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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第三件 異世界からの幽霊
62/71

62 食器+テント


 ◇◇


 浩一は、何かを隠している。たぶん、確実に。気付いたのは、昨日。まだ時間がたっていないから、ぼろは全然見つからないけど。

 何とかして、証拠を見つけたい。物証を見つけるか、証言を得るかは、まだわからないけど。

 何にしても、何もわからない状態だ。とっかかりさえわからない。その辺りは、ヘレとか、セリアに聞けば、何とかなると思う。たぶん、大丈夫。

 だから、まずは、ヘレの屋台を無事に営業することにする。

 私は、昨日と同じく、闘技大会会場の広場で屋台を手伝っていた。

 もともとその気でいたし、昨日の今日で状況が変わったのは、私の都合だけ。それだけで、手伝うと言った言葉を撤回する気はない。最初は、手伝いそのものをする気はなかったのだけど。

「ふう」

 お店が落ち着いてきた頃合いを見て、私は洗い場に来ていた。

 食事を提供する以上は、何かしらの食器が必要になるし、調理器具も必要になる。そして、それらは使えば汚れるし、洗う必要が出てくる。

 そういった汚れ物を一気に洗うため、洗い場に来ている。この洗い場は、大会運営から指定された場所だ。近くに水場も確保されていて、それ専用の場所になっている。

 この世界には、紙皿や紙コップのような使い捨てにできる食器はない。お皿がわりに大きな葉っぱを使ったりはするみたいだけど、食器としては数えない。食器となると、木製か、鉄製になる。

 屋台で使っているのは、木製の食器だった。それを大量に準備して、注文された料理を出していく。時間がたてば、食材よりも先に尽きしまうから、定期的に洗わないといけないわけだ。

 そうやって、ため込んだ汚れた食器は、かなりの量だ。洗うとなると一労働となる。けれど、ここは異世界。食器洗浄機なんてないけど、別の手段がちゃんとある。

「はっ」

 私と一緒に洗い場に来ていたロワが、大きな桶の中で水に浸した食器に向かって、魔法を使った。

 桶の下に緑色の魔法陣が現れ、食器の中の水が勝手に動き出す。

 窮屈な桶の中で水が動き、食器の汚れを落としていく。正確には、汚れを運んでいるらしいけど、見ているだけだとそんな気はしない。

 この洗い場には、他にも大きさや深さの違う桶がいくつも並んでいる。広場で何か営業をしている他のお店の人の桶だ。

 必要な道具は、事前に申請して持ち込む必要があるそうだ。汚れ物を洗う手段もその一つ。この場所は、そういう物が集められた区画でもあった。

 その手段は、お店によってそれぞれで、ロワのように魔法を使うほかに、魔法道具を使ったり、すべて手作業であったりする。全部が同じ方法で洗えるわけではないみたいだ。その辺は、不便に思ったりはするけど、それは贅沢なのだと思う。

 食器の洗浄は、あっという間に終わり、汚れを落とした水の排水をしたり、食器の水気を取ったりした。

 洗い終わった食器を持ち帰るために、箱に詰めて移動する。

 箱を持つのは、私の仕事だ。ロワは、卵型の小さな姿でいる。人型になれないと、道具を使い辛いから困るらしい。

「大変申し訳ない」

 ロワが、私の肩の上で謝罪した。

「別にいいよ」

 今回は、私が運んでいるけど、本来はヘレの仕事らしい。トトクも人型にはなれないから、自然とそういう役割になる。

 洗い場から出ると、すぐに通りに出た。通りといってもこの広場に疑似的に作られた通りで、両端に並べられた屋台が、道なりを形作っている。舗装もされていない地面むき出しの道だ。

