61 二回戦+金属性
◇◇
闘技大会決勝二日目。この時点で勝ち残っている選手たちは、全部で八名。大会は、本日を含めてあと三日。だが、僕にとっては最終日だ。
太陽が頂点に登りきるまで、あともう少しといった時間。間もなく、二回戦、第二試合が行われる。
僕がいるのは、前日と同じく、審査員席の一角。そこに静かに座っている。
今日の審査員席に、テンカの姿はない。テンカは、裕也と共に情報収集へ向かっている。立場としては、裕也の護衛だ。テンカとしては、情報収集に付随して起こるかもしれない、荒事のほうに関心があるようだが。
一緒にいるショウグンは、口数が少なくなっている。昨日の出来事が、尾を引いているのだろう。そこは、仕方がないとして、特に気にはしていない。何かしらの変化には、気を配る必要があるが。
試合の行なわれるグラウンドから、整備をしていたスタッフたちが散っていく。
会場で開始を待っている観客たちは、静かに、しかし、熱気を持った視線を降り注いでいるようだ。
『さあ、会場内もいい具合に温まっているようです』
実況席からも、似たような雰囲気が漂ってくる。あの実況者は、毎回似たような雰囲気な気もするが。
『先ほどの試合は、かなりの熱気を伴った戦いとなりました。今度の試合は、我々にどんな熱を与えてくれるのか、始まる前から楽しみなところです』
前の試合は、文字通りに熱気の応酬だった。
対戦者が、共に火の魔法を得意としていたことが大きく起因している。一方が火の魔法を使えば、もう一方がそれを上回る威力の火の魔法で迎撃していた。お互いが引くことなく、炎と炎で意地の張り合いのように向き合っていた。
先ほどのグラウンド整備も、その熱による損傷を改善するのが主な目的だったように思える。
『本日の第二試合は、前日にお伝えしました通り、ゲストとして、英雄、武野浩一様が、審査員としていらっしゃっております。しっかりと観戦と審査をしていただきたいと思います』
今回は、話を振られなかった。こちらから何か話をすることはないらしい。試合の開始時間まで、余っている時間がほとんどないため、そんな暇がないのもある。
『さあ、早速第二試合を始めましょう!』
実況の言葉使いが、切り替わる。
ここから先は、主役の活躍に期待する時間だ。
『第二試合、プレイヤーの入場です!』
実況の宣言に合わせて、会場内に音楽が響き渡った。
そして、グラウンドには、二人の選手が現れる。
一人は、光を反射する白っぽい体をした者。光を反射しているのは、鎧のように全身を覆った物だろう。その鎧のような物体からは、刃のような突起物が外側に向かって無数に飛び出ている。それを頭の上からかぶったような姿勢で現れた。見た目だけならば、ハリネズミに近いかもしれない。背中をやや丸めているので、余計にそう見える。
もう一人は、無骨な姿をしていた。こちらも全身から光を反射しているが、色はくすんだ金色だ。分厚い鉄板を所々加工して、重ね着しているような外見をしている。鎧としては、こちらのほうが正統派と言えるだろう。体格もがっちりしていて、正面から殴るのはためらわれる威容を放っている。
二人に精霊を連れている様子はない。今回の対戦者は、どちらも精霊のようだ。
『さあ、西から入場して来たのは、《反抗の鉄芯》ショークジョルス選手! 体を覆う剣は、攻撃と防御を兼ね備えた武具と化す! 一回戦は、金属性の魔法と合わせて、隙のない動きを見せていた!』
まず実況に上がった紹介は、白っぽい精霊のようだ。全身を覆った突起物は、見せかけというわけではないらしい。
『対して、東から入場して来たのは、《心機の合金》ハバケミール選手! 体を覆う鎧は、何物をも通さない! 絶対的な壁として立ちふさがる! 一回戦は、この防御にものを言わせて、金属性の魔法で作り出した巨大な武器で対戦相手をなぎ払った!』
こちらの紹介は、金色の精霊のほうだ。見た目と同じく、防御重視の戦闘が得意らしい。
