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 「ところで、ノエル」


 ヘイズ君と全力で戦ったのでぐったりしている私のところにノクターナルさんがやってきました。


 「アーツを同時に使うのって、どうやってるの?」


 「え?」


 予想外の質問でとっさに返事に困りました。


 「普通、アーツって同時には使えないんだよね。さっき使ってたでしょ?〈ドラゴンクロー〉でヘイズを掴みながら〈ドラゴンテイル〉で足を絡めとったり」


 ……普段の訓練だとノクターナルさんにいいようにやられたのであんまり意識してませんでしたが、そう言えば複数のアーツで同時に攻撃されたことはなかったですね?

 普通にやったらできたので使っていたのですが、実はすごいことだったようです。


 「えーっと……右手と左手で同時に違う字を書くような、そんな感じ?」


 厳密に言うと違うのかもしれませんが、感覚としてはそれをやっている時に近い感じです。

 まあ、私の数少ない特技のようなものなのですが。意外とVRゲームの中では役に立っているようです。



 大陸暦1052年 雷の月 16日



 模擬戦で頑張ったおかげで〈竜闘術〉が14レベルになりました。目標まで後1です。


 最近は〈竜闘術〉の訓練をフラムリングさんが見守っている状態でヘイズ君と一緒にやっています。私との模擬戦の後、あれこれお説教されたようで、頑張って色々とやろうとしていますけど……正直、普通に戦った方が強いような気がします。人には得手不得手がありますからね。素直なヘイズ君は力押しの方が向いているんじゃないかな。


 ところで、以前人間の姿はあくまで仮の姿のはずで、その状態での〈竜闘術〉を鍛えて意味があるのか聞いてみたのですが、〈竜闘術〉は竜の体の一部を使って戦う術なので、これに習熟することで元のドラゴンの体で戦う時に幅が出るそうです。


 そんな感じで訓練をしつつ、区切りの休憩のたびにキャラクターブックを開いていたのですが、ようやく〈竜闘術〉が15レベルになりました!【アーツ】のところに【NEW!】という表記が出ています。


 「〈竜闘術〉が15レベルになったかい?」


 背後から声をかけられて振り向くと、フラムリングさんでした。


 「あ、はい」


 「よし、じゃあ行こうか」


 座って休憩していたのですが、手を引いて立たされました。どこへ?



 フラムリングさんに連れられてやってきたのはサルカンドラさんの所でした。2人で何やら話を始めています。サルカンドラさんは何か困っているようですが。


 「昨日の模擬戦を見る限り、ノエルにはもっと実戦経験が必要だと思う。ノクとの訓練もいいが、本当の命のやり取りの経験が絶対的に不足しているように感じた。だから、誤った戦術に致命的になるまで気づけない。知識はあるように思うが、知識しかないという印象だな」


 あー、確かにノクターナルさんとの訓練以外だと戦闘はウサギ相手くらいなんですが、ミドルラビット自体は強くないんですよね。今では〈ドラゴンバイト〉一撃で倒せちゃいますし、向こうから襲ってこないので戦闘している感じはしません。


 前回の模擬戦も、勝つための戦術を組んだけれど、検証が足りなかったので根本的な間違いに気づけなかった。そしてそれに気づいたのは手遅れの時だった。


 フラムリングさんが言っているのはそういうことでしょう。実戦経験を積めば事前に戦闘をシミュレーションしたとして、相手の行動をもっと深く予想できる。そうすれば間違いに気づけたはず。戦闘中でも、自分が誤った道を進んでいる危険さに、気づけたかもしれない、と。


 「そこでドーラに提案なんだが、ダンジョンの入り口を開けられないか?」


 ダンジョン?唐突に出てきた言葉を聞いて私は首をかしげました。


 「あそこは子供が迷い込んだら帰ってこれない恐れがあるからヴィルに封鎖してもらったわけだし、それを開けるのはまずいと思うのだけれど」


 「とは言ってもノエルを外に出すのは流石にまだ早い。あそこなら出てくるモンスターはそこまで強くないのはわかっている。ノエル自体は『異人』だし判断力はあるから迷って戻ってこれないということはないだろう?」


 「だからノエルはよくてもその後どうするの、て話。開けっ放しにして子供が迷い込んだら危ないじゃない」


 サルカンドラさんとフラムリングさんの話し合いは平行線のようです。フラムリングさんが何とか説得しようとしているのですが、サルカンドラさんが渋っているみたいですね。


 「えーっと、そもそもどういう話なんでしょう?」


 話に割り込むのは悪いかな、と思いつつ聞いてみました。


 何でも、この洞窟の床が抜けて他のダンジョンとつながってしまっている場所があるそうです。そのダンジョン自体がどういう由来のものでどれほどのものかはわからないそうですが、ドラゴンパピーが間違って落ちてしまうと迷って帰ってこれない恐れがあるのでヴィリジットさんが岩で封をしたとのこと。


 中を調べた時は出てくるモンスター自体はそこまで強くはなかったそうなので、フラムリングさんはどうもそこを開けて私に探索させたいようです。実際にいつ敵に襲われるかわからない状態に備えながら動き回り、状況を判断して戦闘するというのは、実戦経験としては申し分ないでしょうね。


 「でも、さっきから言ってるんだけど、本当に子供が迷い込むと危ないのよ。モンスターもだけど、そもそも通路が入り組んでて自分の位置がわからなくなるのがダンジョンだから。結構中は広かったし、1度入ると戻ってこれない可能性がすごく高いから」


 悩むサルカンドラさん。こう、お母さんをイメージさせますね。


 うーん……あ。


 「その入口の所に家を作ったらどうです?扉をつけて部屋の中からダンジョンに入るようにしたら。ドラゴンパピーは扉は開けられないですよね?」


      ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


 めんどくさそうなヴィリジットさんを引きずって、ダンジョンの入り口部分に家を建てるという工事は完成しました。私の部屋を含むあの家々を建てたのって、ヴィリジットさんだったそうです。土属性が得意=緑竜ですから、よく考えるとそうなんですけど。


 ゴスロリドレスにツインテでですわ口調なお嬢様と見せかけて実は総合建設業的竜(ゼネコン・ドラゴン)だったんですね。


 「……盲点だったわね。まあ、ノエルのおかげで上手くいったからよしとしましょう」


 できた家を見てサルカンドラさんがため息をついています。ちょっとした思いつきでしたけど、役に立ったようなら何よりです。


 「じゃあノクには言っておくから、ノエルは自由に中を探索するといい。ドーラも言っていたけど、中は結構広いから無理に奥まで行かないように……最悪、『異人』だから死をなかったことにして戻れるだろうけどね」


 そう言うフラムリングさんの目の前には大きな穴が。結構深そうなんですが。


 「……これを降りるんですか?」


 飛び降りたらどうなるか、さらに言うと1回降りたら戻ってこれるんでしょうか。


 「だからこそ、〈竜闘術〉が15レベルになるのを待っていたんだよ。新しいアーツ〈ドラゴンウィング〉が使えるようになるのをね」


 そう、新しく覚えた〈竜闘術〉のアーツの名は〈ドラゴンウィング〉。

 竜の翼を生やし、空を飛ぶことを可能にするアーツなのです。


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