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 大陸暦1053年 戦の月 25日



 =B9階=


 〈ドラゴンハウル〉を発動させるために息を吸い込みます。発動のために一定以上の大きさで発声をしないといけないのでどうしても必要になる行動です。


 そこに剣の王が一歩力強く踏み込むと盾を押し当ててきます。軽く当てるだけなら盾を持つ左手をちょっと動かすだけで済むからこそ、多重発動を重ねやすい。


 衝撃が私の体を弾き飛ばします。これだと〈ドラゴンハウル〉を発動させる隙はなさそう。


 なら。


 〈ドラゴンウィング〉を使ったまま剣の王の頭上、真上へ移動します。


 そこから〈ドラゴンテイル〉発動。黒い竜の尾を鞭のように振り下ろします。


 鈍い音を立てて、頭上にかざされた盾に防がれます。続けて二撃目を与えようとしたら、剣を頭上に突き上げこちらを狙ってきました。けれどそれは〈ドラゴンスケイル〉の自動防御で防がれます。


 頭上の敵に剣で突き攻撃を繰り出しても、かなり無理のある体勢になるからそうそう威力のある攻撃は出せないでしょう。


 と、突き攻撃が〈ドラゴンスケイル〉を貫通し、私の頬をかすめました。


 剣術の突き攻撃のアーツ〈スラスト〉。これを連続で3発、多重発動させての攻撃。


 なるほど。最低限のモーションでアーツを発動させることで無理な体勢で力を籠められなくても多重発動のボーナスで威力が出る、と。私が【MP】0の超多重発動でボーナスだけで威力を出していたのと理屈は同じ、というわけですか。


 かまわず〈ドラゴンテイル〉を振り下ろします。盾で受け流され、攻撃の合間に〈スラスト〉が飛んできて鱗ごと私の体を貫きますが、それでも振り下ろし続けます。


 〈ドラゴンテイル〉には衝撃で相手をのけぞらせるノックバック効果があります。それを上から下へ攻撃を加えられたら、どうなるか?


 衝撃に耐えられなくなり、剣の王が盾を掲げたまま膝をつきました。


 それを狙っていました!


 空中を頭上から背後に移動します。


 無防備な背中に全力の一撃を!


 が、剣の王は膝をついたまま上半身をひねってその勢いで剣を薙ぎ払います。間一髪〈ドラゴンスケイル〉を発動させるのが間に合って受け止めましたが、剣を受け止めた勢いで空中で体が流れて攻撃の機会を逸しました。


 次はどうする……と考えて動きが止まった瞬間、胸の辺りを斬られました。


 そこまで深くはないですががくっ、と【HP】が減ります。


 上半身ひねった無理な体勢で腕と手首の返しだけで〈スラッシュ〉を連続で発動させて斬られました。


 〈スラッシュ〉はケレス山で出会った剣士の人のイメージで大きく斬り払ったり、斬り上げたりするものだと思ってましたがそうでもなく軽く斜めに斬るだけで発動するようです。最初の攻防でも使ってましたね。


 というか、上級スキルと多重発動の正しい使い方がこれですか。


 要求される最低限の動作でアーツを成立させる。そうすることで短時間で連続でアーツを発動させることができ、無理に力をいれなくてもアーツの固定の威力とボーナスで想定以上の威力の攻撃を出せる。ついでに動きが少なくなるので無駄な動きが減って隙がなくなり、体勢を崩されても強い攻撃を返せる。


 つまり膝をつかせて体勢を崩して有利を取ったつもりでも、そうなってない。


 正面から斬撃が来る、そう気を取られた瞬間に、後頭部に強い衝撃を受けました。


 一瞬、意識が飛んだせいで〈ドラゴンウィング〉が解除され、勢いのまま地面を転がります。


 しまった。


 剣の王が逆側に体をひねって、盾で私の後頭部を殴りつけた。


 それをもろに喰らってしまった。


 まず……頭への打撃で意識が朦朧としてふらふらして動けません。


 とにかく逃げる。距離を取らないと。


 立ち上がった剣の王がふらついている私に攻撃を連続で加えていきます。


 〈スラスト〉〈スラスト〉〈スラスト〉〈スラッシュ〉〈スラッシュ〉〈スラッシュ〉。


 自力で防御もできず〈ドラゴンスケイル〉の自動防御頼りですが、簡単に突破されます。腹に剣が刺さり、胸の切り傷がより広く深くなります。


 〈ドラゴンウィング〉!


