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 大陸暦1053年 戦の月 2日



 今まで明かりもないダンジョンだったのが、ここではむしろ照明がまぶしいぐらいです。


 テーブルやゲーム台っぽい装置を横目に見ながら部屋の中をまっすぐ進むと、カウンターに突き当たります。

 カウンターには同じようにブリキの人形モドキが受付のごとく立っています。その背後には、豪華な衣装をまとって王冠をかぶった老人、女性、少年の3体の像が並んでいます。


 「ヨウコソ、『貨幣ノ王国』ヘ。コチラデハ、アナタノ手持チノアイテムト、コインノ交換ヲ承ッテオリマス。マタ、アナタガ稼イダコインは豪華ナアイテムト交換ガデキマス」


 「えーっと……交換って何と交換できるんでしょう?」


 「交換アイテムハ、コチラニナリマス」


 文字読めるのでしょうか……と思いつつ提示されたリストを見ます。相手の言葉が理解できるのと同じように、なぜかここの文字は読めるみたいですね。



 潜水服……1000枚

 黄金の杖……5000枚

 「貨幣の王子」のカード……10000枚

 「貨幣の女王」のカード……50000枚

 「貨幣の王」のカード……100000枚



 潜水服に黄金の杖というものがどういうアイテムなのかはわかりませんが、目をひくのは3種類のカード、ですね。

 大きさとか見たところ、あのB10階で見た扉にぴったりはまりそうなカードです。


 つまり。

 何とかここでコインを規定枚数稼いで、このカードを入手すればいい、ということでしょう。


 「じゃあ、コインへの交換をお願いします……これ、交換できますか?」


 手持ちのアイテムを出してみました。骨、欠けた魔石は1個10枚、ポーション2種類は1本50枚、それ以外のアイテムは1個1枚のようです。

 ノクターナルさんの竜珠?10000枚って言われたけど交換する気はないですよ。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 とりあえず骨と欠けた魔石を50個ずつ交換してコイン1000枚。これを元手と考えましょう。

 私はトランプが並べられているテーブルに向かいます。


 「ここでは何ができるんですか?」


 「コチラデハ、バカラ、ポーカー、ブラックジャック、ノ、3ツノゲームヲ選択デキマス」


 よしよし。お目当てのゲームはあるみたいですね。


 「じゃあブラックジャックをお願いします」


 「了解シマシタ」


 テーブルにつくとブラックジャックのゲームが始まります。


 ディーラー役の人形と1対1の勝負ですね。まあ、最初の勝負は勝ち負けは割とどうでもいいですが。


 問題はカードが何が使われて、使われたカードがどうなるか、です。


 カジノも今では一般的になり、ブラックジャックも定番のトランプゲームではありますが、現在ではVRカジノ以外ではブラックジャックは遊ばれていません。


 理由は2つあって、ブラックジャックはプレイヤー側の対策、必勝法ともいうべき手段がかなり確立されてしまっていること、そしてカジノの運営側の儲けが少ないゲームだからです。


 小説やコミック、映画などの物語でもよく取り上げられているので知ってる人も多いと思いますが、「カウンティング」という手法ですね。


 ざっくり言ってしまうと、ゲームに使われたカードから残りのカードの数字とスートを推測し、そこから統計的に役の数字の結果の出る確率と最適な行動を算定する、というものです。


 これに現実で対策すると色々と露骨になるので、出るカードを機械で完全にランダムにする、というVRでしかカジノ運営側にとって都合よく、プレイヤー側も遊んで楽しいゲームにならなくなったので現実のカジノでは遊ばれなくなった、というのが現状です。


 1ゲーム終わって、使用されたカードは専用の置き場にストックされました。


 本来ならVRカジノだと即戻されてしまうのですが、まあ、これはあくまで運営側が稼ぐものではなく、ゲームの途中の障害、ですのでプレイヤー側が勝ちやすくできているのでしょう。


 ふっふっふ。ブラックジャックは昔、彼に教わってからその後、強すぎて誰も遊んでくれなくなった経歴を持つ私です。


 アイテムを全部交換するのに必要なコインは約17万枚。

 しっかり稼がせてもらいますよ。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 異変が起きたのはだいたい手持ちのコインが8000枚越えた当たりでした。


 ブラックジャックのゲームの流れとして。



 1.賭けるコインの数を決める。


 2.自分とディーラーに2枚ずつカードが配られる。1枚は表、1枚は裏。この時点で21(10、J、Q、KとAの組み合わせ)の場合、「ナチュラルブラックジャック」と言って、自動的に勝利となる。プレイヤーの勝利の場合、賭けたコインが2.5倍払いだされる。


