして、俺とやり合うつもりか?」


 〈ドラゴンホーン〉を覚えました。これでロッドさんに近づかないでも戦える、と思いました。


 けれど、勝つためには、足りない。


 相手は槍の達人。あれほどの多彩な技を見せつけてくる相手。そんな人を相手に、ただ「10メートル先へ攻撃」できるだけで対抗できるでしょうか。勝つことができるでしょうか。


 なら、どうすればいい?

 足りない実力差を何で埋めたらいい?


 〈ドラゴンホーン〉……10メートル先への突き攻撃をどう強くするか考えた時に。


 私の中で、それを1番高レベルにやってのけるのは誰かと考えた時に。


 それが誰かと問うならば。


 その答えは。



 「そのつもりですが、何か?」



 かつての槍の達人たる、目(・)の(・)前(・)の(・)そ(・)の(・)人(・)に(・)決まっています!



 「俺の攻撃を見極める……てのは、俺がどの技を出すかをわかるようにするためだと思ってが、そうじゃない。俺の技を模倣し再現するためにやってた、つーわけか」


 ロッドさんが槍を構え直しました。思わず一歩、後ろに下がりそうになりました。


 「おう。俺の訓練と修練と鍛錬の果ての技々、真似してしきれるもんならやってみやがれ」


 声音と口調は静かです。けれど、恐ろしい怒気を感じます。骸骨だから表情は読めないんですけど。


 「俺がその身に刻み込んで教えてやらァ……模倣(コピー)は元祖(オリジナル)には勝てねえ、てなァ!」



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 構えから槍の穂先がすっと下がります。


 その前兆は、まずいです。

 〈ドラゴンホーン〉をすぐに連続発動、それをばらばらに飛ばします。


 「「〈千戦衝〉!!」」


 私とロッドさんの発動の声が同時に響き、私の〈ドラゴンホーン〉多段攻撃……なんちゃって〈千戦衝〉をロッドさんの本家が1つ1つ全て叩き落とします。


 その隙を狙い、アーツ発動。魔力をはじき、加速された竜の角が飛ぶ。


 連続攻撃で体勢が崩れた所を〈輝閃衝〉モドキで狙ったつもり、でしたがそんな隙はなかったですね。軽く受け払われました。


 ロッドさんが再び槍の穂先を下げ……〈千戦衝〉を撃つモーションを見せます。

 こちらも再び連続で〈ドラゴンホーン〉を飛ばします。


 ロッドさんは〈千戦衝〉で私の〈千戦衝〉モドキを全部叩き落とせますが、逆はできません。

 私のアーツの命中精度での無理矢理の多段攻撃では、飛んでくる複数の闘気に全部命中させるのは無理です。


 だから、先手で潰す。


 軽々と私の〈ドラゴンホーン〉を相殺していくロッドさん。


 そこに一見普通の〈ドラゴンホーン〉。ただし1対2本ではなく別々の2本の角を飛ばします。1本が命中すればもう1本が連鎖で命中し多重発動になる、ノエル流〈双穿衝〉。

 普通の〈ドラゴンホーン〉と見間違えると威力が跳ね上がって痛い目を見てくれるはず。


 が、ロッドさんの2連撃、〈双穿衝〉に相殺されます。


 「ばれるの!?」


 「ばれないでか」


 ロッドさんが続けざまに突きを放ち、闘気を飛ばしてきます。


 小さなモーションの突きと、大きなモーションの突きを混ぜた攻撃。フェイントによる残像から本命が来る〈影尖衝〉。に、対しては、こちらは〈ドラゴンホーン〉を回転させ、ぶつけます。


