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 大陸暦1053年 戦の月 20日



 =B9階=


 〈鑑定〉スキルはレベルと種族、属性、所持スキルが表示されます。便利ではあるんですがそれが全てではないな、と感じます。


 例えば、目の前にいる「十剣の騎士」。


 持ってるスキルはボス特有の〈状態異常耐性〉をのぞけば〈剣術〉と〈連撃〉だけ。〈剣術〉は剣を使うなら基本のようなものですし、〈連撃〉も連続して攻撃ができる、くらいのスキルと思われ、言うほど大したスキルでもないように見えます。


 ただし、剣が9(・)本(・)も(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)、ですが。


 スキル欄に何もなかったですが、どういう能力なのか、あるいは装備品としての効果なのか。8本の剣が宙を舞い、変幻自在に全方向から斬りかかって来て、かつ〈連撃〉の効果で攻撃がまったく途切れません。

 こちらも必死で〈ドラゴンスケイル〉で攻撃を止めていきますけど、さながら滅茶苦茶なスピードのもぐらたたきです。もぐらを叩くんじゃなくて斬りかかる、突いてくる剣にあわせて鱗を発生させる、ですが。


 なお悪いことに正面から斬りかかってくるのが本体の持つ剣と宙の4本で5本だけ。残り4本は背後の死角から攻撃してきます。

 一応、自動発動した〈ドラゴンスケイル〉が防いではくれますが防ぎきれずに背中にちょっと切っ先が刺さったり、刃がかすったり、衝撃でよろけたりで確実に【HP】が削れていきます。

 何とか〈竜闘術〉も〈ドラゴンスケイル〉も30レベルを超えていて相手のレベルより高く育っていたおかげで、致命傷には至っていませんが。


 「このっ!」


 〈ドラゴンバイト〉が宙を舞う剣の1本に噛みつきます。


 剣そのものを食べてしまうか、あるいは魔力で動いているならその魔力を喰って無力化できれば……!

 が、1本をくわえて抑えつけただけで、動きそのものを止めることはできません。


 だめか。


 じゃあ次は。


 「調子に……『のるなっ』!!」


 思いっきり大声で叫びます。


 別に腹が立ったとか叫びたくなったとかそういうわけではなく。大声を発する動作をキーに発動するアーツ〈ドラゴンハウル〉。


 一瞬、騎士の動きが「硬直」の効果で止まります。ほんとに一瞬ですが。

 それでも〈連撃〉がキャンセルことで息もつけない連続攻撃が止まります。


 そこに〈ドラゴンクロー〉を全力で突き入れる!


 ガキンッという金属音が鳴り響きます。


 宙に浮いてた剣4本が交差して〈ドラゴンクロー〉の爪を受け止めています。


 ぐっ……硬直させてもそっちの防御は間に合うんですか。しかも防御に使ったのは4本。残り4本は背後と上空からこっちに斬りかかってきていますし。


 4本の剣が〈ドラゴンクロー〉を押し返して正面から斬りかかってきます。〈ドラゴンスケイル〉で防いで……いや。


 そもそも自分で防御できない攻撃でも〈ドラゴンスケイル〉の自動防御でダメージはある程度防げてる。なら。自分の、スキルとアーツのレベルを信じろ、ノエル!


 4本の剣が斬る、刺す、それを黒い鱗が防ぐ。そこを無理矢理突破し、空中の剣が割り込んで防御できない間合いを取る!


 もらっ……!?


 至近距離から腹に〈ドラゴンクロー〉を突き刺そうとした瞬間。


 騎士のお腹の部分が両開きに開いたかと思うと、そこから恐ろしいスピードで剣が発射され、〈ドラゴンスケイル〉を貫通して私の喉を貫きました。


 いや、十剣の騎士というわりに9本しか剣使ってないなあ、とは思いましたけど。そこで隠し武器ですかあ。

 不意打ちの奥の手、でしょうけれど、気づかないのは油断……油断ですかね?



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 「負けましたか」


 「負けましたね」


 B6階以降すっかりおなじみになりつつあるフェルエさんのところで一息つきます。

 デスペナルティの確認を……ああ、アイテムでついにHP回復ポーションが1個吹き飛びました。ノクターナルさんの竜珠は大丈夫のようですが。


 「デスペナルティのアイテム損失のチェックですか」


 「はい……まあ、なくしたらまずいものもありますからね」


 後ろからちらちらとフェルエさんが私の手元のキャラクターブックをのぞきこみます。


 「なるほど。一応、アイテムのレア度や品質の低いものから失われていきますのでよほど運が悪くない限り竜珠がロストすることはないでしょうけれど、可能性がないわけじゃないですからね」


 ああ、そういう仕組みなんですね。


 「ということでしたら『ノヴェラの加護』はどうでしょう?この加護を受けたアイテムは死亡時のアイテムロストを回避することができます。1回回避すると消えてしまいますが、万一の保険にはいいのではないでしょうか」


