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構成の都合もありますが、すごい長くなった……。

 大陸暦1053年 時の月 7日



 =エルスナード門前=


 「何してんだ?」


 ロッドさんが声をかけてきました。懐からアイテムを取り出して床に並べている私の行動は、確かに傍から見てると何をしているのか意味不明でしょう。


 「手持ちのアイテムを並べています」


 「……いや、まあ、そりゃ見たらわかるんだけどよ」


 最後に残った真っ黒な珠、ノクターナルさんの竜珠を床に置きます。これで手持ちのアイテムは全て床に置かれ、私の所持品欄はまっさらになりました。


 「『異人』は自分の死をなかったこと、にできるんですけど、その時に手持ちのアイテムが少しなくなってしまうんですよ、代償として。だから、こうやって床に置いておけば、手持ちのアイテムじゃなくなるので、減らないですむかな、と」


 「へえ。そいつは初めて聞いたな」


 「ロッドさんは盗らないですよね?」


 「取らねーよ」


 骸骨なので表情はわかりませんが、声の雰囲気は笑っているようです。


 「……よし。じゃあ、始めます」


 白いラインの前に立ちます。ロッドさんが門の前に戻り、槍を構えます。


 「おう、来な。死(・)に(・)ま(・)く(・)る(・)覚(・)悟(・)もできたみたいだからよ」



      ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 ロッドさんとの初戦でわかった問題点が2つあります。


 1つは彼我の距離10メートルから戦闘が始まるという問題。


 私の攻撃手段は〈ドラゴンクロー〉〈ドラゴンバイト〉〈ドラゴンテイル〉とも頑張ってもせいぜい3メートルくらいしか届きません。ロッドさんは闘気を飛ばして攻撃できますので、相手の攻撃をかいくぐって接近、かつ闘気をまとった槍と打ち合うことは想定しないといけません。そもそも3メートルというのは〈魔力操作〉で距離を伸ばしてやっと届くレベルですので、基本的には至近距離まで接近しないといけないでしょう。


 ただ、これについては〈ドラゴンハウル〉は通じないというのはありましたが、接近するだけなら〈ドラゴンウィング〉でできそうではあります。

 もちろん、接近して、勝てるか、という問題も残るのですが……。


 もう1つは当然、防御無視の攻撃をどう防ぐかという問題。


 闘気というものを使っていて魔力ではないので〈ドラゴンバイト〉で喰う、という手段は使えなかったことと、こちらから攻撃に攻撃をすることで相殺するのは可能(ただし消費【MP】が馬鹿にならないし、接近して槍と打ち合うと打ち負ける)というのが解りました。


 最初に考えたのは〈ドラゴンウィング〉の機動力で動き回って回避する、です。


 ロッドさんの攻撃は槍であり突き、一直線に迫ってくる攻撃です。ならその軌道を見切って、上下左右に軌道から外れれば攻撃を回避することはできるはずです。


 が、これは1つめの問題からシミュレートしてみて諦めました。


 私の攻撃が届く至近距離まで接近して、その距離を維持しつつ相手の槍の攻撃を上下左右に動いてかわす。


 〈ドラゴンウィング〉だとそんな細かい機動はできません。剣の女王くらいの速さと自在性があればいいのですが、さすがにあの動きのレベルは無理です。さらに言うとロッドさんは門を背にして戦うので背後はとれません。相手の周囲360度全部動き回れるならまだできるかもしれませんが、前面だけしか動けないならちょっと無理があります。


 なので別の方法を考えました。


 ヒントは剣の王からもらいました。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 「〈ドラゴンクロー〉」


 消費【MP】0で〈ドラゴンクロー〉を発動させます。普段なら1本の針のような形で爪が出てくるのですが、今は違います。


 1本の針のような爪とその根元から斜めに2本伸びる計3本の爪が組み合わさった形です。


 この形を消費【MP】0で作るのに結構苦労しました。ただ消費【MP】自体は威力がベースになるようなので、攻撃力がほぼない形でかつ大きさが大きすぎなければある程度形状を変えることはできるみたいです。


