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 大陸暦1053年 時の月 18日



 =エルスナード門前=


 ロッドさんの技、丁寧に体に教え込まれてきました。つまり死に戻ったわけですけどね。



 〈螺旋衝〉

 最初に受けたアーツで、回転しながら闘気の刃先が飛んでくる攻撃です。光が回転している、というのも何か変なのですが、闘気だからそんなものなのでしょう。弾丸のように飛んでくるので速度は遅めなのですがダメージが高くなっています。

 あと受け流ししようとすると弾き飛ばされました。単純にパワー不足な感じなので消費【MP】0だと厳しいのかもしれません。


 〈輝閃衝〉

 スピード特化のアーツです。通常攻撃でも微妙に速度を変えてたりしてましたが、これはそんなのぶっちぎって速いです。「あっ」と思ったら体に攻撃が突き刺さってる、そんな感じでした。

 威力自体はそんなに高くはない感じなので、防ぐのはあきらめて体で受けるのもありかな、と思いましたが……ロッドさんは85レベルなんですよね。本気だしたらこれでも一撃で殺されそう。


 〈影尖衝〉

 どういう仕組みなのか一番謎なのがこのアーツです。ありのままに説明すると「攻撃が来たと思って受け流そうとしたら攻撃が来ていなくて、後から攻撃が来て突き刺さる」となります。

 何言ってるかわからないかもしれませんが、体験した通りだとこうなるのでどうしようもありません。

 フェイント系なんでしょうか……殺気や気配で攻撃が来たと誤認させるというか、そういうアーツなのかもしれません。


 〈双穿衝〉

 一見、以前と変わらない普通の攻撃、なのですが受け流しをした瞬間に威力が跳ね上がって受け流しをした〈ドラゴンクロー〉を貫通してきたアーツです。よくよく見ると2連撃になっていて、最初の闘気の刃先のすぐ後ろにもう1つ刃先が飛んできていて、命中した瞬間にダメージが加算されるようです。

 まあ、これはよくわかります。ようするに「多重発動攻撃」ですね。


 〈乱箭衝〉

 〈螺旋衝〉と語感も技の感じも似ているアーツです。こちらは回転して飛んでくるのではなくランダムに揺れるような動きで飛んできます。受け流しのタイミングが難しいし、失敗すると攻撃が変な方向に加速して飛んでいくのが難点です。まあ、こっちに向かってこないで結果的に成功になったりもしますが……。


 〈千戦衝〉

 複数の突き攻撃がほぼ同時に飛んでくるアーツです。私が受けた時は5発でしたが、3~8発の間で調整はできるそうです。いわゆる範囲にランダムで攻撃するアーツ……なのでしょう。範囲と言っても私の体の大きさに全弾命中させてくるくらいの精度はありますが。後、一応微妙に着弾にタイムラグがあるので順番に神反応していけば受け流せるような気もしますが、できる自信はないですね。



 後でロッドさんに解説をしてもらった点も含めての各アーツの内容でした。


 というか名称については声と音だけではさっぱりなんですよね……「らせんしょう」「きせんしょう」「えいせんしょう」「そうせんしょう」「らんせんしょう」「せんせんしょう」……聞いただけで何と書くか想像するのは無理でした。




 大陸暦1053年 時の月 19日



 さあ、やり直し作戦タイムです!!


 ……て、無理にテンションを上げてやる気を出そうとしましたが、そんな感じでもなかったりします。


 新しい攻撃パターンは今までの通常攻撃を合わせると7通り。まずロッドさんがこの7つのうちどれを使って攻撃をしてくるかを見極めなければなりません。


 次に、6つのアーツについてどう防ぐか。


 あれだけ受け流しの練習をしてきたのをものの見事に粉砕されました。


 かろうじて今までの流れで受け流しできそうなのが〈双穿衝〉くらいでしょうか……攻撃の見極めさえできれば〈螺旋衝〉以外はいけるかもしれません。


 復活地点で悩んでいると、ふと、何か通知が来ていることに気づきました。


 何かと思ってみてみると……新しいアーツの取得の通知でした。


 ふむ。ロッドさんとの攻防で〈竜闘術・王魔〉が35レベルになっていたようです。


 もしかしたらこの状況を打破できるアーツを覚えたかもしれません。わずかな望みをかけて、キャラクターブックを開いて、〈竜闘術・王魔〉の取得アーツを確認します。


 1番下の行にありました。



 〈ドラゴンホーン★〉



 ホーン=角、です。以前、ノクターナルさんから聞きました。竜の主な武器とは爪、牙、尾、角の4つだと。その武器を使ったアーツは〈ドラゴンクロー〉〈ドラゴンバイト〉〈ドラゴンテイル〉と覚えていったので、ついにその最後の武器を覚えたわけです。


 ……ええぇ、今さら……?


