69C =勝者にも敗者にもなれぬ猫は、何を成すのか。
◇◇◇
そこは、暗闇だった。
外からの光を分厚い暗幕によって、すべて遮られた会議室。
ここにある光は、機械によって作られた人工的な光だけだ。その光も、照明器具からの光ではない。モニターからの光で満たされていた。
モニターは、巨大な物が三面あり、それらを分割して使用している。
この部屋にあるのは、そのモニターと会議用のテーブルだけだ。
「……報告は、以上ですにゃ」
この会議室に、人の影はない。ただ、テーブルの上に、猫が一匹だけいる。
猫の名前は、ネリスカーム。異世界交流対策課の課長である。
報告をしているのは、ネリスカームで、それを聞いているのは、モニターの向こう側にいる者たちだ。その顔ぶれは、ネリスカームの上司や異世界交流対策課の協力者たちである。
異世界のことは、世間に公表されていない。だが、何事か起った場合、それでは対応が遅れるため、非公式ながら、各界の有力者に協力を得ている。その代表者が、協力者としてモニター越しに映り出されていた。
その数は、多い。十人は超えている。だが、二十人は超えていない。それでも、いつもの定時報告の時に比べれば、多いぐらいだった。いつもならば、十人を越えることはない。
モニターに映し出されている面々は、顔を映し出されてはいない。首から上は、見切れるように映されている。
これをネリスカームは、精霊を信用していない証だと思っている。それは仕方がないことだ。この世界には、精霊も魔法も存在していないのだから。
モニターに映っているのも、本人とは限らない。ダミーが映されていることだって十分に有り得る。
「御苦労」
厳かにネリスカームを労う声が、スピーカーから会議室に届いた。
いつもならば、それで報告は終わりなのだが、今回は、そうはいかなかった。
その言葉を待っていたように、別の者が声を出す。
「それで、今後の対策は、どうするのかね?」
「情報収集を一層強化して、効果的な対策を練っていきますにゃ」
「それでは、今までと変わらないのではないか?」
いつもとは違う流れとなっていく。
今回、報告したことは、異世界からの転移があったにもかかわらず、それを確認できなかったこと。その点に関係して起こった異世界のこと。その顛末である。
これらの情報は、主に異世界の少女とこちらの世界の少年からもたらされていた。出来る限りの裏付けはしているが、少女と少年の働きはかなり大きい。
別の者が、声を出す。
「異世界に対して、抗議をするべきではないだろうか?」
「だが、向こう側にどうやって伝えるのだ? そもそも、向こう側の代表は決められてはいないのではなかったか?」
異世界に、こちらと対話をする窓口はない。向こうがこちらのことを知らないのではなく、向こうの足並みがそろっていないのだ。
戦争終結から五年が経過したそうだが、未だにその爪後は深いだろう。ネリスカームが知るだけでもかなりの範囲に広がっている。戦争の傷は、深く、広いのだ。
そう簡単に、世界の復興を果たせはしない。
「だが、このままではいずれ大事になってしまうぞ? それからでは遅い」
「こちらは、碌な対応も取れていないのだしな」
「ここは、もっと運用面に目を向けては、いかがでしょうか?」
スピーカーからは、もっともらしい会議の様子が流れている。
ネリスカームは、その様子を無言で見つめながら、会議ではまともなことは決定しないだろうと考えている。
今までもそうであったし、何より、ここにいる者たちが、どれほどの真剣さを持って進言しているのかも怪しい。
別に、彼らが悪いと言う話ではない。
ここでの話は、現実味がないのだ。
どんな報告があったとしても、その結末が目に見えない。日常の世界の中では秘匿され、何の影響も出ていない。影響が出てもおかしくない事態もあったが、それは運よく、英雄の少年によって解決されている。今まで、精霊の案件が、外に漏れたことはない。
だから、どんな事態になるかも予想できない。自然と彼らの常識の範疇で話し、結果的に現実と乖離してしまう。
ネリスカームは、身動きせずに会議の様子に耳を傾けている。
「活動を協力している少年のほうは、何とかならんのかね」
その言葉でネリスカームは、心の中で溜息をしてしまう。
現在、その少年たちは、異世界交流対策課の活動には、ほとんど関与させていない。向こうからの情報提供が主な関与だ。
少年たちの報告は、隠さずにしている。そのため、ここに参加している者は、みんな知っていることだった。この件は、隠した場合、後々問題が大きくなると考えたため、ほぼ打ち明けている。ほぼであって、すべてではないが。
「彼らは、まだまだ子供ですにゃ。無理をさせるべきではないと、前に会議でも話されたはずですにゃ」
「そんなことを言っていられるほど、余裕があるのか?」
何を言っているのかと、ネリスカームは眉をひそめる。
余裕はない。それはネリスカーム自身がよくわかっている。だからこそ、少年たちに割ける手もほとんどない。
少年たちは、こちらのことを良く理解してくれている。この場合は、自由にさせておいた方が、手間もかからず、効率がよいと言える。
「彼らをこちらに所属させて、もっと効果的に使うべきではないか?」
それは、ネリスカームの一存で決められることではない。
もっとも、そんなことになれば、そのためにも人手を割かなければならないし、個別で行動はさせられないため、お目付け役は必要になる。余裕のない段階で進められる案件ではない。
「そこまでだ」
スピーカーから、厳かな声が響いた。
その声で、すべての音が消える。
会議と言う形であっても割り込むことを一切拒む。そんな威圧とも取れるほどの声だった。
「その件は、私が責任を持って当たらせていただきましょう。それで皆さん、よろしいでしょうか?」
意見を求めるような声であっても、誰も言葉を発しない。
「それでは、皆さん、お忙しいところ集まっていただいておりますから、残りの案件は、またの後日といたしましょう」
その言葉で、会議自体が閉幕へと向かっていく。
閉会のあいさつと共に、モニターからは人の姿が消えていった。
ネリスカームは、すべてのモニターが機能していないことを確認して、会議室のテーブルの上で寝転がった。
「……何とも、ですにゃ」
会議の決定に異を唱えるつもりはない。何より最後の決定は、上司からの決定だ。異を唱えることはできない。
それに上司は、英雄の少年に縁のある人物でもある。実際に会って話をすることが可能だ。いろいろと秘密を明かさなければならないだろうが、少年に頑なな態度を取られることもないだろう。
だが、これで少年たちの危険が増えるのは事実だ。占いによって、少年たちが危ない場所に立っていることはわかっている。
人手が足りていないと言うのに、どこまで対応できるのか、ネリスカームの悩みは増える一方だった。
読んで頂き、有難う御座います。
まず、投稿のペースが途中から飛び飛びになり、読みづらくなってしまったことを謝罪いたします。私事なのですが、いろいろあって、執筆作業が滞ってしまったのが原因です。家の事情があったり、体を壊したり、検査したりといったもろもろの具合です。今もあまり改善している訳ではないのですが、無理にならないように続けていきたいと思います。
今回の話は、エピローグを三種類にしました。それぞれ違った視点で、今回の件を総括、及び、次の展開への思いを向けています。読者様のほうで好きな形になるように順番を選択していただけると幸いです。
次の話の時間軸は、年末年始辺りを予定しています。豪華な舞台を用意するつもりでいますが、うまく文章にまとめられるのか、書く前から少し不安があったりします。
次も読む機会があれば、どうぞ宜しくお願い致します。