 〈螺旋衝〉で攻撃のタイミング無視で無理矢理フェイントごと潰す。


 〈影尖衝〉が潰されたのを見てロッドさんが体勢を低くとります。

 槍をしならせて放つ〈乱箭衝〉。


 なら、こっちは〈輝閃衝〉のスピードで対抗です。〈乱箭衝〉は弾き飛ばそうとするとどこに飛ぶかわからないのでなるべく近づけないで吹き飛ばします。


 そして、ロッドさんの〈螺旋衝〉。

 これはこちらも回転させた〈ドラゴンホーン〉をぶつけて、相殺。


 「なるほど。動作(モーション)のスピードか」


 槍を構えたまま、ロッドさんが言いました。


 「俺の〈槍術〉と違って〈竜闘術〉は魔力を操作するだけだから動作(モーション)がいらねえ。だから俺の技の動作を見て対抗技を先に出せる」


 ばれてるー!?


 物真似の私でも行けると思ってた根拠があっさりと看破されました。


 ロッドさんはアーツを発動させるのに動作がいりますが、私の〈竜闘術〉は魔力を操って発動させるので動作がいりません。その差の分、先手を取って押せるかな、と見てたのですが。


 「だが、姫さん。俺は全然余裕だが、そっちは【MP】がもつのかい?魔力をそれだけ操ってりゃ、消費もデカイだろ?」


 ぐぬぬ……そこまで見てるんですか。


 さっきまでのやり取りで【MP】の消費は半分くらい。攻撃自体は防がれているので〈魔力奪取〉も発動していないので、回復はしていません。

 今のペースで打ち合ってたらまず間違いなく【MP】が枯渇します。


 まあ、そんなの最初から解っていたことですけどね。


 「これ、何でしょう?」


 デフォルトで着ているシャツをめくって見せます。お腹の部分にお札のような物が貼ってあります。


 「ああ!? ニーネアの護符かよ!?」


 「正解です。【MP】が一定以下になったら自動で発動して、耐久値を減らして【MP】を回復してくれるニーネアの護符です。ちなみにこれの耐久値は5000。【MP】消費なんてよゆーですよ」


 「ちょっと待て。そんな貴重品どこから拾ってきた!? そもそも、姫さん、アイテムは全部そこの床に置いてたじゃねえか!?」


 「ふふん、女神さまの思し召し(課金アイテム)、です」


 見たか! これが「異人」(プレイヤー)の力だ!


 1回課金したならば! 2回も3回も一緒なのです!!



