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大陸暦1052年 土の月 2日
公式ホームページ告知
大陸暦1052年 土の月 1日
クロニクル・ウォー「グリムレット討伐」
ケレス山山頂にて黒の王魔竜グリムレットの存在を確認した腕に覚えのある冒険者たちが集まり、グリムレットを討伐し名をあげることを計画。しかし待ち構えていたグリムレットと黒竜の集団との激しい戦いとなり、冒険者の一団はごく少数をのぞき全滅した。
【戦死者一覧】
メジャリン・レイヴ(NPC)
エメット・リエン(NPC)
……
……
……
公式ホームページの歴史が更新されていました。戦死者名を見る限りでは死んだことになったのはノンプレイヤーキャラクターばかりで、実際に参加したプレイヤーキャラクターとして死亡したキャラクターはいないようです。
グリムレットさん側の死者は書かれていません。
ノクターナルさんとフラムリングさんが戦死、ヴィリジットさんが翼をやられて重傷、黒竜たちも生き残ったのは6体と尋常ではない被害はあったのですが。
まさかこの平和な日本で、VRMMOで遊びながら、戦史の裏側の語られぬ死者たちの物語、みたいなものを直に体験できるとは思いませんでした。
よくよく考えるとこのシステム、リーダー役「だけ」とにかく生き残ればあとはプレイヤーが参加しなかったことにしても、事件や戦闘は成立するんですよね。NPCを身代わりに戦死させて。
何でこんな胸糞悪いシステムにしたんでしょうね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ぼんやりと私は岩場に腰かけて風景を眺めていました。
訓練するかダンジョン潜るかしてレベル上げ、が日課だったのですが、さすがにそんな気にはなれません。ならなんでインしてるのか、と言われると困るのですが。
ドラゴンの姿はすっかり減りました。そりゃそうですね。小さい子供やまだ若いだろう小型の竜はちらほら見かけるのですが。
私は所持アイテムから昨日新たに入手した、というかもらった黒いソフトボールくらいの大きさの珠を取り出しました。〈鑑定〉スキルで表示される内容はこんな感じです。
ノクターナルの竜珠
分類:素材/アクセサリー
レア度:7
品質:A
重量:1
装備効果:???
耐久度:500/500
黒竜ノクターナルの竜珠。通常より高い魔力を秘める。
種族が竜種の場合のみアクセサリー欄に装備が可能。
サルカンドラさんに渡された、ノクターナルさんの竜珠です。
「本来なら他の黒竜に継承させるべきものなのだけれど、ノクはノエルのことが好きだったからあなたが持っている方がノクも喜ぶと思うわ……本当は、魔竜にとって竜珠を道具として使われるのは最大の屈辱なのだけれど」
と、言われました。
〈鑑定〉結果見て、これ、私ももしかして継承できるのでは?と思って聞いてみましたが、「絶対ダメ」とサルカンドラさんには強く否定されました。
確かに私はノクターナルさんのことが好きでした。このゲームの中で一番一緒に過ごした時間が長かったですしね。飄々としているけど、ここぞという時は頼りになるし、〈竜闘術〉でもノクターナルさんに教わったこと、参考にしたことがたくさんあります。まさに私の師匠と言うべき人でした。
お互いの魔力を交換して〈魔力知覚〉スキルを教わって、ノクターナルさんが鼻血出したり。
かくれんぼで〈気配察知〉スキルを教わったり。
〈竜闘術〉の訓練と模擬戦もずっと毎日のようにやりました。
投げ飛ばされて地面に転がされたことも、組み伏せられたことも、〈ドラゴンテイル〉で縛り上げられたことも。
……絵面が危なくなってきたのでこれくらいにしておきましょう……。
手の中の黒い竜珠は真っ黒で傷一つなく、とても綺麗です。
竜珠は魔竜の第2の心臓。魔力の源であり魂の宿る珠。
私がもらってよかったのかどうかはわかりません。
でも、私は。
こんなものをもらうより、ノクターナルさんに生きていて欲しかったです。
急に、視界がぼやけました。
何ごと!?と思いましたが、目から水があふれ、雫が垂れているのだと気づきました。
すごいですね、ヴァーチャルリアリティ。悲しかったら涙が自然と出てくるんですか。私、あの人が死んだ時も現実では泣けなかったのに。
そうか。私、今、泣いているんですね。
