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 大陸暦1053年 戦の月 2日



 =B6階=


 ドアイミテーターとは上の階で出てきたコインパックと基本的には同じです。

 ようは物品に化けて(今回は扉ですが)相手を油断させて不意打ちで倒す一発屋なわけです。


 その不意打ちが失敗に終わった時点でただの普通のモンスターなわけで。


 扉から口が出てきて噛みついてきたり、拳が出てきて殴ってきたりするのは面白かったですけど、大して強くはなかったでした。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 問題が発生しました。


 何か近づいただけで扉が攻撃してきたので、反撃して倒しました。これは私は悪くないと思います。正当防衛です。


 しかし、このドアイミテーター、本当に扉の役割も担っていたらしく、倒してしまったら扉がなくなってしまいました。

 私の目の前には大量のコインと交換所で交換できるアイテムとして並んでいた潜水服と黄金の杖があります。


 どう見ても、私が扉を壊して侵入した泥棒か強盗です。


 どうしましょうか……うん、ちょっと思いついたことがあるので試してみましょう。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 壊れた扉とコインとアイテムはいったん置いておいて、カジノに戻ってきました。

 トランプのテーブルに行き、私がブラックジャックをした時のディーラーだった人形を捕まえます。


 「ねえ、さっきのゲーム。やっぱりあなたたちがイカサマやったでしょ?」


 「何モ問題ハアリマセン。オ客サマ」


 相変わらずの塩対応です。


 「イカサマで勝った分のコインは返して欲しいんだけど?」


 「何モ問題ハアリマセン。オ客サマ」


 「返してくれないなら暴れるぞ?」


 「何モ問題ハアリマセン。オ客サマ」


 同じ返事しか返してくれませんね。


 「ところで奥の部屋に間違って入って金庫の扉を壊しちゃったぽいんだけど大丈夫?」


 「何モ問題ハアリマセン。オ客サマ」


 「じゃあ中身もらっていってもいい?」


 「何モ問題ハアリマセン。オ客サマ」


 よーし、言質取った。なのでコインとアイテムはもらっていきましょう。



 え?詭弁?

 いいんですよ。こういうのは「自分は正しい」という心の中での言い訳が大切なのですから。




 部屋にあったコインの枚数、20万枚。

 別に1枚1枚数えたわけじゃなくて回収しようとしたら勝手に所持品欄に入ってくれました。


 潜水服。

 黄金の杖。


 それぞれこんなアイテムです。



 潜水服

 分類:防具(全身)

 レア度:5

 品質:A

 重量:6

 装備効果:〈水中行動〉〈水中呼吸〉全能力値-5

 耐久度:1000/1000

 水中で活動するための全身を覆う魔法の服。



 黄金の杖

 分類:武器/両手杖

 レア度:5

 品質:A

 重量:6

 装備効果:魔法威力+2

 耐久度:1000/1000

 黄金でできたシンプルな杖。雷の魔力と相性がいい。



 潜水服はいわゆる古い宇宙服を想像してもらうとわかりやすいと思います。今、装備がないので着てもいいかな、と一瞬考えましたが、よく見たら身に着けると能力値が下がるようです。動きにくい、ということなんでしょうか。そのわりには精神力とか魔力まで下がるみたいですけど。


 黄金の杖は杖というよりは黄金の長い棒です。かなり重いです。装備効果は正直あってなしですね。


 そしてコインとアイテムを回収し終わったところに、2枚のカードが落ちていました。



 「1枚の貨幣」のカード

 分類:イベントアイテム

 レア度:1

 品質:A

 重量:-

 1枚のコインが描かれたカード。



 「10枚の貨幣」のカード

 分類:イベントアイテム

 レア度:1

 品質:A

 重量:-

 10枚の積まれたコインが描かれたカード。



 薄い金属の板でできたカードのようです。B10階の扉にはめ込めそうなカードですね。おそらく交換できるカードと同類なのでしょう。


 これも拾って回収しておくことにします。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 「アリガトゴザイマシタ。マタノゴ利用ヲオ待チシテオリマス」


 ふっふっふ。私の手元には今、交換した3枚のカードがあります。



 「貨幣の王子」のカード

 分類:イベントアイテム

 レア度:1

 品質:A

 重量:-

 貨幣の王国の王子が描かれたカード。



 「貨幣の女王」のカード

 分類:イベントアイテム

 レア度:1

 品質:A

 重量:-

 貨幣の王国の女王が描かれたカード。



 「貨幣の王」のカード

 分類:イベントアイテム

 レア度:1

 品質:A

 重量:-

 貨幣の王国の王が描かれたカード。



 回収したコイン20万枚でカード3枚を交換してもらいました。


 すごいマッチポンプな気がしますが、たぶん気のせいでしょう。


 とりあえず5ヶ所にはめ込むうち5枚分入手できたわけですが、これをはめ込んで終わりというのはまずないだろうなあ、と思うので他の階層の探索もする必要がありそうです。


 というわけでまずはエレベーターまで戻って他の階層を探索しましょう。


 戻って。


 カジノへ入ってきた扉まで来て思い出しました。


 ゲイザー!!


