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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第三件 異世界からの幽霊
59/71

59 資料+情報


 ◇◇


 石造りの建物の内側に、木材で整えられた古い作りの一室。スタジアムの外観は、石材ばかりで組まれているから、内装もすべて石だと思っていたが、そうでもないらしい。

 そんな部屋に様々な機器が持ち込まれていた。

 機器と言っても、機械と言うには語弊がある。持ち込まれている機器は、すべて魔法道具に類する。

 この部屋でそれらの機器を操作しているのは、セリアだ。モニターの前に座って、記録された情報を確認している。

 俺は、それを視界の端に入れながら、部屋の中央に置かれたテーブルの上に広げた、複数の資料に目を通していた。

 資料は、スタジアム内で関係者用通路を利用した記録が記されている。そのほか、関係者用通路を利用する可能性のある者の行動を、分単位で聴取してもらった資料もある。数日間の記録であるため、簡単には調べ終わらない。朝からずっと続けていた。

「裕也のほうは、大丈夫?」

 セリアが、俺の作業を気にするように目を向けた。

「大丈夫っす。それよりも、セリアのほうは、どのぐらいまで進みそうっすか?」

「今日中に半分ぐらいは、見たいかな」

「了解っす」

 俺は、異世界の印刷技術が発達していて、良かったと本気で思う。

 魔法道具を操作するには、魔力が必要だ。

 俺は、魔力を扱えない。発明品の《端末型魔力収集装置》を使えば、一時的に扱うことはできるが、それには時間がかかる。常時使用するとなると、端末に定期的に魔力を充填する手間もある。

 魔力を扱えるセリアは、常に魔法道具を操作していられるが、俺には無理だ。

 そこで、印刷技術の登場だ。

 情報を印刷しておけば、魔法道具を使えなくとも常に情報に触れることができる。俺がここで情報に触れる数少ない手段でもある。

 印刷した情報を読み取るためには、異世界の文字を読めないといけないが、それは事前に覚えてきた。こんなこともあるだろうと、前々から簡単なところはセリアに教えてもらっていた。完璧というわけではないが、今回の資料の読み込みに必要な単語は、先ほど教えてもらっている。作文や詩集などの文章作品ではないから、使われる単語も決められていて少ない。解読用にメモも作ってあるから、読み取るのに不便はほとんどない。どうしても読めないところは、セリアに直接聞けば良い。

 そうやって資料を読み込んでいたが、武野から面白い情報が入って来た。魔法道具の《風のささやき》を通して、先ほど不審な人物とすれ違ったと連絡があった。特徴だけしか情報がないが、その不審人物と出会った時のショウグンの反応がとても興味深い。調べないわけにはいかないだろう。

 そちらの情報は、セリアが探っている。魔法道具を操作しているのは、そのためだ。

 不審人物についてはセリアに任せ、俺は、事前に印刷してもらった資料の読み込みを継続している。

 資料を見ながら思っていたのは、かなりの人数が、この大会に関係していることだ。選手も多いが、運営をするスタッフもそれに輪をかけて多い。選手に不便がないようにという配慮からかもしれないが、大会の運営以外にもスタジアム外の広場の管理まで受け持っている。仕事の範囲が、単純に広いため、スタッフが多くなっているようだ。

 おかげで資料の量も調べる時間も膨大だ。

 とは言え、調べるのはショウグンに関係のある部分であり、関係者のすべてを調べるわけではない。ショウグンが、俺たちの世界に渡る前、異世界にいた頃の情報を調べれば良い。

 期間としては、このスタジアムに人が集まり出した頃から、俺たちがショウグンに出会った約十日前までに遡る。日数としては、一週間ない。ほんの数日間だ。その中で、ショウグンに関係のありそうな、違和感のある部分を見つける。

