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 大陸暦1053年 戦の月 22日



 =B9階=


 【HP】を確認します。残り48。瀕死の重傷、て気持ちでしたけど思ったより残っていました。吹き飛ばされて叩きつけられた衝撃の方が大きかったんですね。


 とはいえ、一撃で半分以上減らされてますし、次受けたら生き残れるかはわかりません。何より巨大な金属の塊が自分に叩きつけられること、高速で壁に激突することはいくらVRでも精神衛生上あまりよろしくありません。


 〈ドラゴンウィング〉発動。背中に翼を出します。


 「来る……『なっ』!!」


 近づいて巨剣でこちらを薙ぎ払おうとしたタイミングで〈ドラゴンハウル〉で動きを止めます。


 とにかく。間合いを詰めませんと。


 ふわっと浮かぶと翼で体勢を変え、足で壁を蹴って加速をつけて一気に剣の王子に接近します。

 あれだけの巨剣です。懐に入ってしまった方が相手も厄介でしょうし、振り回された時にこちらが受ける威力も減ります。剣の根元、柄を握る手に近い部分で攻撃を受けた方が衝撃を受けなくて済みます。


 よしっ、攻撃を受ける前に懐に潜りこめまし……あっ。


 思わず上を見上げました。


 いつの間にか剣の王子の構えが変わっていたからです。

 あの巨剣を大上段に振りかぶって、真下に振り下ろす構え。


 確かに水平に薙ぎ払う動きなら、相手との距離が近い方が受けるダメージを減らせます。巨剣の軌道とスピードから受け止めた時に自分が受ける力を考えれば、根元の方がより自分が受ける力と衝撃が小さくて済みます。


 逆に上から下へ叩きつける動きなら。


 巨剣の重量でより加速し、かつ上から下へ来る攻撃を受けることで剣の重みも受け止めないといけないことから、より強い力と衝撃を受けることになります。


 ようは振り下ろされる攻撃の方が威力が高い、てことで。


 はっ、と気づいて、左に飛び退きました。


 上から下への振り下ろしなら攻撃の軌道は直線。とりあえず左右に大きく動いておけば私でも回避はできます。


 間髪入れず巨剣が軌道を変えて迫ってくるので上へ逃げます。


 私の動きに二歩踏み込んで今度は下から上へ斬り上げてくるので、兎に角斜め上に飛んで逃げます。かなりこちらの動きに対する反応が速い(もしかするとスキル〈先読み〉の影響?)ですが、攻撃が大振りの分、離れた間合いなら動き回っていれば回避はできそうです。


 とはいえ、当たれば即死の高速で振り回される金属の塊から逃げ回るのは気分は良くないですけどね。


 何とか天井の隅まで逃げのびました。


 この部屋、剣の王子があれだけの巨大な剣を振り回す性質だからか前の十剣の騎士より部屋が広くなっています。天井も当然、あの剣を大上段に構えられるくらいには高くなっています。


 そんな部屋の天井の隅に陣取った場合、相手の攻撃が届くか?


 もちろん届きません。部屋を動き回ることができて前後左右の距離は詰められても、空は飛べないので上下の間合いは詰められません。あの大上段の構えを見上げた時に実はこの部屋、他の部屋よりも天井も高くなっていることに気づきました。