 〈ドラゴンクロー〉は最初から覚えていました。〈ドラゴンバイト〉は3レベル、〈ドラゴンテイル〉は10レベルで覚えました。なぜ〈ドラゴンホーン〉だけこんなに取得が遅かったんでしょう。有用と言うなら〈ドラゴンウィング〉や〈ドラゴンハウル〉、〈リジェネレーション〉の方がよほど強力なアーツのように思えますが。


 とにかく使ってみましょうか。


 いざ……〈ドラゴンホーン〉!


 私の前に2本1対のまさしく「角」が現れました。根元は緩やかにカーブしてその後まっすぐと伸び、先っぽは鋭くとがっています。


 ロッドさんとずっと戦っていたからか、何となく槍を思わせますね。


 手近にいい目標はないですが、とりあえず〈ドラゴンホーン〉で攻撃してみましょう。

 素振りの要領で、何もない空中に〈ドラゴンホーン〉を突き出します。


 1対の角がものすごいスピードで飛んでいきます。


 え?


 いや、これは、もしかして?


 今度は位置を慎重に決めて、復活地点の水晶が埋まっている柱を目標にして〈ドラゴンホーン〉を使って攻撃してみます。


 うん。間違いありません。


 〈ドラゴンホーン〉があれば。ロッドさんに勝つための全ての戦術の前提がひっくり返る。


 そう、この〈ドラゴンホーン〉。


 射(・)程(・)距(・)離(・)1(・)0(・)メ(・)ー(・)ト(・)ル(・)の(・)遠(・)距(・)離(・)攻(・)撃(・)ア(・)ー(・)ツ(・)なのです。



      ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 「お願いします!」


 門から10メートルの位置にある白い線。踏み越えるとロッドさんとの戦いの始まりである境界線。

 そこに私は立ちました。


 「おう、どうにかする算段はついたか」


 「……まずはロッドさんのアーツを見極めないと、始まりませんから」


 ラインを踏み越え、ロッドさんに一歩近づきます。


 「そうかい!」


 ロッドさんが槍を振るい、闘気が飛んできます。


 「攻撃される」という感覚、けれど見えている闘気の刃先はまだ遠くにあるという視覚。


 間違いなく〈影尖衝〉!


 反射的に防御しそうになるのをこらえ、〈ドラゴンテイル〉を発動させると見えている闘気を払います。


 「うん? 受け流しはやめたのか?」


 「見極めないと、と言いました。まずは数を見て、ロッドさんがどのアーツを繰り出すかを、間違いなく判断できるようにします。だから防御方法は二の次です」


 「なるほど。考えあるならそれでよし」


 ロッドさんが槍を構え直します。


 「しっかり見ていけ、お代はタダだ!」


 「はい!」




 ……いや、しっかり見ていけと言われましたけど。


 ダメージ手加減して、急所に当てないようにしながらぎりぎりまで生かしてボロボロにするのはどうかと思うんですが……。


 最後は死に戻りましたし……。





 大陸暦1053年 時の月 24日



 =エルスナード門前=


 「結構苦戦してんな」


 残り【HP】8。体中に穴が開いたような気分です。VRなので痛みは現実に影響が出ないように緩和されていますが、さすがにこれだけボロボロになると体も重いし息も上がりますね。