 なんとか発動させると翼を大きく羽ばたかせ、天井に逃げます。


 ここなら、相手の攻撃も届かない、はず。


 【HP】は1ケタ。「出血」の状態異常が発生。〈リジェネレート〉で【HP】を回復させながら、〈ドラゴンブラッド〉で「出血」を止めます。


 【MP】はほぼつきてきました。盾で防がれたのは攻撃にカウントされないのか〈魔力奪取〉も発動してなかったせいです。


 なら……最後の1発勝負、です。


 〈ドラゴンクロー〉を発動し、目の前に構えます。


 「『勝負』っ!!」


 〈ドラゴンハウル〉発動。一瞬でいいので剣の王を足止めさせます。同時に天井を蹴って〈ドラゴンクロー〉を構えたまま、一直線に剣の王へ突撃!


 盾を構えるのが見えました。スピードと勢いで、盾ごと、ぶちぬく!


 盾と〈ドラゴンクロー〉が接触します。


 天井から斜めに飛んで来た私を受け止めるように水平に近い角度で掲げられた盾が、衝撃を受け止めるようにいったん引かれ、盾の上で私を滑らせるように水平から垂直に向きが変わります。


 そして、右手の剣の柄を盾の裏側に押し当てることで両手の力で盾を押します。


 突撃の衝撃を見事な盾の操作で受け止められた私は、両手の力で放たれたシールドチャージで吹っ飛びました。


 うん……もう、無理。負けです、負け。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 死に戻りしましたし、ログアウトしてインターバルを取りましょう。


 ゲームはゲームです。追い詰められたり、イライラを溜め込んだり、そんなことを感じながらやるものじゃありません。そういう時はすぱっとやめて、違うことをして気分転換です。


 イライラする時は目に見えない疲労がたまっているものです。きちんと休憩を取って、体力が回復すれば精神も落ち着きます。


 というわけで。




 ふっざけんなあああぁぁぁ!?


 何あれ!?何あの超反応!?


 何で背後取ったら即反撃できるんです?しかも斬りつけたと思ったら半回転して盾で殴る?何でそんな動きできるんです?これが噂のチート?チートってやつですか!?


 しかも人の渾身の一撃を簡単に盾でいなすし。思いきり吹っ飛ばすし。顔から落ちて転がりましたよ?一応女の子なんですけど!?


 人を何だと思ってるんですかああああぁぁぁ!!!




 ……ふう。ちょっとスッキリしました。リベンジは明日にしましょう。



 大陸暦1053年 戦の月 27日



 =B9階=


 スッキリしたところで反省会です。


 まず、〈ドラゴンハウル〉。2回止められましたけど、方法は多重発動シールドチャージです。剣の王は当然、空を飛べませんから空中からかければ邪魔はされません。


 最後の突撃の時に気づきました。というか、剣の王子の時と同じですよね。失念してました。


 あとは、盾、ですね。剣の王という名前で、多重発動を駆使する剣技もそりゃすごいんですけど厄介なのは盾です。こちらの攻撃を上手く受け止め、いなし、無効化する。あの堅固な盾を突破しない限りは剣の王は倒せないでしょう。


 あれを何とかする方法があれば、ですが。


 いや、よく考えると私のレベルの方が高いから……でも、それならそもそも盾じゃなくても……んー、でもやったことないからちょっと無理かな……いや、やってやれないことはないかも?