 作業としては、単純だ。複数準備した資料のデータを照らし合わせて、関係者の動向に不審な部分がないか調べるだけ。人数が多いため、時間はかかるが、難しいことはない。

 難しいことはないのだが、やはり時間がかかるのはストレスがたまる。

「終わったぁー」

 すべてを終えた後の俺は、背筋を伸ばして、体のコリを取っていた。腕や肩を回して、こわばった体を動かし、ほぐす。

 ものすごく面倒な作業だった。

 序盤はセリアと一緒に作業を進めていたが、武野の情報を確認するためにセリアが抜けてからが、本番だった。一人での単純作業は、先が見えないときつい。

 過ぎ去ってしまえば、何ということはない。新情報が得られて、俺の気力は充実している。逆に体力は、底まで落ちてしまっている。

「さて」

 調べ終わった資料をまとめつつ、新たに俺が書き連ねた情報に改めて目を通した。

 ここまで調べて分かったことが、いくつかある。

 まず、運営スタッフは、とても真面目だ。関係者用通路に出入りをした記録とスタッフ個人の仕事内容が、ほぼ一致した。ほぼという部分は、確認資料に明確な記述がなかった者が数名いたからだが、その理由も上司からの依頼で担当場所を離れていたからという理由だけだった。選手以上の人数がいて、サボっている者は一人もいなかったようだ。

 運営スタッフは、仕事に集中していて、ショウグンに手を出す暇はなかったと判断して良いだろう。

 次に、魔法は、やっぱり凄かった。関係者用通路を通った人物を、間違いなく追跡することが出来た。スタッフならば、その辺りのことも知らされていて、追跡魔法を補助したり、スタッフを判別したりする魔法道具を所持させられていた。だが、一般の来場者にはそんな機器は配布されていない。それでも、しっかりと追跡した情報が残っていた。それを元に、スタッフが、迷い込んだ来場者への迅速な対応をしている。

 魔法の確かな精度が、速やかな大会運営を可能にしていると実感した。その精度のおかげで、膨大な量の情報を確認する必要があったが、迷い込んだ来場者の中にも不審に思える行動は見られなかった。

 ここまで、運営スタッフと来場者の情報からは、何も出てこなかった。

 新情報が出て来たのは、闘技大会の選手からだった。

 予選開始から数日の間に、複数の選手が、体調不良を訴えている。それだけならば、選手の自己管理の問題だが、その理由が関係者用通路を通った時に感じたというものだった。

 そのことは、すぐに運営上層部に報告された。予選中ではあったが、選手たちに聞き込みを行い、関係者用通路の調査をしている。その調査の結果は、特に問題は出てこなかった。

 その調査の後は、体調不良を訴える選手はいなかったため、結局、問題は出ないままに調査が終了している。

 俺は、そこに注目した。

 選手が体調不良を訴えた期間。その中で、おかしな行動がないか、不自然な時間帯がないか、細かく情報を精査した。

 そして、ある選手におかしな行動があることを見つけた。

 その選手は、自身の一日目の予選が終了してから次の予選開始まで、関係者用通路から一歩も出ていない。

 普通に考えて、あんな暗く狭い場所に留まる必要はない。個人的に必要な行動だったのかもしれないと思い、その選手のすべての資料を追って見たが、関係者用通路に留まっていたのは、その一日だけだった。

 これは、何かあると思って良いだろう。調査の第一候補としてメモをしてある。

 他の選手にも関係者用通路に長時間、居続けていた選手はいたが、迷っていたという可能性もある。その間に体調不良に関係する何かがあったのかもしれない。

 何にしても、俺のほうで出てきた情報は、そんなところだ。

 目の前の資料を片づけて、セリアの調査状況を確認しようと顔を上げたところで、武野が部屋に入って来た。テンカは、フラフラと退屈そうに浮かんでいる。

「お疲れ。無事に終わったか?」

 武野を確認した俺は、まず、武野を労う。ここに来たとなれば、一仕事終えたことを意味する。

「……特に何もなかった」

 武野が、コメントとして何か話すことになったら、どうするだろうと思っていたが、それは俺の思い過ごしだったみたいだ。

「タケだったら、何かあっても無難に乗り越えられるさ」

 武野が否定的にならないように、ここは気分を多少上げておく。

 あまり否定的なことを口にすると、武野はそれを額面通りに受け取って、素直に身を引く行動に出ることがある。今回の場合は、武野から引き受けている仕事だから、土壇場でキャンセルすることはないだろうが、否定的になって良いわけではない。その辺のさじ加減が難しいが、うまくかみ合うとものすごく面白い結果につながる。

