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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第三件 異世界からの幽霊
65/71

65 リスト+最悪


 ◇◇


 俺たちが、異世界へ渡り、闘技大会会場へ向かった時、会場は慌ただしい事態になっていた。

 時間的には、本日の試合が、後わずかですべて終わるくらいの時間だ。観戦をしている観客は、まだ会場内に留まっているだろう。帰宅する観客が、通路を埋めるようなことにはなっていない。

 俺とセリアは、先ほどまで俺たちの世界で異世界交流対策課の情報提供を受けていた。それ以外にも細々としたことがあったのだが、メインの目的は、ショウグンの件で間違いない。

 それも一段落がつき、情報の正確な照らし合わせをするために、闘技会場で借りている一室へ戻ることになった。

 会場へ入った俺たちの前を、数人の運営スタッフが、忙しそうに駆けていく。それが、一度や二度ではなかったから、どこか一室で問題に取り組んでいるわけではないと思う。複数の場所で、同時並行して作業に追われているようだ。

「何かあったんすかね?」

 忙しく動き回っている運営スタッフに聞くのもためらわれ、何となく道を開けながら通路を移動する。

「んー、本部で聞いてみようか」

 セリアがそう言って、進路を変える。

 本部には、部屋を借りる時や情報を得るために何度か顔を出している。急に押しかけても、それほど困るような対応にはならないだろう。

 それに、この事態を知らないために、厄介事を無事に避けられなくなるのは困る。無事であれば、巻き込まれることは問題ない。むしろ、面白いことはどんどん来てほしい。

「俺様は、どうでもいい……」

 テンカは、しょぼくれながら、セリアのフードの中にいる。卵型だからはっきりとは分からないが、顔を俯けていた。

「キュ!」

 隣でキュピが励ましているが、効果があるかどうかは疑問だ。

 最初の頃のテンカは、護衛として張り切っていたのだが、何も起きないことに途中で飽きて来ていた。だが、他にできることもなく、それを途中で投げ出すこともできず、今の今まで過ごして来た。結局は、何も起きなかったため、意気消沈してしまい、今のテンションまで下がっている。

 こればっかりは、どうしようもない。俺としては、テンカのこんな姿を見られて、少し得をした気分だ。

 本部に到着するとそこは、やはり慌ただしさの最中にあった。

 俺たちは、顔見知りのスタッフに軽く頭を下げながら中に入る。

「こっちの確認はまだか!」

「もう間もなく終わります!」

「場所の確保、終わりました!」

「おい、まだ増えるぞ!」

 所々から怒声で張り上げた指示が飛び交っている。部屋の中央には、何人かが集まって、話し合いをしていた。

 そんな喧騒から少し離れたところにある、角に追いやられて機械に囲まれているスタッフの元へ向かう。

 そのスタッフは、椅子に深く腰掛け、背もたれに体重を預けて天井を見上げていた。

「すいません」

 セリアが声をかけると、そのスタッフは顔だけをこちらに向けた。

「おう、嬢ちゃんと坊主か。今度は何の用だ」

 気だるそうに返事をしたこのスタッフは、この闘技大会の情報管理担当者で、ブロッシュ=ミートと言う。この大会のために派遣されてきた人材だそうだ。見た目は、ただの中年のおっさんだ。

「私たちは、先ほど来たばかりでわからないのですが、この状況は、何かあったんですか?」

 セリアが、やや丁寧な言い回しで説明を求めた。

「あー、それな。まだ、外には何も話を持ち出してないんだが、選手が行方不明になっている」

 行方不明とは、穏やかじゃない状況のようだ。

「そんで、しばらくすると発見される」

「は?」

 行方不明者が、発見される。普通は、良いことだと思うが、なぜ、それがつけたされるのか。

「戻ってきた選手は、皆、意識不明でな。その対応で、ベッドの確保とか、医者の確保とかで慌ててんだ」

 本部内の慌ただしさは、そこから来ているのか。

「数は、どれぐらいなんすか?」

「まだ集計を始めたばかりだから、正確な数字じゃないが、五十は超えるんじゃないのか?」

 五十と言うと決勝トーナメントに参加する選手だけでは足りない。予選に参加した選手も含めないと到達しない数字だ。

 予選に参加した選手は、全部で三百。そのうちの五十以上が巻き込まれるとなると、なかなか大掛かりな数字ではないだろうか。

「どこで発見されてるんすか?」

「それがな、坊主たちが調べていた大会関係者用通路からだ」

 そう言って、ブロッシュが笑みを浮かべる。

「なんか心当たりがあるか?」

「……その行方不明者のリストって出せますか?」

 俺たちが調べていたのは、ショウグンに関係のありそうな事柄で、特定範囲内の人物の動きを見ていた。ここで使えそうなのは、行方不明者の中にその人物が含まれているかどうかぐらいだ。