 3.2枚の手札を見て、ヒット(カードを1枚追加する)かスタンド(現在の手札で勝負する)選択をする。この時、ダブルアップ(カードを1枚だけ追加する代わりに賭けるコインを2倍にできる)かサレンダー(賭けたコインの半分を支払って自動的に負けになる)を選択できる。


 4.プレイヤーの手札が確定したらディーラーがカードをオープンする。ディーラーは手札が17以上になるまでカードを引かないといけなく、21を越えるとバストとして負けになる。



 だいたいこんな感じです。


 その勝負では、カードが配られた時点でディーラーがスペードのAとKで「ナチュラルブラックジャック」となり、私の自動敗北となったのですが。


 次の勝負。


 ディーラーの手元にはスペードのAとKが配られていました。

 ナチュラルブラックジャック、私の自動敗北です。


 「いや、ちょっと待って」


 何、この露骨なイカサマは。スペードのAとKはさっき使われて使用済みカード置き場に置かれています。それはまだ元に戻されていません。


 「イカサマでしょ?」


 「何モ問題ハアリマセン。オ客サマ」


 「どう見てもイカサマじゃないですか。どうして連続でスペードのAとKが出るんですか。さっき使われてまだあっちにあるじゃないですか」


 「何モ問題ハアリマセン。オ客サマ」


 外見が人形のせいか、聞く耳持たない感がありありと出ています。

 ぐぬぬ……もしかしてこいつら、一定量コインを稼いだら堂々とイカサマして取り上げるつもりですか。


 「……わかりました。勝負続行しますね」


 「了解シマシタ」




 その後、68回連続でスペードのAとKを出されました。



 

 ブラックジャックはあきらめてスロットマシーンとかもやってみましたが(目押しで777とか出そうと思えばだせなくもないので)、どうやらこのカジノ、コインが1万枚を越えそうになると露骨にイカサマをやってコインを稼がせないようにする仕組みのようです。


 流石にレバー押して止めたのにリールが勝手に回ってハズレになるスロットマシーンには笑ってしまいました。現実にあったら大炎上だろうなあ。


 さて、笑ってもいられません。


 カジノで必要な枚数のコインを稼ぐのは不可能っぽいからです。


 では、どうすればいいか……とにかくこのカジノのあるフロアを回ってみることにしましょう。


 このフロア自体はコインを交換できる受付、トランプゲームを遊べるテーブル、スロットマシーンが並ぶ一角、ルーレットを遊べるテーブル、に分けられます。


 そしてフロアの右奥と左奥にそれぞれ扉があります。

 ダンジョン内で見た扉と同じ扉です。


 右側は「トイレ」と扉に書かれていました。普通に開けて中に入ると別にトイレではなくただの小部屋です。

 左側の扉は「スタッフルーム」と書かれていました。


 特に鍵もかかっておらず、普通に開きます。


 扉を開けても、フロアにいる人形たちは何も言ってきませんし、止めたりもしません。


 ……何か特に問題なく中に入れるのでしょうか。



    ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 中は通路になっていて先に進むと左に曲がった後、部屋に出ました。


 そこには大きな扉があります。

 他のダンジョンの扉と違い金属製、4×3に並んだ四角いボタンがついています。


 何かで見たことあるような……と考えたら、金庫の扉ですね、これ。


 普通ならボタンで暗証番号を入力して開けるのでしょうが、そもそも他人(?)の家(?)に勝手に入って金庫のようなものを開けるなんて泥棒になりかねません。


 んー、しかしこの扉、何か変ですね。近づいてよく見てみると、四角いボタンには何も書いてありません。数字を入力するテンキーでしょうから0~9の数字が書いてないとおかしいのですが。


 あっ。〈気配察知〉のスキルに反応が……目の前?


 次の瞬間、扉がぐにゃりと歪んで牙の並んだ巨大な口が大きく開いてこちらを飲み込もうと迫ってきました。


 「〈ドラゴンテイル〉」


 太い竜の尾が開いた口を叩きのめします。

 思わず反射的にアーツを使っちゃいましたけど、なんですか、これ。



 ドアイミテーター

 レベル:27

 種族:魔法生物

 属性:-

 スキル:〈偽装〉



 〈鑑定〉してみたらこんな感じでした。モンスターですか。

 ……別に泥棒しようと思ったわけじゃないんですけど、なし崩し的に戦闘が始まってしまいそうです。

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