 そんなことが起こせる人物は、俺の周りには今のところ、こいつしかいない。

 俺がそんなことを思っているのを知らないような顔で、武野は部屋の中を見渡した。

 見渡した後に、俺に説明を求めるように視線を向ける。

「朝からやってた作業は終わったぞ。タケから貰った情報は、セリアに頼んでやってもらってるところだ」

 俺の言葉に、セリアがこちらに視線を向けて少し反応を返すが、すぐに作業に戻ってしまう。

 こちらの説明は、俺の作業だな。俺のほうでまとめた資料を武野に手渡した。

 それを受け取った武野は、すぐに中身を確認し始める。

「結果から言うと、選手があやしいな」

 俺の結論に、武野は資料から目を離さずに聞き返した。

「選手?」

「人の流れを保存したデータをもとに、いろいろな状況証拠と集めた証言を照らし合わせた場合、変に感じるのが選手だけだったんだ」

 俺がまとめた資料とは別に、セリアに集めてもらったテーブル上の資料を示す。

 こちらは、武野に渡さない。渡した所で余計な時間がかかるだけだし、そもそも、こちらの資料は外に持ち出せない。

「次は、そこからピックアップした選手のほうを調べてみる」

「……了解」

 武野は、俺の説明を聞き終わった後もまとめた資料に丁寧に目を通している。

「で、セリアのほうは、どんな感じっすか?」

 俺は、武野をそのままにして、武野から来た情報の調査具合を確認するために、セリアの作業内容を覗き込む。

 ぶっちゃけ、武野がすれ違った不審人物を確認するだけならば、難しくないはずだ。武野が、関係者用通路にいた時間に絞って調べれば良いだけだ。

 それでもセリアが、今日中に半分と言っていたのは、タケが見かけた時間帯以外も確認する必要があると判断したためだ。そんな不審者がいるならば、警戒するのが当然だろう。

 警戒するにしても、確かな情報がなければ、他人は動かせない。確かな情報をまとめて、大会運営の上層部に送る考えでいる。

「ちょっと、厳しいかな?」

「ん?」

 セリアの口調から、雲行きが怪しいことを感じ取った。

「データが、残ってないみたい」

「それは、データが消されたってことっすか? それとも、データが残らないように行動していたってことっすか?」

 俺の疑問にセリアは、ただ首を振るだけだ。

「私ではどっちなのかは、わからない。データを消す方法を知らないからね。ただ、データに残らないように行動するのは、難しいけど、魔法を使えば可能かな」

 魔法道具に付いては、専門外なのだろう。セリアに聞いても俺の疑問は、解消しない。

 それでも、可能であることが分かれば、十分だ。

 武野が遭遇した話が、嘘であることはあり得ない。テンカやショウグンもその姿をしっかりと目撃している。

 であるならば、方法がいずれにしろ、存在を知られないように、人目に付かないように隠れて行動していることは明らかだ。

「それも調べる必要がありそうっすね」

「そうだね。状況にもよるだろうけど、気をつけたほうがいいだろうね」

 これも調査項目に加える。忘れないようにしなくては。

「それなら、俺様はそっちにつくかな」

 今後の行動を考えていると、テンカが俺のほうに近づいて来た。

「細かくて地味な作業だけど、こっちでいいのか?」

 情報集めに、テンカが面白く感じる要素はない。テンカがいても、良いことはないはずだ。

「あの真っ黒いヤツにちょっかいを出すんだろ?」

 テンカの言うちょっかいは、まず間違いなく戦闘だろうな。調査が目的だから、そんなことは確定していないが、ないとは言い切れない。不審人物側の目的も行動規範も分かっていないのだ。武野たちがすれ違った時は、たまたま戦闘にならなかっただけ、ということも十分に考えられる。

 俺は、テンカに何も言わずに、黙って続きを促した。

「だったら、俺様が戦闘に立ってやる。あいつとは、やってみたい気がしてるんでな」

 テンカの言葉をそこまで聞いて、俺は武野の反応を窺った。

 武野は、俺の視線を違わずに受け取ってくれる。

「……半分、スイッチが入ってるみたいだよ」

「なるほどね」

 武野の諦め気味の表情を見ながら、テンカのやる気を見て取った。

 少し、考える必要が出て来たか。

 今後の安全を、どうやって確保するか。異世界に足を突っ込んで、俺の体感として、かなり早くに身の安全を考える事態になりつつあるらしい。


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