 剣の王子は部屋の中央に陣取り、巨剣を構えこちらをうかがっています。

 間合いに入れば斬る、そんな雰囲気をひしひしと感じます。


 「まあ、でも」


 〈ドラゴンクロー〉をちょうど自分の目の前に発動させます。両足を壁につけます。


 「その間合いはさっき、攻略済です」


 〈ドラゴンクロー〉を構えて、両足で壁を蹴ることで加速をつけて〈ドラゴンウィング〉を突進します。

 高速で接近する私を迎え討つべく、剣の王子が動き出すその瞬間。


 「『遅い』!!」


 〈ドラゴンハウル〉。


 一瞬の硬直。けれど十分で致命的なその一瞬で。


 恐ろしいスピードで私の全体重をかけた〈ドラゴンクロー〉が頭の部分に深々と突き刺さり、そのまま勢いで剣の王子を床に押し倒しました。





 「あ、と、うわっ……痛っ!?」


 一撃で倒すつもりで全速全力で突撃したのはよかったのですが、まさかそのまま押し倒すことになるとは思わず、床をごろごろ転がってそのまま壁にぶつかる羽目になりました。


 これでダメージ受けて相討ちとかになってたらかっこ悪すぎた……。



 大陸暦1053年 戦の月 23日



 =B9階=


 剣の王子のカードは回収して、次の部屋に来ました。流石にちょっと休憩はいれました。戦闘中に相手を分析して、勝つ方策を練らないといけない本気の戦闘って疲れますよね。


 やっぱり途中の通路で敵が出てこないので、この「剣の王国」はボスラッシュステージのようです。


 扉を開けて入った次の部屋も剣の王子の部屋とさほど変わらない部屋です。

 部屋の中央には豪華なドレスに王冠をかぶった美しい女性の像が建っています。足元にはカードが飾ってあるのも見えます。


 ここまでの流れですと、あの像と戦うことになると思いますが、あんなひらひらした格好で戦えるのでしょうか?


 それと気になる点が2つ。1つは像の彼女が手にしている武器。さきほどの剣の王子とは対照的な武器です。

 護拳部分と刀身に美しい装飾の刻まれた刺突剣。レイピアと言う奴ですね。

 もう1つは、彼女の背中。羽があります。鳥でもなく、〈ドラゴンウィング〉を使った時に出てくる蝙蝠でもありません。

 半透明の、2対4枚の細長い羽。トンボの羽、ですね。


 一歩近づくと、像が動き始めました。



 剣の女王

 ボス

 レベル:30

 種族:魔法生物

 属性:-

 スキル:〈剣術〉〈高速機動〉〈高速飛行〉〈状態異常耐性〉



 〈ドラゴンスケイル〉が反応し、攻撃を防ぎました。


 は!?


 〈鑑定〉をして結果が表示された瞬間に、あの剣の女王というボスは私に接近し、攻撃を加えていました。


 私からは接近してきているはずの剣の女王の姿が見えません。何故かって?


 攻撃が速すぎて、その攻撃全部に〈ドラゴンスケイル〉が反応して発動するから目の前が鱗だらけで視界が防がれるんですよ!


 ただ、ダメージは受けていません。


 スピードはあるけど、攻撃力そのものは高くないようです。細剣による突き攻撃なので鎧とかでも隙間を狙ったりすればダメージを与えられるのでしょうけれど、残念ながら〈ドラゴンスケイル〉は自動発動アーツ。穴はありません。


 とりあえずこちらが倒される心配はなさそうです、が。


 カードを手に入れるには剣の女王を倒さなければなりません。


 〈ドラゴンスケイル〉が反応しすぎて今も目の前に10枚以上の鱗が展開してしまっています。つまり、恐ろしいスピードで動いて、攻撃してきている証です。


 〈ドラゴンテイル〉で恐らく剣の女王がいるであろう場所を薙ぎ払いました。


 〈ドラゴンスケイル〉の反応が止んで前が見えるようになり……なったのは一瞬でした。


 〈ドラゴンテイル〉を回避して、いったん離れたのは見えました。次にはもう私のすぐそばまで戻って攻撃を加えてきた。


 じゃあ、これです。


 「いい加減に、『止まれ』!!」


 〈ドラゴンハウル〉。高速で動く相手を捕らえるには一番の手段です。


 目の前に停止した剣の女王。〈ドラゴンクロー〉でそれを貫きま……せん?


 紙一重で爪での突き攻撃を体をひねってかわしています。


 ええぇ……〈ドラゴンハウル〉がかかって硬直したはずですよ。


 そこまで速いんですか。


 〈ドラゴンハウル〉で硬直している時間は一瞬です。それが具体的にコンマ何秒かは私にはわかりません。同じように一瞬で、普段は意識していない時間があります。私が〈ドラゴンクロー〉を使うことにする意志決定にかかる時間、〈ドラゴンクロー〉が発動する処理時間、至近距離で〈ドラゴンクロー〉が対象に到達するまでにかかる時間。


 その私にとって一瞬でしかないコンマ何秒の時間が、問題になるくらいに、速い。


 そのコンマ何秒が積み重なっただけの時間があれば、あの女王は硬直を抜けた後に私の攻撃を見て、回避ができてしまう。


 あれ、私、この女王に倒されないですけど、倒してカードを入手できるんでしょうか……?

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