 その通りは、闘技大会を見に来たお客で一杯になっていた。こちらの広場を目当てに来ている人も少なくないと思うけど。

 私は、このわずかな時間に情報収集を試みた。

「ロワは、セリアが今どうしているか知ってる?」

「自分は、何も知りません」

 ロワは、私の肩の上で身動きせずに否定する。

「そっか」

 セリアがどうしているかは、知らないらしい。

「あっ、セリアのことは知っているよね?」

「それは、存じています」

 ロワが、小さく首を首肯する。

「ヘレとセリアって、結構、会ってるのかな?」

「自分は、何も知りません」

 ロワの否定は、身動きせずに行われる。直立不動だった。

「今回の屋台は、セリアから話を聞いたし、今回だけ連絡を取ったのかな?」

「自分は、何も知りません」

「そう?」

 ロワは、言葉が少ないが、はっきりとものを言うタイプだと思う。それが知らないと言っているのだから、本当に知らないと思う。けど、でも、何かが変な気がする。

 ヘレの屋台までは、まだ少し距離がある。

「今回の話は、乗り気じゃなかったんだよね」

「そうでしたね」

「結局かかわっちゃったけど」

「それは、大変感謝しています」

「かなり楽をさせてもらってるけど、いいのかな?」

「それは構いません。大変助かっています」

「まあ、いいならいいんだけど、かなり強引に決められた気がするし」

「大変申し訳ないです」

「みんなで示し合わせてたりしたのかな?」

「自分は、何も知りません」

 再びの否定。体を動かなさいから、ロワが硬直しているようにも見える。

「……私の話は、少しぐらいは、聞いていたんじゃないの?」

「多少は、聞き及んでいました」

「まあ、そうだよね。そうでないとわざわざ異世界に来たりしないよね」

「あねさんは、力説しておりました」

「あー、うん。ヘレは、そうだろうね」

「それで、浩一からは何か聞いてないの?」

「自分は、何も知りません」

 また否定。

「うん。……まあ、いいけどね」

 私は、一端、話を切って、そのまま口を閉じて歩く。

 今回の話は、何かを隠しているように感じた。ロワの否定が、要領を得ていないように感じる。普通だったらば、否定の言葉が、何も知らないばかりではないと思う。どうしても、裏があるように感じてしまう。そう感じるのも、浩一のせいなのだけど。

 もう一つ角を曲がれば、ヘレの屋台が視界に入る所まで歩いて来た。

 そこまで来て、道をふさがれてしまった。

 道をふさいだ二人組は、私の後ろから駆けて来て、私を追い抜きざまに振り返って、私の進路をふさぐように現れた。

「へーい、お嬢さん」

「へい、へい」

 一人は、小柄な人物。

 もう一人は、長身な人物。

 凸凹した二人組だった。二人が並ぶと、その特徴が、より一層際立つ。おかげで、他の特徴がかすんで見えた。

「へーい、占いに興味はありませんか?」

 小柄な人物が、私を見上げながら聞いてきた。

「占い?」

「へい、へい」

 ふと横を見ると、屋台の列の中にテントが張ってあった。周りを完全に遮蔽して、中が見えないようになっている。大きくはないが、本格的な造りをしていた。外に看板は出ていないけど、雰囲気的にも、占いをしているように思える。

「ちょっとしか時間もかかりません。少し寄っていってください」

 小柄な人物が、少し強引に寄って行くように勧誘する。

「いや、私は……、えっ」

 仕事中に寄り道をする気のなかった私は、断ろうとしたところで、長身な人物に横から食器箱をさらわれてしまった。

「へい、へい」

 そして、長身な人物は、そのままテントの中へ入っていってしまった。

「へーい、ものは試しに、一度だけで結構です」

 小柄な人物が、私の背中を押してテントへ向かう。

 何、この強引さ。

 私は、食器箱を取り返すために、テントへ入るしかないと思った。表情だけは、ムスッと不快感を表しておく。

 テントの中は、真っ暗だった。光源が、一つだけあるけど、青っぽい色をした蝋燭のような小さな明かりだ。とてもテントの中をすべて照らすほどの明かりはない。

 食器箱はどこかと視線を巡らせると、急に足下が光った。

 その次の瞬間、私の視界からは光が消えた。視界が、完全な暗闇になった。

 それだけでなく、体の自由も効かなくなった。何かにまとわりつかれたように、手足と体が密着して固定されたみたいだ。

 私は、バランスを崩して、立っていられなくなってしまった。地面に転がり、横になる。

 地面の感触は、しっかりと伝わって来たことは、ほっとした。でも、体は、全く動かせない。声も出せない。何も聞こえない。

 私は、いったいどうなってしまったのだろう。


 ◇


「へい、へい」

「へーい」

 テントの中では、二人の人物が手を合わせて、成功をささやかに喜んでいた。

 二人のすぐ近くには、体を黒い幅広の布に巻きつかれて、拘束されている少女が、横になって転がっている。布が、少女の体を隙間なく拘束しているため、人であることは分かっても、それが誰なのかは一見しただけでは分からなくなっていた。

「さあて、それじゃあ、すぐに移動しようぜ」

「へい、へい。見つかったらやばいよね」

 二人も、自分たちが何をしているのかは、良く理解していた。

「これからが、本番だからな」

「へい、へい。さっさと行こうね」

 長身な人物が、テントの中にある一番大きな箱を開け、そこに拘束した少女を座らせるようにして入れる。その少女だけを収めると、すぐにふたをする。

 大きな箱を二人で担いで、テントから出ていく。

 テントの外には、祭の雰囲気を楽しんでいる人たちが大勢いた。それは、とても平和な光景だろう。今の少女とは、壁を挟んだ反対側の光景だ。

 そんな光景の中にいる人たちが、気付くことは難しい。きっと想像すらしていないだろう。どんなに人が大勢いても、気付けなければ起こっていないことと同じだ。

 大きな箱を運んでいる二人の様子を見とがめる者は、誰もいなかった。


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