 「なるほど、パリーイング・ダガーか。面白いこと考えるな」


 白いラインを踏み越えようとしたところで〈ドラゴンクロー〉を見たロッドさんが声をかけてきました。


 一目でわかるんですか……さすが歴戦の戦士。


 10メートルの白ラインを越えて、構えます。


 「できるかな?やってみせろよ!」


 ロッドさんの槍から闘気の光が飛んできます。狙いは私の右腹部。その光に向かって三つ爪の〈ドラゴンクロー〉で攻撃をします。


 斬るのでも刺すのでもなく、3つの爪を組み合わせた隙間で挟み込み、押し出すように。


 攻撃が成立し〈ドラゴンクロー〉が消滅します。飛んで来た闘気の刃先は私の攻撃で軌道を変えられ、地面に突き刺さりました。


 よし。できる。


 「やるじゃん。初見で俺の突きを『受け流し』できるとはな」


 「ありがとうございます」


 ヒントは剣の王の盾でした。


 私の渾身の突撃も盾捌きで受け流した剣の王。あれと同じようにロッドさんの攻撃を受け流して、軌道を変えてそらすことができれば、と考えたのがまず第一でした。


 そこから受け流しのやり方や技を調べるつもりで調べていた時に見つけたのが「パリ―イング・ダガー」です。


 西洋でレイピアなどの刺突剣が全盛となった際に、左手に持ってレイピアの突き攻撃を受け流すために用意された短剣。

 3本に分かれるギミックの刃で突き攻撃を受け流すだけでなく絡め取り折ることも考えられた短剣です。

 刺突剣と槍ではだいぶ違いますが、突き攻撃であることに変わりはありません。なら、このパリ―イング・ダガーの形が攻撃を受け流すのに適しているのでは?と考えました。

 幸い〈ドラゴンクロー〉で再現しやすそうな形をしていましたしね。


 実際にできるかどうかは試してみて……でしたが、1回成功できたなら、できる、ということです。


 「どこまでやり切れるかね!」


 続けて二突き。私の肩付近と太もものあたりへと飛んで来ます。


 パリ―イング・ダガー型〈ドラゴンクロー〉の発動は完璧です。さっきと同じように。


 一撃目は、速すぎました。おかげでそのまま直行してくる闘気に弾き飛ばされ、左肩に突き刺さります。


 二撃目は、遅すぎました。おかげで上手く押しのけることができずに闘気の軌道は変わらず、右太ももに刺さります。


 VRの緩和された痛みが感じられ、【HP】ががくっ、と減ります。


 お、おお……飛んでくるスピードを考えるとタイミングすごいシビア……。

 三撃目、四撃目、五撃目。全て失敗して【HP】が耐えきれなくなり死亡しました。



 どうせ受け流しの練習ならデスペナルティーなんて関係ない!と、死に戻ってすぐにロッドさんに挑みましたが、八撃受けて成功0でまた死に戻り……ぐぬぬ、できるのはわかったですけど、超えないといけない壁は高そうです……。




 大陸暦1053年 時の月 7日



 一戦目。10回攻撃を受けて成功0で死亡。


 二戦目。11回攻撃を受けて成功1で死亡。


 三戦目。11回攻撃を受けて成功1で死亡。


 とりあえず成功のタイミングはすごいシビアで、ガチっとハマらないと軌道をそらせられないのはわかりました。【MP】をつぎ込んで〈ドラゴンクロー〉の強度を上げたら成功率上がりそうですがその場合回数制限がついてしまうのですよね。


 あと、ロッドさん、地味に全身満遍なく攻撃して痛めつけてくれます。

 いえ、練習のためにはありがたいですし、心遣いだと思ってますけれど。


 四戦目。13回攻撃を受けて成功3で死亡。2回連続で成功したしちょっとコツをつかめたような……と思ったら失敗しまくる。


 五戦目。12回攻撃を受けて成功2で死亡。幸先よく2回連続で成功したと思ったら歯車が狂ったように失敗。


 六戦目。18回攻撃を受けて成功8で死亡。タイミングの見極めも大事だけど、攻撃の加え方もどうやら重要だと気づく。


 一日で挑めるのは集中力や疲労を考えてもこれくらいが限度、ですね。

 ただ、この調子で成功率が上がれば行けそう……?




 大陸暦1053年 時の月 10日



 あれから進展が見られません。というか初日の8回成功はまぐれだったかな……。


 一戦目。12回中2回成功。色々やってたらミスしまくり。


 二戦目。15回中5回成功。


 三戦目。14回中4回成功。焦るとミスを繰り返して失敗ばかりになる。冷静に、冷静に。


 四戦目。19回中9回成功。5連続で成功した時は掴んだ、と思ったけどそこから連続で失敗……とにかく成功のパターンを造り上げないと。


 五戦目。26回中16回成功。攻撃される位置によって受け流すタイミングや攻撃の加え方を変えた方がいいことに気づく。


 六戦目。27回中17回成功。もう少し。後は攻撃の正確な位置の見極めかな。




 大陸暦1053年 時の月 13日



 一戦目。15回中10回成功。成功率も上がってきた、と思ったらロッドさんが明らかにより致命的な急所を狙い始めてきました。というか今までは「確実に10回で私を殺す」ように攻撃してきてたんですよね……。5ミスで吹き飛ばされました。