『両プレイヤーは、共に金属魔法の使い手だ! 同じ属性の精霊同士! 一体どんな戦いを見せてくれるのか! 非常に楽しみです!』
実況者が叫んでいる中、グラウンドでは、審判たちが入場し、試合の準備や選手たちに確認をしているのが見える。これが終われば、すぐに試合開始だ。
実況も、それを確認しているだろう。正確な情報が手元に来れば、すぐにそれが実況に反映される。
『すべての準備が整ったようです!』
実況からもたらされた情報に従って、観客が静かに開始の時を待つ。
対戦者は、すでに規定の位置に付いている。
そして、グラウンドの審判が、やや腰を落としてかまえた。その体勢から勢い良く、腕を振り上げる。
会場全体にブザーが鳴り響き、二回戦、第二試合が開始された。
『さあ、始まりました! 二回戦、第二試合! 金属使いが、ぶつかり合う!』
実況が、対戦の内容を余すことなく伝えようと動き出す。
『まず動いたのは、ショーク選手! 周りの地面に次々と刃が飛び出していく! あっという間に、剣の草原の出来上がりだ!』
ショークジョルスの足下に、黄色の魔法陣が描かれていた。そこを中心にして、グラウンドに次々と剣が生まれている。剣先を空に向けて、ショークジョルスを覆う無数の刃が、広がるようにグラウンドを埋めていく。
『対して、ハバ選手は、武器を出現させる! これは、鉄球か! 鉄球だ! 巨大な鉄球を出したぞ!』
ハバケミールが作った鉄球は、いびつな形をしていた。大まかに分類すれば球体だが、くぼみやでっぱりがあり、廃材のようにも見える。
また、ハバケミールが作ったのは、鉄球だけではない。鉄球は、足下に転がっている。鉄球には鎖が繋がっており、その鎖の先は手に握られていた。
おそらく、ハバケミールが作ったのは、モーニングスターに分類される武器だろう。
『ここから動くのは、ハバ選手だ!』
ハバケミールは、おもむろに鎖を振り回し始めた。
まずは、体全体を使って、鎖の先に繋がれた鉄球まで、回転運動を伝える。一度動き出した鉄球は、その重量から容易に止まることはない。回転する鎖に繋がれた鉄球が、空気の壁を撃ち抜くように重苦しい音を響かせながら空中を舞っている。
鉄球の動きが安定したところで、ハバケミールが前進を始めた。
『ハバ選手! ゆっくりと進み始めた! 振り回す鉄球に衝突したショーク選手の生み出した無数の刃が、吹き飛ばされている! さすがの威力に歯が立たない!』
剣の草原と化したグラウンドを、鉄球の竜巻が強引に突き進む。
刃が、まるで紙のように辺りに散らばっていく。
鉄球の竜巻を迎えるショークジョルスは、それをただ見ているだけではない。
『ショーク選手は、これに対して、刃を飛ばした! 山なりに飛ぶ無数の刃が、ハバ選手の頭上から襲い掛かる!』
ハバケミールから比較的遠い位置、ショークジョルスの背後に作られた刃を魔法で空中へ飛ばしたのだ。その刃が、鉄球を回すハバケミールへ、雨の降るように攻撃を加えている。
ハバケミールがこのまま前進して距離を詰めるのならば、後方の刃はあまり意味を成さない。準備した武器を順当に使用する、適切な戦術ではある。
『おおっと! ハバ選手、これに対して動きを変えない! 空からくる刃をものともせずに進んでいる!』
ハバケミールにとって、落下物は脅威ではないようだ。
頭部をはじめとして、体の各部は完全に防備を固めている。ただの刃では、進行を遅らせることすらできない。
『このままでは、ショーク選手は振り回される鉄球の餌食だ! さあ、どうする!』
目の前の状況に不利となったショークは、新たな手を見せた。ショークジョルスの足下で、赤色の光が生まれる。
降り注ぐ刃の動きは、変わらない。変わったのは、その後のことだ。
その変化に、ハバケミールが一瞬だけ、足を止めた。
『再び、ステージに変化が表れる! 今度の変化は、炎だ! 振り落ちる刃が、炎を立ち上らせているぞ!』