 「そんな便利なものがあったんですね。どこで手に入るのでしょう?」


 「3個500ポイントでオクタのショップで」


 「……」


 「……」


 「……課金アイテムですよね、それ」


 「……まあ、ほら。一応私も運営ですから。アイテム販売はオクタの管轄ですけど」


 笑顔ですが、何か焦ってるようにも見えますよ、フェルエさん。


 「オクタさんって天候の女神とかじゃなかったでした?アイテム販売って何か似合わない気が」


 「あー、商売を司るのはどちらかというとティセルなんですが、ティセルは動画とSSサービスの仕事が忙しすぎるので、似た者のオクタが代理で担当してるんですよ」


 すごくどうでもいい理由でした。


 あ、ノヴェラの加護は買わせていただきました。さっそくノクターナルさんの竜珠に使っておきます。


 何気に初課金でした。お金で買える安心なら安いんです。



 大陸暦1053年 戦の月 22日



 =B9階=


 デスペナルティも回復したところで再戦です。


 もっとも相手の手の内はだいたい前回で見切っているんですけれどね。


 部屋に入ると、床に刺さっていた剣が騎士の像の周りに8本集まり、十剣の騎士が動き出します。

 8本の剣が宙を舞い、私に襲い掛かって来ます。


 「悪いです……『がっ』!!」


 〈ドラゴンハウル〉。


 剣と騎士の動きが一瞬止まります。

 1回目はここで即攻撃したら4本の剣でガードされたので。


 〈ドラゴンテイル〉。


 空中の8本の剣をターゲットにして薙ぎ払い、弾き飛ばします。


 〈ドラゴンテイル〉の尻尾による攻撃は広い範囲を攻撃できる範囲攻撃であること、命中した相手を衝撃で弾き飛ばせる(こういうのをノックバックと言うそうですが)のが特徴です。


 これで邪魔者はいなくなりました。


 「で、ここでお腹が開いて隠し剣で攻撃、ですよね?」


 相手が人間ならここでぎくっ、とさせられるんでしょうが、残念ながら動く像なので表情は変わりません。見た目フルフェイスのヘルメットですし。


 言葉の通りにお腹の部分が開きます。


 〈ドラゴンバイト〉。


 開いたお腹の部分に竜の口を突っ込み、中の剣をくわえて抑え込みます。剣は発射されません。


 「二度は、受けませんから」


 そのまま〈ドラゴンクロー〉を発動。鋭い爪が騎士の首を斬り飛ばしました。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 戦闘が終わり、床に転がったカードを拾います。



 「十振りの剣」のカード

 分類:イベントアイテム

 レア度:1

 品質:A

 重量:-

 十振りの剣が描かれたカード。



 メッセージが出ますので「10枚の貨幣」のカードはここで捨てて行きます。所持品から出して床に置くとそのまま消えてしまいました。またB6階の倉庫に自動的に安置されるのでしょうか。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 奥の扉を開けて先に進むとまた通路が続きます。


 巡回モンスターの姿も見えません。これはもしかするとボス戦のみ連続というパターンかもしれません。

 途中何度か曲がりつつ一本道を歩いて行くと扉にたどり着きました。


 開けてみます。


 中は十剣の騎士のいた部屋よりさらに広くなっています。

 奥に扉があり、部屋の中央に像が建っているのも十剣の騎士の部屋と変わりません。


 像は筋骨隆々のマッチョな上半身裸の若い男性の像です。大きさは先ほどの騎士と同じ3メートルくらい、なのですが何より目立つのは同じくらいの長さの剣をかついでいることです。


 刀身の幅も広く、剣というよりは巨大な鉄の板という感じです。


 ……流れ的にあれと戦うことになりそうなんですが、あの、全長3メートルはありそうなごつい剣を振り回せるんでしょうか。


 恐る恐る、部屋に一歩足を踏み入れます。

 像がゆっくりと動き始め……いあ、ゆっくりじゃなくて速い!?



 剣の王子

 ボス

 レベル:30

 種族:魔法生物

 属性:-

 スキル:〈剣術〉〈先読み〉〈状態異常耐性〉



 〈鑑定〉結果を見ている間に一気に間合いを詰めるとその巨大な剣を横なぎに薙ぎ払いました。


 〈ドラゴンスケイル〉で受け止めます。反応はできました。

 けれど、その勢いと重量はとうてい私が受け止められるものではなく、受け止めた〈ドラゴンスケイル〉ごと吹き飛ばされて壁に叩きつけられます。

 い、一応、受け止めた分でダメージはそれなりに防いだようですけど、吹き飛ばされて壁に叩きつけられた分でそれどころじゃないですね。


 うぐ……VRですが体がずきずき痛みます。


 なるほど。


 攻撃を防いでも絡みつかれたり、溶解液が飛んできてダメージを受けたりするような「回避しないといけない攻撃」は苦手という意識はありましたが。


 こういう「そもそも攻撃を受けきれない」というパターンもあるんですね。


 いや、余裕はなくて結構ピンチなんですけれどね。

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