 ここに来るまでにゲイザーと追いかけっこをしてきました。この扉を開けてゲイザーが待ち構えていたらどうしましょう。どうしましょう、と言っても死ぬしかないんですが。

 死んだら、死に戻りしたとして……この階層のカジノもやり直しになりかねません。


 ……まあ、悩んでいても始まりませんね。思い切って扉を開けてみます。


 ゲイザーはいませんでした。ちょっとほっとしました。


 元の場所にはいたので、結局、エレベーターまで追いかけっこはさせられたんですけどね。



 大陸暦1053年 戦の月 3日



 =B7階=



 ここは杖の王国。

 魔術と魔力の支配する国。

 魔力の何たるかから目をそらす者は、

 ただ屍を晒す。



 エレベーターを出るとB6階と同じようにマークと文章の書かれた銘板があります。

 文章は相変わらず依頼して訳してもらいましたが、逐一掲示板で翻訳してもらっているので、文章が全部公開されているんですよね。

 何か「本格的な謎解きダンジョンは久しぶり」と言って考察・議論が賑やかになっていましたが……後で参考にさせてもらいましょう。


 では、扉を開けると。


 そこは真っ暗でした。


 私は竜の力の影響を受けていたせいか、光がなくても物が見えるという性質を持っています。

 なので今まで明かりがなくてもダンジョン内で普通に物が見えていました。


 しかし、今は扉から一歩先も真っ暗でまったく見えません。


 ううむ。とは言っても進まないわけにはいきませんし、とりあえずは試しに入ってみましょう。


 とにかく通路は続いているようです。


 ゆっくりと一歩ずつ、歩いていきます。


 死んだときに行くフェルエさんがいる空間も真っ暗ですし、今さら暗闇なんて……と思いましたが、根本的に1つ違う所がありました。


 自分の姿が見えない、ことです。


 フェルエさんがいる空間は確かに真っ暗で何もないのですが、その中でフェルエさんの姿が見えるのは別として、視線を下に向ければ自分の体が見えますし、目の前に手を持ってくれば自分の手が見えます。

 しかし、今、私が歩いているこの闇の通路は、視線を下に向けても自分の足元すら見えません。自分の顔の前に手を持ってきても、気配は何となく感じても何も見えません。


 むむむ……自分の姿が見えないというだけでこうも違う感じなんですね。真っ暗というか目が見えない、と言う方が正しいのかもしれません。


 思わず左手をまっすぐ横に伸ばしました。


 壁に手が当たる感触が、します。


 文字通りの手探りで進んでいく感じですが、左手を壁につけて通路を確認しながら進むことにしましょうか。


 その時、首筋にちくっ、と痛みが走りました。


 え?




 「死すべき運命の分岐路に立つ、異界の魂よ。あなたには2つの選択肢があります。このままあなたの死を世界の歴史に刻むか、死の運命をなかったことにするか、です」


 おお!?


 普通は死ぬと背景から色が消えて灰色になって、自分が死んだことがわかるのですが。何も見えないのでまったく気づきませんでした。


 「……何で死にました?」


 「首を斬られました。致命的一撃による即死です」


 どうやらモンスターでもいたようです。しかし、何も見えなかったし、気配も感じませんでしたよ?

 首を斬られるほどに近くにいたのにその存在をまったく感じないなんてどうしたものだか。


 「『魔力から目をそらす者は』」


 思い悩んでいた私の目の前に、フェルエさんが指を突きつけました。


 「『ただ屍を晒す』。まさしく、今のノエルさんでしたね」


 フェルエさんの指先は、私の「目」を指し示しています。

 ああ、なるほど。あの銘文はそういう意味ですか。



 大陸暦1053年 戦の月 4日



 =B7階=


 モンスターがいるようなのでその日はいったんプレイは終了にして、日をあらためました。


 今、私がいるのはB7階の最初の部屋。扉を開けると何も見えない真っ暗闇が目の前に広がっています。

 軽く一度、深呼吸をして、私はスキルを発動させます。


 〈魔力知覚〉


 〈竜闘術〉の習熟のために覚えた最初のスキル。魔力を見るためのスキルです。

 どうやらこの階層は魔力が全て、魔力を見ないと何も見えない、ようです。


 私の目の前に白い線で通路の輪郭が描かれます。


 黒い画面に白い線で立体が描かれる、ワイヤーフレーム、という感じですね。


 そして右手前にそいつはいました。


 一言で言うなら「白い線だけで描かれたカマキリ」。

 いかにも腕のの鎌で首を斬りそうだし、最初に死んだのはこいつの仕業でしょう。


 こいつの正体は。




 ……〈魔力知覚〉しながら〈鑑定〉ってできないんですね。

 同時にスキルを使えば、と思ったんですけど特殊な知覚を通じてスキルの発動はできないようです。


 つまりこのカマキリ君、正式名称を調べる方法がない……。

カマキリモンスター、頑張って名前も考えたのですが、後々の都合もあって、結局、名前が出ることがなくなってしまいました。

何てかわいそう……w

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