グラウンドでは、ハバケミールを中心とした炎の塔が出現していた。
炎といっても、単体で出現しているわけではないらしい。どうやら、降り注ぐ刃が接触した部分を起点として、その部分の熱量を上げているようだ。
刃の数は、無数にあり、それに触れているハバケミールの鎧は、無数の炎に包まれていく。周囲の地面にも、それは波及して広がっていく。
『ハバ選手は、炎に囲まれてしまっている! だが、それでも足を止めない! やはり決勝進出者は、この程度では屈しないのか!』
ハバケミールが止まったのは、一瞬だけだった。その後は、炎に構わずに進む。
ハバケミールの振り回す鉄球は、ショークジョルスの魔法によって、炎を纏ったままで振り回され、辺りを破壊している。
炎の竜巻となった鉄球は、先ほどよりも見た目の脅威を高めて、グラウンド内を暴れていた。
対峙しているショークジョルスの目には、どのように映っているのだろう。
『迫るハバ選手! それを迎えるショーク選手は、スタート位置から動いていない! ここまで来ても、まだ動かないのか!』
ショークジョルスは、開始位置から一歩も動いていない。
ハバケミールは、確実に近づいている。
「……」
これは、戦闘方法の違いだ。これで何かを測ることは、間違いだろう。それでも、見ている側からは、どうしてもハバケミールが優位と見えてしまう。
『炎を纏った鉄球が、迫る! 突き立つ刃を吹き飛ばしながら、わずかながらの前進でも、確実に近づいている! その勢いは、遠くから思い描く以上にあるでしょう! 見ているだけではわからない勢いがある!』
それでもまだ、ショークジョルスは動かない。前進も、後退もしない。
二者の対峙するグラウンドは、さらに別の動きを見せる。
ハバケミールが、前進する足を止めた。今度は、何かに阻まれたわけではない。ハバケミールの意思で、その位置を取った。
そして、ハバケミールの操る鉄球の挙動が、変化する。
『おお、鉄球が動く! ハバ選手、攻勢に出た!』
地面に突き出た刃を払っていた鉄球が、大きく角度を変え、上空を飛ぶ。
その先の対象は、ショークジョルスだ。まだ距離が離れているが、魔法で作られた鉄球である。鎖の長さを変化させることも容易だろう。
鉄球は、ショークジョルスへ、吸い込まれるように向かった。
会場全体に、金属がぶつかり、こすれるような音が響き渡った。
『守った! 守ったぞ! ショーク選手!』
鉄球は、ショークジョルスに命中せず、再び空中へ踊り出た。
鉄球の狙いは、確実にショークジョルスを捉えていた。それなのに当たらなかったのは、もちろん何かがあったからだ。
鉄球の軌道上に新たに地面から刃が現れ、それにぶつかった鉄球の狙いがそれたのだ。
鉄球の狙いをそらした刃は、今まで作られていた刃よりは、大きく頑丈に作られているようだ。心なしか、刃の反射する光の色も異なって見える。
空へ上がった鉄球は、鎖に導かれ、円を描いて再び戻って来る。途中からは、ハバケミールの力によって、威力を上乗せされていく。
『だが、一度だけでは、終わらない! 再び、鉄球がショーク選手に襲い掛かる!』
多少の角度は変わったが、それでも狙いは変わらない。勢いをつけられた鉄球が、ショークジョルスへ向かう。
それをショークジョルスが、そのままにしておくことはない。
再び、金属が衝突する音が響き渡る。
『今度も、守った! 届いていない! これでは、効かない!』
狙いをそらされた鉄球は、今度も空へと舞い上がった。
その隙に、今度はショークジョルスから魔法が放たれる。グラウンドのショークジョルスの足下で、藍色の魔法陣が輝いた。
『次は、ショーク選手の攻撃だ! 攻守逆転!』
防御が出来ることで余裕が生まれたのか、ショークジョルスの刃が、グラウンドに新たな変化を与える。
今度の攻撃にさらされるのは、ハバケミールになった。
