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ちょっと残酷と思われるシーンがあります。ご注意ください。

 大陸暦1052年 土の月 8日



 ヘイズ君と作戦決行するまでにゲーム内ではけっこう時間がたちました。別に遊んでいたわけではなく、決行するのにいい日時を選んでいただけです。


 つまり、現実の時間では平日、ゲームの中では夜というプレイヤーが極力現れないであろう時間帯、です。


 その間にもちろんいろいろと下調べはしておきました。


 ・場所

 討伐パーティ募集スレに大雑把な地図がアップされていました。問題は本当に大雑把な地図で山の標高だとこの辺り、という感じなのと岩場しかないので目印がないということです。大きな洞窟で入口は目立ってわかりやすいとのことだったので行けばわかるでしょう。


 ・内容

 今回の遠征拠点に使われているアイテムは「インスタントポータル」というアイテムだそうです。これは、簡単に言うと設置した2か所を行き来できるようになるものです。ゲームだと結構一般的だそうですがプレイヤーが独自に設置できるのは珍しいそうですね。

 あと、拠点ということでこの周辺はプレイヤーにとっての安全地帯になっていて、モンスターが侵入できないそうです。つまり、ヘイズ君は近づけません。ただ、これはモンスター種族のプレイヤーが抜け道を見つけているので何とかなるでしょう。


 ・脅威

 そこに行くまでに遭遇する可能性のあるモンスターはかなり高レベルで強いです。なるべく隠れていくとして、パワーアップしたヘイズ君に期待しましょう。あと、基本的に夜は寝ている個体が多く、出現しないそうなので、その面でも夜に行動するのが有利です。

 あと、最大の難関はサルカンドラさんに見つからないことです……見つかったら絶対引き留められた上でめちゃくちゃ怒られますからね。


 整理してみると、割と行き当たりばったりなような気がしますが気にしないで行きましょう。


      ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


 こっそりとサルカンドラさんに見つからないように洞窟を抜け、外に出ます。夜の闇にまぎれて音をなるだけ立てないように飛びながら、目当ての入り口を探します。ヘイズ君の赤い体の色が妙に気になりますが。こういう時は黒竜の方が隠密性が高そうですね。


 幸いにもモンスターには見つからず、目当ての場所を見つけることができました。拠点があるはずの横穴の入り口はかなり大きく、ヘイズ君でも十分通れそうです。


 中に入ってしばらく進むと道が折れ曲がり、明かりが目に入ってきました。プレイヤーは暗視ができない人の方が多いでしょうからそのための灯りでしょうね。それにあわせてヘイズ君の足が止まります。


 「ここからは進めないみたいだ。何か見えない壁がある」


 「それがセーフティゾーンというものでしょうね。ちょっと待ってください」


 私はキャラクターブックを取り出し、システムメニューを開きます。そこから【パーティ申請】というボタンを押し、対象にヘイズ君を指定します。


 パーティ、はRPGでは一般的ですね。協力して戦ったりするためのチームのようなものです。アナザーアース・クロニクルではPC同士ではなく自我のあるNPCとも、パーティを組むことができます。


 そして、プレイヤーのための安全地帯はPCと敵対するモンスターが侵入できないようにできていますが、敵対するPCは侵入ができてしまいます。そしてPCとパーティを組んでいるNPCなら、たとえモンスターであっても中に入ることを許可されてしまうのです。


 これがモンスター種族のプレイヤーが見つけた抜け道、ですね。もっとも普通のモンスターは自我がないのであくまで「モンスターのNPCなら」になりますが。


 「これをどうにかすればいいのか……壊せるのかな?」


 中には地面に片手で持てるくらいの大きさの四角い物体が全部で6個置いてあり、そこから光線が出て地面に図形を描いています。いわゆる魔法陣、というもので六芒星というものですね。


 「ちょっと待ってくださいね」


 〈鑑定〉を使って、見てみます。



 インスタント・ポータル

 種別:魔道具

 設置者:プリミュラ・ハートジョット

 設置した場所同士を結ぶ魔法装置。設置するには〈時空魔法〉60レベル以上が必要。

 耐久度:1220/1500



 「耐久度があるから、壊せそうですが……殴ったら壊れるでしょうか」


 「やってみよう」


 ヘイズ君が尻尾で地面に置いてある物体を薙ぎ払いました。物体に命中する前に白い光が発生し、はじかれます。


 「何かに守られてるな」


 再び〈鑑定〉スキルで見てみます。



 耐久度:1140/1500



 「耐久度が減っているから、どんどん殴ってたらそのうち壊せそう」


 私も〈ドラゴンクロー〉を発動させて殴りつけます。やっぱり白い光に阻まれますが、耐久度は減っています。あ、〈魔力奪取〉のスキルが発動しました。

 ヘイズ君も尻尾で払い、爪で殴りつけ、頭突きで角をぶつけます。



 耐久度:620/1500



 順調順調。


 と、その時。


 6個の四角い物体が強く輝き始めました。

 私とヘイズ君はとっさに身構えました。


 それが失敗だったのですが。


 魔法陣が輝き人影が浮かび上がると、人が1人、現れたからです。


 それは男性で、普通の人間に見えました。ケモミミとか耳がとがっているとか体型が人間離れしてるとかそういうことはない、という点で。茶色の髪に青色の目、ごくごく普通の人相。外見は自由に作れるこのゲームでは珍しい「美形ではない」外見です。