「ちょっと待ってな、すぐに出す」

 そう言ってブロッシュは、背もたれから体を起して魔法道具に向き合った。

 俺は、その間に自分でまとめた情報を荷物から取り出す。

 少し離れた場所で、行方不明者のリストが印刷された。

 すぐに俺の手元に、二種類のリストがそろった。一つは、俺がまとめたリスト。もう一つが、行方不明者のリスト。

「ちょっと、机借りますよ」

 俺は、手近にあった机の上にリストを並べて見比べ始める。

 その二つのリストの人物名の部分に注目して、チェックを入れていく。重要なのは、俺たちが調べたほうにどれだけの行方不明者が出ているかだ。

 その結果は、すぐに出た。

 俺のまとめたリストは、すべてにチェックがつけられた。

「どうやら、関係ありそうっすね」

 チェックをつけたリストをブロッシュに渡した。

「チェックから漏れてるのは、どういうわけだ?」

「まとめたのが、一部の期間に区切ってあるからっすね。漏れた人たちは、調べてない日に何かがあったんじゃないっすか」

「何かって?」

 ブロッシュの再度の問いに、俺は首を横に振った。

「そこは、何も分かってないっす」

 怪しい人物はいるが、それは、ただ怪しいだけだ。何が、どう怪しいのかは分からない。

「とりあえず、関係者用通路を利用した者が、この行方不明からの転移に巻き込まれてるのは、確実か」

「おそらくは、そうっすね。あと、体調不調を訴えた参加者も巻き込まれてるかもしれないっすね」

 関係者用通路と言うことならば、予選期間中にそんな案件も発生している。俺がまとめた時期ともかぶっているから、関係があるかもしれない。

「あー、なるほど。そっちのリストとも照らし合わせとくか」

 ブロッシュが、俺たちから視線を外して、魔法道具に向き合って作業を始めた。今の話を確認するためだろう。

 さて、手の空いた俺たちはどうするか。

「こっちに来たんだから、ヘレと連絡を取るね」

 セリアは、イヤリング型の《風のささやき》を使うために耳に手を当てている。

 こっちに戻ったら、ヘレに連絡を入れる話になっていた。加賀にショウグンのことを秘密にしている関係で、いろいろ協力してもらっているのだ。うまく立ち回ってもらうために、連絡は必要だ。

 その間に俺は、もう一度、行方不明者のリストを確認しようか。

「このリスト、もう一度見せてもらって良いっすか?」

「おう」

 ブロッシュは、勝手に見ろとでも言うかのように、こっちには視線を向けずに返事だけを寄こした。

「んじゃ、失礼して」

 俺は、リストを拝借して、目的の名前を探す。一度目を通しているのだから、当たりをつけて探していく。

 その名前は、すぐに見つかった。

 名前は見つかったが、そこに記述してある情報は、俺には読み取れない。単純に読めない文字が含まれているからだ。知りたい情報は、一つだけだから、聞くのが早い。

「この人、と言うか、精霊は、どこにいるか分かるっすか?」

「あっ?」

 俺は、リストを指差しながらブロッシュに確認をしてもらった。

「あー、こいつな。こいつは、決勝トーナメントにも残ったから覚えてるよ」

「結構な実力者なんすね」

「ああ。けど、今日の第二試合で怪我を負ったから、医務室で寝てたんだが、そこで行方不明になって、関係者用通路で発見。そこから、医務室に逆戻りだ」

 何とも嫌な戻り方だ。病室に戻るなんて、普通は嫌だろう。行方不明になるのに、状態や場所は関係ないらしい。

 ともかく、必要な情報は、得られた。

「ありがとうございました」

 一つ礼を言って、俺は、セリアのほうに向きなおった。そろそろ連絡も済んだ頃だろう。

 セリアは、少し、困った顔で俺とブロッシュの話が終わるのを待っていた。

「おまたせしました。どうでした?」

「うん、それがね」

 セリアは、歯切れ悪く、続きを口にした。

「ばれちゃったみたい」

「あー、そうっすか」

 その一言で、大体の状況が想像できた。

 武野が、加賀に詰め寄られているのだろう。理由がどうあれ、隠していたのは事実で、その辺はどうにもならない。

 だが、それだけでセリアのセリフは終わらなかった。

「それも、最悪な事態になってる」

「どんな最悪っすか?」

 加賀にばれた時点で、最悪なのだが、これ以上の最悪とは何だろうか。

「浩一が、倒れたって」

 それは、俺が最も聞きたくない種類の最悪だった。


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