 二戦目。10回中5回成功。ロッドさんのプレッシャーに負けた感じ。


 三戦目。16回中11回成功。冷静に、落ち着け私。



    ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 「というか毎日6回ずつ死んでいって、よくもまあ、精神がもつな」


 3戦目をやって死に戻ってきた私にロッドさんがあきれたように声をかけました。


 「それでも1日6回が限度、ですよ。本当ならもっとやりたいんですけどね。さすがに集中力が途切れたら意味がないですし」


 実際はゲーム内時間は3倍のスピードなので1日=リアル8時間、ですが。


 「6日前にゃ、まぐれで成功するしかできなかったのが、今じゃ半分以上は成功させてくるんだからなあ」


 「もう少しはあがりますよ」


 感心したように言うロッドさんに私は答えました。


 「〈ドラゴンクロー〉で攻撃を加える角度、タイミングはおおむねパターン化しました。後は攻撃の見極め、だけです。ロッドさん、地味にスピードを微妙に変えたりしてますよね?」


 「はっはっは、ばれてるか」


 わざとらしく笑うロッドさん。この骸骨は……さすが達人と言うべきでしょうか。


 「おう。じゃあ、そろそろ本気だな」



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 四戦目。2回連続で受け流した3撃目。左胸、心臓の部分を貫かれました。まさしく致命の一撃。


 「本気」と言った理由がわかりました。


 そう、本当なら。1回も失敗が許されなくて当たり前なのです。なにせ相手ははるか上のレベルの達人なのですから。私程度、一撃で死なせることはわけないのですから。


 五戦目。6撃目で頭を貫かれ死亡。


 六戦目。7撃目で喉を貫かれ死亡。


 1回失敗したら死ぬ、というのはこういう感覚ですか。



 大陸暦1053年 時の月 16日



 一戦目。18撃目でタイミングがずれてミスって腹を貫通。


 二戦目。4撃目で受け流しが速すぎて失敗。


 三戦目。同じく4撃目で今度は遅くなりすぎる。


 焦るな。焦るな私。


 四戦目。6撃目で心臓を狙ってきた攻撃を受け流したら、そらしきれずに目を貫いてしまう。あ、こういうミスもあるのか。


 五戦目。19撃目でミス。でも、プレッシャーにも慣れてきました。これなら。


 六戦目。初撃を受け流し損ねていきなり死亡。


 ……い、行けると思ったんだけどなあ。




 大陸暦1053年 時の月 18日



 昨日は大分いい所まで行けました。25回までは連続で受け流せたので、もう少しです。


 一戦目。


 行ける。


 30撃目以降は数えるのはやめました。


 途中からロッドさんは急所だけでなく肩や足なども交えてとにかくこちらに攻撃を当てようと突きを繰り出してきますが、それを全て受け流していきます。


 よし。これなら。


 今まで、白いラインを越えてすぐの場所で、攻撃を受けていました。一番、攻撃の軌道が見やすいですからね。


 そして、この位置で完璧に攻撃を受け流せるようになったと言えるようになりました。そろそろ次のステップに移りましょう。


 一歩、前へ。踏み出します。


 次のステップへ、ロッドさんとの距離を詰めて行きます。


 より至近距離で攻撃を受け流せるようになることが目標です。最終的には、こちらの攻撃が届く間合いで、攻撃を完璧に受け流せるようになるように。


 「はー、10日で、完璧にその距離で俺の攻撃を受け流せるようになるか……もっと時間がかかるかと思ったが。そろそろ、次(・)の(・)ス(・)テ(・)ッ(・)プ(・)だなあ」


 ロッドさんが槍を構え、攻撃を繰り出します。


 いつものように私はそれを〈ドラゴンクロー〉で受け……流そうとして、思わず目を見開きました。


 それはいつもの一直線に向かってくる闘気の光の刃先ではなく。

 まるで銃弾のように、回転しながらこちらに向かってきているのです。


 私がこの10日間、死にまくって覚えた完璧なタイミングと角度での受け流し。


 を、回転する闘気の刃先はいともたやすく弾き飛ばし、私の肩口に突き刺さるとそのまま抉り、貫通していきました。


 「〈槍術・天威武法〉が技(アーツ)、〈螺旋衝〉」


 静かに、ロッドさんがその技(アーツ)名を宣言しました。


 「おいおい、姫さん。まさか天下無双の槍士とうたわれた俺の技が闘気を飛ばすだけだとか、思っちゃいないだろうな?」


 ……すみません、思ってましたぁーっ!!



 「ここからは第2ステージ、技(アーツ)解禁だ。死ぬ気で受けろよ!!」


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