刃が空を飛び、ハバケミールに降りかかる。
ここまでは、先ほどと変わらない。変化が出たのは、着地時の反応だ。今度の反応は、氷だった。
『ハバ選手! 降りかかる刃によって、氷漬けになっていく!』
炎の次は、氷。
「……」
炎の塔が現れた時と同じく、降りかかる刃が接触した部分から氷の花が現れる。ハバケミールの鎧は、まだ炎で熱せられていたが、それを上回る冷気が発生しているようだ。
凍った部位の周囲は、空気中の水分が細かい結晶になって、光を反射している。
その様子を見るだけならば、綺麗で良い風景なのだが、その感想は、現状とはかけ離れている。
『ハバ選手の体が、次々に凍っていく! だが、ハバ選手、強引に氷を砕いているぞ!』
凍っていくのは、ハバケミールの鎧だけではない。
周囲のグラウンドも冷気にさらされていく。冷気にさらされたグラウンドにも、氷の花が咲き誇っていた。
ハバケミールのような動く対象でない分、グラウンドのほうが広範囲に、巨大に氷結していくようだ。氷の花をできる端から破壊していかなければ、周囲を囲まれて、身動きが取れなくなってしまうだろう。
ハバケミールは、鎖を短く持って、鉄球を振り回している。鉄球を使って、周囲の氷を確実に破壊している。
だが、破壊する端から、冷気は増していく。新たに生まれる氷の花は、徐々にその大きさを増していき、鉄球を振り回すだけでは追いつかなくなっていく。
『ハバ選手! 何とか身動きは取れるようだが、周りはどんどん氷に囲まれていく!』
さすがに炎の時のようにはいかない。
炎の時は、鎧で刃の威力を殺し、炎の中を強引に進んでいた。
それが氷となっては、強引に進むわけにはいかない。氷によって、体は固まり、地面には障害物が生まれる。それを排除しなくてはならない。
その手間が、先ほどと変わった状況を作り出していた。
ショークジョルスは、さらに手札を切る。
『ショーク選手! ここからさらに攻勢をかける!』
ショークジョルスは、氷の刃、正確には冷気を発生させる刃の魔法とは別に、空中に魔法陣を描いた。
その魔法陣は、かなり高い位置にある。会場にいる全員が見上げなければ確認できないような高さだ。黄色に輝くその魔法陣は、ハバケミールの真上にあった。
魔法陣は、下に向かって何かを作り出していく。それは、重力に従って落下する。
『空中から現れたのは、巨大な剣だ!』
文字通りに巨大な剣。人の扱えるような大きさではなく、普通の建物なら一振りで瓦礫と化すことができるだろう。巨人の扱うような大きさの剣だ。この世界に巨人がいるかどうかは知らないが。
その巨大な剣が、ハバケミールに向かって、真っ直ぐに落下して行く。
『氷壁に阻まれたハバ選手の頭上に、巨大な剣が振って来る! これは、避けることも、防ぐこともかなわないか!』
氷による束縛は、このための布石だったのか。
ハバケミールの速度は、素早くない。重量のある鎧を着こんで重量のある武器を振り回しているのだから当然である。
氷の壁と速度がないことを合わせて、巨大な剣が、ハバケミールのいる場所へ落下するのは確実だ。
『直撃!』
落下した巨大な剣は、周囲の刃の残骸や氷の花もろとも、ハバケミールを踏みつぶした。
落下地点は、激しく土煙が舞い上がる。
『どうなった! 無事なのか、それとも、これで決するのか!』
実況も、状況が分からないばかりで、何も言えない。この状況を一番客観的に見られるのは、審判だろう。
その審判は、何も動かない。
まだ、試合は終わらない。
舞いあがる土煙をかきわけて、鎖が飛び出して来た。
『まだだ! まだ、倒れていない!』
ハバケミールは、屈してはいなかった。しっかりと自身の足で立っている。
だが、その様子は、万全とは言い難い。全身を覆っていた鎧が砕け、肌が露出している。振り回した鎖の先にあった鉄球も粉々に砕けてしまったようだ。