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 〈螺旋衝〉には〈螺旋衝〉で対抗。


 〈輝閃衝〉には〈輝閃衝〉で対抗。


 〈影尖衝〉は〈螺旋衝〉で潰す。こちらから〈影尖衝〉モドキを放つこともしますが、これは軽く相殺されます。


 〈双穿衝〉には〈双穿衝〉で対抗。


 〈乱箭衝〉は〈輝閃衝〉で潰す。実は〈乱箭衝〉は真似できないんですよね。〈ドラゴンホーン〉は槍みたいにしならないですから。


 〈千戦衝〉は先手の〈千戦衝〉で迎撃に使わせる。


 ニーネアの護符が1枚、耐久値が無くなって破れました。予備で買っていたあと2枚がありますが。


 形勢は互角……いえ、私の不利でしょう。35レベルの私が、85レベルのロッドさんと打ち合えてるのは奇跡と言えなくもないですが。


 「よう、姫さん。バテて来たか?技にキレがなくなってきてるぜ?」


 〈双穿衝〉に対して放とうとした〈双穿衝〉モドキが失敗して、1本の角になってしまい、慌てて再度、普通の〈ドラゴンホーン〉を発動させてぶつけます。


 元々、向こうは余裕。私はギリギリ。


 精神的疲労は私の方が遥かに上です。しかもアーツを特殊な使い方で無理に使っています。時々、技を出そうとして普通の〈ドラゴンホーン〉が攻撃に混じってしまいます。


 「そ、そんなことはないですよ。こ、ここまで、よ、予定通りですから」


 体を動かしているわけじゃないんですけど、呼吸が荒くなります。【MP】は回復してるはずなんですが、トータルで消費した【MP】は凄いことになってますしね。


 「そーかい。なら、続行だな!」


 〈千戦衝〉を発動させようとしたので、先手〈ドラゴンホーン〉連打で返します。


 ええ、予定通りですけど、予定外ですよ。本当に。



 こ(・)こ(・)ま(・)で(・)隙(・)を(・)見(・)せ(・)て(・)く(・)れ(・)な(・)い(・)な(・)ん(・)て(・)。



 だいぶ前から、疲れでミスした振りをして、ただの〈ドラゴンホーン〉を混ぜて撃ってるのに、こちらの欲しいシチュエーションが作れないんですから。


 技を真似たのはあくまでロッドさんと互角に打ち合える時間を作るため。


 本命は。


 その時。〈千戦衝〉の打ち合いの後で放ったただの〈ドラゴンホーン〉をロッドさんが軽く槍で受け流しました。


 技を再現したわけでもない、威力もないただの〈ドラゴンホーン〉。


 脅威にならない攻撃だから、闘気を飛ばして潰すのではなく、槍で受け流してすぐ次の自分の攻撃に移る。

 ただでさえ攻撃の出は私の方が速いですから、闘気を飛ばすより動作がより少なくて済む受け流しを使って、私の速さに対抗しようとするのは、自然です。



 それを。



 待っていました!



 飛んでくる闘気に潰されることなく、〈ドラゴンホーン〉を槍(・)自(・)身(・)で(・)受(・)け(・)流(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)、その瞬間を。



 「〈ドラゴンバイト〉!!」


 受け流した〈ドラゴンホーン〉から牙の並ぶ口が出現し、槍に噛みつきます。


 「!?」


 「さらに、〈ドラゴンクロー〉!!」


 驚いて噛みついた〈ドラゴンバイト〉を振り払おうとした所でさらに〈ドラゴンクロー〉発動。槍を掴んで抑えつけます。


 〈竜闘術〉のアーツにある「本質」。


 〈ドラゴンクロー〉が「手」として握ったり物を掴んだりできるように。

 〈ドラゴンバイト〉が「口」として物や魔力を食べたりできるように。

 〈ドラゴンテイル〉が……あ、「尾」って何ができるか教えてもらってなかった……。


 ともかく。それぞれにその竜の体の部位としての本質があります。


 では、〈ドラゴンホーン〉が「頭」として、何ができるか。


 そもそも「頭」とは何をする所か。それは脳があり、体の各部位を制御し、動かす命令を発する場所です。


 〈ドラゴンホーン〉も「頭」として、それと同じことができる本質を持っています。


 つまり。


 〈ドラゴンホーン〉を起点として他の体の部位であるアーツ〈ドラゴンクロー〉や〈ドラゴンバイト〉を発動させることができる、のです。


 これに気づいた時には、なるほど〈ドラゴンホーン〉の取得がこんなに遅いはずだと思いました。


 実質、攻撃アーツを全て射程10メートルにすることができるのと同義です。接近戦しかできない、というのが〈竜闘術〉の欠点なのに、その前提が覆ります。


 「姫さん、最初から、これが狙いかっ!!」


 ロッドさんが吠えます。


 「……です。ただ10メートルでアーツの攻防をしたって、ロッドさんには勝てないですよね?だから、不意打ち1発に賭けてました」


 「技のコピーも、バテて技をミスってたのも、全部前振りか」


 「『模倣(コピー)は元祖(オリジナル)には勝てない』って言ったのはロッドさんじゃないですか。私もそう思いますよ」


 〈ドラゴンバイト〉〈ドラゴンクロー〉に魔力を込めていきます。


 「このまま、槍を、折らせてもらいます。で、これは私の推測なんですけど───」


 振り払われないように、動かれないように、槍を噛む力、握る力を増していきます。





 「───ロッドさん、こっちが本体ですよね?」

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