 体の部分部分を覆った使いこまれた金属鎧にいわゆる片手半剣という、片手でも両手でも振り回せる長さの剣を背負っていました。


 おそらくは、プレイヤーキャラクター。


 なら先手必勝、で攻撃すべきでした。ただ、プレイヤーキャラクターと遭遇することを想定してなくて、どう対応したらいいか、私はためらってしまいました。


 しかし、相手はそうではありませんでした。特にヘイズ君に。

 そりゃそうですね。明らかにドラゴン=モンスターですもんね。


 背負った剣の柄を掴むと、一閃。気づいたらヘイズ君が斬り倒されていました。


 しかも。

 背から剣を抜き、振り下ろしたと思ったのに、目の前の男性は剣を下から上に振り上げた体勢でいます。


 それがどういう意味なのか理解できた瞬間、私はその男性とヘイズ君の間に割って入りました。


 「ヘイズ君っ!!」


 精一杯魔力を込めて〈ドラゴンスケイル〉を発動させます。厚く。とにかく厚く固く。


 「動いてっ!!すぐに、逃げてぇぇぇっっっ!!」


 とにかく、倒れているヘイズ君に私は思いっきり叫びました。私の渾身の〈ドラゴンスケイル〉がまるで紙のごとく切り裂かれます。上から下へ、下から上へ。


 この人、超高速で、まるで一撃にしか見えない速さで、2(・)回(・)斬撃を放ってる。


 胸が×字に裂けて血が吹き出し、私の【HP】があっという間に全損します。


 アナザーアース・クロニクルでは【HP】が0になっても即死亡、というわけではありません。【HP】がマイナスになっても意識を保っていられれば、動くことはできます。もっとも、治療をしないとすぐに意識がなくなり昏倒状態に、そしてそこから死亡状態になるのですが。


 【HP】はなくなりましたが、とにかく、私はまだ動けます。【HP】がマイナスになることで意識を失う「昏倒」も状態異常の1つです。つまり、私はスキル〈状態異常耐性〉と〈竜闘術〉のアーツ〈ドラゴンブラッド〉で「昏倒」になるのを回避できて、意識を保っていられるのです。


 ありがとう。今まで出番なかったですけど。


 私の後ろでヘイズ君がよろよろと動き出したのを感じました。


 「この『異人』(プレイヤー)にはかなわない!私のことはいいから!お願いだからヘイズ君は逃げて!!」


 私はいいです。死んでも死に戻るだけですから。でもヘイズ君はそうはいかない。フラムリングさんやノクターナルさんと同じように、死んだら終わってしまう。


 目の前の男性は続けて斬りかかってきます。私は『ドラゴンクロー〉を発動させて、右手ごと斬撃にぶつけます。


 え?止められたか?

 止められるわけないじゃないですか。余裕で右腕ごと、斬られました。


 いえ、計算通りですよ?アナザーアース・クロニクルでは腕を斬られたり、目を潰されたりや、流血による体力の低下などの現実での負傷は【HP】とは別に部位欠損、流血と言った状態異常として管理され、行動の制限や継続ダメージと言った効果で反映されます。つまり、スキルとアーツで状態異常に強い私にとってはむしろ腕を斬って状態異常判定してくれる方が死なないで済むのです。


 現実でこんなことしてたら痛みで発狂しそうですけどね。痛みを制限されてるVRでよかったです。


 「……君は、誰だ?『竜信者』か?」


 剣を構え直して、目の前の男性が聞いてきました。話かけてくれるなら、こちらとしては好都合。私の目的は、ヘイズ君が逃げるための時間稼ぎ、ですからね。


 でも「竜信者」て何でしょうね?


 「……さあ?あなたが考えている通りじゃないですか」


 とりあえず知ってるふりでごまかしておきましょう。


 「ここで何をしていた?」


 「『異人』の邪魔?かな?」


 「……君は……いや、プレイヤーキャラクターだと?……『ノエル』?」


 急に男性の顔が驚きに変わります。


 あ、やば!?そりゃ〈鑑定〉持ってますよね。私の情報見られた!?


 慌てて〈ドラゴンバイト〉で攻撃を仕掛けます。巨大な口が開き、男性に噛みつく……ことができるわけなく、あっさりかわされてそのままカウンターで斬られました。


 け、計算通り。その一撃で私は完全に死亡状態になり、目の前の風景が灰色に変わります。


 ヘイズ君はすでに見えなくなっています。もうこの横穴を出ているでしょう。つまり私の目的は達成。


 これで私の勝利ですね。勝利です。勝利。


      ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


 死に戻ってからいったんログアウト。

 休憩をして夜にあらためてログインする前にグリムレット討伐パーティ募集スレを開けてみたのですが。



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485:エルフ/西域/♀

名前:プリミュラ・ハートジョット

スレ主&募集主催ですが、申し訳ありませんが取り急ぎいったんこのスレは閉じさせていただきます

別スレを立てましたのでそちらに移動してください

>グリムレット討伐パーティ募集 その2


486:竜人/西域/♂

名前:カイウス・イロンシード

了解。事情はさっき聞いたので以後は次スレで


487:ダンピール/西域/♂

名前:ノア・ヴァルカード

何かトラブル?


488:エルフ/西域/♀

名前:ロサ・ハートジョット

その辺の事情も別スレの方で


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 別スレの方を見ようとしたのですが【あなたはこのスレッドを見ることができません】と出ました。


 PC間の対立が想定されているアナザーアース・クロニクル。そのため掲示板も閲覧条件を立てた人が設定できるようになっています。例えばモンスター関係の種族は閲覧不可とか。


 まあ、正体ばれたらそういう措置はとられますよね。

 ああ、私のスパイ活動が……。


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