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 大陸暦1052年 土の月 15日



 「ノエルさん、貴女は力を使えていないのではないでしょうか」


 リフレッシュしてボーンゴーレムに挑んでみましたがやっぱり死に戻ったところで、フェルエさんに言われたのがこれでした。


 「スキルとアーツが軒並み1レベルに戻ってしまったのに、力を使えてないと言われても」


 「新しく貴女が得たものは、レベルが戻ってしまったことだけではないはずです。それは、グリムレットが貴女に託した力なのですから」


 ちょっといらっときたので黙って復活しました。


 言っていることは正しいです。わかっています。でも、あらためて言われると腹立つんですよ!



      ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 暗いダンジョンの一室に戻りました。目を閉じて深呼吸をします。


 腹は立ちます。立ちますが、正しいことは受け入れて考えないといけません。どちらにせよ、このままではこのダンジョンの先に進むことができないのですから。


 私は力を使えていない。


 とは言ってもレベルが下がったこと以外で前と変わったところと言うのは1つだけです。


 アーツの多重発動。


 これができるようになったことです(実際、めちゃくちゃシビアなタイミングを乗り越えたら上級スキルではなくてもできるそうですが)。


 多重発動とは、同じアーツを同時に発動させることができるということです。そして、同時に発動させた場合に、効果にボーナスがつくけれど、消費コストが2倍になります。


 今から思えば、ケレス山でヘイズ君と遭遇したあのプレイヤーさんが使っていたのも多重発動だったのでしょうね。2回の斬撃をまるで1回に放ったかのように使ってましたし。


 あれと同じことを〈ドラゴンクロー〉でやることができたら、もっと素早く敵を倒せる?


 とりあえずやってみましょうか。



 ボーンゴーレム

 種族:魔法生物

 レベル:11

 属性:-

 スキル:-


 ボーンゴーレム

 種族:魔法生物

 レベル:13

 属性:-

 スキル:-



 通路から歩いてくるボーンゴーレムが2体。〈鑑定〉で見ますが相変わらずのレベル差です。


 普段は待ち構えていますが、今回は多重発動攻撃の試しもありますから、こちらから攻撃していきましょう。


 「〈ドラゴンクロー〉!」


 アーツの発動に特に声を出す必要はないのですが、気合を込めるという意味も含めてアーツ名を叫んでみました。鉤爪が2つ出て、十字にボーンゴーレムを斬り裂きます。


 ボーンゴーレムがぐらつきます。が、倒れません。


 ……元の威力が低すぎるんですよね。だからボーナスがついて2発分を叩き込めても、弱すぎる。


 【MP】の消費は、普通だと1発で3、〈魔力奪取〉スキルが発動して1回復して差し引き2、というところですが、2発目が6消費して1回復して差し引き5、余分に増えてしまったようです。


 残りの1体からの攻撃を〈ドラゴンスケイル〉で受けて私の【HP】5分の1ほど減ります。


 「もう1度っ!」


 今度は拳を握りこんでのパンチ連打。ダメージは与えているようですが、倒れる気配はありません。


 攻撃していないもう1体が同じように攻撃してくるので〈ドラゴンスケイル〉を……て、こちらも多重発動ができましたね。鱗2枚を重ねて、攻撃を受けます。


 やっぱり私の【HP】が5分の1ほど減ります。いや、厳密には少しは受けるダメージが減っているのですが本当に誤差程度でしかありません。


 ……多重発動、結局地力がないから、あんまり意味がない?


 もう1体が即座に斬りかかってきたのでこちらも反射的に鱗2枚で受け止めます。


 〈ドラゴンスケイル〉が錆びた剣を受け止めました。


 ダメージは受けません。



 あれ?


 なんで?



 それに気づいて、一瞬、何が起こったかわかりませんでした。何が起こったか把握しようとして、私の動きが止まりました。


 そこにボーンゴーレムの2撃目が。


 まずいっ、と思って慌てて〈ドラゴンスケイル〉を発動させます。


 自分の周囲を覆う黒い鱗が出現します。


 慌てたせいでアーツの制御に失敗してしまったようです。ノクターナルさんとの練習で初めて〈ドラゴンスケイル〉を使った時と同じですね。



 私の【MP】が0になりました。



 はい?



 世界がぐるぐる回るような感覚に襲われます。


 【MP】が0になると「魔力欠乏」という状態異常になります。呼吸が荒くなり、眩暈がするようになります。眩暈がする、てこんな感じなんですね。


 それはそれとして、この状況ではとても戦闘を続けられる状態ではありません。慌てて元の小部屋まで逃げました。幸い、ボーンゴーレムは部屋には入ってはきません。ここは復活地点だから安全地帯でもありますしね。


 へたり込んで呼吸を整えながら、【MP】の回復を待つことにします。「魔力欠乏」の状態異常になったので、まずこれが回復しないと【MP】の回復が始まりませんが。


 ところで、何がありました?