 「そ、そうでも、ないんですけど、ね」


 「まあ、そうそう見極められて対策取られるんじゃあ俺の立場もないんだが。打つ手なしか?」


 ゲーム内時間で5日間。リアルだとだいたい2日ですか。休憩も挟んでほぼほぼ一方的にロッドさんに攻撃され続けている状態でしたからね。心配されるのももっともです。


 が。


 ロッドさんがどのアーツを繰り出してくるか。だいぶわかるようになってきました。


 コツは飛んでくる闘気を見るんじゃなくてロッドさん自身の動きを見ること。


 流石にあの多彩な攻撃を同じモーションで使ってくるわけではなく、それぞれのアーツで発動した時のモーションが特徴的で違いがあります。


 〈螺旋衝〉なら穂先を回転させながら闘気を撃ちだしますし、〈輝閃衝〉なら1回後ろに重心を下げて溜を作ってから撃ちだします。〈乱箭衝〉は槍をしならせて、あの不規則な揺らぎを生み出してるのもわかりました。


 「いえ」


 一度、大きく深呼吸して、体勢を立て直して、身構えます。


 「時間はかかりそうですけど、ロッドさんと戦う手段はつけてます」


 「そうかい。そいつは楽しみだな」


 さて。残り【HP】が保つギリギリまで、ロッドさんの攻撃を観察しましょう。


 ところで、ロッドさんをよく見るようになって気づいたんですが。

 ロッドさん、喋る時に口が動かないんですね。スケルトンだから?





 大陸暦1053年 海の月 2日



 =B7階=


 ロッドさんに挑んで繰り出す攻撃を見極める修練をしているのと同時に。

 ロッドさんの見えない場所で〈ドラゴンホーン〉を使いこなす特訓も並行して行っています。〈ドラゴンホーン〉のレベルも上げないといけませんしね。


 というわけで。ただいま杖の王子にサンドバッグになってもらっています。


 いや、動きが大して速くなく、〈物理攻撃耐性〉があって殴っても死ななくて、攻撃自体は状態異常のみなのでひたすら殴りやすいので……。


 レベル上げもですが、〈ドラゴンホーン〉の「本質」を掴みたいのです。


 〈ドラゴンクロー〉は「手」でした。なので物を掴んだりすることができました。

 〈ドラゴンバイト〉は「口」でした。なので物を食べる、魔力を喰うことができました。


 なら〈ドラゴンホーン〉は?


 「爪ってのは手についてるもの。いや、足にもついてるけどね。だから、こういう風に爪を上手く操作したら物を掴むことも、できる」

 「噛みつき、食いちぎる、というのは『食べる』ということにつながる。だから〈ドラゴンバイト〉のアーツは追加効果で【空腹度】と【渇水度】の回復効果があるんだ」


 今まではその本質とそこからできることを教えてくれる人がいました。


 でも、今はいません。もう、いません。


 だから、自分で掴まないと、知らないといけない。


 杖の王子に〈ドラゴンホーン〉を突き刺しながら考えます。


 射程距離10メートルというのも1つの本質でしょう。竜は角をどう使うかと言えば、相手に向けて突進し、突き刺します。それを再現するからこそ、突進するかのように遠くの敵に届くようにできているのだと思います。


 〈ドラゴンクロー〉が手、〈ドラゴンバイト〉が口なら、〈ドラゴンホーン〉は……頭?


 頭、頭……頭の本質とは? そこからできることとはなんでしょうか。


 〈ドラゴンホーン〉を色々と使ってみますけど、何も思いつきませんね。そろそろ【MP】もつきそうですし、今日はこのくらいにしよう……と、杖の王子を倒すために〈ドラゴンバイト〉を発動させます。


 その時に気づきました。


 〈ドラゴンホーン〉の本質。真の意味。


 そして、なぜ、このアーツの取得が35レベルとあまりに遅かったのかも。




 大陸暦1053年 海の月 4日



 =エルスナード門前=


 「今日はえらく気合が入ってるな」


 「わかりますか?」


 「そりゃ、お前。戦士が戦いの気配と気迫がわからなくてどうする」


 いつもの門の前。通路の床に引かれた白いラインの場所に来ました。

 ロッドさんめ、軽く言ってくれますけど流石、歴戦の勇者。わかるんですか。


 「修練と訓練は、終わりました。今日は勝ちに来ました」


 「戦いに来た、だろ?」


 「いえ」


 白いラインを踏み越え、構えます。


 「戦って、勝ちに来ました」


 ロッドさんが槍を構えます。


 「いいだろう。俺に対して勝機を見出した、てことだな。見せてみろよ、姫さん!」

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