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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第三件 異世界からの幽霊
68/71

68 ベッド+回復


 ◇◇


 僕が目を覚ましたそこは、ベッドの上だった。

 目を覚まして最初に視界の中に入って来たのは、光の顔だ。何を思っているのかを、その表情から読み取ろうと視線を向けようとすると、額に衝撃を加えられた。

「おっ、起きたか? 起きたな? 起きたよな?」

 その衝撃は、テンカによって加えられたものだ。

 テンカが、僕の額の上で何度も飛び跳ねている。跳ねている衝撃がベッドにまで伝わっていた。軽く痛い。

「……起きたよ」

 そう答えるとテンカは、飛び跳ねるのをやめて、僕の胸の上に着地した。

「よーし、それじゃあ、教えてもらおうか! 相棒を倒した奴を!」

「……聞いて、どうする?」

「もちろん、ぶっとばーす!」

「……却下だ」

「なんでだー!」

「……」

 起きて早々に、顔の前でわめかないで欲しい。

 僕は、重い体をベッドから起こした。その動きで、わめいているテンカが布団の上を転がっていく。

 体のほうは、多少重く感じるが、特に問題なく動かせるようだ。額に手を当てて、意識を失う前に何があったのか記憶をたどる。

「浩一」

 ベッドの隣で椅子に腰かけている光が、神妙な様子で僕の名前を呼んだ。

 それで一気に意識が覚醒した。記憶が、一瞬で繋がる。

「あのね、私は……」

「大丈夫か!」

 僕は、光の言葉を遮って叫んだ。自分でも思った以上に大きな声を出していた。

「大丈夫なのか?」

 声量を落として、もう一度光に確認する。

「……私は、大丈夫」

 驚いた様子の光だったが、しっかりと僕の問いに答えてくれた。

 軽く見たところでは、怪我らしい怪我もしていない。それでも、安心できなかった僕は、両手を光へ伸ばして、その手で触れた。

「っ!」

 光が、さらに驚いて体を震わせた。

 僕は、そんな様子に構わず、光の両頬に自分の両手を優しく重ねた。手の先から柔らかい温かさが感じられる。その温かさで、光の存在を実感できた。

「無事なんだな」

 実感できたことが、独り言のように僕の口から漏れていた。

「うん、大丈夫だよ」

 光は、僕の手に自分の手を重ねて答えた。

 その手の平からも確かな温かさを感じられた。

 そんな僕たちへ近づいてくる足音がある。

「おー、アツい、アツい」

 裕也が、笑いながらベッドの空いている片側へとやって来た。

「なっ! 別に、アツくない!」

 そう言って、光が僕の手を払いのける。

「起きてすぐにそんな様子が見られるとは思わなかったわー。これはさすがに予想外だわー」

 心のこもっていない、棒読みなセリフが、裕也の口から紡がれている。

 それを否定するために、強い口調で光の声が響いた。

「別にそんなんじゃないから!」

「えー、そんなんじゃないならー、どんなんなんですかねー」

「そんなんも、どんなんもないから!」

「おー、アツい、アツい」

 裕也は、片手を団扇にして自分の顔を仰いでいる。そこには、にやけた面が、お面のように張りついていた。

 僕は、そんな言い合いとは関係なく、ただ伝えるために口を開いた。

「いや、寒いから」

「は?」

 言い合いをしていた二人が、方向転換をするように僕に顔を向けた。

 同時に顔を向けられた僕は、もう一度伝えるために口を開く。

「マジで、寒い」

 僕は、自分の体を自分の腕で抱きしめた。熱があるのか、体温が低いのか、理由は分からないが、ともかく寒い。少しでも熱を得ようと手と体をこすり合わせる。

「よし、ここは、人肌で温めよう」

 裕也は、すぐに光に向き直った。

「さあ、加賀の出番だ。遠慮なくタケを抱きしめるんだ」

「えっ?」

 それを聞いた光は、顔を真っ赤に染めた。

「な、なっ、何を言っているのかしらあ」

 光が、変な言葉遣いになっている。

 裕也は、それにツッコミを入れず、早く早くと手を振って、光を急かしている。

 それを見た光は、手を振り回して、その場で混乱しているように慌てている。

「よーし、俺様が炎で温めてやろう!」

 そんな二人の間にテンカが割って入って、魔法を使おうとしている。

「いや、それはダメだよ」

 そのテンカをセリアが、後ろから両手を伸ばして抑え込もうとしている。

「キュッ、キュ!」

 キュピが、セリアの頭の上で羽を手旗信号のように振り回している。

「自分は、お邪魔ですね」

 そう言って、ロワが光の肩から下りているのが見えた。

「……何でもいいから、早くしてくれ」

 僕は、何かが壊れている現状に、呆れるしかなかった。

 そんな現状を打開する者は、すぐに現れてくれた。

「どうぞ」

 そう言って、湯気の立つカップを差し出してくれたのは、看護師(推測)の方だった。

「ありがとうございます」

 僕は、それに素直に礼を言って、カップを受け取った。

 僕が、しっかりとカップを受け取ったのを見た看護師さんは、騒いでいる面々に注意を一言して離れて行った。

 現状は、一瞬で静まり返った。騒ぐのが、非常識であるのは、誰もが理解していたことだ。

 僕は、頂いたカップに口をつけた。

 カップの液体がのどを潤すと、熱がすぐに体に染み込んでいく。特に味は感じないから、ただのお湯だろう。

「……ふう」

 口にしたのは一口だけだが、それだけでずいぶんと楽になった。

 楽になって余裕が出てくると、周囲の様子を確認することが出来た。

 僕が寝ていたのは、多くのベッドが並んだ病室のような場所だった。雰囲気としても、それで間違いないだろう。ベッドにいるのは、眠っている者と起きている者と、半々くらいだろうか。