急激な熱量からの急速な冷却で、堅牢を極めた鎧も、巨大な剣の落下に耐えられなかったらしい。鉄球が砕けているのは、とっさに盾として代用したか、落下に巻き込まれたのだろう。
『これは、満身創痍か!』
見た目には、ハバケミールは、かなりのダメージを追っている。
鎧がなくなった以上、今後は、ショークジョルスの攻撃をその身で受けねばならない。あの刃の雨を受けきるのは、かなり難しいだろう。
だが、諦めてはいない。
『ハバ選手、鎖を振り回し始めたぞ!』
ハバケミールは、鉄球の取れた、先に何もついていない鎖を振り回す。
「……」
鎖を一回転させるごとに、周囲に変化が現れる。
鎖の軌道に沿うように、周囲に飛び散った鎧の破片や鉄塊、刃の破片が動いていく。
『瓦礫が動いている! 鎖の先端に、瓦礫が集まっていくのか! これは、巨大な武器となっていく! 鎖を振り回すだけで、新たな武器が生まれる!』
もはや疑いようもなく、鎖が、周囲の金属を操っていた。瓦礫と化した金属が、鎖の先端に集まり、新たなる鉄塊を作り出していく。
鉄塊として集まらない金属片は、それに追随する飛翔物体となっている。鎖を振り回すたびにその数を増し、グラウンド上の金属片は、すべてがハバケミールの制御化に置かれているように錯覚してしまう。それだけの景色が広がっていた。
グラウンドは、ハバケミールを中心にした金属片の嵐が起こっている。
『すでに言葉は必要ない! ただ目の前に刃の嵐が吹き荒れている! 破壊の後から、さらに破壊を創造する! これが力というものなのか!』
ハバケミールの新たな打撃武器となった鉄塊が、ショークジョルスへ向かって、振り下ろされた。
『これは、ハバ選手の渾身の攻撃!』
ショークジョルスは、鉄塊の軌道に合わせて刃を出現させて、これを防御する。前の鉄球の時と同じように。
今回は、衝突の金属音が、金属片の嵐の中に巻き込まれて、周囲に響くことはなかった。
『ショーク選手が、嵐の中へ放り込まれた!』
おそらく、鉄塊の軌道をさえぎることはできたのだろうが、細かな金属片までは防ぐことはできていない。
金属片の嵐が通った後の地面は、直線的な傷跡が目立つ。
そして、軌道をさえぎられても、鉄塊は再び回って来る。金属片の嵐にさらされるショークジョルスの立つ場所へ、正確に向かう。
『直撃!』
鉄塊が、地面に激突した。刃の嵐に混ざって、土煙が舞う。
『直撃だ! これは決まった!』
ハバケミールは、鉄塊を振り回すことをやめていた。
それに伴って、嵐が急速に収束する。飛翔していた金属片たちが、鉄塊に吸い寄せられて、塊になって動きを止めた。
会場に一瞬だけ、静けさが戻った。その静けさは、実況によって、すぐにかき消されてしまうが。
『審判が、ショーク選手に駆け寄る! これは、大丈夫なのか! さすがに続行不可能か!』
直撃を受けたショークジョルスは、鉄塊の下敷きになっていた。身動き一つしていない。
確認をしていた審判が、腕を大きく振った。
『続行不能! 審判、続行不能と判断しました!』
ここに勝敗は、決した。
グラウンドでは、すぐに担架が運び込まれ、ショークジョルスを乗せて退場して行く。かなりの怪我を受けているようだ。
ハバケミールのほうは、自分の足で退場して行く。こちらは、そこまでの傷ではないようだが、無傷というわけではないらしい。入場して来た時から比べれば、その様子は、大きく異なる。
『二回戦、第二試合は、ハバケミール選手の勝利です! 皆さま、健闘したお二人に大きな拍手をお願い致します!』
観客の拍手が、会場中に鳴り響いていた。
「……」
僕は、その拍手の中、何とも言えない感覚を抱えて、静かに退席する。個人的な感覚なので、この感覚が何を示しているのか分からないが、少し考える必要がある気がする。
いったい僕は、何に引っ掛かっているのだろうか。
物言わぬショウグンと共に、この場から立ち去る。
結局、審査員としては何もしていないな。




