69B =勝者となった黒は、何を企むのか。
◇◇◇
そこは、暗闇だった。
外の光は、すべて遮られた地下。
広大な広さを誇る空間に、神殿のような円柱の柱が、規律に沿って、無数に並んでいる。上を見上げても天井は見えない。立ち並ぶ柱も、どこまで伸びているのか、先が見えない。
この空間が、なぜ存在するのか。それを知る者は、ここにはいない。
ここにいる者は、ただ利用しているにすぎない。
その者は、魔法によって作られた光球に照らされた中を歩いている。
「今回は、大漁だったな」
そう騒いでいるのは、影のような男。輪郭は、人であるのだが、色がない。黒一色で、まるで影が立体となっているような姿だ。
その影男の後をついてくる者が、二人いる。
一人は、魔法で光球を作り出し、もう一人は、無駄な動きを一切せずに後をついて行く。共通するのは、共に黒い外套に身を包んでいることだ。
影男に答えるのは、光球を作り出している者だ。
「この結果は、始まった時から見えていたこと。今騒ぐのも、前に騒ぐのも同じであり、結果もまた同じです」
影男の言葉に、答えたのか、答えていないのか、あやふやな内容の言葉を紡ぐ。
「相変わらず、お前の言葉は、分かりづれえな」
それでも答えを返してくれたのが、うれしかったのか、影男は話を続ける。
「ここんとこは、ずっと一人だったからな。お前でも話が出来ると、なんか安心するぜ」
三人は、そのまま奥へと進んでいく。
奥にあるのは、少し開けた空間だ。そこだけは柱も並んではおらず、くり抜かれたような円形のくぼみがある。
そのくぼみの広間には、三人の待ち人がいた。
「よお、お待たせ」
影男は、特に悪びれた様子もなく、待ち人たちに片手を上げて示した。
「俺たちが最後か?」
「まあ、そうなんじゃない」
その問いに答えたのは、全身が赤い、真紅の外套に身を包んだ者だ。色は違うが、羽織った外套の細部に黒い外套との違いは見つからない。
適当に言っているように聞こえるが、いかにも三人が到着するのを待っていたという風情だ。
「集まり悪いな」
「さっさと報告を聞かせろ。時が過ぎる」
言葉を急かしたのは、待ち人の中で黒い外套を着ている者だ。その者は、手元の懐中時計を見つめるように、顔を俯けている。
ここにいる者のほとんどが、その黒い外套に身を包んでいる。この集まりで、それが共通のコスチュームでもあるのだろう。
真紅の外套と影男が異質と言うことでもある。
そんな中に一人、待ち人たちの中で唯一、椅子に腰かけて待っていた者がいる。
その者もやはり、黒い外套に身を包んでいるが、フードをかぶっていないために顔が露わになっていた。
その顔は、まだ幼い。青年とすら言えないほどの年齢に見える。体格も子供ほどでしかない。黒髪が、肩の上で切りそろえられていて、整えられた人形のようにも見える。
「それじゃあ、始めましょうか」
その子供が、長い前髪の隙間から片目だけ視線を影男に向けて、話の先を促した。
「うっす」
影男は、返事をするとすぐに本題に入った。
「まずは、結果から。今回の計画は、成功だった」
影男の言葉に続いて、後ろにいた黒い外套のうち、何も持っていない方が、前に出て来た。
くぼみの広間へ出て来ると、そこで外套の前を開き、懐から無数の光球をばらまいた。
色とりどりの光球が、一瞬だけ空間を埋め尽くす。
その光球は、一つ一つがとても小さく、手の平に収まるほどの大きさだった。だが、それが五十近くも舞えば、一瞬とはいえ、かなりのエネルギーとなる。
その光景を、子供は、目を細めるようにして眺めていた。
「これだけあれば、成功だろ?」
影男が、確認するように子供に顔を向ける。
「そうですね。当初の計画通り、成功でいいでしょう」
子供は、そう答えて、広間を舞う光球たちへ左手を向けた。
自由に舞っていた光球たちは、その子供の手に導かれるように、子供の目の前へ集まり、子供の体の中へと消えてしまった。
影男は、報告を続ける。
「計画遂行中に、ちょっとイレギュラーがあったから予定を切り上げて戻って来た。できれば、もう少し熟成させたかったんだけどな」
「あら、そんなに影響があったの?」
真紅の者が、疑問を投げかけた。
「影響はなかったが、念のためだ。一応、あれは先代だし、どんなことをしてくるか分からないしな」
「あなたにしては、ずいぶんと弱気な発言ね」
「アッ?」
影男が、やや怒気を込めて、真紅の者を睨む。真紅の者の言葉は、影男の意にそわないものだったようだ。
一瞬で険悪な雰囲気が、広がる。
それを払ったのは、時計を持つ者だ。
「今、事が公になるのは、まずい。ただでさえ、姿をさらす危険を冒しているのだ。予定を切り上げたのは、正解だろう。時は貴重だ」
「そう言ってもらえるのは、ありがてえ」
影男は、時計を持つ者に素直に礼を示した。だが、真紅の者へは、苦言を呈する。
「ただなあ、先代の力量は、事前の話とは違うんじゃねえのか?」
その言葉に反応を返すのは、真紅の者だ。
「それってどういう意味? 私の調べが間違っているって言うの?」
「そんなのは、知らねえ」
影男は、自分の発言でありながら、それを切り捨てる。
「ただ、見た感じ、そんなでもない気がしてな。むしろ、先代の友のほうが、危険だったぜ」
影男の視点は、今回の計画から見た視点だ。今回の計画にとっての危険度は、単純な力量では測れない。
「陽動にも、簡単に引っ掛かってたな」
「ふーん」
それを聞いた真紅の者が、一歩前へ出た。椅子に座る子供を正面に見据える。
「今度は、私に行かせてもらえないかしら? もう一度、しっかりと調べてくるわ」
「うーん、そうですねえ……」
子供は、真紅の者の進言に腕を組んで考え込んだ。
その様子を見守る者たちは、黙ってそれを見つめている。誰も口を挟もうとはしない。緊張が、この空間に広がっているようだった。
「それならば、同時に僕のお願いも聞いてもらいましょう」
緊張が走る面々とは、異なる雰囲気で子供は告げる。
「お願い?」
「はい」
一つ頷いて、子供は笑う。
「まだこちらの準備は整っていませんし、先代に本気になられると困ってしまいますので」
新しくいたずらを思いついたように、子供は、笑みを浮かべて話を進めていく。
黒い集団は、その存在を秘匿しながらも確実に息づいている。
暗闇の先は見えない。見えないからと言って、何もいない訳ではない。確実ではなくとも、ゼロではない。
少なくとも彼らは、暗闇に息づいている。