 その様子を確認して、どうしてこういう事態になっているのか分からなかった。この場所は病院で、僕の状態は、それほど悪かったのだろうか。

「……ここは?」

「闘技大会会場の医務室だよ」

 そう答えてくれたのは、光だ。

 続けて、裕也が補足するように話をする。

「細かいことは省くが、タケが倒れた時とほぼ同じ頃に、多数の意識不明者が出たんだ。それでここは、その対応で一杯になってる。規模は、限られたもので、すでに収束に向かってるみたいだ」

 裕也の説明は、大筋に沿ったものだろう。少なくとも、僕と同じ理由で倒れているわけではないことは分かる。

「まあ、被害はまだ増えるかもしれないけどな」

 それを聞くと、このままここにいるのは気が引けた。元気になったのならば、ベッドを開けるべきだろう。

「……」

 僕は、無言でベッドから降りようとした。

 それを見た光が、慌てて僕の前に手を出して体を抑えようとする。

「ちょっと、いきなり動いて大丈夫なの?」

「大丈夫みたい」

 僕は、しっかりとした口調で光に返した。

 実際に体の動きに問題はない。起きてすぐは、体を重く感じたが、少し休んでそれも消えていた。

 心配そうに見つめる光にセリアが声をかける。

「浩一は、魔力の回復が人より少し早いみたいだから、私も大丈夫だと思うよ」

「なら、いいけど」

 しぶしぶといった様子で光が、ふさいでいた僕の前を開けてくれた。

 僕は、地面に両足で立って、少し体を動かしてみた。右へ左へ、上へ下へと何回か体操をするように体をひねったり、跳んだりする。特にふらつきやめまいを起こすこともなく、僕の体は問題なく動いてくれた。

「本当に、大丈夫みたいだね」

 僕の動く様子をじっと見ていた光は、それで納得してくれた。

「さて、タケも無事に目を覚ましたなら、俺たちは邪魔になる前に退散しますか」

 裕也が、僕たちを先導するように動きだす。

「はあ……、話は後で聞かせてもらうからね」

 光は、僕にそう言って裕也に続いて行く。この場は、これで収めてくれるようだ。

 もう隠す必要もないから、帰ったら好きなだけ答えようと思う。今回は特に、屋台の手伝いをさせるなど、光に不本意なこともあったから、出来るだけ誠実に答えなくてはならない。

 僕も皆の後に続く形で移動する。

 退散すると言ってもすぐに帰るわけではない。もうこちらに来ることはないだろうから、いろいろとあいさつ回りをしてからとなる。

 関係各位、と言ってもそこまで広範囲ではないから、そこまで時間もかからない。本部や主催者を回ったり、ヘレの屋台に寄ったりするぐらいだ。昼食をまだ取っていないから、ヘレの所で頂くのもいい。

 僕は、このまま医務室を退室するのかと思ったが、裕也が、あるベッドの前で止まった。

「タケ」

 そして、僕の名前を呼ぶ。少しおどけた調子を見せている。

「こちらにいるのは、誰でしょう?」

 裕也が示したのは、ベッドの上で背を起こしている女性だ。

 僕も遠くからだが、見たことがある。ショークジョルスだと思う。試合中に羽織っていた白い鎧のような装備はないが、間違いないだろう。

 だが、裕也の示したのは、そういうことではないはずだ。周囲にいる皆の反応も、口を閉じて黙っていた。何かを期待しているように感じる。

 ここで裕也が示したのならば、何かがある。

 先ほどから僕は、あることを気にしていた。気にしていることは、多々あるのだが、その中で一つ、この場にふさわしいのではないかと思うことがある。

 それを思い、僕は答えを口にした。

「……ショウグンか」

「正解」

 裕也が、簡潔に返答をした。

 それに合わせて、ショウグンが頭を下げる。

「すみません、改めまして、ショークジョルスです。ショークとお呼びください」

「無事に戻れたんだな」

「はい、この度は、大変お世話になりました。本当に感謝の言葉しかありません。本当にありがとうございます」

 ショークは、そう言って深々と頭を下げた。

「いや、無事に戻れたのなら、僕はそれで十分だから」

 僕としては、それ以外には特にない。僕自身も何とか無事に乗り切れた訳だし、問題にするようなこともない。

「すみません、ありがとうございます」

 僕たちは、何度も頭を下げるショークをなだめた後、医務室から退室した。

 僕にとって、それだけが良い報告となった。


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