 ちょっとアイデアらしきものは思いついたので練習だけして上手くいきそうならやってみましょう。




 というわけで剣の王のいる部屋です。


 練習の成果は……まあ、何とかなりそう、という所です。


 じゃあ、リベンジと行きましょう。


 まずは〈ドラゴンウィング〉で空中に飛び上がり、剣の王の頭上やや上、剣の届かない位置を取ります。

 剣の王は盾を頭上に掲げ、こちらをうかがっています。接近すれば即、突きの連打が飛んでくるでしょう。


 まあ、無策に近づいたりはしませんけれど。


 「じゃあ、行きます『よ』っ!」


 〈ドラゴンハウル〉!


 剣の王が頭上に盾を掲げたまま、一瞬、硬直します。


 そして〈ドラゴンテイル〉!


 狙いは、盾を持っている左手!


 硬直の一瞬を狙って竜の尾を盾の下にもぐらせ、左手に巻き付かせ、引っ張ります。


 剣の王自体は大きさはごく普通の成人男性程度。見た目は鍛えられていますが剣の王子みたいな巨大でもなく、力は鍛えられた人間レベル、でしょう。それは前回戦って受けた攻撃でもわかります。


 なら、レベルが上の私のアーツの方が、力は強い!


 左手を抑え込んでしまえば、盾は使えなくなるはず。抑え込めなくても動きを阻害できればいい、と考えましたがやぱりパワーは私のアーツの方が上のようです。


 剣の王が右手の剣でアーツ〈スラスト〉を放ちます。


 〈ドラゴンスケイル〉を貫通し、私の左腕を突き刺しますが、無視。代わりに〈ドラゴンバイト〉を発動。剣を持つ右手の手首に噛みつかせます。


 左手を抑え込めたならこのまま剣を持つ右手も〈ドラゴンバイト〉で抑え込む!


 ちょうど私が空中に、剣の王の右手を〈ドラゴンバイト〉、左手を〈ドラゴンテイル〉で広げたような体勢になります。


 この状態なら私がアーツを維持する限りは向こうも動けません……いえ、2種類のアーツを同時に発動させて抑え込むのは結構大変ですけど。


 問題は。


 ここから私がどうやって攻撃するか、ですが。


 「〈ドラゴンクロー〉発動」


 ゆっくりと、あえて声に出しました。


 3種アーツ同時発動。


 ここで〈ドラゴンバイト〉や〈ドラゴンテイル〉を使って攻撃すると多重発動とみなされて、攻撃が命中した瞬間に攻撃したと判定されて抑え込んでいるアーツが消えてしまいます。右手を〈ドラゴンテイル〉で抑え込まなかったのも、間違えると左手を抑えた〈ドラゴンテイル〉が消えてしまうからです。


 ゆっくりと、〈ドラゴンクロー〉の爪を剣の王の胸に押し付け、押し込んでいきます。


 ごめんなさいね。加虐趣味はないんですけど、これくらい動かすのが精一杯なので。

 頭の中の線がぷつんと切れそうなほど集中して、なんとか爪を根元まで押し込んで、剣の王は倒れました。

 ちょっとみっともない気はしますけど、勝利は勝利です。


 隙がなく安定しているというのは強い、とあらためて思いました。




 よくよく考えてみるとですね。


 盾=〈ドラゴンスケイル〉の自動防御も含めた防御性能。


 剣=〈ドラゴンクロー〉〈ドラゴンバイト〉〈ドラゴンテイル〉の多彩な攻撃。


 これに〈ドラゴンウィング〉の機動力、〈ドラゴンハウル〉での妨害能力、〈リジェネレーション〉での回復と継戦能力があると考えたら。


 〈竜闘術〉もたいがい隙はないですね。


 同じ上級スキル同士と考えたら、本来なら相手はボスといえ私の方がスキルもアーツもレベルは上なので、圧倒して倒せてもおかしくなかった……?


 やめましょう。


 中の人が未熟だというのを思い知らされてしまいます。

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