そうですね。だって、今、私が抱えている気持ちは、間違いなく、あの日、あの人が死んでから1年近く私の中にたまり続けていた気持ちと同じなのですから。
きっと他の人から見たら馬鹿馬鹿しいと思われるのでしょう。
きっと他の人から見たら笑われるのでしょう。
ゲームの世界の住人なんて、たかがAIで、データが消滅しただけで。そのAIは今は私の知らないこの世界のどこかで、私の知らないNPCとして活動してるのでしょうから。本当に死んだわけじゃないのですから。そんなものに、大切な人と死に別れた時と同じ気持ちを抱くなんて、おかしいですよね。気持ち悪いですよね。
でも、それでも。私の知っている、ノクターナルさんにはもう会えないと思うと。
ああ、もう。やっと私は「それ」を忘れかけていたのに。
「悲しい」という気持ちを。
なんで、思い出させてくれるんですか。
こんなものを見るために、私はゲームを始めたのでしょうか。
こんなものを見せたかったために、あの人は私をゲームに誘ったのでしょうか。
誰か教えてください。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ノエル!!」
大声で名前を呼ばれて私は我に返りました。慌てて目元をこすってぬぐいます。
声の主は赤竜の姿のヘイズ君でした。心なしか体が大きくなったような気がします。
「なあ、教えてくれ。『異人』ってどこにいるんだ?」
「え?」
いや、そう聞かれても知りません。
「みんなの、オヤジやノクターナルの敵討ちだ!」
「いやいやいや。馬鹿ですか」
思わず馬鹿と口に出てしまいました。これはいけません。
「馬鹿とはなんだよ!!あれだけやられて許せないだろ!!俺も『継承』をしたから強くなったし、ノエルは『異人』だから、奴らの居場所を知ってるだろ!!」
「私たちよりずっと強いみんなが戦ってあんなボロボロになったのに、ヘイズ君が行ったって返り討ちに合うだけじゃないですか」
「だから、俺も強くなった、て言ってるだろ!」
竜珠は継承したら、元の魔竜の力を多少受け継げるそうです。これ、フラムリングさんの竜珠を継承してちょっとパワーアップしたので勘違いしてるっぽいですね。
うーん、困りました。止めても聞かなさそうですし、放っておくと1人でどこか行ってしまいそうです。
その時、私の中で悪魔がささやきました。
私も「異人」にやり返したいと心のどこかで思っていました。
グリムレットさんの、みんなのために、自分に何かできないかを考えていました。
だから思いつかなくてもいいことを思いついてしまった。
グリムレット討伐パーティ募集スレで見た情報交換。その中にあった「簡易拠点」という存在。
ケレス山の山頂は普通に行けば、周囲のケレス樹海というマップを越え、ケレス山を登らないといけません。それは過酷な道のりで高レベルの敵も多く、グリムレットさんと山頂で戦う前にたどり着くだけで疲弊してしまいます。
そうならないために、簡易拠点……設置できるテレポート装置のようなアイテムをケレス山の山頂近くの洞窟にセットしておき、そこから山頂に向かっていたのです。そうすれば短い距離を行くだけで消耗を抑えることができるので。
なら、そこを潰すことができれば。
「グリムレット討伐」を発生させなくできるのではないか。
1度壊してしまえば、後は、設置しに来るプレイヤーを妨害し続ければいい。
すごい今さらな話です。
そうするなら最初から、そうしていればよかったはずです。みんなの全力で不意をうって拠点を潰すなり、山頂を目指して足場の悪い狭い山道を進むプレイヤーを空から襲撃してもらうなりすれば、犠牲もそれほど出ずに楽に勝っていたはずです。
でも、私は自分がどうするか、自分の身の振り方ばかりを考えていました。
肝心のグリムレットさんと「異人」との戦いのことは、どこか自分は関わらないもの、他人事として感じていました。
フラムリングさんの、ノクターナルさんの「死」を自分の目で見るまでは。
だから私は、今になって、ようやく策を考えて、そして思いついてしまった。
「……わかりました」
ゆっくりと私はヘイズ君に答えました。
「直接、『異人』と戦うわけじゃないですけど、うまくやると『異人』にやり返せる、というか、山頂に討伐に来ることもできなくさせられるかもしれません」
「ホントかよ!?」
「はい。私とヘイズ君で上手くやれば、いけるかも」
かくして。私とヘイズ君で「プレイヤーの遠征拠点を破壊する」作戦が開始されることとなりました。