 〈ドラゴンクロー〉を多重発動させて、元の威力が低すぎてあまり効果がなかったのはわかります。


 〈ドラゴンスケイル〉を多重発動させて、元の効果が低すぎてやっぱりあまり効果がなかったのも、まあ、わかります。


 何で、()()()()防げました?


 何で、私の【MP】がいきなり0になりました?


 一番最初にノクターナルさんとの訓練で経験した時は【MP】は減りましたが3分の1くらいだったはずです。まだあの段階だとほぼ満タンに【MP】は残っていたはずです。


 いきなり【MP】がなくなるようなことはないはずなのですが。


 いったい、何が起こっているのでしょう?



      ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 「はぁ……これ……もしかして……はぁ……多重発動……です……?」


 ぜえはあ言いながら座り込んで考えて、そこに行きつきました。


 多重発動。


 私は同時に同一のアーツを使えることだけだと思っていました。



 もしかして、()()()()()()()使()()()()()()()() 



 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 そうであるなら、さっきの現象の説明がつきます。


 2撃目の攻撃を受けたのは三重目、四重目の発動でボーナスが累積したので防御力が上がったので攻撃を受け止めて防ぐことができた。


 間違って発動させてしまった〈ドラゴンスケイル〉は五重目、発動コストが単純計算で16倍になったので一気に消費MPが跳ね上がって、【MP】を使いきってしまった。


 なるほど、盲点でした。


 例えば、以前あった剣士さんで考えるなら、斬り技を連続で放つにはそれなりの動作が必要です。2連斬までならともかくそこからさらに3回目、4回目をやろうとしたらかなり体勢に無理が生じますし、ダメージを与えるまでがアーツの発動と考えるならよほど無駄なく技を発動させ続けないと、発動が連鎖しません。それに発動コストが増える割合の方がもらえるボーナスより大きければ、そもそも多重発動のメリットがなくなります。


 その辺を考えると二重、同時発動くらいが実用できる限界だというのは理にかなっています。


 スキルとアーツの多重発動について調べた時に、みんな二重発動の話しかしてなかったのでそれしかできないのだと思い込んでいました。


 では、私の〈竜闘術〉では?


 例えば〈ドラゴンスケイル〉。魔力を操作するので発動に必要な時間はほぼ0です。しかも攻撃に合わせて出す必要はなく、任意に発動が可能なのはヘイズ君の模擬戦で使った通りです。


 そして何より。



 ()()()()()()()()()()()()



 思わず笑みがこぼれました。


 ありがとう、グリムレットさん。


 私、やっと、あなたがくれた力の使い方、つかみました。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 では、【MP】が回復したらリベンジです。


 通路の向こうからボーンゴーレムが2体、歩いてくるのを待ち構えます。


 私の周囲では手の平サイズの黒い六角形が現れては消えるのを繰り返しています。


 〈ドラゴンスケイル〉をひたすら絶え間なく発動させ続ける。


 そうすることで多重発動の要件を満たし続け、新しく生まれてくる鱗はより固くなっていきます。


 近づいてきたボーンゴーレムが、斬りかかってきました。既に何回多重発動させたかわからない〈ドラゴンスケイル〉はボーンゴーレムの斬撃をものともせず受け止め、私にダメージはありません。


 「発動、〈ドラゴンクロー〉」


 アーツを発動させると、普段の鉤爪ではなく、小さな針のようなものが現れます。


 試したらできたんですよね。〈ドラゴンクロー〉の消費MP0。


 爪1本、しかも針のように小さなもの。普通なら斬れもしない刺さりもしない、ぶつけてもダメージにもなりません。


 でも、消費MP0で発動させられるということが大事です。


 1本、2本、3本……ボーンゴーレムの攻撃を受け止め続ける間に、針のような爪の数は増えていきます。


 ずらっと私の目の前に円形に並んだ針のような爪の数、24本。


 うん、これくらいあれば十分でしょう。


 「ゴーーーッ!!!」


 掛け声を合図に針爪が一斉にボーンゴーレムに襲い掛かります。


 24本同時攻撃による、二十四重発動攻撃。


 1本目、2本目、3本目……とはじかれますが次々に襲い掛かる針は次第に骨に刺さり、貫くようになり、最後にボーンゴーレムを吹き飛ばします。


 1本の攻撃力はほぼ0でも、累積されたボーナスが大ダメージを叩きだしてくれます。


 そのままバラバラになって、ボーンゴーレムは動かなくなりました。


 「こういう必殺技には名前を付けるものだそうですが……名づけるなら『針千本』ってとこかな?」


 ネーミングセンスないですか……そうですか……。


 大きなお世話ですっ。




 あと、これ、すっごい疲れますね……アーツの発動は頭の中で念じるような感じなのですが、頭の中でずっと〈ドラゴンスケイル〉〈ドラゴンスケイル〉〈ドラゴンクロー〉〈ドラゴンクロー〉て言い続けてるようなものですから……。


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